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「コンテンツプランナー」ってどんな仕事? 映像表現の領域を拡張する西田淳さんに聞く

ドコモ「森の木琴」やOK Go「I Won’t Let You Down」のMV、プロジェクションマッピングを米粒に施した「Rice Mapping」。幅広い表現領域で活躍する西田淳さんの職業は、「コンテンツプランナー」だ。CMプランナーとして培った経験とスキルを拡張させ、現在は、CMの枠を飛び越えた映像表現の地平を切り開いている。
コンテンツプランナーとは何なのか? お話を伺いました。

西田 淳(にしだ・じゅん)
株式会社ドリル コンテンツプランナーADK雑誌局、クリエイティブ局CMプランナーを経てドリル設立に参加。
NTTドコモ「森の木琴」、OK Go「I Won’t Let You Down」、別府市「湯~園地計画」など国内外で話題となった動画のほか、横浜ドックヤードプロジェクションマッピング、ライスマッピング@ミラノサローネ、360度LED空間WarpCubeなど、スクリーンの形状や視聴環境に最適化した映像コンテンツの企画制作を手がける。カンヌ国際広告祭 金賞/One Show 金賞/Spikes Asia 金賞/Adfest グランプリ/ACC グランプリ/MTV Video Music Award/グッドデザイン賞など受賞多数。
ACC 2015、2016審査員。プロジェクションマッピングアワード2017審査員。

CMプランナーの役割は、言葉の外に立つこと。

―西田さんのキャリアスタートはADKの雑誌局とお伺いしました。

はい。最初の4年は雑誌部に配属され、送稿やPR記事制作などをやっていました。その後クリエイティブの転局試験に受かって、「CMプランナーをやれ」と。

―「CMプランナーをやれ」と言うのは西田さんの意志ではなく……?

CMプランナーと書かれた名刺をもらって「あ、CMやるんだ」って(笑)。
クリエイティブ志望ではあったけれど、それまで映像を意識していたわけではないし、学生時代に何かやっていたわけでもないので、何も分からない状態からのスタートでした。だから、まぁ、とにかくうまくいかないんですよ。自分のイメージをコンテに描こうにも上手く描けない。企画が通ってもディレクターとの話し方がわからず想定と違うものになっていく、というような状態でした。

これはまずい、とにかく色々なものを見なければと思って、過去のCMや海外のCM、ミュージックビデオやモーショングラフィックス、実験映像のようなオルターナティヴなものも含めて手当たり次第インプットしていきました。その中でドキュメンタリー映画の『コヤニスカッツイ』に出会い、衝撃を受けたんです。映像と音楽だけでストーリーやメッセージを伝える本作を観て、映像表現ってこんなことができるのか、と驚きました。ヴィジュアルランゲージってこういうことなんだ、って。

CMを作る際、日本では特に「言葉でどう表現するか」という考えをベースに組み立てられることが多い。でもそれって、コピーライターがディレクターに発注すれば済んじゃうとも言えます。じゃあ、CMプランナーしか持っていないスキルってなんだろう? と考えていた時、『コヤニスカッツイ』に出会って。これだ! と。映像言語だけの企画はCMプランナーにしかできないんじゃないかと思って、僕のコンテから言葉がどんどん消えていきました(笑)。

“CMプランナー”から“コンテンツプランナー”へ。

―そうしてキャリアを積み重ねていかれる中で、当時の「CMプランナー」という職種の捉え方について西田さんの結論は出たんですか。

結論としては、CMプランナーは映像言語の構造設計をする人。CMプランナーのスキルは、構造設計のスキルだ、と僕は捉えたんですね。そうすると、必要な画をある順序で並べるとこういう意味が残る、という設計スキルそのものは15秒30秒以外にも応用できるのではないかと考えた。で、まずトライしたのが“尺の枠を外す”アプローチ。今でいうWebムービーや、長尺の映像をやり始めました。

―だから“CMプランナー”から“コンテンツプランナー”と名前を変えたと。

はい。「コンテンツプランナー」という言葉からは文章やデジタルを含む広義のイメージが浮かびますが、僕の場合は「映像コンテンツのプランナー」という限定的な意味合いで使っていて。要は、CMプランナーの拡張版と捉えています。

―「コンテンツプランナー」と名乗り始めたのはドリルに参加されるタイミングでですか?

そうですね。ドリルはイベントとかPRとかWebとか、職種の違う連中のユニットです。CMだけではなく、イベント用の映像やWeb用の映像が必要な仕事がある。それらを映像言語の設計スキルで作っていきました。

―「コンテンツプランナー」として活動されていく中で、ターニングポイントになった作品を挙げるとすれば何でしょう。

「映像と音楽だけで伝える」というテーマの最終解が「森の木琴」でした。

映像と音楽だけでコピーは入っていなくて、だけど気持ちやムードが伝わる。今のところ「これ以上いじると完成度が下がる」っていうところまで全部検証して「やりきった」と言えるのは「森の木琴」だけですね。

原野守弘さんと企画を固めてコンテを描いて。インビジブルの松尾謙二郎さんたちとひたすら試作をして。撮影現場では菱川勢一さんとカメラワークなどを相談して。編集では「あのカットどこに入れる?」とかワイワイやりながら、全員が納得できるまで議論して詰めたものがカンヌで賞をもらって「あ、これでいいんだ」と、すごく自信になりました。

CMのスキルは他の映像分野に応用できる

―OK GoのMVはドローンでワンカット撮影という斬新な試みで話題になったのが印象的です。

僕にとってこのMVはとてもCM的です。後半に向けてどんどんオーバーになっていく、という構造は、CMではよくやる文法なんです。5分のMVをワンカットで退屈させないためにCMの文法を持ち込んだ。それを実現させるためにはドローン撮影しかなかった、という順序で作っていきました。

CMのスキルがこの尺でも適用できることがわかって、次に16:9のフレームを外しても通用するか?というチャレンジからプロジェクションマッピングにつながっていきます。

―そもそもプロジェクションマッピングを始めたキッカケっていうのはどういったことだったんでしょうか。

“フレームを外す大作戦”というのを自分で勝手に名付けてやっていた時期があって。社内の企画会議で、ことあるごとにプロジェクションマッピングの提案をしていたんです。すると「この人はプロジェクションマッピングをやりたいのね」という認識が浸透していって(笑)。徐々に案件が増えていきました。

―それほどまでにプロジェクションマッピングをやりたかった理由というのは?

