近年、人気声優が出演するテレビ番組やWeb配信が増えています。2018年4月から放送されている『鳥海浩輔・前野智昭の大人のトリセツ』『西山宏太朗の健僕ピース!』の演出・プロデュースを手掛けるのは、株式会社タイムワープの大藏元宣さん。

タイムワープは、映画・音楽など、エンターテインメント全般の情報番組を主に手がけてきた映像制作会社ですが、丁寧な番組制作は声優ファンはもちろん、声優たちからも厚い信頼を寄せられています。なかでも同社の声優番組をほぼ一手に引き受けているのが大藏さんです。

「僕はクリエイターじゃありません。声優もアニメも詳しくないんです」。
そう口にする大藏さんですが、その人気は声優事務所や放送局から名指しで声がかかるほど。映像業界において声優ブームの先頭を走る大藏さんに、その映像制作法や演出のこだわりについて伺いました。

大藏 元宣(おおくら・もとのぶ)
1976年、東京都生まれ。2009年タイムワープ入社。
ディレクターとして『シネ通!(TX)』『おまかせ!アニマックスNAVI(ANIMAX)』に携わり、Web番組『2.5次元てれび・あうと』や『ペルソナストーカー倶楽部』、TOKYO MXにて放送された声優バラエティ番組『東京乙女レストラン』『江口拓也の俺たちだって癒されたい!』『斉藤壮馬の和心を君に』では総合演出を担当。
2018年4月から放送されている『西山宏太朗の健僕ピース!』『鳥海浩輔・前野智昭の大人のトリセツ』では、総合演出兼、番組プロデューサーも務める。また、人気女性声優が出演するイオンお買物アプリ内の動画『じょしのみッ!』では演出を担当し、数多くの声優番組を手がける。

声優番組へのこだわり

――これまで数多くの声優番組を手掛けられた大藏さんですが、番組の方針やコンセプトはどのように決めているのでしょうか?
声優ファンの方とそうでない方が一緒に幸せになれる番組、それが僕の目指すところです。
旅行をしたり、美味しいものを食べたり……視聴者の皆さんには「あれ食べたいなあ」「私たちも行きたいね」と家族や友人と楽しんでほしいですし、出演する声優さんには「楽しいなあ。また出たいなあ」と思ってほしい。だからバラエティでよくある罰ゲームは絶対にやりません。これは企画段階でムービックさん(企画・制作)からお願いされたことでもあります。

江口拓也さんの番組『江口拓也の俺たちだって癒されたい!』(以降、『俺癒』)は“癒し”、スピンオフの『西山宏太朗の健やかな僕ら』は“健康”、『斉藤壮馬の和心を君に』は“和心”がテーマなのですが、これは出演者の皆さんからの意見も取り入れて決めました。声優さんって普段は室内でお仕事をされているので、スタジオから飛び出してリラックスできる企画は新鮮なようですね。声優さんたちが心から楽しんでいる表情が見られるので、ファンの方にも喜ばれています。

――4月からは新番組『鳥海浩輔・前野智昭の大人のトリセツ』が始まりました。その特徴、見どころは?
こちらは鳥海浩輔さんと前野智昭さんがゲスト声優さんとともに、大人のたしなみを学んでいく番組です。『江口拓也の俺たちだって癒されたい!』が若い方向けなのに対して、今回は少し大人向け。この番組も企画段階で、ムービックさん、鳥海さん、前野さんとで意見交換をして番組の方向性を決めました。ハイボールを片手に大人の雰囲気を楽しめるバーに行ったり、経験豊かな声優さんたちが演技論を熱く交わしたりします。
『俺癒』でもお酒は飲んでいますが、それ以上に飲むのが『鳥セツ』です。ロケ費用は酒代が一番高い……と言えば、そのすごさが伝わるでしょうか(笑)。声優を目指されている方、お酒が好きな方にも楽しんでいただけると思いますよ。

急成長した声優業界

――ここ数年の声優ブームには目を見張るものがありますね。
以前から声優さんになりたいという人は多かったし、声優さんは魅力的な方たちばかりだったので、いつかその魅力を届けられたらいいなという気持ちはありました。ですが、ここまで早く声優さんが受け入れられる時代が来るとは……数年前までは「そんなの、地上波で放送しても意味ないよ」なんて言われることもあったので、この変わりようにはビックリしちゃいますね。

