4月1日には劇団ゴジゲン新作公演『朱春(すばる)』開演、9日には映画『バイプレイヤーズ 〜もしも100人の名脇役が映画を作ったら〜』公開、5月12日には映画『くれなずめ』(成田凌主演)公開と、次々と作品を手がける松居大悟監督。さまざまな分野を横断しながら活躍する松居さんからは、「ものづくりはすべて繋がっている」というクリエイターとしての考え方が伺えます。

映画やドラマや演劇の違いと共通点とは? 自分がつくりたいものを、自由につくるためには? 松居さんがはにかみながら、ずっと相手の目を見て丁寧に話す姿勢から、どの現場にもどのジャンルにも、フラットに向き合っている姿勢を感じました。

松居 大悟(まつい だいご)
劇団ゴジゲン主宰/映画監督
1985年11月2日生まれ、福岡県出身。 2008年、慶應義塾大学在学中にゴジゲンを結成。映画監督としても活動中。主な作品に映画『アズミ・ハルコは行方不明』『私たちのハァハァ』『君が君で君だ』、TVドラマ『バイプレイヤーズ』シリーズなど。2011年よりConfetti「女性が好きな心理テスト~今宵あなたを癒さない~」、2020年よりar「松居大悟の三大欲求の向こう側」連載中。2021年1月に監督するドラマ・映画『バイプレイヤーズ』新シリーズがスタート。2021年4月映画『バイプレイヤーズ〜もしも100人の名脇役が映画を作ったら〜』と2021年5月『くれなずめ』が公開。4月1日より劇団ゴジゲン公演『朱春(すばる)』を上演予定。

ジャンルをまたぐことで手に入れた、自分の武器

──映像に限らずさまざまな作品を手がけられていますが、商業デビューは2012年に監督した『アフロ田中』(松田翔太主演)ですよね。

松居大悟監督作品・映画『アフロ田中』
▲映画アフロ田中

初めて監督した商業映画ですね。それまでは大学の演劇サークルに入っていたんですが、「演劇だけじゃ飯は食えないかも」と自主映画を撮ったりもしていました。サークルを卒業する時に劇団ゴジゲンを旗上げして、男達がぶつかり合うような物語ばかりやっていたら“童貞芝居”と言われるようになって……それを面白がってくれた映画会社のプロデューサーに「監督をやってみませんか」と声をかけてもらったんです。だから、映画の撮り方はまったくの独学で。映画は大好きだったけど、撮影現場の動きとか、どういう工程で映画ができあがっていくかはわからなくて、かなり苦戦しました。。

この『アフロ田中』がヒットしたんです。それまでは脚本家としても仕事をしていて、企画をいっぱい出しては落ちてを繰り返しながらギリギリでやっていたんですが、『アフロ田中』公開後はいろんな依頼をいただけるようになりました。「これがヒットか!」と思いましたね。

でも当時は壁にぶち当たっていて……劇団で売れたかったんですけど、うまくいかなくて休止しちゃったんです。演劇のこと考えるのが辛くて、映像に打ち込んでいきました。その時にクリープハイプというバンドに出会い、ミュージックビデオを撮るようになって、活動が広がっていきました。

──活動は映画、ドラマ、ミュージックビデオ、演劇、小説など幅広いですが、それぞれすみ分けているんですか?

最初は、僕の中でわけていたんですよ。映画は映画の顔、劇団は劇団の顔、ドラマはドラマの顔として、混同させないようにしていた。劇団員を映像の現場には呼ばないし、映画のスタッフを舞台に連れていくこともない。たぶん恥ずかしかったからなんですけど、ラインを引いていたんです。この垣根が無くなって「どれが一番なんですか?」って言われたら混乱しちゃう、と思っていました。

このジャンルの垣根が無くなったのは、『アイスと雨音』(2018年監督・脚本)からですね。

映画『アイスと雨音』で作品ジャンルを越境
▲映画『アイスと雨音』

物語は、予定していた舞台が中止になったという実際の状況を下にしていますが、この撮影で、舞台の美術スタッフや映画の撮影スタッフや劇団員が全部混ざっちゃった。それで「もう全部が芸術でいいじゃん」ってもう開き直ったのかもしれないです。

──ジャンルをまたいだとはいえ、それぞれに違いは感じていますか?

