東京都足立区に本社を構える同人誌専門の印刷会社「しまや出版」が、2025年も引き続き業界の注目を集めている。新入社員の入社が相次ぎ、業界初となる最新の印刷機器を導入するなど、サブカルチャーの一翼を担う存在として成長を続けている。

「私たちが作っているのは、作家にとっても購入者にとっても『宝物』となる本です」と語るのは、しまや出版の代表取締役・小早川真樹氏。同社は、同人誌即売会「コミックマーケット」創成期から印刷を担ってきた老舗企業で、近年は斬新なアイデアと高度な印刷技術で、業界内外から注目を集めている。

2025年3月から4月にかけて導入された最新のデジタルオンデマンド印刷機や製本機は計5台に上り、その導入は「一種の賭けだった」と小早川氏は振り返る。同社では従来の印刷手法にとどまらず、表紙に刺繍を施したり、カセットテープケースやDVDケースに収められた同人誌など、唯一無二の製品を次々に生み出してきた。中でも全ページが箔で印刷された冊子はSNSでも話題となり、「取っておきたくなる本」として高い支持を受けている。

1968年に東京都北区で文房具店として創業した「しまや商店」が前身であり、口コミで広がった同人誌印刷の評判を受け、社名を「しまや出版」と改めたのがその始まりだ。2000年には足立区に工場を構え、個人向け小ロット印刷に特化した体制を確立。現在は10部から1万部まで、短納期で対応できる仕組みが整っている。

小早川氏の経歴はユニークで、義父である初代社長の急逝を機にサラリーマンから転身し、しまや出版に加わった。業界未経験ながらも、「はじめての方にもやさしい印刷所」を掲げ、サイトの刷新や電話応対の改善、分かりやすいマニュアルの配布など、初心者に寄り添う経営を推し進めた。その姿勢は多くの同人作家に受け入れられ、印刷受注数は入社当初の3倍に達している。

また、社員同士のコミュニケーション促進にも力を入れ、「3分間スピーチ」や「多能工体制」の導入、さらには社猫の迎え入れまで、働きやすい環境づくりに尽力してきた。その結果、同社の社員平均年齢は30.5歳と若く、アニメや漫画に情熱を持つ人材が全国から集まっている。なかには、同人誌文化に魅せられスウェーデンから来日した社員も在籍しており、国境を超えて愛される文化の担い手としても注目されている。

しまや出版は、2012年には足立区の地場産業認定制度「足立ブランド」に認定され、2014年には若手経営者の会「あだちブランドyouth」を立ち上げ、小早川氏が会長に就任。地域との連携にも積極的に取り組んできた。2025年3月には2期にわたる会長職を終え、その活動に一つの節目を迎えている。

同人誌に関する知識も経験もなかったことに強いコンプレックスを抱いていたという小早川氏は、自ら同人誌を創作しコミケに参加。さらに東京製本高等技術専門校に通い、国家資格「製本技能士一級」を取得するまでに至った。こうした取り組みは、しまや出版が顧客の作品を単なる印刷物ではなく「宝物」として扱うという理念を体現するものである。

2025年3月には、解散した同業者から4名のスタッフを受け入れ、新年度の体制強化を図った。小さな印刷所ながらも、同人誌文化の一端を担いながら、「顧客に選ばれるオンリーワン企業」を目指して進化を続けるしまや出版。その熱意と柔軟な発想は、同人誌というニッチな市場においても確かな存在感を放っている。