テレビやネット、電車や街角などでも目にする“CM”。私たちの生活にはたくさんの広告が溢れています。その目的は「商品を売る」ことですが、ひとつの映像作品としての個性やクリエイティビティに魅入ってしまうことも多いのではないでしょうか。
30秒ほどの短い時間のなかに込められたたくさんのクリエイターの感性や技術。それを束ねるCM監督は人気の職業であり続けています。近年になるほど女性監督も増えており、今回は、最前線で活躍されている女性同世代監督3名(写真左から鈴木さん、朝日さん、箱田さん)が揃いました。CM業界で働くこととは……私たちに届くまでに込められた“CM愛”に溢れた座談会が実現しました。

鈴木 わかな(すずき・わかな)
2008年、東京藝術大学大学院油画科卒業後、電通テック企画演出部へ入社(現電通クリエーティブX企画演出部)。2017年よりGORILLA所属。
受賞歴/アドフェスト2014 フィルムクラフトブロンズ、映文連2014アワード準グランプリ、ACC CM FESTIVAL2018 フィルム部門シルバーなど。近年の作品は、「サントリー/グリーンダカラ やさしい麦茶/見つけた篇」「大和ハウス/D-room/夫の心配篇」「午後の紅茶/ザ・マイスターズミルクティー/深田恭子裏切られた篇」「マイナビ/マイナビ転職/恩返し篇」など。


朝日 恵里(あさひ・えり)
2006年、金城学院大学情報文化学部卒業後、THE DIRECTORS FARMに所属。2013年、THE DIRECTORS GUILDに。2018年より伊達事務所に所属。
受賞歴/2013年ACCゴールド「三井不動産リアルティ/三井のリハウス/みんなの声鉛筆-はじめての相続 他」、2014年ACCブロンズ「EMI Records/味噌汁’s/モザイク」。ほか近年の作品は「ほけんの窓口「うたた寝」篇ほか」「ロコンド「子ども」「店員さん」篇ほか」「グリコ アーモンドピーク「マイクロズボラ」篇」「JapanTaxi 「スマートな上司」篇」 「食べログ「食べログる彼女」篇」「薬用 ビューネ「おとなビューネ」「熱血ビューネ」篇ほか」など。


箱田 優子(はこた・ゆうこ)
2005年、東京藝術大学美術学部絵画科を卒業後、葵プロモーション(現AOI Pro.)に入社、企画演出部に配属。CMディレクターとして数多くのCMを演出し、2014年よりCluB_A所属。
長編初監督作となる映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』が、2019年10月11日より公開予定。
https://club-a.aoi-pro.com/creators/166/

苦労を知っているから、CMで商品を好きになってほしい

――それぞれみなさんのCMはよくテレビで目にするものばかりです。どんなことを心がけて制作されているのか、CM制作のお仕事とは?

箱田 難しいなぁ……まず、CMは広告だから、最終的なゴールは「モノが売れること」なので、扱った商品がすごく売れると充実感があります。また成果とは別に、CM映像をつくるのは、楽しいし、やりがいがありますね。CMは自分一人で作るものじゃなく、役者やカメラマンや技術部の職人さん…いろんな人が関わっているので、思い通りにはならない。でも、自分が想定していたよりも面白いものができる。毎回撮影が終わると「みんな最高だぜ!ハッピー!」と叫んで帰ります(笑)

朝日 そんな感じなんですか?今回はうまくいかないという時はないんですか?

箱田 現場で解決する。解決できてないかもしれないけど、私が不安そうだとみんなも不安になるから、解決したように振る舞います。関わったみんなに「監督が言うなら最高なんだ」という気持ちになってほしいんですよ。
むしろ2人はどんな感じなの?

箱田さん監督作品

鈴木 もっと“おばあちゃんぽい”かも。「ありがとうね〜。私がこまごま描いたものを、みなさん一緒に形にしてくれてありがたや〜」みたいな感じです。もともとモノづくりが好きで、それが仕事になっているだけでありがたいです。「このCMはこうなったらいいな」というイメージをみんなでアイデアを出しながら一緒につくっていく、、夢みたいです。

朝日 私は現場でというより、オンエアされたCMを見てやっと「ああ、良かったなぁ」と実感します。家で一人で「なかなか良いじゃん」って満足を噛み締めます。

――CMづくりに大事なことは?

