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福祉の現場とアートが融合する「TURN LANDプログラム」が注目を集めている。この取り組みは、福祉施設を舞台にアーティストと福祉職員が協働し、創造的な交流を育むことを目的とした共創型のアートプロジェクトである。もともとは2015年に始動した文化プログラム「TURN」から発展したもので、東京都とアーツカウンシル東京が主催した東京2020大会の文化事業として誕生し、現在はNPO法人が運営事務局として関わりながら継続的に実施されている。

このプログラムの特徴は、福祉施設にアーティストが「訪れる」形式から一歩進み、福祉職員とアーティストが対等な関係でプロジェクトを作り上げるという点にある。多忙な福祉現場において、日々施設を利用する人々との対話や関わりを通じ、双方が時間をかけて信頼関係を築きながら、創造的で多様性に富んだ空間と時間を生み出していく。単なるアートイベントではなく、日常の延長線上にある「共創の場」として根付き始めている。

2022年度から2025年度にかけては、39のプロジェクトが都内各地で展開されており、障害者福祉施設や高齢者向けのグループホーム、放課後等デイサービス、就労支援施設、子ども食堂など、多様な現場が参加している。参画施設の一覧には、浅草みらいど、大田区立池上福祉園、小茂根福祉園、はなまるほーむ浅草北などが含まれ、それぞれの施設が持つ地域性や課題に応じた独自のアプローチが試みられている。

参加するアーティストも多彩で、美術家の伊勢克也氏、音楽家のSKANK氏、ダンサーのアオキ裕キ氏、クラリネット奏者の島田明日香氏など、ジャンルも表現手法も異なるメンバーが福祉の現場に関わり、アートを媒介とした新たな関係性を築いている。利用者とアーティストが対等な立場で共に時間を過ごし、表現や活動を通じて互いに影響を与え合うこの関係性は、これまでにない価値を生み出しつつある。

アートプロジェクトの意義は、観客に作品を「見せる」ことではなく、福祉職員、利用者、地域住民を含むすべての参加者が「体験し、共に考え、対話する」プロセスにある。その過程で、自分の周囲や社会に対する視点が変わり、価値観の違いを受け入れ合う素地が育まれていく。特に、異動の多い福祉職員が新しい職場へと移っても、そこで得た柔軟な発想や他者との対話力が次の現場に引き継がれていくことは、このプログラムの波及効果として注目に値する。

プログラムの企画段階では、アーティストと施設職員、そして事務局メンバーが綿密な対話を重ねながら、施設の特性や利用者の個性に寄り添ったプランを作り上げていく。創造性は突発的に生まれるものではなく、信頼と時間を積み重ねる中で静かに醸成されていく。このような共創の場を支える「TURN LANDミーティング」では、職員やアーティストたちが集い、互いの知見を共有することで、新たな気づきとネットワークが育まれている。

非言語コミュニケーションや個性の表現を通じて生まれる「対話力」は、急速に変化する現代社会において、福祉やアートの領域を超えた学びとして注目されつつある。多様性を受け入れる柔軟な思考力や、人との違いを力に変える姿勢は、創造的な未来を築くための礎となるだろう。

こうした一連の活動の記録は、公式ウェブサイトで動画や冊子として公開されており、誰もがアクセスできる形でアーカイブ化されている。創造的な取り組みに関心がある人はもちろん、他者との違いに悩むすべての人にとっても、大きな示唆を与える内容となっている。

TURN LANDプログラムが目指すのは、誰もが尊重され、共に過ごすことのできる未来のかたちである。アートと福祉という一見異なる領域の交差点に生まれたこのプロジェクトは、社会に必要とされる本質的な対話の在り方を問いかけている。

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