「ゲーム事業」「キュレーションプラットフォーム」を始めとし、現在は「自動車関連事業」「ヘルスケア事業」などさまざまな事業展開をしている、株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)。現在、DeNAの新規事業のUI・UXデザイナーとして活躍されている和波里翠さんに、ご自身のライフワークとして取り組まれているグラフィックレコーディングの魅力やクリエイターに求められることなど、お話を伺いました。

 

■ 自分に向いているかどうかを考えるより、やってみた方が早い

モネやルノアールの絵画を模写したり書道を習ったり、幼い頃から集中して何かを描いたり作ることが好きでした。小学校の頃は漫画家や小説家に憧れて、作品を作ってみたのですが、想像以上にハードな世界だと幼いなりに感じました。

その頃、授業外の時間でも図工の先生にお世話になっていて、夜遅くまで作品制作をさせていただいたり、展覧会の空間プロデュースを任せてもらったりしていました。先生とは、作品日記と題した交換日記のやりとりをしていたのですが、「作品の工夫点や表現したいことは何か」といった意見交換を重ねることにより、デザインについて追求するクセがつき、それを人に伝えるためにはどうしたらいいかを意識するようになりました。

また、その頃PhotoshopやIllustratorを使うようになると、デジタルで制作できる幅が広いことに感動しました。また、ペンタブレットを持っている友人の家で絵チャットをしていて、知らない方から自分の絵にコメントをもらえることに楽しさも覚えました。

自分も「図工の先生になりたい」と考えていたので、教育免許が取得できる大学に進学しました。そこでは、専攻していた情報デザインの授業以外にも、脳科学や工学部などの授業に参加したり、Flashでミニゲームを作ったり、さらにはPremiere ProやAfter Effectsを使って動画制作をしたり、Mayaで3Dモデリングをしたりと、様々な技術に触れました。

個人的な活動としては、地域イベントの企画運営のボランティアをしたり、音楽ライブの会場で映像のスイッチャーを担当したり。また、数学の塾講師をしたり、東京マラソンを完走したり(笑)。とにかく幅広く活動していました。
自分には何が向いているかを考えるよりも、まずは何でもやってしまった方が手っ取り早いと思ったんです。その結果、目に見えない課題を解決しながら、人と一緒にものづくりができるデザイナーが面白そうだと考えました。

 

■ ラッピングだけではなく、プレゼントそのものを作る人になりたい

大学3年の頃にmixiでインターンをさせていただいたのですが、サービス企画の業務に関わることで、誰かのアイデアの元に作られたものが人に使われて、その反応が見られる、その一連の流れに興味を持ちました。

ある時、チームメンバーと話し合いをしていた際に気付いたことがありました。それは、“共通言語”といわれるものが人によってあまりにも違うことです。専門分野が違うだけで同じ日本語でも言葉の定義や捉え方が異なり、通じ合えないんです。そこで、試しに話し合いの内容を絵やメモで書き表してみたら、情報の共有や意思疎通がしやすくなり、そこからいいアイデアもたくさん生まれました。

大学卒業後、デジタルガレージに入社して最初に携わった広告の仕事を街中で見つけた時、自分がデザインを手掛けたものが初めて世の中に出たことが嬉しくて、こっそり写真を撮りました(笑)。 その後、大手メーカーやIT企業などのブランディングからWebサイト・アプリ制作、パッケージデザインなど幅広く担当することになり、当時はデザイナーとしてやりがいを感じていました。

ただ、クライアントにはいいデザインだと褒めてもらえても、エンドユーザーは喜んでいるのか。デザインを通して、自分の想いが両者に届いているのか分からない状態が、次第にもどかしくなっていきました。
例えるなら、プレゼントというのはラッピングされて贈るものですよね。私はプレゼントのラッピングではなく、プレゼントそのものを作る人になりたいと思ったんです。

プレゼントには、想いのこもった中身があるからこそ、ラッピングというパッケージが必要になることと同じで、サービスがあるからこそ、ブランディングというコーポレート・アイデンティティとなるデザインが必要になる。でも今の自分は、そのラッピング部分しかできていない。そうであれば、プレゼントの中身まで全部に携わることができる仕事がしたいと思い、転職を決意しました。

他の企業からも内定をいただきましたが、その中でもDeNAは幅広い事業展開をしていて、様々なことにチャレンジできるチャンスが多そうだと感じました。また、新規事業にも積極的に取り組んでいるので、この会社で新しいことに挑戦したいと思いました。

 

■ 想いを可視化する、グラフィックレコーディング

小学生の頃から、授業ノートに絵や図を用いてゆるくまとめていました。例えば歴史の授業の場合、4コマ漫画を描いたり相互関係を図解してみたり。当時は、この役立て方が分からなかったのですが、社会に出てからも、人と話す場でこの手法を続けていました。