プロジェクターやLEDのテクノロジーが進化してきて、昔に比べて表現力が格段に上がっているわけです。であれば、それらを使った映像分野でもコンテンツプランナーは活躍できるのでは、と思いました。

―どこまでできるかということで、じゃあお米にもやってみようと「Rice Mapping」を?

「Rice Mapping」と同時期にauの「Warp Cube」という360度の映像体験空間を作りました。両方とも”フレームを外す大作戦”の一環で、最小と最大をやってみたんです。

「Rice Mapping」は、あれ以上模様を細かくすると何が映っているか肉眼で見えなくなっちゃうんですよ。だから展示映像としてはあれが最小。自分の目で認識できるギリギリのところまで小さくしました。

―ミラノでの展示で、みなさんRice Mappingをみてビックリしている様子を拝見しました。

先ほどお話ししたように、「映像と音楽だけで伝える」というテーゼをCMプランナーの頃から持ち続けていたわけですが、結果的に言語の壁を越えて海外の人が反応してくれるのは嬉しいですね。

―プロジェクションマッピングをやる際も西田さんは基本的にプランナーの役割を?

はい。例えばRice Mappingのときは、「展示イベントのブースである」という状況をまず考えます。長い間じーっと眺めていてはくれないだろうから、尺は大体60秒くらいかな、60秒見てもらうには綺麗な模様が色々映るだけではなくて縦軸のストーリーを感じるようにしたいなと。で、外国でやるので、ベタですけど日本の四季を15秒ずつくらいで見せていく、という構造をまず作りました。それからディレクターと一緒に「どういう模様にするか」と詰めていったんですけど、この考え方の手順はCMプランナーとしてのスキル。僕のオリジナルな才能とかじゃない、完全にCMで学んだスキルを使っているだけです。

―CM時代があるから何でもできるし、枠を外すだけでこんなにいろんなことができるよと。

そうですね。CMプランナーがガンガン違う映像の領域に出て行くと良いなと思ってるんです。今は考査とかがすごく厳しくて、自由にCMを作れる環境があるとは言えない。だけどCMのスキルは他の映像分野にも通じるよ、ということがCMプランナーにわかって、実際に違う領域でも活動していけば、もっとおもしろい映像が世の中に増えていくんじゃないかと思っています。

―そして西田さんはプロジェクションマッピングの領域でも多くの作品を手がけられて、プロジェクションマッピングアワードなどの審査員としても様々な作品を見ていると思うんですが、どういうものがいい作品なんでしょうか。

シンプルに言うと「もう1回見たくなるか」。CMやプロジェクションマッピングだけじゃなくて、今は映像そのものの数量が膨大ですよね。YouTubeを見れば気になるものが山ほどあるような状況です。そんな中で能動的にもう1回見たいと思えるか、っていうのが分野にかかわらず映像コンテンツとして必要だと思います。

映像の力と可能性を信じているからこそ、新しい分野に挑戦し続けたい

―「もう1回見たくなる作品」を作るためには、何か一つ明確なものがあるといいんでしょうか。

僕の持論だけど、大事なのは「チームの持っているグルーヴ感」だと思っています。うまくいった仕事って、全部、チームの雰囲気がいいんですよ。馴れ合いでやっているわけじゃないし、みんなプロフェッショナルだから真剣にぶつかり合っているけれど、とても楽しいし適度な緊張感と充実感がある。
そういうグルーヴは仕上がった映像に出る、と思っていて。映像を見てくれる人に伝わるのはそこなんじゃないかとすら思っているんです。

OK GoのMV制作のときに、メンバーのダミアンが「音楽は一人で作るんだけど映像はみんなで作るから面白いんだよね」と言っていて、すごく共感しました。彼は本当に、みんなからアイデアを引き出すんですよ。
「このカットは俺はこう思うけど、君はどう思う?」とか言って。言われたほうは、その場で即座に打ち返さなくちゃいけないから、その緊張感たるや半端ないんですが(笑)。そこには年齢も職種も忖度もない。最良を目指してフラットな関係で意見を出し合って、色んなものを引き出して積み上げていくやり方だったから、チームの全員が「貢献した」と思える仕事になっていて、あの作り方は一つの理想形です。

―では最後にコンテンツプランナーを目指していたり広告業界に興味がある人へメッセージをお願いします。

とにかく映像の仕事は本当に面白い。僕は「人生もう1回やれ」って言われても、間違いなく映像分野を選ぶ。そのぐらい、やっていて面白いんです。作ること自体も楽しいし、いい仕事で出会った戦友たちと絆もできる。それに、最終的に良いものが出来て、見てくれた人が反応してくれる喜びもある。
簡単に映像が作れる時代だからこそ、仕事としてみんなで力を合わせた高品質な映像が増えていけばいいなと思いますね。映像の力と可能性をどこまでも信じているし、やればやるほど「まだ出来ることがある」と思うことばかりです。

インタビュー・テキスト:上野 真由香/撮影:SYN.product YUICHI TAJIMA/編集:CREATIVE VILLAGE編集

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