鈴木 必ず『好きになってもらえるポイント』を考えてから、演出コンテというCMの設計図を描きます。そのために商品のこと、出演される方のことを結構調べます。私たちがCM制作にかける時間は1、2ヵ月くらいだけど、商品は発売されるまでに長い年月と試行錯誤の元にここまできているので「こんなに手をかけられてきたんだから、みんなに好きになってほしい!」「好かれろー!」という想いで送り出してます。

鈴木さん監督作品

朝日 商品が売れるように頑張りたくなりますよね!あと、プランナーさんから「今のCMプランだと味気ないから、朝日さんが撮る時にクスっと笑えるようにしてほしいな」のように、求められた自分の持ち味を大事にしています。

朝日さん監督作品

箱田 私も「◯◯さんにお願いします」と求められたことに対しては、具体的な提案ができるように考え尽くしてます。とくにCM制作にはたくさんの人が関わっていて、それぞれが違うことを気にかけているからこそ、演出が現場を具体的に進めていかなければいけない。それらのバランスをとるのは難しいけど、面白さでもありますね。みんなが「それは良さそうだ!」と思える答えを考えて提示するのが監督の役割だと思います。
最終的には、関わる全員が「最高だぜ!」と思えるCMをつくりたいです。

――監督として、現場ではどういう居方(いかた)を心がけていますか?

鈴木 初めて会う方だと監督だと思われない場合が多いです(笑) 多分みなさんが想像する「監督」って年齢が高くてどっしりしてる人みたいな感じなのか、初めのご挨拶の際に「本日の監督さんはどちらに……?」と探されることが多いんですよ。なので自分から先に「ハイ!監督です」と手を挙げるようにしています。一度、メイキングのカメラさんに「あんまり入らないでください」って注意されたことがあるんですよ。現場の中心に入って来ちゃった近くの人だと思われたみたい(笑)

箱田 わかる!私も監督だと思われなくて「空調下げてください」って言われたことある(笑)“女性あるある”かもね。特に監督という仕事に女性が珍しいわけではないけど、イメージがあるのかな。むしろ下の世代になるほど女性の監督は多い印象です。

朝日 私は助監(助監督)さんに任せて、あまり前に出ないです。箱田さんは現場でも元気そうですね。

箱田 さすがにシリアスな現場は静かですけどね(笑)現場によって態度を変えるのも大事だから、CM初出演の子役さんがいる時には、緊張しないように和やかモードになって、ピリピリした方が良さそうな時は「こんなのじゃダメ」とキツい言葉を使っています。どちらにしても、できるだけ正直に言う。うまくいっていない時は「うまくいってません!」とハッキリ言います。どうせ顔に出るし、監督が何を考えているか伝わった方が話が早いですしね。

――現場のチームが大事だと思いますが、スタッフはどのように決めていますか?

箱田 メンバー選びは監督のとても重要な仕事。信頼できる人や、一緒にやりたいなと思う人を作風に合わせて選んでいます。

鈴木 慣れた方だけでなく、新しい方にもよくお声がけしますね。CMや映画やいろんなメディアを見て「この人とやってみたいな」と思っていた方に合う企画がきた時に依頼をします。チームづくりはかなり重要な監督の仕事と言ってもよいかもしれないです。

今はCM業界への間口が広がっているのでは?

――どうしてCM業界に入ったんですか?

鈴木 大学の授業に広告プロダクションの方が来たことがきっかけで興味を持って、CM資料を整理するアルバイトを始めました。一日100本のCMを見て分類していくんですが、そのうち「これ面白そう」「これがなぜ好きなのか」とCMオタクになってきた(笑)私はとくにディテールが気になるタイプだからCMディレクターになりたいなと思ってCMの演出部のある電通テックに就職しました。

箱田 私は「面白そうだな」という興味からですね。とはいえ広告会社と広告制作会社の違いもわからないほど知識ゼロ。ある広告会社の面接で「あなたは作ることが好きみたいだからディレクターを目指すといいんじゃないかな。でも、ここ(広告会社)じゃなれないよ」と教えてもらって、葵プロモーション(現AOI Pro.)に入社しました。

朝日 いやいや、2人とも軽く言ってますけど、相当な難関企業ですよ!?憧れの職業で、なかなか入れないはずなんですよ!私はまったく違っていて、子どもの頃からCMが好きでつくりたかったんですが、就活ではことごとく落ちてしまいました。

そんな時に雑誌『広告批評』の裏に“THE DIRECTORS GUILD(ディレクターズギルド=映像全般の演出を手がける映像ディレクター集団)”が「やる気がある人、誰でもOK」という太っぱらな募集を出していたので、応募しました。当時はとても画期的な募集だったと思います。今はYouTubeみたいに自分の映像作品を発表できる場所もあるので、入り口が広がっていそうですよね。

箱田 そうだね。でも入社してから気づいたけど、就職活動をせずに現場にいる人も多いですよね。バイトから続けているとか、まったく違う部署から異動してきたとか。だからCM業界を目指したいなら、実はいろんな方法があったんだなと後から知りました。

――知識がないまま、どうやってキャリアを積んでいったんですか?

