『共闘ことばRPG コトダマン』は配信開始から約1ヵ月で500万DLを突破しています。そのアートディレクターを務めたのが、さわえみかさん。クリエイティブ業界にその名を轟かす女子クリエイター集団「つくる女」のリーダーであり、VR法人HIKKY所属のクリエイターです。

クリエイターを目指す女性にとって、幅広い領域で活躍するさわえさんは憧れの存在。クリエイティブ業界を生き抜く術とは何か。成功の秘密はどこにあるのか。そして、これから何に挑戦していくのか。「これまで」と「これから」を「ことば」にしていただきました。

さわえ みか
大阪市出身。大阪モード学園ヘアメイク学科卒業。有限会社フナコシステム、VR法人HIKKY所属。
プロヘアメイクとしてTV、雑誌、ショーなどに携わった後、イラストレーターに転向。漫画連載、放送関連、ファッションイラストなどを手がけるなかで、女子クリエイター集団「つくる女」を結成。
現在はアートディレクターとして大手スマホゲーム会社のタイトル開発、グッズデザイン制作、漫画制作、番組企画などを兼務する。
2018年4月16日にリリースされたSEGAの『共闘ことばRPG コトダマン』ではアートディレクターを務める。趣味は和太鼓・人狼・麻雀・VRC。

『コトダマン』が、あまりにカッコイイ感じの高等身だと……

――ひらがなの組み合わせで敵と闘う『共闘ことばRPG コトダマン』のDL数がすごい勢いです。まずは、さわえさんがアートディレクターとして制作に携わった経緯を教えていただけますか。

プロデューサーの中村たいらさんとは、バトルアクションゲーム『モンスターギア』でお付き合いがあって、信頼関係ができていました。「またやってみない?」と声を掛けていただき、携わったのは企画段階から。「それじゃあ、まずは企画書に載せるための世界観やキャラクターを描かなきゃね」とスタートしました。

――ビジュアルはどうやって決めていったのですか?

最初はキャラクターの等身さえも決まってなかったのですが、30~40代が「おっ」と思うようなものにしたいな、という考えはありました。

といっても、カラダの一部にひらがなが入るので、あまりにカッコイイ感じの高等身だとかえってダサくなる、ちっちゃい等身でバンバン動いた方が面白い、というのは最初から感じていて。今流行りのかわいい女の子がたくさん登場するゲームのような方向性は違うと説明するために、あえて高頭身のキャラデザを出したこともあります。とにかくいろいろなデザインを出していたので、「最終的にはどんなふうになるんだろう?」と、周りは心配していたみたいです(笑)。

――制作中はどんなスケジュールだったのでしょうか?

私、好きなこととお仕事が一緒なので、没頭して、ひたすら描いていましたね。食事中はメールを読んだり書いたり、あとゲームのストリーミングを見たりしていたかな。

――他の制作スタッフとのコミュニケーションはいかがでしたか?

キャラクターのコンセプト決めはダジャレ合戦みたいでした。デザインダジャレ合戦。制作チームみんなでバンバン意見を出して、笑いあって、面白いと思って描いてみたら「やり過ぎた」ということも多かったですね(笑)。そうして誕生したキャラクターからゲームに採用する子を選んでいきました。

――キャラクターをオーディションするような感じ?

そうですね。人に見られることを意識した結果、人気は出ないだろうけれど個人的にはめっちゃ好きな子を削ったこともあります。その作業が本当に辛かったなぁ。そうしてお蔵入りした子がたくさんいます。

キャラクターは全部で700体くらいいて、決まった大まかな方向性を「つくる女」のメンバーや、外部のイラストレーターさんに伝えて、世界観に合うようにディレクションしながら進めていきました。

――配信後の反響は予想通りですか?

予想以上ですね。驚いていますし、ありがたいです。ちょっと考える要素があったのが良かったのかも。新しいけれど、親近感が持てるというか。

文字の組み合わせで遊ぶといえば、クロスワードパズルに似ていますよね。私も昔から好きでよく遊んでいました。そういえば、うちの母親も昼間によくクロスワードパズルしていたなぁ(笑)。

CMの撮影現場で「絵コンテ描けない?」と言われて

――さわえさんの経歴はちょっとユニークですよね。元々はヘアメイクのお仕事をされていたとか。

小さい頃から絵は好きで、ずっと描いていたんですよ。ゲームも父親が好きだった影響で、ドラクエ、FF、ロマサガ、聖剣、スタオ、マリオ、ゴエモン、ツクール系……とにかくいろいろやっていました。

で、高校3年生の思春期真っ只中に、将来どんな道へ進もうかと考えたとき、やっぱり絵を描きたい、何かものづくりをしたいと思ったんです。オシャレな友だちは美容師さんを目指すけど、ちょっとオタクな人たちはゲーム業界に行く。私もゲーム業界に行きたいんだけど、なかなか勇気が出ないし、メイクのお仕事にも興味はあったので、大阪モード学園に新設された特殊メイク学科に進学しました。

――特殊メイク!? 面白そうですけど、最初からヘアメイクではないんですね。どうしてですか?

