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捨てられてしまうものへの好奇心が、驚きと感動の扉を開く―段ボールアーティスト 島津冬樹さん

2019/01/07

日本では今やリサイクルが日常生活の中で当たり前として定着している中、段ボールアーティスト島津冬樹さんが発表した「段ボール財布」が、価値のないものから価値のあるものへと生まれ変わらせリサイクルの先を行く概念“アップサイクル”(※)であるとして注目されました。そして2018年12月には、その活動をドキュメンタリー化した映画『旅するダンボール』も公開され、話題に。
そんな島津さんの段ボールへの向き合い方、そしてそこから生まれる深いインサイトは、目的を果たしたら捨てられてしまうモノに新たな息吹を吹きこみ、現代の日本人が忘れかけてしまった“モノを大切にする心、愛おしむ気持ち”を掻き立てるものでした。

美術館での作品展示や、ワークショップを通じて、人々に気づきを与え、心を動かす島津さんに、段ボールへの想いやエピソードをインタビュー。数々のエピソードは、段ボールをめぐる“旅と回想”へ誘います。
※「アップサイクル」とは、サスティナブル(持続可能)なものづくりの新たな方法論の一つ。 従来から行なわれてきたリサイクル(再循環)とは異なり、単なる素材の原料化、その再利用ではなく、元の製品よりも次元・価値の高いモノを生み出すことを、最終的な目的とする。
出典:アップサイクル | 現代美術用語辞典ver.2.0 – Artscape

段ボールアーティスト 島津 冬樹(しまづ・ふゆき)
1987年、神奈川県生まれ。2012 年多摩美術大学情報デザイン学科卒業。 2015年、広告代理店を経てアーティストへ。 2009年より路上や店先で放置されている段ボールから、財布を作る”Carton”をスタート。現在では国内外での展示やワークショップを開催している。また日本のみならず、世界30カ国を周り段ボールを集め、コレクションしている。
【公式サイト】
http://carton-f.com/

偶然作った段ボール財布から素材の魅力にはまる

――島津さんは段ボール製の財布で一躍注目を浴びましたよね。段ボールに印刷されたロゴやデザインをうまく生かした、素材が段ボールとは思えないオシャレさが魅力だと思いますが、そもそもこれを作ろうと思ったきっかけは何ですか?

将来アートディレクターになろうと思い、美大に通っていました。その頃に段ボールのデザインに興味を持ち始めて、グラフィックが気に入ったものは拾って集めていたんです。
ある時ふと、使っていた財布がボロボロになっていたことに気づき、買い替えたいなと思ったんだけどお金がなくて。その時にふっと段ボールが目に入ってきて、「あ、とりあえずこれで財布作ろうかな」と思いついたのが始まりです。
作ってみたら思いのほか良く出来たので、学校祭でフリーマーケットを開いて売ったりもしました。

――新卒で広告代理店に就職されましたが、そんな活動を学生時代に経験しながら、なぜ、段ボールを扱う活動や仕事ではなく広告の道を選んだのですか?

就職活動を迎えたころには、実は広告よりも段ボールのほうに関心があって。段ボールで活動していきたいと思い、後押しが欲しくて先生に相談しました。するといわれた一言が「まずは社会人として勉強してこい」と。大手に行けばクリエイティブがどう動くかわかるし、ためになるというアドバイスを受けて。それで卒業後は広告代理店に就職しました。

でも入社当時から「3年で辞める」と周りに宣言していて(笑)。実際その通りに辞めたんです。
3年間のサラリーマン経験は、今すごく活きているなと思っていて、いい勉強になったと思います。

――独立されてから約3年が経ったそうですが、特にこの1年で、国立新美術館での展示や、国内外でワークショップを頻繁に行われるなど、島津さんの活動への認知がかなり広まったのではないかと思います。

映画にもその様子が一部出ていますが、今年はワークショップの依頼が非常に増えて、財布を作る時間があまり取れませんでした。
ワークショップは募集をかけると埋まるのが早くて、定員オーバーするほど。たった2年前は応募ゼロなんて時期もありましたから、財布を作りたいという人が増えたのはとてもうれしいです。

海外でもワークショップを行いました。たとえば中国では、若い人の関心がすごく高い。富裕層の帰国子女たちが欧米の環境問題への意識の高さに感化されて、自国に戻って起業したりして国内の若い世代の関心を高めています。
中国は世界一段ボールを生産および消費している国と言われているのですが、にもかかわらずリサイクルの仕組みが整っていない。そこでアイデアの一つとして、僕の活動が注目されたという背景があります。
アメリカでは、アップサイクルという概念が一般に浸透していますし、関心も高いですね。

