今回は2023年4月24日に行われた“エンターテインメントロイヤー&プロデューサー・四宮隆史先生に聞く ~契約と権利と労働 契約編vol.2~のレポートをお届け。
前回の「契約編」ウェビナーでは、「契約とはどういうものか」「どういったことがトラブルにつながるのか」といった導入部分の解説を行いました。第2回ではさらに一歩踏み込んで、エンターテインメント業界で取り扱う機会が多い「ライセンス契約」について、四宮先生が、エンターテインメント専門弁護士の視点でリアルにわかりやすくお話し頂きます。
エンターテインメント業界で働いていらっしゃる方々、またこれから業界を目指す方々にとって、良質なコンテンツづくりを法律や権利の側面から考える機会となれば幸いです!
【記事で得られる学び】
- ライセンス契約書に書いてある各条項の意味
- “決定事項に漏れがないこと”“曖昧・不明確な情報がないこと”の2つが重要
- 契約書の言葉の「定義」は特に注意深く見る
登壇者紹介
四宮 隆史(しのみや・たかし)氏

エンターテインメント・コンテンツビジネスの根幹となる「ライセンス契約」
コンテンツビジネスは、権利許諾を与える側(ライセンサー)と許諾された権利を使用する側(ライセンシー)が「ライセンス契約」を結ぶことで成立しています。

契約書で重要なのは、詳細・長文であることよりも、決定事項の漏れを防ぐことと曖昧な内容を排除すること。皆さんがご自身で契約書を作成することは稀だと思いますが、相手方から提案のあった契約書を確認したり、昨今話題のAIを利用して契約書を作成したりする際には、細心の注意を払って確認することが重要です。
本日はライセンス契約書の読み解き方をご紹介しつつ、契約書の漏れをなくし法的リスクを回避するために主に気を付けておくべきポイントについて解説していきます。
ライセンス契約で気をつけるべきポイント
定義
契約書内で使用される用語・言葉の意味を明確に定める、もっとも重要な条項です。
ライセンス契約に関して、特に業界用語やキーワードの定義は重要です。意味が不明確な用語がないか、必ず確認してください。
例えば契約が「商品化権」に関する場合、商品化権とはどういうことを認める権利なのか文章化して曖昧さを回避していくことなどが求められます。
またロイヤルティ(コンテンツ利用時に発生する対価)の算出に関わる用語の定義も、明確にしておいた方がいいです。
「商品が1点売れるごとに、いくら支払う」という契約であればシンプルですが、例えば「売上から費用を差し引き、利益の一部を支払う」という契約の場合、「売上」とはどの段階の売上のことか、ロイヤルティ算出時に控除される「費用」には何がどこまで含まれるのかによってロイヤルティの金額は大きく変わってきます。詳細に詰めておくとよいでしょう。海外、特にアメリカの契約書では、このあたりの定義が非常に綿密に書いてあります。
基本契約、個別契約
ライセンス契約の場合まずは基本契約を結び、コンテンツ毎の個別契約がそこに紐づくことが多いです。
基本契約はどうしても長くなるので、以降の契約手続きを簡略化できる、コンテンツごとの取り決めにフレキシブルに対応できるといったメリットがあります。
対象プロパティの特定
許諾の対象は明確に特定する必要があります。
例えばキャラクターをグッズ化する場合、名称のみの記載では危ないです。グッズに使う画像を特定して契約書の別紙に入れるなど、どの絵面(えづら)をライセンスするのかまで特定しましょう。
キャラクター以外にタレントの肖像やノウハウ、コンセプトなどのライセシングにおいても同様です。
許諾・権利の内容
例えば商品化権、映画化権、放送権など、何の権利を許諾するのか明確にします。
ライセンスビジネスでは、ライセンスを受けたところがさらにサブライセンスをするというケースが多くあります。最初のライセンスを広めに取っておかないと、サブライセンスが違法になってしまうことがあります。
許諾期間と契約期間
大概のライセンス契約では、許諾期間より契約期間を長く設定しておくのが無難です。
また例えばキャラクターやロゴが商標登録してある場合、「商標権の保護期間である10年は超えているのに許諾期間が残っている」とおかしな状態になることがあります。こうした権利の存続期間にもご留意いただき、契約期間の整合性をご確認頂くとよいかと思います。
加えて「許諾期間が過ぎたらどうするのか」が明確になっていることも、重要なポイント。
例えばアプリゲームでコラボキャンペーンを行う場合、「ユーザーはコラボ期間中に獲得したキャラクターを、許諾期間終了後も引き続きゲーム内で利用できる」といった条項を加えておかないと、契約違反になってしまいます。
許諾地域
「日本国内」「北米」といった区分のほか、「英語圏」「フランス語圏」など言語圏で特定するのも得策です。ネット配信の場合は、技術的な対策も講じる必要があります。
初期投資
ライセンス契約締結時に発生する対価について取り決める項目です。
ミニマムギャランティ(最低保証金)、アドバンス(前払金)、イニシャルロイヤルティなどいろいろな言い方があります。金額と合わせて、一括払いか分割払いかなども決めておきます。
支払方法
また、支払いの流れも確認しておきましょう。
