ブロックチェーン技術の普及によって耳にする機会が増えてきた「NFT」という単語。これは「Non-Fungible Token/非代替性トークン」の略語で、デジタル空間でも現実のもののように所有者が明示された“一点もののデータ”などのことを指しています。そして、このNFTの仕組みをアートに応用したのが、近年大きな注目を集めつつあるNFTアートです。

中でも国内随一のNFTアートのマーケットプレイスとして知られているのが、アニメアートを専門的に扱う国内初のプラットフォーム、ANIFTY(アニフティ)です。今回はANIFTYの運営にかかわる栗山さん&翁さんのお2人と、クリエイターとしてANIFTYにイラストを出品するRAMneさんに、それぞれの立場から感じる「NFTアート」の今を聞きました。

ANIFTY 翁 雨音 (おきな あまね)翁 雨音 (おきな あまね)氏
マーケティングリーダー
中国・北京大学卒業。第6期東京大学ブロックチェーンイノベーション寄付講座受講生。在学中にByteDance株式会社のTikTok部門にて1年間インターン、アニメコンテンツ関連のマーケティングに携わる。現在はANIFTYでマーケティング責任者を務め、ユーザーコミュニティでは「じょあんな」のハンドルネームで親しまれている。好きなアニメはNARUTO、趣味はアート展示巡り。
栗山純一郎栗山純一郎(くりやま じゅんいちろう)氏
共同代表取締役
ロンドン大学キングズカレッジ在学中に、現地ブロックチェーン企業にてWeb3分野の事業開発に従事。日本に帰国後、ブロックチェーンの力でコンテンツ業界の仕組みを変えるべく2021年2月に株式会社ANIFTYを設立。世界初の二次元デジタルアート作品に特化したNFTマーケットプレイス「ANIFTY」を展開し、経営企画及び事業開発に注力する。

ANIFTY、栗山純一郎さん、翁雨音さんインタビュー

――最近では「NFTアート」という言葉を耳にする機会も増えてきたものの、まだどんなものかを理解していない方も多いかもしれません。そこで最初にうかがいたいのですが、そもそも「NFTアート」とはどんなものなのでしょうか?

栗山 NFTをNFTたらしめているのはブロックチェーンの技術ですが、これは分散型ネットワークを構成する複数のコンピューターに暗号技術を組み合わせることで、あるデータが「誰から誰に取引きされたのか」を同期して記録する分散型のデータベースです。データの耐改ざん性や透明性を実現できるので、たとえば僕から翁に送金をしても、そのデジタル上の動きを証明できます。その仕組みがアートにまで広がったのが「NFTアート」です。

――つまり、「これはコピーできない(※)本物だ」と証明できるデジタルアートのことですね。
※編集部注:所有証明書をコピーすることはできない

栗山 ブロックチェーンを利用した、偽造不可な所有証明書付きのデジタルアートがNFTアートですね。

翁 NFTアートは「デジタルな原画」とも言われていますが、ここではどのアートが本当に作者自身によって発行されたものかが一目瞭然になります。たとえば、近年Twitterのアイコンに版権のイラストを使用している方々がいらっしゃいますが、NFTの時代においては、その画像を使いたければ、そのNFTアートを購入する必要が出てくるんです。

――なるほど。デジタル上でのクリエイターの権利や利益を守ることにも繋がるのですね。みなさんがANIFTYを立ち上げた経緯についても教えてください。

栗山 プロジェクト自体をスタートさせたのは2020年の9月頃のことで、その後2021年の2月に会社を設立したのですが、そもそものきっかけは2020年のはじめにコロナ禍がはじまる頃、イギリスの企業で働いていた僕が、帰国するタイミングを迎えたことでした。その際、帰国後もリモートで働くかどうかを決める必要が出てきたのですが、それなら東京大学ブロックチェーンイノベーション寄付講座の方で、自分のプロジェクトを進めてみたいと思いました。Day0からグローバルで勝負していく事だけを決めて、解決したい課題を掘り下げるところからプロジェクトはスタートしました。

海外大学で学んでいたANIFTYメンバーの原体験としてもあるように、日本のアニメや漫画ファンは国際的にも多く、「Anime Society」なるものがどこの大学にも1つはあります。しかし、国内クリエイターと海外ファンの繋がりがなく、仕方なく海賊版にアクセスしている人達も多いのが現状です。

「日本のキャラクター文化」の価値を世界に広められるプラットフォームを作り、ファンの熱量をクリエイターに届けることができる世界を実現したいと考えました。

――熱意はあるのに、環境がそれを邪魔をしているんじゃないか、と。

栗山 そうですね。その点、NFTアートは「この作品が好きだから、あなたから買います」という、ユーザーのみなさんがクリエイターを直接的に支援できる方法のひとつですし、すべてのやりとりがデジタル上に記録されるので、どこからでも購入することができて、すべての二次利用にロイヤリティが発生します。クリエイターとコレクターの相互にメリットがある形でイラストやアートの売買ができるので、海外のアニメファンの方々のニーズを満たすと同時に、クリエイターの方々の状況を変えることにも繋がると考えていたんです。