朝日 先輩について『見て学べ』でしたね。自分で役割をみつけられなかったり、何をしても失敗ばかりだし、「逃げたい」と思いながらなんとか過ごしていました。最初はすごく辛かったけど、経験を積んでいるうちに仕事を手伝わせてもらえるようになってからやっと面白くなってきましたね。

箱田 当時はCM業界に限らず、やる気と気力と考えるパワーがあれば雇ってもらえる豊かな時代だったんだと思います。でも今は厳しくなって、映像スキルがある方が採用されやすい。今また就活しても受かる気がしないです。

――これをやっておけばよかったとか、これをしていたことで助かったといった経験はありますか?

箱田 ちょっとだけ後悔しているのは、英語ですね。スタッフやクライアントに海外の方がいることが増えてきたし、広告以外の仕事もやると英語が飛び交うことがあるんですよ。話せなくても仕事はできるけど、直接自分の言葉で話せた方がスムーズだよなぁと思います。

鈴木 モノを作るにはあまり落ち込まないことが大事。私は浪人時代に毎日絵を描いては批評され、「ダメ」「もっと描け」という先生とスポ根っぽいことを繰り返していました。おかげで平常心というか、一喜一憂しなくなって、問題があった時「じゃあどうすればいいかな」と前向きに考えられるようになれたのは今とても良い影響です。先生に感謝ですね。

「CMが好き」。それが一番大事

――CMの仕事には、どういう人が向いていると思いますか?

箱田 CMが好きな人!これは絶対です!どんなに技術がなくても「あの人はCMがものすごく好きだよな」と思える人のことは、絶対にだれかが助けてくれます。

朝日 CMが好きで、楽しそうにやってくれていると一緒に働きたいですよね。

箱田 つくった映像にもあらわれるしね!

鈴木 CMつくってる方にCM好きじゃないと言われたら悲しくなっちゃう、、

箱田 なかには、最初は好きだったかもしれないのにそうじゃなくなってしまう人もいます。忙しくて頭が回らなくなって「私って何が楽しかったんだっけ?」と思ってしまう。私もたまにあるけど、一度落ち着いてみると「やっぱり好きかも!」と初心に帰る。

――そんなに忙しいんですか?

箱田 多少は忙しいけど、仕事に慣れてくると無理し過ぎない方が効率が良いことに気付くんですよね。長く机に向かってても良いことないし、夜は寝て朝に集中した方が早く終わる。

鈴木 絶対に朝日を撮影しなきゃいけないみたいな場合以外は、自分でスケジュールを調整できますから、そこまで不規則にもならないですよね。

箱田 ちなみにスケジュールのコツがあって、たとえば試写や打ち合せを午前中に設定すれば、みんなの頭がクリアな状態で判断できるので揉めない。午後に別の予定を入れている人も多いから延長することもないし、みんなハッピー。

朝日 それいい。私もやろう!

――この仕事を続けていく上で、今後のキャリアイメージは?

鈴木 先のプランはないんですよ。目の前のことを一生懸命頑張ることで、前に進んでいってる。そういう性格なのかも。

朝日 私も今いただいている仕事をがむしゃらにやって、もっと軌道に乗せたい。「これを朝日さんにお願いしたい」と言われる存在になるために、とにかくたくさん手がけたいです。あと……これまでの作品とは違うテイストのものもやりたいですね。イケメンをかっこよく描いたり、女の子がキュンとするようなCMもやってみたいです。

箱田 いいね、そうやって言葉にすると叶うよ!私も「誰々に会いたい!」と言い続けていたら、実現しました。誰が聞いてるかわからないし、やりたいことは発信すればだいたい叶うんですよ。「映画撮ります」と言っていたらこの秋に映画が公開になりますし、「ものを書きたいんです」と言っていてたら「書く仕事はどうですか?」と声をかけていただいた。そうやってジャンルに限らずいろいろやっているとCMの仕事にも活かせる引出しが増えるので、ちょっとでも興味のあることは「やりたい」と言っています。

鈴木 いいですね。言葉にするのは大事ですね。

朝日 やっぱり言葉にするのは大事なんですねぇ。同じ事いいいますけど。(笑)

企画協力:Beyond/インタビュー・テキスト:河野 桃子/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:CREATIVE VILLAGE編集部