紙に絵を描くのも、顔に絵を描くのも同じかな、と。ただ、関西だと特殊メイクの技術が活かせる現場がそんなにないんですよ。それに仕事するのは外ではなくて、9割が工房の中。私は人と話をしながら創作するのが好きなのに。それで路線変更して、関西のヘアメイク事務所に入りました。

――東京に出てきたのは、どのような経緯で?

雑誌などで活躍されているヘアメイクさんに好きな人がいて、弟子入りさせてほしいと手紙を送ったんです。そしたら電話がかかってきて「じゃあ、明日の朝7時に中野に来て」と。夜9時のことだったのですが、すぐに夜行バスのチケットを買って上京しました。替えの下着も持たず、「チャンスをもらえたのだから行ってみよう」みたいな感じで。

そこからタレント、アーティストのヘアメイクの現場にアシスタントとして入るようになり、独立してPVやCM撮影の現場でお仕事をし始めました。

――その後、イラストにつながる出来事があったんですね。

はい。ソーシャルゲームのCMの撮影現場でプロデューサーさんに「絵コンテ描けない?」と言われたのがきっかけですね。気に入ってもらえて嬉しかったし、楽しいな、と思いましたが、ヘアメイクの仕事も続けていて。そんな私にフナコシステム社長の舟越さんが「お前、ヘアメイクよりも絵のほうが向いているから、絵でいけ」って言ってきたんです。最初は、「ふざけんな!」と怒っていたんですけど、実際にヘアメイクよりも絵の方が評価は良かった。冷静に考えてみると、今までの私を否定されたことに腹を立てていただけで、絵を描いていた方が目標に近づけるということに気付いたんです。それで、ヘアメイクのクライアントは当時一緒にお仕事していた子に譲って、イラストレーターの仕事を中心にしました。

――目標とは、どんなものだったのでしょうか?

私、ものをつくって人に見られることが好きなんですよ。だから、影響力のあるお仕事をして「アレやったの?」「すごいね!」と言われたかった。そういうことですね。その方法として、絵を描くほうが合っているなと思いました。

クリエイターに光を当てた「つくる女」

――「つくる女」を結成したのも、その手段として? 確か2012年頃だと思いますが。

個人でお仕事していても、できることは限られる。かといって、間に代理店など他の人が入ると収入は少なくなります。クライアントの立場で考えてみても、プロデューサー、ディレクター、カメラマン、スタイリスト、ヘアメイクと個別に声をかけるのは手間がかかるし、面倒です。だったらそんなクリエイター達がチームを組めば仕事が取りやすいし、好きなこともできると考えました。

それに、その頃はクリエイターが目立たなかったというか、ものをつくる過程にスポットが向いてないと感じていました。何かをつくるってこんなにも面白いのに。だから、そこに光を当てようと思ったのです。

ちょうどその頃、周りにかわいくて、真摯にものをつくっている女の子がたくさんいて、華のあるチームができた。それが「つくる女」のスタートです。イラスト、デザインだけでなく、制作ディレクション、3DCGモデリングができるほか、声優、脚本家、広報ができるメンバーもいたので、こういう企画がある、予算はこれだけ、という依頼にしっかり応えられて、さらにはプロモーションまで受け切れるようになりました。

――クリエイターに光を当てる。それが「つくる女」のコンセプトだったと。

そうです。メンバーが女の子だけなのは、その方が覚えてもらいやすいってメリットがあるから。中身はガチの職人集団。それぞれが正しいと思うことを主張し合いますから、よくケンカもしました(笑)。

結婚・出産するメンバーがいても「つくる女」なら、協力してお仕事を回していくことで、引退とかなくて、自宅で作業ができるように段取りを組んで仕事を続けることもできるというのもコンセプトでした。10年、20年、ずっと活躍できる。もうそういう時代ですよね。やりたいことがあるのにプライベートの事情で諦めて、辞めちゃうのは寂しいですから。

――さわえさんもご結婚されて、いまは人妻だとか。

はい。ダンナと出会ったきっかけもゲームです。『League of Legends』の大会で知り合いました。eスポーツ結婚ですね(笑)。

――「つくる女」とフナコシステムという会社はどんな関係だったのでしょうか?

「つくる女」を結成する前、クリエイターが集まって活動しやすい拠点があったほうが良いだろうと、社長の舟越さんがフナコシステムのなかにコンテンツ部門をつくってくれたんです。

フナコシステムには、依頼を受ける連絡窓口や経理面でのサポートをしてもらって、そのおかげで、私たちはクリエイターとして自分たちが好きなこと、やりたいと思うことを、自分たちの責任でやっていける。懐の深い会社だなぁと思います。

好きなことをお仕事にするために、VR法人を立ち上げました

――これからやりたいこと、挑戦したいことは?

