最近、「副業」や「複業」という単語を見聞きする機会が増加しました。皆さんの周囲にも、「収入増を目指して副業をはじめた」という方がいらっしゃるかもしれません。ただし、副業で一定以上の収入を得た場合、「確定申告」および「納税」という義務が生じることにご留意ください。

なお、給与所得と異なり、副業で得た収入に関しては、基本的にご自身で手続きを行う必要があります。納税は国民の義務なので、仕組みをしっかりと理解しておきましょう。本記事では、副業をはじめる予定の方に向けて、確定申告や所得税、控除について徹底解説します。

ストレスの原因!確定申告の作業に要する合計時間は、平均で752分

Woman is calculating annual tax with calculator and filling form

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc.が全国の自営業・フリーランスとして働く男女600人に対して実施した「2022年度 確定申告に関する実態調査」(2022年3月8日公表)によると、確定申告に費やす時間の合計は「平均752分」となっています。内訳は、以下の通りです。

副業の税金_確定申告の時間
出典:アメリカン・エキスプレス・インターナショナル「確定申告に関する実態調査」

【確定申告にかかる時間の内訳】

  • 確定申告についての勉強や情報収集:96分
  • 源泉徴収票や領収書など必要書類の取りまとめ:129分
  • 確定申告書、付表、計算書の用意:96分
  • データの集計:127分
  • 集計結果の記入や入力:121分
  • 添付書類の貼り付け:72分
  • 確定申告書の提出:73分
  • 納税:38分

確定申告の中で最大の時間を要する作業は、「必要書類の取りまとめ」です。普段から源泉徴収票や請求書、領収書などを整理しておくほうが良いでしょう。ちなみに、「納税や確定申告にストレスを感じる人」の割合を年商別に示すと、以下のようになります。
副業の税金_確定申告のストレス

出典:アメリカン・エキスプレス・インターナショナル「確定申告に関する実態調査」

【年商別、確定申告にストレスを感じる人の割合】

  • 200万円未満:65.1%
  • 200万円以上、500万円未満:71.5%
  • 500万円以上、1,000万円未満:68.4%
  • 1,000万円以上:75.4%

年商や事業規模が大きくなるほど、納税や確定申告にストレスを感じる人の割合も高くなっていく傾向がうかがえます。なお、「どのようなことにストレスを感じているか」という質問に対する回答のうち、最多となったのは「納税や確定申告」(70.7%)であり、「仕事上の人間関係」(40.8%)よりも多いことを認識しておきましょう。副業による収入増は魅力的ですが、確定申告に多大な労力・時間がかかることにご留意ください。

副業においてもっとも手間がかかる作業は、「確定申告」と言っても過言ではありません。スムーズに確定申告を乗り越えるために、副業を開始してから学習するのではなく、あらかじめ仕組みを理解しておきましょう。

副業をはじめる前に、税金や確定申告について理解を深めておこう

確定申告・女性

基本的に会社員であれば、経理担当者によって計算が行われたうえで、毎月の給与から所得税・社会保険料などが差し引かれた金額を受け取ります。そして、勤務先が「年末調整」や「源泉徴収された所得税の納付」などを行ってくれるため、「確定申告をした経験がない」という方もいらっしゃるでしょう。

しかしながら、日本では「申告納税制度」が採用されており、「納税者が税制を正しく理解し、自分の課税所得額や税額を算出し、自己申告によって納税する」という仕組みになっているため、副業で収入を得たら、ご自身で確定申告を行わなければなりません。

具体的な数字で試算をしてみましょう。たとえば、「本業の給与収入が年間400万円、クラウドソーシングサイトを通じて引き受けた副業の売り上げが年間30万円(そのうち、経費が15,000円)ある」「独身で扶養親族なし」「医療費控除の適用なし」「ふるさと納税を行わない」という条件でシミュレーションを行うと、所得税額は以下になります(本業の給与から源泉徴収されている分を含む)。