環境への問題意識だけでなくモノへ向き合う姿勢の大切さを伝えたい

――海外ではアップサイクルという概念への意識付けが強調されているようにも見えました。ただ、島津さんご自身では、そういう言葉は一切使われていないことに気づいたんです。島津さんはそうした概念よりも、もっとモノへの関心や、触れて楽しむ気持ち、大切にする気持ち、そんなポジティブな感情を大事にしようと。それが意識せずともアップサイクルや環境にやさしい行動につながるんだ、ということが、活動を通じて伝えていきたいことなのではないかなと思ったんです。

これがエコロジーですよ、と言ってしまった時点で先入観ができてしまう。それってバイアスがかかって本質ではないし、どこか説教臭くなるかなと。
段ボール財布を見て、イラストとかロゴがおしゃれだな、カワイイなと気に入ってもらったり、段ボール以外でも作れそう、とか、気づきやアイデアなど人の気持ちをポジティブに動かせたらいいなと思っています。
そのことを僕が言っている「不要なものから、大切なものへ」のスローガンで表しています。

段ボールで財布を作り始めてから9年が経ちますが、飽きないですし、段ボール財布なんて世界中どこにもなくて、これは絶対に面白いという自信があるんです。
いろんな段ボールとの出合いがいつもあって、ストーリーがあるとどんどん好奇心が湧いてくるばかりで尽きないですね。

――映画の中で「里帰りプロジェクト」というシーンがあって、島津さんが財布の素材にした段ボールの製作元をたどる旅をするという主旨なんですが、まさか1枚の段ボールにあんな感動的なドラマがあるとは思わなくて、驚きました。最後に製作に携わった人の決して表には出てこない想いや段ボールへの愛着が偶然にも見事に浮き彫りになっていましたね。
シンプルに段ボールに好奇心や愛おしみを持って見て欲しいという島津さんの想いがすごく伝わるし、共感できるんです。

僕もひとつの段ボールがあんな結末を呼ぶとは思っていませんでした。
偶然気に入った徳之島POTATOという段ボールをたどっていった旅だったんですが、たった1枚の段ボールからたくさんの情報と人との出会いがあって、ドラマチックなストーリーが浮き彫りになったんです。

段ボールを財布に仕上げて手に取ってもらうことで、何かその人の心を温かくする、人の心を動かすことで、新しい物語が生まれるという、段ボールならではの暖かさがあると改めて思いました。

――製作を手掛けた人々のストーリーが段ボールに凝縮されていて、財布として形を変え、それを全く別の人がそこまで知らずに手にするわけですが、実はそんなストーリーが詰まっているんだと知ると、とても興味深いですね。財布一つひとつのストーリーがわかれば、財布というよりもそのストーリーを買う、という体験も面白いかもしれません。

気になる段ボールを手に取って、これはどんな人が作ったんだろうとか、貼られたシールや書き込まれた文字から、どういうルートで旅してきたんだろうと妄想するのが楽しくて好き。段ボールにはタイムラインが刻まれているので、なぜ今そこに在るのか分かるのが面白い。
だから僕は新品には興味がないんです。

モノを愛する気持ちの大切さを活動を通じて伝えていく

――島津さんの段ボールへの深い愛が、ひしひしと伝わりました(笑)。
普段は財布づくりでザクザクと段ボールを切り刻んでいますが、ここまで思い入れがあると、財布が売れていくのは寂しくないですか?

実は財布にできる段ボールはほんの少ししかなくて(笑)。家に置いてあるほとんどは段ボール自体のコレクション状態と化しています。
特に海外で苦労して拾ったものはかけがえのない1枚。
それを財布にするっていうのは、断腸の思いですよ…。

――実は段ボールのほうが多いと(笑)。やはりそういうお気持ちあるんですね。

財布づくりはある意味、段ボールの生命を絶ってしまうようなもので。それで最近、僕の段ボールコレクションを展示する美術館を作りたいという想いが湧いてきて。
まだ具体的な構想はないんですけど、いつかは実現したいです。

――この活動が一瞬のムーブメントではなく、人々の意識に定着していってほしいですね。

モノを愛する気持ちが大事で、それはどんなものでも対象になるんだ、ということをこれからも継続して伝えていきたいです。

撮影:SYN.product/取材・編集:岩淵留美子(CREATIVE VILLAGE編集部)

映画情報

『旅するダンボール』

YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国公開中
監督:岡島龍介
プロデューサー:汐巻裕子
出演:島津冬樹
製作・配給:ピクチャーズデプト
(c)2018 pictures dept. All Rights Reserved
公式サイト:carton-movie.com