映像メディアに特化したディレクター集団「BABEL LABEL(バベルレーベル)」。最近は映画『新聞記者』『青の帰り道』や、テレビドラマ『絶メシロード』、音楽MVなど各方面で活躍しています。
そのメンバーで、ドラマ『背徳の夜食』『日本ボロ宿紀行』にてカメラマンと監督としてタッグを組んだ2人、原廣利さんとアベラヒデノブさん。自身も監督として作品をつくる原さんと、俳優としても園子温監督作品などに出演するアベラさんに、監督やカメラマン、編集など映像の仕事についてお話を伺いました。

原 廣利(はら・ひろと)(写真右)
映像監督・カメラマン。1987年生、東京都出身。2010年、日本大学藝術学部映画学科監督コース卒業。2011年広告制作会社ライトパブリシティを退社後、BABEL LABELの映像監督として活動を開始。
2017年Netflix/テレビ東京ドラマ『100万円の女たち』(演出・編集)、2019年テレビ東京ドラマ『日本ボロ宿紀行』(撮影・演出)、フジテレビドラマ『背徳の夜食』(撮影)、2020年テレビ東京ドラマ『絶メシロード』(演出)。広告作品では主にドラマ系やドキュメンタリー系を監督兼撮影のスタイルで担当することが多い。


アベラヒデノブ(あべら・ひでのぶ)(写真左)
映画監督・脚本家・俳優。1989年NY生まれ、大阪府出身。
監督・脚本・主演『死にたすぎるハダカ』(12)が2012年ファンタジア国際映画祭入賞、監督・脚本『めちゃくちゃなステップで』(14)がSHORT SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA2014のUULAアワードグランプリ。《監督・脚本・編集》東海テレビ『背徳の夜食』(19)映画『LAPSE』(19/主演)『想像だけで素晴らしいんだ』(19)《監督・編集》テレビ東京『日本ボロ宿紀行』(19)
俳優として、園子温監督『うふふん下北沢』(17/主演)他出演作多数。広告作品には自ら出演する日清 謎肉丼『みんなで1.2.3篇』(18)、片岡物産『バンホーテンココア×ガラスの仮面』(19/声の出演)など。

監督は孤独な仕事。だから「居場所」が大事

――「BABEL LABEL」(以下、バベル)は今は株式会社ですが、もともと映像ディレクター集団として始まったんですよね。どのようにメンバーに加わったんですか?

 メンバーの僕と藤井道人さんと代表の山田久人さんは、同じ日本大学芸術学部で一緒に映画を作っていたメンバーなんです。彼らと「今、面白いもの作っている人誰なんだ?」と調べていたらアベラの卒業制作の『死にたすぎるハダカ』を見つけたので声をかけたのが最初でしたね。

アベラ めちゃめちゃ嬉しかったですよ。突然藤井さんからTwitterのDMをいただいて、ワークショップに参加したんです。藤井さんは当時25歳くらいなのに、歳上の参加者に「いや、全然違うそれ」なんて言っていて、驚きましたよ。年齢も人生経験も関係なく、監督として、講師として、歳上の俳優さんにも怖じ気づかずにディスカッションする。そんな方が「アベラ監督!」と敬語で迎え入れてくれて、ご飯も食べさせてくれて、大阪から出てきて宿がない僕を家に住まわせてくれて……もう「東京で売れたろうやんけ!」という気分ですよね。しかもみなさん、僕より少ない予算ですごくクオリティの高い映像を撮っていたんです。しかも熱くてダサくて人間味があって、「チームに入れてもらえるならぜひ!」とバベルに入りました。それから地獄を見るんですけどね……。

――地獄?

アベラ やっぱり世の中をなめていた。当時の僕は大学の卒業制作でカナダ・モントリオールのファンタジア国際映画祭に行って、「自分天才や。絶対売れるわ」とものすごく天狗だったんです。でもいざやってみると、全然成果もでなくて、自分のやりたいこともわからなくなってきて……。「こんなに一生懸命考えているのに」と卑屈になって、言い訳ばかりしていました。もしバベルに育ててもらわなかったら、今はもういない可能性もありますよ。

 バベルという場があるのは大きいよね。大学の恩師に「帰る場所と仲間がいることは、監督としてすごく大きいことだよ」という言葉をもらったんですが、やっぱり監督ってすごく孤独な仕事だから、相談ができる場所があることはすごく安心できる。まぁ、基本的にはダメ出しのオンパレードですけどね。

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アベラ 「次見とけよ」って思います。お客さんはもちろん、隣にいるバベルのディレクター達をギャフンと言わせてやる、というモチベーションはありますね。

 バベルの人間に「この映像ダサい」とか言われたくないもんな(笑)

タッグを組んだ、『日本ボロ宿紀行』『背徳の夜食』

――2人が一緒に仕事をしたのは?