僕は岐阜で中学まで生まれ育ち、高校からオーストラリアに留学し、イギリスの大学に進学しましたが、常々感じていたのは、「日本は世界からどんなふうに見られているのだろう」ということでした。これは翁を含むANIFTYメンバーも共通して感じていることなのですが、旅行で日本に行くときにも、多くの人々は東京に行って、名古屋に行って、大阪に行って日本を飛び立ったりします。ですが、実は岐阜のような他の場所にも様々ないいものがあり、『ひぐらしのなく頃に』の聖地として知られる白川郷があったりもします。そんなふうに、アニメアートにおいてもいいものが色々とあるわけなので、そうしたものに触れられる機会をつくることは、日本の魅力を世界に伝えることにも繋がると思っています。

ANIFTYの仕組み

――だからこそ、「いいものを誰にでも、どこからでも手に入れられるようにしたい」ということなのですね。具体的にサービスを構築する際に工夫したことを教えてください。

翁 最も大切にしているのは、「コミュニティ」を大切にすることです。ANIFTYでは運営とユーザーさんの距離を近く感じていただくために常にフィードバックを受け付けていまして、ご意見をいただければすぐにチームで共有し、実装できるものについては対応します。最近では多くの方々からIPFS(ファイルやデータを半永久的に保存するための分散型ネットワーク)を導入してほしいという声をいただき、実現に向けて動いている最中です。

栗山 ANIFTYではDiscordにクリエイターやコレクターと社員たちとを繋ぐコミュニティを用意していて、ブロックチェーンによる所有者証明を活用した、NFTのオーナーのみが入れるチャンネルもありますので、実際の購入者の意見をうかがうことができます。

翁 また、「公認絵師」も選出させていただいていまして、その方々が創作上の壁にぶつかった際にDiscordのコミュニティで他のクリエイターの方々に相談されていたり、お互いに励まし合ったりもされています。そういった様子を見ると、こちらも心が温まります。

――公認絵師になるには何か基準があるのですか?

翁 主に公式サイトから応募いただいた方から審査のうえで選出していまして、現在のところ一日何十件も応募をいただいています。「これまで創作活動にどれだけ熱心に打ち込んでこられたか」「見る人に共感を与えるような制作物をつくられる方かどうか」「ANIFTYの雰囲気に合っている方かどうか」などを総合的に判断させていただいています。

栗山 加えて、「ストーリー性がある作品をつくる方かどうか」も大切にしています。ポートフォリオの中で統一性があるような、ご自身の中で何か追求したい方向性があるような方だと「ぜひ出品していただきたい」と思うことが多いです。また、我々の方では「公認絵師ガイド」を作成していまして、何も知らなくてもウォレットの作成から絵が売れた際の確定申告までをサポートできるようにしています。取引の際のガス代(NFTにおける手数料)も、ブロックチェーンチームの努力によって、一切かからない無料のマーケットプレイスを実現することができました。絵師の方々が一歩踏み出す際のハードルを、可能な限り低くできればと思っているので、まずはみなさん自身のアートの力を信じていただいて、一度試していただき、合うか合わないかをご自身で判断していただけたら、と思っています。

翁 メタマスクのウォレットはメールアドレスだけでつくれますし、作品を出品いただくのも完全無料です。クリエイターの方々がリスクなくはじめられることを大切にしています。

栗山 現在では日本国内でも、海外の方々から最も多く見ていただけるプラットフォームのひとつとなることができました。また、クリエイターの方々がほとんど日本の方々で、継続して買ってくださるコレクターの8割は海外の方々になっていまして、我々がやりたかった「日本の文化を海外に広める」ことが徐々に形になっているのかな、とも思っています。そうしてアーティストをサポートできることが、我々自身やりがいを感じている部分です。

――他にもみなさんが、プラットフォームとして大切にしていることはありますか?

栗山 私たちが使っているイーサリアムもそうなのですが、世界中の誰でもステータスが確認できるパブリックなブロックチェーンを使用した、本質的なNFTを広めたいと思っています。ブロックチェーン技術の中にはプライベートで閉じたものも存在していて、短期的に見ると日本円でスムーズに決済できるなどの利点もあるのですが、一方で改変を加えることが可能になるなどNFTの本質的な魅力は損なわれてしまいます。ですから、あくまで長期的に見て、分散型ネットワークを生かしたブロックチェーンの本質に近づく運営体制を取りたいと思っています。メタバース時代が到来したとき、目の前にあるデジタルな作品やものが誰に帰属するかを証明する手段として、NFTの存在感はより高まると思っています。

翁 また、特に初期の頃にはNFTを「投資目的」で購入する方も多くいましたが、ANIFTYでは、純粋に「アニメアートがほしい」「このクリエイターを応援したい」という動機で購入してくださる方が増えたらいいな、とも思っています。NFTのユーザーの消費傾向も、これから様々な形で変わっていくのではないかと思っています。

――みなさんはこれからANIFTYをどんな場所にしていきたいと思っていますか?