――声優さんやアニメはインターネットとの親和性が高いのも、ブームの一因かと思います。SNSでもファンの方の投稿が多く見られますよね。
SNSが普及する前は、たまに送られてくる視聴者プレゼントの応募ハガキでしか番組の反響を知ることができなかったのですが、今はTwitterなどでリアルタイムに感想が届く。自分の演出に対する反応がすぐに知れるのは面白いですし、いただいた意見は番組作りやグッズ制作にも活かされています。

なかでも僕が嬉しいのは、「家族と一緒に見ています」という感想。世代も趣味も違う家族でも一緒に楽しんでいただけるよう、「声優ファンにとっては常識」といったネタを極力減らし、声優さんには訪れた場所の魅力をゆったり話してもらっています。とくに食べ物の撮影には力を入れているので、「あの番組で紹介されていたお店に行ってみようよ」と家族を誘うきっかけにしてほしいですね。そうすれば、家族と一緒に番組の聖地巡礼ができますよ(笑)。

――声優番組は、タレントさんの番組と比べてDVD/Blu-rayの人気が高い印象がありますが、円盤化するにあたり、大藏さんならではのこだわりはありますか?
人気ゲーム『ペルソナ』シリーズのWeb番組『ペルソナストーカー倶楽部』から生まれたDVD/Blu-ray『PERSORA AWARDS』では、ゲームに出演する声優さんが登場する新規映像や特典映像を収録するなど、毎回工夫を凝らしています。
『俺癒』は、DVDの売れ行きが番組の行く末に直接影響を及ぼしますから、ムービックさんと相談してDVDを購入された方に「お得だ!」と感じていただけるよう心がけています。たとえば『俺癒』は番組本編が約70分だけど、特典は90分以上収録されている……とかですね。

ハリウッドに憧れて映像業界へ

――なぜ映像業界に入られたのですか?
小学生の時、映画館で『ドラえもん』を見たのがきっかけで、映画監督を目指すようになったんです。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ゴーストバスターズ』といった誰もが楽しめるハリウッド映画に憧れて、大学はアメリカの映画学科に進学しました。

就職は日本でするつもりだったんですが、日本で映画監督になるには何年も下積みが必要で。自分はそんなに待てそうもないなと思って、好きな映像とエンターテインメントができる会社を探し、映像制作会社にカメラアシスタントとして入社しました。

――なぜカメラアシスタントなんでしょう? もともと映画監督を目指されていたのであれば、ディレクター職が近い気がしますが…。
カメラのことを知らないでディレクターになると「こういう画が欲しい」と言えないんじゃないかと思ったんです。カメラマンがどういう技術を使ってどういうふうに撮っているか、カメラマンにどう言えば意図が伝わるかをまず学ぶつもりでした。今でも自分でカメラを回すことがありますし、機材も扱えるのでよく驚かれます。

2000年代前半に入り、「これからはインターネットだ」と考えた僕は、インターネット動画配信会社への転職を決めました。そこでノウハウを得て、タイムワープにADとして入社した時には、30歳を過ぎていました。タイムワープは映画に強い会社で、ここでようやく、ずっとやりたかった映画と、映像、インターネットがすべて繋がったんです。

――入社後は、映画情報番組『シネ通!』担当となりますが、その後どのように声優関係の仕事がメインになっていくんですか?
2012年のWeb番組『2.5次元てれび』が転機でした。タイムワープとしては初のインターネット生配信ということで、ネット配信とテレビの生放送の経験があり、声優やアニメについても多少知識があるということで抜擢してもらえて。そのまま気がついたら、仕事のほとんどが声優番組になっていました。

転職を重ねたことにより、新卒の社員さん方とは違ったスキルがあったことは強みになりました。ADからすぐにディレクターになれたり、生放送のシステムを組ませてもらったり……僕も早くキャリアを積みたかったので、テレビ局のプロデューサーに企画書を持っていったこともあって、あとで「あの時の大藏くんは目がギラギラしてた」と言われたことがあります(笑)。

自分をクリエイターだと思ったことはない

――大藏さんはプロデューサーや総合演出として、どのように番組に関わっているのでしょう?
映像を全部チェックして、「こういうことをナレーターに言ってもらったらどうだろう」など細かい提案をすることはありますが、現場の演出については基本的に20〜30代のディレクターに権限を持たせています。オジサンの僕より視聴者に近い世代のセンスに任せて、彼らが成長してくれることが一番ですね。僕は最後の判断をして、責任を取る役目。