【所得税額のシミュレーション】

  • 青色申告の場合:86,300円
  • 白色申告の場合:103,800円

なお、以下のケースについては、税務署への確定申告が不要です。

【税務署への確定申告が不要なケース】

  • パート・アルバイトの立場で副業を行い、副業による「収入」(給与の支給金額)が年間20万円以下
  • パート・アルバイト以外の立場(業務委託など)で副業を行い、副業による「所得」が年間20万円以下
  • パート・アルバイト、および、それ以外の立場の複数で副業を行い、それぞれの「収入」と「所得」の合計が年間20万円以下

ただし、副業による収入・所得の金額にかかわらず、「住民税」の申告は市区町村役場に対して行わなければなりません。

副業をする場合、青色申告がおすすめ?白色申告との違いとは?

青色申告と白色申告

副業によって「事業所得」「不動産所得」「山林所得」がある場合、確定申告の方法として「青色申告」と「白色申告」のいずれかを選択できます。なお、事業所得として認められるためには、「帳簿」や「請求書」などを作成・保存しておく必要があることにご留意ください。保存していない場合は、「雑所得」として取り扱われることが、国税庁の通達によって示されています。

青色申告とは?

青色申告とは、一定水準の記帳を行うことで、所得額の計算などについて有利な取り扱いを受けられる制度です。

「税務署に開業届を提出したうえで、青色申告承認申請の手続きを済ませておく(開業日から2ヵ月以内に)」「複式簿記で記帳を行う」「貸借対照表を作成する」などが必要となり、白色申告に比べて手間がかかりますが、55万円または65万円(「電子帳簿保存」または「e-Taxによる電子申告」を行っている場合)の「青色申告特別控除」が適用されるため、納税額を低減できます。

また、「赤字を3年間繰り越せる」「生計を一にしている親族に対して支払った給与(青色事業専従者給与)を必要経費に算入できる」「貸倒引当金を必要経費に計上できる」といった点も魅力です。

白色申告とは?

白色申告とは、簡易的な帳簿に基づいて申告をする方法です。ただし、手間がかからない反面、青色申告のような特典を受けることはできません。

「納税額を抑えて、手元に残る金額をより多く確保したい」という方には、青色申告をおすすめします。ただし、青色申告には多大な労力がかかることを認識しておきましょう。副業による所得額が大きくない場合や、本業が忙しくて青色申告を行うための作業時間を確保できない場合は、白色申告を行うことも検討するべきです。それぞれの特徴を把握したうえで、ご自身の状況に適した方法をお選びください。

納税や確定申告の必要性・仕組みを把握したうえで副業をはじめよう!

副業の税金_まとめ

【副業の税金 確定申告のまとめ】

  • 副業による収入増は魅力的だが、確定申告に多大な労力・時間を要することに留意
  • 税金や確定申告の仕組みについて、副業を開始する前にしっかりと把握しておくこと
  • 青色申告と白色申告のルールを理解し、どちらが自分に適しているのかを見極めよう

納税は国民の義務です。副業による収入は魅力的ですが、税金とセットで考えなければなりません。確定申告には多大な労力・時間を要し、多くの方がストレスを感じています。しかしながら、副業によって年間20万円以上の収入または所得を得た場合、避けることはできません。

現在の日本では「申告納税制度」が採用されており、国民が税制度を正しく理解し、自分自身で納税額を計算し、自己申告によって納税するのが基本です。放置していた場合、脱税行為と見なされる可能性があることにご注意ください。

これから副業をはじめる予定の方は、「どのくらいの副収入が見込めるのか」「確定申告を行う必要性があるのか」「控除を受けるために、どのような手続きが必要なのか」を把握していくことが不可欠です。副業をスタートする前に、確定申告や控除の仕組みを学んでおきましょう。

なお、事業所得などがある場合、さまざまな特典(青色申告特別控除など)を受けられる青色申告を選ぶことをおすすめします。ただし、複式簿記による記帳をしなければならないため、副業による所得があまり大きくない場合や、本業が忙しくて時間や労力をかけたくない場合は、白色申告を選択することもご検討ください。