千葉県松戸市で、市民主体の国際フェスティバル「科学と芸術の丘 2025」が10月24日に開幕した。戸定邸や松雲亭、戸定が丘歴史公園を中心会場に26日までの3日間、科学・芸術・自然が交わる創造の広場が広がる。テーマは「Delta of Creativity − 創造のΔ −」。多様な思考や感性が交差する場所として、国内外の研究者やアーティストが集結した。
今年は在日スイス大使館やオーストリア文化フォーラムなどと連携し、国際的な展示企画を展開する。メディアアート機関アルスエレクトロニカとの共同キュレーションによる展示も注目を集めている。
戸定邸エリアでは、微生物を題材にした「在日スイス大使館・科学技術部×MISAF Lab 共同プロジェクト」をはじめ、AIが記憶を再構築する《Synthetic Memories》、身体の信号で描く《Life Ink Community》など、科学技術と芸術表現が融合した作品が並ぶ。《Floral Whispers》では、花粉や蜜蝋レコードを通して気候変動と記憶を問い直す詩的な展示が展開されている。
東京大学の研究チームは、《Rats in the City(都市のネズミ)》と《Tabemaru》を出展。都市生態系や食品循環をテーマに、科学とデザインを横断する新しい視点を提示した。また、医師とアーティストが協働した《とほく おもほゆ》は医療技術と祈りを重ねた作品として、人工呼吸器の音で“いのちの呼吸”を可視化している。
フェスティバルでは、展示のほかにもワークショップ、トークイベント、街巡りスタンプラリーなど、市民と来場者がともに創造を体感できる多彩なプログラムを実施。新たに加わった松戸中央公園では、現代アートに触れる市民参加型イベントが行われている。戸定が丘歴史公園では「丘のマルシェ」が開かれ、創造と地域文化を結ぶ交流の場となっている。
共同ディレクターの岩澤哲野は「科学と芸術、自然を結ぶ多様な創造のかたちを市民の手で育てたい」と語り、同じく海野林太郎は「境界が曖昧な戸定邸の空間で、ジャンルを越えた表現の豊かさが立ち上がる」と話す。
「科学と芸術の丘」は2018年に始まり、市民による運営を続けてきた。今年は文化庁の創造拠点形成事業の助成を受け、国内外の文化機関や企業も多数連携。松戸のまち全体を舞台に、創造の“Δ”が生まれる時間が流れている。