栗山 「日本のポップカルチャーをブロックチェーンの力で世界へ」というビジョンを信念をもって進めていくことで、日本のアートやアニメ産業に還元していきたいと思っています。そのきざしは見えてきていますので、これからもさらに進めていきたいと思っています。NFTアートの場合、SNSで多くの方にいいねをもらえるような万人受けできるイラストやアートをだけではなくて、自分にとっての本当に好きな作品を、本当に好きな人が購入するからこそ突き詰められる表現の形もサポートすることができると思います。アーティストの方々が「自分のやりたいことを突き詰めていける」環境をつくっていけたら嬉しいです。

翁 ANIFTYには現在のところ350人以上の公認絵師の方がいらっしゃいますが、これからもより多くの絵師さんに公認絵師になっていただき、多くのアーティストの創作活動や暮らしを支えていきたいです。私自身、マーケターとして全員の公認絵師さんの名前を覚えていたりするのですが、ANIFTYのチームはそういったメンバーばかりで、それぐらい絵師さんたちのことが大好きな集団でもあります。より多くのクリエイターの活動をサポートしていきたいですし、ANIFTYの成長も見守っていただけたら嬉しく思っています。

ANIFTY公認絵師アイコン

ANIFTY公認絵師、RAMneさんインタビュー

RAMneRAMne(らむね)氏
RAMne 社会人イラストレーター。金髪と角っ子をメインに描いている。2021年8月よりANIFTYで出品を始める。 

――RAMneさんには、クリエイターの視点から「NFTアート」の魅力について聞かせてください。まずはイラストレーターとして活動をはじめたきっかけや、NFTアートとの出会いについて教えていただけますか?

RAMne 自分の場合、普段は社会人として絵とは関係ない仕事をしながら、イラストレーターとして活動しているんですが、最初のきっかけは大学のときに趣味で絵を描きはじめたことでした。NFTアートについては、イラストレーター仲間に「ネット上でも現実と同じように作品にモノとしての価値を持たせることができる」と聞いたのがきっかけでした。

――イラストレーターのみなさんの場合、苦労して仕上げたイラストが自分の知らないところで使われるなど、絵の所有権について悩んだことがある方も多いかもしれません。

RAMne そうですね。これには嬉しい気持ちと複雑な気持ちがあって、自分の絵を気に入ってもらえたことは嬉しく思いつつも、目にしたときはときどき悲しい気持ちになったりもするんです。NFTアートは、そうしたインターネット上のデータに一点ものの価値を与えてくれることが魅力的だと思いました。最初は仮想通貨がかかわっていることもあって少し警戒したりもしましたが(笑)、自分でも色々と調べてみた結果、「やってみよう」と思ってはじめたのがきっかけでした。実際にはじめてみると自分が思っている以上に周りの人たちに評価されていると感じる機会は多いですし、海外の方など、これまでなかなか見てもらえなかった方々にも自分の絵を評価してもらえる機会が出てきているのを感じます。

RAMne氏イラスト

――クリエイターの立場で見て、NFTアートならではの特徴を感じる瞬間はありますか?

RAMne 僕はオリジナルのキャラクターをメインに描いていますが、NFTアートではオリジナルのキャラクターを見てもらいやすい傾向を感じます。他の形式やプラットフォームだと二次創作の方が見られやすいと思うので、そこは個人的にとても嬉しい部分です。また、ANIFTYは日本語で対応してくれることも嬉しいですが、何よりANIFTYのこと以外のNFTにまつわる困ったことについても答えてくださる印象があって、NFTの知識がない人でもはじめやすい、「NFTとの距離が近くなるプラットフォーム」だな、と思います。Discordサーバーでは、クリエイターの方たちだけでなくコレクターの人たちとも意見交換をしたり、「この先生の絵がいい」と情報交換をしたりもしていて、そういう意味でも距離が近く感じます。自分の作品に対して色々と話してもらう瞬間もすごく嬉しいです。

――クリエイターの方々とも、コレクターの方々とも距離が近い場所なんですね。

RAMne そうですね。また、様々な機会にお誘いの声をいただいたりと、クリエイターを大事にしてくれている感覚もあります。自分の場合、最初は絵をここまで評価してもらえるとは思っていなかったですし、誰かの好みに合わせるよりも、「自分が好きなものを描いた方がいい」と思っていました。でも、NFTは依頼を受けて絵を描くのではなく、自分が本当に描きたいものをコレクターの方々が評価して購入してくれます。そんなふうに、自分が好きで描いたものを出品できるのは、クリエイターとして特に魅力的な部分だと思います。

インタビュー・テキスト:杉山 仁/企画:ヒロヤス・カイ/編集:CREATIVE VILLAGE編集部