恋愛リアリティーショー『オオカミくんには騙されない』シリーズは、AbemaTVの中でも大人気コンテンツ。スタジオMCをシリーズ初期から横澤夏子、松田凌が務め、ティーンの間で放送のたびに話題となっています。

手がけたのは、2008年にサイバーエージェントに新卒入社し、29歳で当社初の女性執行役員に就任した横山祐果さん。モバイルゲーム『私のホストちゃん』や『ガールフレンド(仮)』などのヒットコンテンツを多く手がけている方です。

プロデューサーとして多くの意見に耳を傾け、短期間で多くのアイデアを検証する横山さん。柔らかい笑顔の向こうにインターネット業界らしいスピード感も感じさせます。その横山さんに、インターネット配信の仕掛け方についてお伺いしました。

横山 祐果(よこやま・ゆか)
株式会社AbemaTV編成制作局制作部。2008年、サイバーエージェント入社。『Ameba』プロデュースグループに配属され、プラットフォームの機能改善を担当。2010年、Abemaモバイルゲーム部門へ異動。
企画・運営した携帯ゲーム『私のホストちゃん』が人気を博す。
2012年4月、Abemaスマートフォンゲーム部門へ異動し、『ガールフレンド(仮)』を企画。29歳で同社初の女性執行役員に抜擢される。
2016年より『AbemaTV』の制作部門へ異動し、プロデューサーとして『オオカミくんには騙されない』の企画から携わる。

『オオカミくんには騙されない』ヒットの仕掛け

――『オオカミくんには騙されない』シリーズが始まったのは2017年。その頃はAbemaTVに恋愛リアリティーショーはほぼなかったようですが、立ち上げのきっかけはなんだったのでしょうか?

当時は、AbemaTVの視聴者の多くが男性でした。そのなかで女性にもっと観てもらいたいということと、ティーン向けの番組を作りたいというテーマがありスタートしたんです。ティーンの女性向けなら恋愛番組がいいだろう、それなら女子高生の恋愛リアリティーショーにしようと決まりましたが、それだけでは話題にならない。SNSで拡散されやすい仕掛けを作りたいなと作家さんや制作会社さんとたくさんの案を出し合って、出てきたのが「本気で恋をするつもりがない”嘘つき”男子が1人混じっている」という案。これは“人狼ゲーム”にも似ていて面白そうだな、と企画が固まっていきました。

――SNSで大きな反響を呼んでいますが、話題になるためにどんなことを意識して制作したのですか?

AbemaTVはインターネットテレビ局ですから、どうすればSNSで話題になりやすいかを考えることは重要です。テレビをつけたら見られるわけではないので、インターネットで話題になっているのをきっかけに知ってもらい、そのままインターネットで番組を見てもらうのが一番の近道です。そもそも今回のコアな視聴者であるティーンたちは、紙媒体以上にSNS(Twitter、Instagram)、YouTube、ネットニュースなどで情報を得ていることが多いため、ネットで“バズる”仕掛けを作る必要がありました。

まずキャスティングは、モデルや俳優など10代に知られている方にご出演をお願いしたので、気持ちなどをSNSに投稿していただくことで、自ずとファンの方々へ広がっていきました。美男美女を集めることで、見ていて憧れるような、ドラマのような美しい画作りも心がけています。

また、見た人が思わず言いたくなってしまう要素をちりばめて、SNSで話題にしてもらおうというのがポイントでした。そこで番組放送中は「どのカップルがくっつくか」と妄想したり、予想カップルを投票したりすることで、視聴者に参加してもらえるようにしました。中でも、メンバーの中で一人だけ嘘をついて絶対に恋をしない「オオカミくん」がいるというルールは、かなり視聴者の間で盛り上がりました。「オオカミくんは誰なんだろう?」と話題にしやすいし、最後まで誰がオオカミくんかわからなくて気になるという点が番組ヒットの要因の一つになったと思います。

番組放送外でも、放送に合わせて出演者にSNSで発信してもらったり、公式Instagramで番組では放送されないオフショットや、撮影エピソードを投稿しました。それによって番組以外の場所でも『オオカミくんには騙されない』に触れてもらえるし、よりリアリティーショーを身近に感じてもらえます。視聴者が話題にしてくれるほど口コミの輪は広がり、ネットニュースでも取り上げてもらえ、少しずつ視聴者が増えていきました。

リアリティーショーの人気

――テレビでは昔から恋愛リアリティ番組は人気ですが、ネットで放送するにあたり、不安や準備などもあったかと思います。どのようなことに気をつけていますか?

まず放送前の不安は、想定する視聴者である現代の女子高生の感覚がどういうものなのか正確にわからないことでした。自分が女子高生だった頃とどう違うのかを知りたくて、早々に一般の女子高生にグループインタビューをしました。どんな生活をしているのか、恋愛や友達との関係について話を聞くと、使うツールや流行は違えど、自分の頃と気持ちの部分ではあまり変わらないのかなと、とイメージできました。

――番組制作には横山さんのゲーム制作の経験も活かされているのでしょうか?

多少なりともゲーム事業部での経験が影響しているかもしれません。ゲーム制作では大きな機能をリリースする前に「こういう仕掛けを入れればどういう動きになるだろう」とシミュレーションをするのですが、今回も同じ。例えば、番組ルールで『視聴者投票で一位になった男子がオオカミくんの場合は脱落してしまう』というものがあるのですが、そのルールを適用したらどんな反応があるだろうと色々な可能性をシミュレーションします。どんなルールパターンが適切かを検証するやり方は、ゲームの時の経験が活きているなと思います。

――放送してみて、反響はいかがでしたか?

