八王子市で、10年をかけて地域を巡る旅する芸術祭「八王子芸術祭2025」が11月8日から12月7日まで開催される。2年ごとに市内5地域をめぐる長期構想の第二ステージとなり、今回は中野・大和田・小宮・石川および周辺地域を舞台に、多彩なアートや音楽、演劇などの企画が展開される。テーマは「経(たて)の記憶に、緯(よこ)の風をとおす」。地域に息づく記憶と芸術が交わり、新たな物語が生まれることを目指している。

初日にはオープニングセレモニーが行われ、前日の11月7日には報道関係者向けのプレスツアーも予定されている。参加は先着18名で、公式サイトから申し込みが可能である。

会場の中心となる中野エリアは、織物産業で栄えた地域だ。特徴的なのこぎり屋根の工場跡や古い染色工房が残り、今も職人やクリエイターたちがその遺構を活かして活動を続けている。江戸時代から続く老舗「野口染物店」や、伝統技術を現代に受け継ぐ「岡村織物」など、長い年月を経ても息づくものづくりの文化が魅力である。藍染体験を提供した同店には、昨年ハリウッド女優アンジェリーナ・ジョリー氏も訪れた。

浅川沿いにある「萩原橋」は、明治期に製糸業を興した萩原彦七が私財を投じて架けた橋として知られる。欄干には糸車や桑の葉を模した意匠が施され、地域産業への敬意が刻まれている。芸術祭では、この地の歴史をテーマにした演劇「絹と水の懸け橋~萩原彦七の挑戦~」の上演も予定されている。

美術展では、13名の現代美術作家が地域に根ざした作品を発表する。かつての織物工場や染物工場、米店跡などが展示会場に生まれ変わる。アーティストたちは、土地の素材や記憶を取り込みながら新しい表現を試みる。音楽部門では、アーティスト永井朋生による音響彫刻「Kinon」プロジェクトが発表され、八王子の素材を用いた独自の楽器による演奏会が開かれる。演劇部門では屋根裏ハイツが手がけるワークショップや朗読上演が行われ、市民も参加できる内容となっている。

市内各地では、芸術祭と連動した「マチイロProject」「つなぐProject」も進行中である。まち歩きツアーやワークショップ、地域住民との共同制作などを通し、アートと人をつなぐ活動が展開される予定だ。また、岡村織物や島田電機製作所など地元企業と連携したオリジナルグッズも販売される。職人技が光る風呂敷や、工業部品をモチーフにしたキーホルダーなどが用意されている。

主催は八王子市と公益財団法人八王子市学園都市文化ふれあい財団。入場は無料(一部有料プログラムあり)。財団は、「地域に根づく文化の記憶を見つめ直し、未来へ風を通す試み」として来場を呼びかけている。公式サイトではプログラム情報やサポーター募集の詳細を公開中だ。

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