1月10日より開幕する舞台『憂国のモリアーティ』。シャーロック・ホームズと敵対するモリアーティを主人公にした人気漫画の舞台化です。手がけるのは、プロデューサーの下浦貴敬さん。2019年末には『首都争奪バトル舞台「四十七大戦」-開戦!鳥取編-』『巌窟王 Le théâtre』と上演が続き、年明けすぐに向かえる舞台がこの『憂国のモリアーティ』です。
企画の成り立ちや、上演への思い、そして主人公を演じる荒牧慶彦さんや北村諒さんらのキャスティング意図から“舞台のチームづくり”への思いを伺いました。

『憂国のモリアーティ』メインイメージ

──2020年明けてすぐ『憂国のモリアーティ』が始まりますね!どんな公演になりそうですか?

この作品はすでにマーベラスさんが制作されているミュージカルも上演されていて、一応連動していますが、こちらはまた別の表現方法で作り上げます。扱うエピソードも少し違うので、すでにミュージカルをご覧になった原作ファンの方にも、別角度で楽しんでもらえると思います。
もともと僕もコミックを読んでいて「こうやったら舞台は面白いだろうな」「配役はこうかな」とか考えていた矢先にお話をいただいたので、「この作品なら演出は西田(大輔)さんでやりたいな」と動き出しました。僕としては、ずっと一緒に舞台を創ってきた西田さんと半年ぶり(『西遊記 〜千変万化〜』以来)にまたやれるので楽しみです。後から発表した追加キャストも「待ってました!」と言いたくなるほど西田さんと僕っぽいキャスティング(笑)みなさんに公演を観てもらえるのがすごく楽しみです。
ありがたいことにチケットはもう完売しているのですが、チケットを買えなかった方にもなにかしら楽しんでいただきたい。当日券に加えて、配信や、DVDなどの検討をできるかぎりしていて、演劇という生で観るものとはまた違った楽しみ方もふんだんに取り入れていきたいです。

──今作を演出するなら西田さんだな、と思ったのはなぜですか?

向いていると思ったんですよ。西田さんはシャーロック・ホームズが好きで、劇団の公演でも扱ったことがあったんです。その原体験があるので、ホームズの敵モリアーティが主人公なら西田さんだろう、と。
西田さんとは「すでに原作が面白いから、どうやって舞台に落とし込むか。作品をどう舞台で描くかがテーマだね」と話しています。原作をかなり忠実に再現する上で、演劇ならではの落とし込みをしていく作業になる。過去の作品とはまた違うチャレンジをしようとしていますよ。

──主人公ウィリアムを演じるのは荒牧慶彦さん。配役の決め手は?

彼の芝居は何回か観ていたことと、芝居に対する信念の強さがウィリアムにうまくリンクするんじゃないかなと思いました。ウィリアムは、衝撃的すぎる凄まじい信念がある。もしかしたら悪なのかもしれないけれど、ウィリアムの中では正義が通っている役です。荒牧君はもともとふんわりした優しい感じの青年なんですけれど、芝居に対しての信念がある。品があって、目の奥で何を考えているか分かりづらいところも、ウィリアムとリンクしていくと面白いんじゃないかな、と考えてのキャスティングです。

──キャスティングで心がけていることはなんですか?

もちろん漫画のキャラクターがあってこそです。衣装やメイクでこれくらい似るかなというのは経験上わかりますが、その上で、その役者は人間なので見た目だけでなく、声質や、芝居の方向性も考えます。また、座組においてのバランスも気にしていて、「この俳優さんが一番の年長者になったら、こういう座組になるだろうな」ということも意識しています。演劇の座組というのは集団を作っていくことなので、演出家との相性も重要視するんですよ。いくつ舞台をつくっても、ひとつとして同じ創り方の現場はないです。もちろん原作そのものが違うから、舞台でどんな表現をするかが違うのは当然なんですけどね。もちろん始まる前に100%わかることは絶対ないですが、ある程度予測してチームを作っています。

──『憂国のモリアーティ』でいえば、チームづくりにおいてどんな配役意図があるのでしょう。

荒牧君をウィリアムというダークヒーローに置くとすると、対立するシャーロック・ホームズは誰にしようと考えた時に、きたむー(北村諒)がいいんじゃないかなと。全体のバランスもいいし、2人は元々仲が良いことも良い。僕もきたむーとはかなり付き合いが長いので、彼が今の年齢に差し掛かって、ちょっとルーズな色気を出せるようにもなってきたのもよくわかるから、任せたいなと決めました。その2人の対立構造のうえで、アクションでバチバチにやり合うんじゃなく、ミステリーの心理戦にお客さんも巻き込む2時間半になればいいなと思っています。

──チームを創る時に「◯◯さんが合うな」という根拠はあると思うのですが、やはり勘も必要になりますよね?

半分くらいは勘ですね。その勘も、いろんな経験による引出しを無意識のうちに引っ張り出してやっています。でもたとえ「これがいい!」と思っても、常に不安ですよ。チケット販売まで「売れるかな」と不安だし、チケットが売り切れた後も幕が開けるまで不安だし、幕が開けたら開けたで最後まで公演がまっとうできるか不安だし……キリがないです。でもこの20年ずっとこうやって過ごしてきましたから。

──20年となると、もはや日常といえるのかも……

そう。振り返ると、この仕事を始めた時からいきなり大きな勝負をしてきたんですよね(笑)とはいえ、感覚が麻痺したり慣れたりしているわけではないですし、もちろん不安もプレッシャーもあります。でもストレスがかかるのは仕事に付き物だし、役者達もまた違うプレッシャーを抱えている。それに、プレッシャーを抱えたうえで楽しめることもある。だからこそ充実感もあるんでしょうね。20年やってきて舞台を上演するパターンがわかってきても、たまに予想外のお客さんの盛り上がりに出会ったりすることもあって驚かされるので、飽きないんですよ。もし舞台に飽きていたらもう別のことをやってるだろうなぁ。でも、飽きそうにないですね。これからもいろいろやっていこうと計画中です。2020年もものすごくたくさんの新しい挑戦をしますから!

──ありがとうございます。『憂国のモリアーティ』からはじまり、2020年の企画を楽しみにしています!

舞台「憂国のモリアーティ」
http://officeendless.com/sp/moriarty-st/

インタビュー・テキスト:河野 桃子/企画:ヒロヤス・カイ/編集:CREATIVE VILLAGE編集部