大ヒット女性向けスマートフォンゲーム、『夢王国と眠れる100人の王子様(以下、「夢100」)』。パズルゲームをクリアしていくことで王子様との恋愛が進行していくRPGが人気を集め、アニメ化や舞台化されるなど、メディアミックスでもファン層を拡大しています。
これらの開発・運営を手がける株式会社ジークレストは、他にも『茜さすセカイでキミと詠う(以下、「アカセカ」)』など女性向けスマートフォンゲームを開発する、サイバーエージェントのグループ会社。
今回は取締役であり「夢100」の事業責任者の礎考宏さんと、アートディレクターのぷらなりこさん(ペンネーム)に、ヒットの要因や独自の制作スタイルなどについて伺いました。


礎 考宏(いしずえ・たかひろ)
2009年にサイバーエージェントへ新卒入社。
グループ会社の株式会社QualiArtsでゲーム運用やマネージメントに従事。
2017年4月にジークレストに異動し、同年10月取締役に就任。現在は「夢100」の事業責任者も務める。


ぷらなりこ
美術大学を卒業後、2015年4月にサイバーエージェントに新卒入社。
グループ会社の株式会社QualiArtsにて、イラストの原画制作、アートディレクションを経験。2017年8月にジークレストに異動し、「アカセカ」のアートディレクターに。現在は「夢100」のアートディレクターとしてイラストのクオリティ担保を行っている。


アートディレクターとキャラクタープランナーの違い

――まず初めに、現在のお2人の具体的な仕事内容を教えて下さい。

 私は「夢100」の事業責任者として事業戦略を立てたり、組織全体をマネージメントするというのがミッションです。

ぷらなりこ 私はアートディレクターとして「夢100」のグラフィックのクオリティ担保と、より良いイラストにするための新しい提案をしています。

 「夢100」チームは、イラストレーターだけで20名います。なので、スケジュール管理などのマネージメントは別の人が担当して、ぷらなりこは純粋にアートディレクターとしてクオリティを向上させることに集中しています。
最終的に一枚のイラストを作り上げるまでには、ぷらなりこの他にシナリオライター、キャラクタープランナーなどたくさんのメンバーと連携して制作をしています。例えばゲーム内イベントのイラストを制作する際の流れとしては、私とディレクター、シナリオディレクター、キャラクタープランナーやアートディレクターで、過去の傾向やお客様からの反響をもとにどんなコンセプトにするかを話し合います。
その後、キャラクタープランナーが細かい世界観や、それぞれのキャラクター性に沿った衣装案などを詰めて伝えて、ぷらなりこからイラストレーターにイベントの世界観を表すラフを作ってもらいます。見栄えやポージングなどをブラッシュアップしていくのがアートディレクターの仕事になります。

――アートディレクターさんとキャラクタープランナーさんの仕事内容は、重なってくるものも多そうですね。

ぷらなりこ キャラクタープランナーとはかなり密に話し合って作っていきます。例えば「今回はこういうテーマだから、こういう感じの絵が作りたい」と相談されたときに、どうすればキャラクタープランナーがイメージしているものに近づくのかを考えるのが私の役割です。
キャラクターを深掘りしたいときに「今回はこのキャラクターの闇の部分に触れたいからそれを衣装やイラストで表したい」という場合、どうしたら絵として綺麗な印象を保ったまま闇の部分を落とし込めるかなど考え、提案しています。
礎と一緒に仕事をするのは最初のコンセプトの部分で、それ以降はキャラクタープランナーと私で進めています。

――キャラクタープランナーさんはイラストは描かないんですか?

ぷらなりこ 描かないです。キャラクターのことを一番理解していて、キャラクターを最大限かっこよく見せるシチュエーションやキャラクターらしさを考えるのがキャラクタープランナーです。着地点がズレないように、イラストが完成に近づいたら、違和感がないかなど色々確認してもらいます。

――イラストレーターさんが20人いるということは分担も決まっているんですか?