表現や取り組み方の違いはありますね。
映画は、純粋に面白いと思うものを突き詰めていく場所。面白いものを作るために悩んだり考えたりして、うまくいくまで何度でも撮りなおします。

ドラマは、限られた時間と条件のなかで作らなければいけないので、瞬発力と、作品を成立させる力が重要な気がします。
撮影と同時進行で脚本を開発して映像を編集して、放送して、テレビ局や視聴者の声を聞きながら組み立てていく。撮影も3ヶ月と長いので、関わるみんなが毎日いかに健全に気持ちよく笑顔で仕事できるかを大事にしています。たとえ俳優が他の仕事で突然撮影に来られなくなっても、逆に燃えます。「このシーンはもう1回やったら絶対面白くなる」って思うこともあるけど、それよりももう1テイク撮るために時間を割くことによって撮れなくなるシーンのせいで、ドラマ全体の面白さが減ってしまうことの方が恐ろしい。その時できる一番面白いものを撮ることが大事。とにかく体力がいる場所です。

ミュージックビデオ(MV)は、実は、僕に一番向いている気がします。僕はジャンルに限らず「良い画(え)」を作りたいんですが、MVは音楽の強さが絶対にブレないので、ちょっとストーリーが破綻してつじつまが合わなくても、良い画(え)を組み立てていけばいい。

──画(え)をつくる、とは?

たとえば、新作映画『くれなずめ』(2021年4月)には友達との思い出のシーンがたくさん出てきます。
思い出って大事なエピソードじゃなくて、どうでもいい瞬間ばっかり思い出すような気がして。アイツが持ってた日本酒のお猪口の手元とか、あの時食べたヨックモックの味とか……そういう画(え)を撮りたいし、それができれば回想シーンがうまく表現できるなと思いました。

「あいつの持っていたお猪口」のシーン
▲映画『くれなずめ』仙台の居酒屋の回想シーンより。
劇団を主宰する欽一(高良健吾)は、舞台出演依頼のためサラリーマンとして仙台に赴任した吉雄(成田凌)を訪ねる。

というのも、もともと『くれなずめ』は映画にするつもりはなかったんです。劇団で上演するために書いた演劇だったし、もう会えない友人との個人的な思い出を描いたものだったので、広く伝わるように作っていなかった。だからプロデューサーから「映画にしませんか?」と声をかけていただいた時もピンとこなかった。でも、演劇は生身の体なのでどうしても一瞬一瞬を切り取ることができなかったけど、映画なら印象的な画(え)のカットを並べた回想シーンができる。「映像ならではの表現ができるな」と気づいた瞬間、いける気がしました。

こういうことは、僕が映像だけを撮っていたら考えられないし、演劇だけつくっていたら思いつかなかった。両方やっているからこそ、両方の芸術を信じられるようになって、それぞれの見せ方をコントロールできてきた気がします。これを自覚的にやってる同世代が出てこないことを祈るばかりです。

媒体に合わせて描くのではなく、描きたいことに合わせて媒体を選んでいる

──映像や舞台のそれぞれの特性を意識しているから、使い分けができるということでしょうか?
松居大悟監督
そんな大層なものではないですが、映画、演劇、ドラマ、MV、小説……それぞれ特徴があるので、そこでしかできないものを作ろうとはしています。でも「映画でしかできないことって、きっとこういうことだろうな」と分かるとそれをやりたくなくなっちゃうんですよね。(笑)

基本的には、映画とか演劇ということに固執せず、描きたいものをやるのに一番良い手段で取り組んでいるだけで。小説『またね家族』を書いたのも、自分の家族を物語にしたいと思った時に、演劇や映像だと多くの人と考えを共有しないといけないから一人で作れる小説という手段をとったんです。「これが描きたい」と思ったことにミュージカルが合っていたらミュージカルをやるだろうし。

──松居さんが描こうとしていることは、どの作品も共通しているようにも見えます。

そうですね。20代の時はずっと、思春期で日の当たらない奴らの物語ばかりつくっていました。自分の暗くてダサかった中高時代を肯定したかったんですよね。

いわゆる学園ドラマとか、ヤンキー同士の対決とか、カッコいい人とキレイな人が恋をするというものには自分の学生時代が無い。でも僕は、クラスの隅にいたけど楽しかったし、悔しいこともあったけど、その時間にも価値があるはずで。俺達だってドキドキしたり落ち込んだり楽しかったんだぞ、って言いたかったんですよね。

30代からは変化して「まだ言語化されてない感情を映画館や劇場で体験してもらいたい」というのがテーマのひとつになりました。

──新作映画『くれなずめ』の場合は、なにを描きたいという想いだったのですか?