アベラ 『日本ボロ宿紀行』(2019年1月/テレビ東京)ですね。僕が監督の回に原さんがカメラマンをやってくれて、それがとても快感に近かったので、次の『背徳の夜食』(2019年7月/フジテレビ)で「ぜひ原さんとやりたい」とお願いしたんです。原さんは自分でカメラを演出してくださるので、すごくやりやすい。監督によっては自分ですべて仕切りたい人もいるし、カメラマンにもザ・技術屋みたいな方もいるけれど、僕は、役者の空気感を見てお芝居に寄り添った映像演出をするカメラマンさんがいいんです。原さんはカメラマンとして自分のプランを提示してくれるから、すごくやりやすい。

©「日本ボロ宿紀行」製作委員会

 それは、僕は監督出身だから、なるべく監督のやりたいことを汲み取ろうとする事が多いかもしれないです。『日本ボロ宿紀行』は僕も含め監督が5人いたけれど、ドラマの世界観は失わずに監督それぞれの個性が出るように映像に落とし込んでいくのはかなり面白かったです。

――『背徳の夜食』はシーズン2まで続くほど人気がありましたね

 アベラらしい企画だったんですよね。もともと『孤独のグルメ』などを手がけられている吉見健士プロデューサーが、アベラで企画をするなら「背徳感」がいいだろう、と(笑)アベラの過去作品は妬み・嫉み・僻みをテーマにしたものが多くて、「人間の我慢できない感情」を描くのがうまいんです。ただ、「食べる」ことに並々ならない背徳感を生むためには、アベラが芝居の演出をして、僕が映像の演出をするのがいいんだろうな、と感じていました。

©東海テレビ

アベラ ええ、いろいろ提案してくれて助かりました。真っ赤な照明をたいてくれたり、スポットライトを当ててくれたり……。僕がそういう演出が大好物だって知ってくれているんですよね。

 アベラは突拍子もない演出をするのが得意なので、たぶん知らない人は「なにやってんの?」と理解できないような演出をしたがるんです。
たとえば『背徳の夜食』の時に、突然「石川恋さんが食べるチーズタッカルビの中にリンゴがあらわれるシーンを撮りたい」と言い出した。たぶん石川さんの役が青森県出身だから故郷を思い出す……みたいな描写をやりたいんだろうなとは想像したんだけど、台本にも書いてない。ただ、僕はアベラは突飛なアイデアが面白い監督だと知ってるから、妥協したくなかった。素材があれば編集でとても魅力的に見せてくれるので、彼が撮りたいものは撮ってあげたい。

アベラ ありがたいです。僕は編集にはすごくこだわりたいので、そのための素材をちゃんと撮影したい。でもドラマだと時間がないから、いかに自分と近い感覚を持った編集さんと仕事ができるかがポイント。僕が思う“良い編集さん”は素材をくまなく見る。ちゃんと全部の素材を見ていない編集はすぐにわかるから、「こういう映像も撮りましたよね?そっちの方がいいんじゃないですか?」と言っちゃう。編集さんにとっては面倒くさい監督かも。

 いや、ちゃんとした編集技師だったら全部見てるよ。自分で判断して映像を足したり削ってくれる人もいる。そうやって自分の意思を示す人じゃないと、一緒にやってて嬉しくないね。

アベラ そうですね。べつに正解じゃなくてもいいんです。その人なりに根拠を持ってアイデアを出すのが大事。ちゃんと考えて、時間をかけた仕事って伝わるんですよね。

変化する“こだわり”の質

――仕事の“こだわり”とは?

 アベラが『背徳の夜食』でこだわったことって何?

アベラ ええと……実はないかも。というのは、視聴者を一番に考えたんです。僕はもともとこだわりが強くて、こだわりすぎて人に理解されない作品をいっぱい作ってきた。だから『背徳の夜食』では自分の気持ちのいいものだけを撮らないように気をつけていました。言い換えれば、「こだわりを捨てる」というのがこだわりだったかな。とくに第2弾では、第1弾の視聴者の意見を賛否両論すべてスクリーンショットで残しておいて、それを参考に作りました。だからといって、視聴者に媚びるわけじゃない。読んでて苦しい意見でもしっかり目を通したうえで「じゃあこうしてやろう」という挑戦の気持ちです。だからシーズン2は、1より圧倒的に面白くなってると思う。

 視聴者から学びますよね。『背徳の夜食』でもシーズン1はとくに賛否がわかれていて、「美味しそう」という人もいれば「食べるシーンが気持ち悪い」という人もいた。でも、そこでひるんじゃダメなんだろうな。少なからず面白がってくださる方もいるので、ビビって表現を小さくしないようにしたい。