実際の視聴者の反応は予想よりも良い反応が多くて嬉しかったです。
番組が話題になってくると、「AbemaTVの恋愛リアリティーショーに出たい」と言ってくださる方が増えました。出演することによる反響もとても大きく、SNSのフォロワ―がさらに増えたり、番組をきっかけにTikTokやInstagramでも話題になりました。けれども番組としてはまだまだ進化の途中なので、もっと良いものを作って「出たい」と思ってもらい、たくさんの方に見ていただけるようにしていきたいですね。

この『オオカミくんには騙されない』シリーズがきっかけとなり、社内ではいろんなリアリティーショーが増えました。例えば、女子高生と家庭教師のシチュエーションや、アラサーの年上女子と20代前半の年下男子など、いろいろな組み合わせをやってみて、今年は最大10番組を放送しました。中でも『オオカミくんには騙されない』シリーズ、一泊二日で恋をする『今日、好きになりました。』、離れた相手の住む街に滞在する『恋する週末ホームステイ』といったティーン向けの恋愛リアリティーショーが人気です。
あえて同時期にスピード感をもっていろんな可能性を試みてみようというのはサイバーエージェントの特徴かもしれません。そうやって視聴者がどこに反応するかを試しつつ、クオリティを上げるよう心がけています。今後はもっと年代をずらして、多くの20代女性に楽しんでいただけるような恋愛リアリティーショーを作りたいですね。

これからのインターネットテレビ

――インターネット番組と、既存のテレビメディアなどの違いはどのようなところにあると思いますか?

そもそもの肌感覚やヒットの仕掛けが違うと思います。まず、インターネットテレビは地上波テレビよりも多くのチャンネル、番組の中から自分に合ったものを選べます。そのためターゲットを絞った番組も多く、制作の制限もほぼありません。制作者にとっても、インターネットはスピード感が早いので何がヒットするか予測が難しいところがあります。だからこそ次々と自由に企画を出して、面白そうならまずはやってみよう、と試みることができるのはインターネットテレビの強みだと思います。

私たちはは「AbemaTVをマスメディアにする」ことを目標としているので、そのためにも話題になるヒットコンテンツを作るべく番組を増やしているところです。具体的には、1000万ほどのウィークリーアクティブユーザーが習慣的に観てくれることがひとつの指標ではありますが、数字はあくまで目安。テレビのように日常的に皆が見てくれるようになればいいですね。

――インターネットメディアの最先端で番組プロデュースする横山さんについてお伺いしたいです。仕事の方針ややりがいについて聞かせてください。

みなさんに楽しんでもらえるものを作り続けていけたらいいなと思っています。私は「これをやりたい!」とこだわるものがなくて、「あれも楽しい、これも楽しい、いろいろやってみたい」と面白がれる自分でいたほうが、プロデューサーという今の立場に合っている気がします。

もちろんプロデューサーにもいろんな方がいますが、私は一人では何もできない。できるだけブレないように「こういうものを作りましょう」「こういうふうにしたいです」という軸は伝えますが、わからないことは先輩やクリエイターさんにすぐに聞きます。「間違っていたらすぐに教えてください」「分からない事がたくさんあるので、教えてもらいながらやりたいです、お願いします」と伝えて、本当にいろんな方々に教えてもらいながら日々やっています。AbemaTVの制作現場はフラットで風通しがよく、世代関係なくわからないことを聞きやすい空気がありますね。そうやってクリエイターさん達と一緒に相談しながら、自分が想像していたよりも面白いものができた時は楽しいです。しかもインターネットはダイレクトに反応が返ってくるので、大きな反響があるとやりがいを感じます。

――どんな方と働きたい、どんな方がインターネットメディアに向いていると思われますか?

そうですね……クリエイターを目指される方は、自分の意見を持ってくださると良いなと思います。「これが良いと思う」「今のブームはこれだからこれが流行るだろう」というふうに、好きな気持ちと時流を読む目の両方を持っていると、現場で意見交換をしながらいいものを創っていけると思います。私もプロデューサーとしてはまだまだ未熟ですが、たくさんの引き出しや様々な考え方を持っている方たちと一緒に番組を作っていけたら、より面白いものができるんじゃないかと期待しています。

インタビュー・テキスト:河野 桃子/撮影:SYN.product/企画・編集:市村武彦(CREATIVE VILLAGE編集部)

企業プロフィール

「AbemaTV」は、”無料で楽しめるインターネットテレビ局”として展開する、新たな動画配信事業。
2016年4月に本開局し、オリジナルの生放送コンテンツや、ニュース音楽、スポーツ、ドラマなど多彩な番組が楽しめる約20チャンネルを全て無料で提供し、利用者を伸ばしています。
登録は不要で、スマートフォンやPC、タブレットなど様々な端末でテレビを観るような感覚で利用することができるほか、「Amazon Fire TVファミリー」や「AndroidTV」など主要なテレビデバイスにも対応しています。
その他にも、通信量を半分に削減可能な「通信量節約モード」や見逃した番組をいつでも楽しめる「Abemaビデオ」のテレビデバイス対応など、楽しみ方の幅を広げ、利便性を高めるための取り組みも積極的に行っています。

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