ぷらなりこ 工程ごとに担当を分けて制作をしています。たくさんの人数で作っていますが、レギュレーションはかなり細かくあり、仕様に沿って作っています。それらの最初のイメージのトンマナを合わせるのが私の仕事でもあります。

 そのレギュレーションをぷらなりこがチーム全体に浸透させて常にチェックしているので、そこで問題が起こることはあまりないですね。

社内に専属イラストレーターが多数いるという強み

――社内でこれだけ多くのイラストレーターさんを抱えるというのは珍しいですよね。

 だと思います。社内にイラストレーターがいるメリットとしては、目指しているヴィジョンが浸透しやすい点です。例えば「儚げな表情を描いて欲しい」という言葉ひとつ取っても、いろんな会社やゲームによって捉え方が全然違うと思います。それが社内にいることでキャラクターのことをしっかり理解した状態で「このキャラクターの儚げな表情というのはこれ」という意思疎通ができます。それくらいやらなければ、いいものは届けられないと思っています。
女性向けのコンテンツは、特にイラスト、シナリオや世界観などを重要視するお客様が多いため、弊社ではその部分への時間の掛けかたというのは他より突出していると思います。

クリエイター達の思いをヒアリングしアウトプットするのがアートディレクター

――チームの中で何か意見がぶつかる場面とかはありますか?

ぷらなりこ そんなにないと思います。

 ぷらなりこやキャラクタープランナー達が「これは絶対イケると思います」と言うことに対しては、私は本当に何も言えないんですよ。私は男性ということもありキャラクターを愛してくれている人の気持ちを完全に理解することはできないと思っています。勿論理解しようと努力はしているのですが、よりお客様の気持ちに近い彼女達の熱量を優先したいので単純に信じています。僕の役割としては、予防線みたいなところを作ることなので。
ぶつかることが多少あるとしたら、例えば「夢100」では大体月に2回ゲーム内イベントがあるのですが、12月のイベントはプロモーションの戦略的にクリスマス一色でやりたいなどそういった要望を伝えています。クリエイターからすると、クリスマスというテーマでのそれぞれ異なったイベントを2回作ることは大変なので、生みの苦しみで悩ませることはあります。

――ぷらなりこさんはそんな生みの苦しみをふまえつつアートディレクションをしているんですね。

ぷらなりこ そうですね。キャラクタープランナーから「こういうイメージなんだよね」と言われたことをとビジュアルでアウトプットするのが仕事なので。キャラクタープランナーの中にあるイメージをいかに引き出せるかが重要になっています。

 確かに。ぷらなりこの場合は引き出しを見てキャラクタープランナーと詰めていく感じだよね。

ぷらなりこ そうなんです。キャラクタープランナーが「この衣装なんとなく似合わない」と言っているところをヒアリングして「どうして似合わないんだろう、どうしたら似合うんだろう」と考えて提案します。
クリエイターとしてもいいものができたという実感があるときに成功するというのは、手応えとしてチーム全員わかっていると思います。信じて任せてくれているという安心感があるので「これだとあまり喜ばれない気がする」と思ったときは、先に礎に相談するようにしていますね。

世界観を守り続けることはユーザーにとっても価値がある

――そういったコミュニケーションによる一貫した世界観が「夢100」ヒットの理由でもあると思うのですが、お二人自身が分析するヒットの要因ってありますか?

 リリース初期の話でいうと、私たちがリリースした頃はそこまでスマートフォンの女性向けのゲームが多くなかったので、先行者メリットもあるのかなと思います。当時いわゆるシナリオをメインとした恋愛シュミレーションゲームはいくつかあったのですが、そこにパズルゲーム要素を掛け合わせたのが新しかったと思います。

ほかには、100人を超える沢山のキャラクターが出てくるので、100人もいればきっと好きになることができるキャラクターがいるという、きっかけをお客様に届けることができたこと、そこに併せて王子様というモチーフだったり夢世界のファンタジーな要素だったりが喜ばれたのかなと思っています。あとは、恋愛要素を取り上げていただくことが多いのですが、メインで描いているのはRPGの要素や敵キャラとの対立など、そういうストーリーの中でキャラクター達が成長していく姿がお客様から共感されています。

ぷらなりこ たくさんキャラクターがいて、王子様という現実世界ではなかなか触れ合わない人達が自分を好きになってくれる、非現実体験ができるのがいいのかなと。今までファンタジーに振り切って4年間運営してきて、この世界観を守って続けていくことがお客様にとっても価値のあることだと思うので、そこは絶対裏切らずにやっていきたいですね。

他分野のクリエイターと知識を共有することで生まれる連携力

――基本的に「夢100」のクリエイターは女性ですか?