アベラ 原さんも僕も元々こだわりが強いけど、“こだわりの質”はどんどん変化している気がしませんか? 僕は最初の頃、自分の抱える妬み、嫉み、日常の鬱積のストレスを発散するように映画を撮っていました。「こんな映画なんですよ!すごいでしょ!」「ほらほら血がドバァと出てるでしょう!」という自己承認欲求の塊だったんです。それが仕事をやるうえでだんだん「お客さんに楽しんでもらうにはどうしたらいいか」と考えるようになってきた。お客さんってかなり繊細に嗅ぎわけているので、細かいところまで気づく。反応をいただいているうちに「ひとつの作品としてどう力強さを持たせるか」という風にこだわりが高まっていきました。

 もちろん視聴者の意見は大事だけど、好きだと言ってくれる人もいるし、とくにアベラの作品は好き嫌いがわかれるので「嫌いな人は嫌いでもいいじゃん」と僕は思う。

アベラ 嫌われる勇気、ですね(笑)僕の最近のテーマです。視聴者だけでなく現場でもそうで、「今これを言うと相手を怒らせるかな」と考えることもあるけど、言わずにおいて次からは仕事しないのは一番ずるい。ぶつけ合ってディスカッションする必要はあると思う。原さんも、カメラマンの時はすごくサポートしてくれるけど、監督の時は戦わないといけない瞬間もあるでしょう?

 人を動かす指示はしないといけないよね。そのためには自分が最初に動かないといけない。譲ったり合わせたりするとそのクセがついてしまうので、撮影前にはプロデューサーと「なぜこれができないか?」と確認して、できないなら「どういう形ならできますか?」という話し合いをしています。ひとつひとつ、自信を持って出せるものを作ろうというのがこだわりだと思うんですよ。諦め癖が一番嫌だと、30歳過ぎてから思いますね。

アベラ 僕もそう。自信ないなら、自信がでるまで頑張ればいい。20代の頃は、その頑張りをしないくせに言い訳していたところがあります。でも、いざ「もうこれ以上できないよ」という局面になってやっと、もっと限界は広げられることに気づくんですよね。30歳になって「自分はなにも知らなかったんだな」「まだ頑張れるな」とがむしゃらになれています。

――“こだわり”のほかにクリエイターとして必要なことは? また、どんな人と働きたいですか?

 ウソをつかないこと。たぶん大人ってウソを見抜くんですよ。逆に、ちゃんと素直に話しているとその人柄も伝わる。今振り返ると、就職面接で自分を良く見せようとしていた時にはすべて落ちているから、バレてたんだろうなと思います。

アベラ 僕もウソつきの天狗だったからな。もし就職活動していたら何十社受けてもひとつも受からなかったでしょうね。

 いや、アベラはキャラクターで受かるかも。キャラも大事だよ。やっぱり仕事するのは人ですから、一緒に働いて気持ちいい人かどうかはとても大切。だから演出する時なんかは、役者さんに「ここで右○○°向いて」みたいにご本人をコントロールするみたいな事はしないです。こういう角度で芝居するとよく見えますよ的な話はしますが。限られた時間だけど最大限に「どうするのがいいかな」と互いに考えていくことが、人と向き合って演出することだと思う。コミュニケーションが取れる人と働きたいですね。

アベラ あと、自分なりのこだわりを相手に届けられる人かな。こだわりといっても頭でっかちになるんじゃなく、「こういう理由でこう思うんですが」と言葉や作品で相手を説得できる人。シンプルに言うと「こいつに勝てへん」と思いたいんですよ。

 バベルはまさにそういう環境だと思います。仲間だけど、ライバルでもあるんですよね。

――おふたりのお話から、みなさんがお互いを尊重し、良い緊張関係を維持しながら切磋琢磨されているのが伝わってきました。今日はありがとうございました。

インタビュー・テキスト:河野 桃子/撮影:SYN.PRODUCT/企画・編集:市村 武彦、佐藤 友香(CREATIVE VILLAGE編集部)

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会社プロフィール


株式会社BABEL LABEL(バベルレーベル)
BABEL LABELは、2010年に映画監督の藤井道人(『新聞記者』)が立ち上げた映像ディレクター集団/映像制作会社。日本大学芸術学部在学中に自主映画を作っていた同世代の仲間を中心に、才ある若手を巻き込んでいく。初期は自分たちで創作機会を得るため定期的に自主上映会を開いたが、作品性を互いに縛ることはなかった。個人が好きなものを目指すスタンスが変わらなかったため、次第にそれぞれが得意分野で活躍出来る集団となった。広告制作会社から合流した山田久人が代表となると、チーム作り、制作・編集力を強化し、社内のワンストップ制作を実現。共同演出や共同脚本といった、当初からこだわっている横の繋がりを生かしたクリエイティブを一層支える。2019年は自社でオリジナル映画『LAPSE』を製作。テレビドラマ『日本ボロ宿紀行』(テレビ東京)では社内のメンバーで演出、撮影、編集、制作を手掛けた。