――撮影現場ではどのようなことに気をつけていますか?
声優さんは、ひと昔前は「あの役の声の人」と呼ばれていた存在でしたが、今やテレビに出演し、ライブを行い、雑誌に舞台にと引っ張りだこ。声優さんのモノマネをする芸人さんまでいる。時代は変わってきました。だからといって、声優さんはタレントさんのように普段から映像に出る仕事をしているわけではありません。台本をしっかり用意して進行を丸投げにしないようにしたり、慣れない環境で疲れていないか、休憩は適切かなど、常に気にかけたりしています。

それと、取材先の方々への礼節も欠いてはいけません。ファンの方が聖地巡礼に行ってくださるので、お店や施設の方にも「取材を受け入れて良かった」と感じていただきたいですね。

――これからの映像業界のクリエイターに求められていることはなんでしょう?
映像業界はクリエイターにとって大変な環境になってきていると思います。というのも、一昔前のように泊まり込みで番組を作る時代ではなくなっているから。これまで残業に充てていた時間でいろんな経験を積んで仕事に活かすことはできますが、反面、仕事にのめり込む時間は少なくなりました。「仕事で苦労するのが大変になった」とも言えますね。だから限られた時間の中で、人が嫌がることでも積極的に経験した方が、あとで絶対“ため”になります。

また、テレビを見ることも大切です。とくに夕方の情報番組は食べ物の物撮りがすごく美味しそうで、「こういう撮り方があるんだな」「こんなお店があるんだな」と勉強になります。いろんなものを見て幅広く話題を知っていると、出演者の方ともいろんな話ができて、新しい面を引き出すきっかけになったりしますよ。いくつになっても自分はスポンジだと思って、知らないことは学んで、いつでも搾り出せるようにしたいですね。ですから挑戦することは大事だと思います。
そして、自分が作ったものを人に見せること。番組も企画書も、どんどん人に見せていく。向上心がないとその先に行けませんから。

ただ……僕は自分のことをクリエイターだとは思ったことがないんです。個人的にはクリエイターと言うとアーティスティックなイメージを抱いてしまうんですよ。僕はただの番組制作をしているオジサン。裏方なので「あの番組、面白い!」「あの出演者の方、素敵だね」と楽しんでもらえるのが一番です。番組は一人で作るものではないので、たとえ明日僕が死んでも変わらず番組が続いていく方が、僕は幸せですね。

――大藏さん、ありがとうございました!

インタビュー・テキスト:河野 桃子/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:CREATIVE VILLAGE編集部

番組紹介

鳥海浩輔・前野智昭の大人のトリセツ

©torisetsu

ハイボールを愛する声優・鳥海浩輔と前野智昭がゲストとともに、大人のたしなみを楽しみます。

出演:鳥海浩輔・前野智昭・他
ナレーション:梅原裕一郎
TOKYO MXにて、隔週水曜日 23:00~23:30 放送

西山宏太朗の健僕ピース!

©sukoboku

『江口拓也の俺たちだって癒されたい!』でアシスタントを務める「やる気、元気、勇気!」がモットーの西山宏太朗が、「元気」にスポットを当てて、様々な健活にゲストと共に挑戦します。

出演:西山宏太朗・他
ナレーション:江口拓也
TOKYO MXにて、隔週水曜日 23:00~23:30 放送

企業プロフィール


株式会社タイムワープは、長年に渡り映画や音楽の情報番組を手がけており、特に映画の特番は数え切れません。近年ではファッションやアニメ、声優といったジャンルの番組も幅広く制作しており、国内・海外のイベントも独自にカバーするオリジナル取材の番組制作に経験&強みを持っています。他にもスポットCM、DVD制作、選手紹介映像、企業向け映像、Web用映像など多数の実績があります。

社名:株式会社タイムワープ
所在地:東京都渋谷区渋谷3-6-15 渋谷Tビル6F
設立年月日:1987年
代表者:代表取締役社長 時盛 裕行
事業内容:テレビ番組制作、映画制作、CM制作、映像制作、インターネット番組制作
URL:http://www.timewarp.co.jp/