ぷらなりこ 特に女性ではないといけないということはないのですが、全員女性です。女性向けゲームにハマっていたり、イケメンキャラクターが大好きだったりと、女性向けコンテンツのディープなユーザー経験がある人が多いです。

 クリエイターではなくても同じような人が多くて、ゲーム、アニメ、映画や舞台など何かしらのエンタメコンテンツが好き!という人が多いので、それも強みになっていると思います。やっぱり好きに勝るものはないと思うので。

ぷらなりこ だから社内はいつもオフ会みたいな雰囲気です(笑)。

――社内の育成制度やイベントも多そうですよね。マッチョや執事を呼んでデッサン会を開くとか!?

ぷらなりこ クリエイターのスキルを上げる目的で実施しています。いつも2Dのキャラクターを描いていて、実際に動く人間を見てデッサンすることから遠ざかってしまっている人が多かったので、まずはそれを思い出してみようということと、女性向けのコンテンツを作っているので描きがいのある人に来てもらおうということで、マッチョの人に来てもらって筋肉の勉強をさせてもらったり、執事の人には立ち振る舞いや姿勢の美しさ、服装などを勉強させてもらったりしています。
そのほかには、職種を超えた技術共有会を行っており、アニメーター、イラストレーター、シナリオライター、UIデザイナーなどが集まってノウハウの共有をしています。異なった職種や部署の人の話を聞くのは面白くて、例えばシナリオライターの人がプロットを組み立てるロジックなどは、私はどう書くのか想像もつかないところをプレゼン資料にして教えてくれるので、「そうやっているんだ〜」みたいな新たな発見があります。イラストレーターの発表も絵を描かない人から見れば新鮮で面白いし、同じ職種であれば単純に勉強になります。

――そういうところからも連携力が強まるんでしょうね。

 そうですね。他職種への仕事の理解がないと、リスペクトし合えないですし。

ぷらなりこ ジークレストはクリエイターが合計100名弱いてとても人数が多いので、そこで発表したことで「あの人はこういう仕事をしている人なんだ」というのをわかってもらえて交流を深められます。

職種を超えて考えられるクリエイターが求められている

――では最後に、今後のゲーム業界とそこでクリエイターに求められることは何でしょう。

 女性向けゲームはパズルなどのゲーム部分だけでなく、イラストやシナリオ、世界観などのコンテンツがとても重要だと思っています。今後は例えば、イラストレーターであっても、シナリオライターが考えているような、どうやって良いキャラクターを作っていこうか、そのキャラクターの成長はどう描こうかといった細かいこだわりまで考えられる人が求められていくと思います。
そこがクリエイターの強みを発揮すべきところにもなっていくんじゃないでしょうか。

ぷらなりこ 女性向けゲームはイラストだけがどんなにクオリティが高くても、世界観やキャラクターがきちんとしていて、それを好きになってもらって、自分の推しを作ってもらわなければ、ファンは付かないと思います。なので、世界観からしっかり好きになってもらえるコンテンツ作りが求められると思います。

 イラストレーターやシナリオライター、それぞれの専門領域を理解しているだけでは良いものはつくれないと思っています。
このイラストで、かつこのキャラ設定とストーリー、世界観で、という連動性が大事なので、それぞれのクリエイターがお互いを理解しながら作っていくのが大事になってくると思います。

――ありがとうございました。

インタビュー・テキスト:上野 真由香/編集:CREATIVE VILLAGE編集部

企業プロフィール

株式会社ジークレストは、『夢王国と眠れる100人の王子様』『茜さすセカイでキミと詠う』など、女性向け恋愛ゲームアプリでヒット作を生み出しているゲーム企業です。コーポレートロゴは、愛を込めて女性向けゲームを開発する心や熱い気持ちを炎で表現したデザインとなっています。

社名:株式会社ジークレスト
所在地:東京都渋谷区南平台町16番28号
設立年月日:2003年11月4日
代表者:代表取締役社長 大辻 純平
事業内容:スマートフォンアプリの企画・開発・運営、アバターコミュニティサイトの企画・開発・運営
URL:https://www.gcrest.com/