いつも長時間になるミーティングで、手描きのスケッチや図式を使ってリアルタイムに会話を可視化したら、話が早くまとまったことがありました。その時、「もしかしたらこの手法は役に立つのではないか」と。人の想いの橋渡しに使えるかもしれないと思い始めました。

ある時、シビックテック活動団体でインフォグラフィックス制作をされている方に自分のスケッチブックを見せる機会があったのですが、このような議論を可視化する手法について海外では、“グラフィックレコーディング”と呼ばれていることを、この時はじめて聞きました。それまでは、名前すら知りませんでした(笑)。

現在は、社外でもグラフィックレコーディングの活動をしていますが、業界を超えて、情報や想いの共有が当たり前の世の中になってほしいという想いがあるからです。
今後は共創やシビックテック、オープンイノベーションといったコラボレーションが重要になってくる時代だと考えているので、コミュニケーションを可視化して共有することにより、新しい発見やものづくりに繋がるのではないでしょうか。

国や文化が異なる中で、価値観を共有することは難しい。そうなった時に、指標となるものが曖昧な言葉よりも、万国共通であるグラフィックなのではないかと思うんです。グラフィックレコーディングは、 そういった場でハブのような存在になれる可能性があると感じるので、一人でも多くの方にグラフィックレコーディングを知ってもらい、活用してもらえたら嬉しいです。

 

■ 物事は、見る視点によって全く異なってくる

デザインの仕事において大切にしていることは、「デザインとは何だろう」と、ひたすら考え続けることです。デザインという言葉の意味が幅広くなっている時代だからこそ、それが何なのかということを常に迷い、考えながらも動く。わからないからこそ、私はデザインの仕事を続けているんです(笑)。

そして、何事においても決めつけないことが大切だと思います。物事は、見る視点によって全く異なってくる。例えば円錐も、真横から見ると三角形で、真上から見ると円で、斜めから見てようやく円錐だと分かりますよね。どの分野においても「これは、こういうものだ」と決めつけないで、まず人の意見を聞き、足を運んで体験するようにしています。

 

■ コミュニケーションが生み出す、ものづくり

クリエイティブというと、どうしても一人の人間やひとつの企業に注目しがちですが、一人でできることは限られていて、誰かと協力するからこそ、ものづくりができるんです。
自分がパッケージデザインを手掛けても、そのパッケージが工場で刷られなければ形になりません。また、それをお店へ売り込む営業の方、お店の販売スタッフの方がいないと、商品はお客さんまで届かない。ですから、「クリエイティブな仕事は一人で完結するものではない」と思っています。

また、自分でもよく痛感していることですが、好きなことが自分に向いているとは限らないんです。それを知るためには、常に外に向けて何かしらの表現をすること。人からフィードバックを受けることで見えてくることがたくさんあるので、自分に向いていることを知るためにも、表現し続けることが大切だと思っています。

 

■ 議論の場にイノベーションを起こしたい

grareco_A2会議は大抵の方が堅苦しく捉えている傾向があって、議事録と聞いた瞬間に見る気を失いますよね(笑)。せっかく一人一人が違う意見を持っているのに、会議ではそれぞれの意思の共有ができていない気がするんですよ。
あらゆる意見に耳を傾け、共創していくためにも、グラフィックレコーディングによって会議をはじめとした議論の場にイノベーションを起こしたいと考えています。

そして、社外活動をさせてもらえることにより、外から吸収できることもたくさんあるので、学んだことは社内に持ち帰って役立てたいです。自らが橋となり、外とDeNAを繋げられたらいいなと思いますし、どんなところでも橋渡し役になれたら嬉しい。
それぞれの想いが共有できて繋がることで、もっと面白いものがどんどん生まれていくと思うんです。A+Bは、何になるか分からない世の中だから、そこを築く“、プラス”の人になりたいです。


■株式会社ディー・エヌ・エー

DeNAは、ゲームを主力事業としつつ、eコマースやエンターテインメント、トラベル、ヘルスケア、ライフスタイル、オートモーティブなどの様々な領域で、モバイル端末向けを中心としたインターネットサービスを提供している東証一部上場企業(2432)です。1999年にPC向けのオークションサイトを運営するベンチャー企業として東京で創業されて以来、DeNAは、ひとつの事業領域にこだわることなく、次々と時代を切り拓く新しいインターネットサービスを生み出すことで進化を遂げてきました。特に、モバイル端末向けのゲームは大きな成長エンジンとなり、現在では世界中で約2,000人以上の従業員がDeNAグループで働いています。また、DeNAはプロ野球チームと陸上チームを所有しており、スポーツの領域でもその名を知られています。
http://dena.com/jp/