なにも無かったんですよ。もう会えなくなった僕の友達への手紙を書きたかっただけですから。映画で成田凌君が演じている吉尾(よしお)のモデルになった友達に「俺の中でお前は生きてるけど」って言っているだけの、ただの手紙なんです。

松居大悟流・やりたいことを仕事にするには

──ジャンルを越えて活動するには、周りの理解も必要だと思います。どんなふうにコミュニケーションをとっているんですか?

松居大悟監督

ポイントは2つあって、ひとつは、皆で考えること。
役者もスタッフも作業になってほしくないから、なるべくみんなの意見を聞きたい。この人が関わったからこんな作品ができた、というふうにしたいんです。
そのためにいろんな意見を聞くし、なんなら「僕はノープランだ」という雰囲気を出してみんなからアイデアをもらうようにしています(笑)

もうひとつは、やりたいことをやる。
20代ぐらいは名前の出ない仕事を請け負って、そのなかで自分がやるべきことをやろうとしていました。でも、その作品を見て依頼される仕事って、お金をもらって器用にやるべきものが多い。苦しみながらもやりたいことをやるようになったら、30代にはやりたい話がくるようになってきました。

きっと、誰でも一度は、仕事としてやるべきことをやらなきゃいけないしんどい時期がくる気がします。でもそれをずっとやっていたら似たような仕事しかこないから、やりたいことを小出しにするか、絶対にぶれない自分の場所を作っちゃうのがいいです。

僕にとっては、それが劇団ゴジゲンでした。戻ってくる場所があるから、ミスを怖がることなく、やりたい事を思いきりできる。それでうまくいったら最高だし、うまくいかなかったら「失敗しました」と劇団に戻ります(笑)

──劇団という安心する場所があるから、それ以外の仕事に全力で臨めるんですね。

そう。僕にとって劇団は、ものすごく大事な“居場所”なんです。しかも、ちょうどいいバランスで僕の片思いなんですよ。

最近YouTubeを劇団で始めて、僕はメンバーの面白いところをもっと伝えたいなという思いで配信しているんです。でもみんなは「そんなことしなくていいよ」と。僕が「やろうよ!」と無理を言って、みんなが嫌々やってる状態ですが、それがきっと良いバランスです。もしみんなが「ゴジゲン最高!」って言い出したらちょっと気持ち悪い。(笑)

──自分の居場所や、仕事のスタンスを確立するためには、どうすればいいと思いますか?

もし「俺はこういう演劇がやりたいんだ!」というものがあるならずっと演劇を頑張るのも良いですが、いろんな芸術にたくさん触れた方がひとつひとつが豊かになると思います。
たとえば写真から映画のヒントを受けることもあるし、音楽から演劇のヒントを受けることもある。

それに、やってみないと自分になにが向いてるかはわからない。僕が最初に演劇をはじめた時も、演劇が面白かったのか、その物語が面白かったのか、役者が良かったのか、よくわかっていませんでした。だからとりあえず演劇をやってみて、そこから映像へと幅が広がっていきましたから。

──ありがとうございます。

インタビュー・テキスト:河野 桃子/撮影:SYN.PRODUCT/企画・編集:澤田 萌里(CREATIVE VILLAGE編集部)

映画『くれなずめ』公開のお知らせ(2021年4月現在)

松居大悟監督の新作映画『くれなずめ』
映画『くれなずめ』オフィシャルサイトより
映画『くれなずめ』オフィシャルサイトより>

泣きたいのに笑えて、笑いたいのに泣ける。“狭間”の時間に起こる奇跡─

優柔不断だが心優しい吉尾(成田凌)、劇団を主宰する欽一(高良健吾)と役者の明石(若葉竜也)、既婚者となったソース(浜野謙太)、会社員で後輩気質の大成(藤原季節)、唯一地元に残ってネジ工場で働くネジ(目次立樹)、高校時代の帰宅部仲間がアラサーを迎えた今、久しぶりに友人の結婚式で再会した! 満を辞して用意した余興はかつて文化祭で披露した赤フンダンス。赤いフンドシ一丁で踊る。恥ずかしい。でも新郎新婦のために一世一代のダンスを踊ってみせよう!!
そして迎えた披露宴。…終わった…だだスベりで終わった。こんな気持ちのまま、二次会までは3時間。長い、長すぎる。そして誰からともなく、学生時代に思いをはせる。でも思い出すのは、しょーもないことばかり。
「それにしても吉尾、お前ほんとに変わってねーよな
   なんでそんなに変わらねーんだ?まいっか、どうでも。」
そう、僕らは認めなかった、ある日突然、友人が死んだことを─。

\2021年5月12日(水)全国公開/

▼映画『くれなずめ』公式Twitter (@kurenazume)
https://twitter.com/kurenazume