請求方法や支払い期限、また銀行振込の場合、振込手数料や消費税はどちらが負担するのかといった点がポイントです。
収益の分配
初期投資のあとに発生してくるロイヤルティの分配方法を取り決めます。
【代表的な分配方法】
- レベニューシェア:売上をシェア
- プロフィットシェア:売上からコストを控除した利益をシェア
- ランニングロイヤルティ:販売個数やコンテンツのダウンロード数・再生数等に応じてシェア
総収入/総利益の定義
先ほど「定義」の項目でも解説しましたが、ロイヤルティの分配においては「総収入/総利益の定義」が重要です。
日本の契約では利益配分の割合パーセンテージのみ記載してあることが多いですが、特に経費については、「回収可能な経費はこれだけです」「この範囲の経費は控除していいですが、それ以外は控除してはいけません」ということを明確にしておくと揉め事を防ぐことができます。
再許諾の可否/事前承諾の要否
サブライセンスすることが想定されている場合、契約書上で可否を明確化しておいた方がいいです。
独占/非独占の明記
独占的な許諾なのか、他の人も同時に利用可能なのかを明記していないライセンス契約は意外に多いです。
独占許諾は期間や条件を限定してとることもできます。一方独占は初期投資や最低保証料が高くなりがちなため、リスク分散で非独占的な許諾をとる選択肢もあります。いずれにしても、契約相手と明確に合意できているかどうかがポイントです。
表明保証
例えばキャラクターを商品化する際、ライセンサーがそのキャラクターは模倣やパクリでないことを保証し、第三者の権利を侵害していないことをライセンシーに対して表明する条項です。ライセンシーにとっては、ビジネスを進行するうえで予期せぬ障害や差し止めが生じる可能性が軽減されるということになります。
素材の配送・納入・検収
ライセンス対象のデータを、どのように授受するかを相互に確認します。データで渡すのか、何かに保存してそのデバイスを渡すのか、といった内容が書かれています。
ライセンシーによる権利処理
例えば映像コンテンツをライセンスする際、映像内で使用されている音楽の権利処理は誰がやるのかという問題があります。これは、基本的にライセンシーがやらなければいけません。
権利侵害への対応義務
ライセンシー以外の第三者がコンテンツを盗用するトラブルが発生した場合、ライセンサー/ライセンシーのどちらがどのように対応するのかを相互確認します。
ライセンシーの競業禁止
ライセンシーが許諾地域内で同種のコンテンツを商業展開することを制限する項目です。ライセンサーの権利意識が特に強い場合、目にすることがあると思います。
宣伝活動への協力
ライセンサーに対して、宣伝活動への協力を依頼する文言が書いてあるケースもあります。
契約終了後の借置
許諾期間終了後もグッズの販売を継続できるか否か、できる場合はどのくらいの期間か(セルオフ期間)。また渡した素材はライセンサーに返すのか廃棄するのか、廃棄する場合、廃棄証明書の提出は必要かなど、展開後の処理対応について相互確認します。
差し止めによる救済禁止
仮にライセンサーから裁判を起こされたとき、ライセンシーにとって一番厄介なのは販売・提供の差し止めです。差し止めを阻止するためにこうした規定を設けることもあります。
「ライセンスイン」と「ライセンスアウト」
ライセンスイン:他社が持つ権利やノウハウ等を対価を支払って自社に導入すること
ライセンス契約では、「ライセンスイン」と呼ばれるライセンスの取得についてよくご相談があります。
よく問われるのは原案と原作の違いですが、企画書の詳細度や出版の有無は法的な区別には影響しません。実際的には未出版のものはライセンス料が低くなることがありますが、法的には同じです。
また肖像権とパブリシティ権を混同してしまい、ご相談を頂くことも多いです。
肖像権は一般人も持つ権利であり、自分の肖像を勝手に使用されないための権利です。一般的にはライセンスされることはありません。
一方、パブリシティ権は著名人に関連するもので、名前やイメージの使用に関わります。著名人の名前を無断で使うことは、パブリシティ権の侵害にあたります。パブリシティ権は経済的な価値を持ち、ライセンスによって利用されます。
ライセンスアウト:自社でもつ権利やノウハウ等の使用を、他社に許諾したりすること
一方、許諾する側の「ライセンスアウト」に関しては、買取という言葉に引っかかりを覚えられ、ご相談頂くケースがあります。コンテンツビジネスでは、買取といっても実際に権利を買い取るわけではなく、独占的なライセンスを指すことが一般的ですから、契約書を確認してみてください。
また、実写化やサブスクリプション・ビデオ・オン・デマンド(SVOD)配信のためにコンテンツの利用許諾をする際に、「ホールドバック」という考え方があります。契約期間中のコンテンツ利用を一時制限する考え方で、制限期間や範囲の交渉が重要です。
まとめ
エンターテインメントのビジネスの根幹となるライセンス契約において、必要な決めごとや考え方について解説してきました。
重要なことは、決定事項の漏れを防ぐことと曖昧な内容を排除することです。
契約書には取引を円滑に進める効果があり、もし裁判になったときはその有無や内容が勝敗に大きく影響します。
ぜひリスク回避のポイントを押さえて、円滑なビジネスを目指しましょう。