VRですね。最近は「VR法人HIKKY」という会社を立ち上げて、VR上に生息する制作チームの一員として活動しています。

オフィスもVR空間にあって、ミーティングにはそれぞれが家にいながら、好きなアバターで参加しています。私は花のアバター、他のメンバーはロリドワーフとか魔王様とか。性別なんて関係なしに、好きな姿で活動しています!

ホワイトボードをつかってプレゼンしながら「戦闘機つくったんだ」と言って、その場に出現させたり、いきなり砂漠に移動したり、空を飛んだり、もうそういう面白い世界が既にあるんです!

――失礼ながら、それ、お仕事になりますか?

なりますよ!この間は『コトダマン』のプロモーションムービーをVR空間で撮影しました。まだビジュアル的にはローポリで完成度は低いかもしれませんし、ヘッドセットを被るのが面倒だったりするかもしれませんが、映画『レディ・プレイヤー1』で描かれているような世界は、もう来ているんです。

▼【共闘ことばRPG コトダマン】<メイキング>プロモーションムービー ver,VRChat – YouTube

ところが、誰かが制作したいと考えても、どこに頼んだら良いのかわからない。個人のクリエイターはいるかもしれないけれど、どうやってアポイントを取れば良いのかもわからない。だからこそ法人を設立したわけです。そうすれば、「ボクたち会社をつくったから頼んでね」と言えますから。

――なるほど。お仕事につながりやすい、安心して依頼してもらえる仕組みを、いち早くつくったわけですね。

「つくる女」の発想もそうでしたが、個人ではなかなか依頼を受けるのが難しい点がありますから。「制作の途中で投げ出されたらどうしよう」みたいな心配も発注側にはあると思います。だからチームをつくって、そこで受ければ安心してもらえるし、強い。

フリーランスで活動していると、「かわいいから」というだけで仕事を振られる女の子もいっぱいいますけど、そんな人たちは、もっとかわいい子、もっと若い子が出てきたら仕事がなくなります。そうならないためには、自分からドンドン仕掛けていかなきゃ。

以前、地方から上京してバイトをしながら活動していた女の子と話すことがあって、「あなたはバイトをするために東京に来たわけじゃないんでしょ?」と言ったことがあります。私には、彼女がバイトのお給料で生活できる現状に甘えて、クリエイティブ活動を疎かにしていることがわかっちゃったから。そしたらその子、怒って翌日にはバイトを辞めて発注側に営業を始めたんです。でも、それから仕事が増えて。厳しい言い方ですけれど、クリエイターとしてお金をもらっていくためには、そういったハングリー精神が不可欠なんだと思います。

理論的な思考で感覚を説明できるクリエイターに

――お仕事をしていて、男女の違いを感じることはありますか?

瞬発力というか、いざというときの爆発力は女性クリエイターの方が持っていると思います。その一方で、論理的思考は苦手な人が多い。これは私もなんですが、なぜ、それが外せないことなのか、クリエイター自身が理論的な思考で感覚を説明しなければ、プロジェクトは進みません。

それと、感性は男女どちらに向けたコンテンツかによって違います。クエストに立ち向かうのが好きなのは男性。何かを集めるのが好きなのは女性。ゲームをつくるうえで、違う目線があるといろいろな意見が出て面白いです。これは性別だけでなく、年齢や所属するコミュニティなどによっても異なりますので、いろんな人と話をしてインプットすることが必要ですね。

――女性クリエイターが生き抜くコツはなにかありますか?

「愛嬌」ですね。太っていても、ブサイクでも、歳をとっていても、愛嬌が変わることはありません。ちゃんと挨拶する、お礼を言う、それだけのことでも、発注側が仕事をするときに思い出してもらえる。発注側の要望にきちんと応えられていたら、また選んでもらえる。「かわいい」なんかより強い武器です。

クリエイターに光を当てることに関して言えば、男も女も性別は関係ありませんし、それぞれの視点がうまく組み合わさってクリエイティブができれば、ものすごく完成度の高いものがつくれると思います。あとは状況にあわせて、積極的に挑戦していけば良いのではないでしょうか。そうしたら、好きなこと、興味のあることをお仕事にしていけますから。

――さわえさん、ありがとうございました!

インタビュー・テキスト:吉牟田 祐司(文章舎)/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:CREATIVE VILLAGE編集部

作品紹介

『共闘ことばRPG コトダマン』

「ことば」で闘う新感覚RPG!
文字の精霊「コトダマン」を組み合わせて「ことば」をつくって攻撃しよう!
できたことばの数や長さでダメージが変化!

タイトル:共闘ことばRPG コトダマン
ジャンル:ことば合わせRPG
対応OS:iOS/Android
開発:株式会社セガホールディングス

https://kotodaman.sega.jp/

関連リンク

▼さわえ みか@コトダマンアートディレクター/VRC:mikalaan(@SawaeMika)さん | Twitter
https://twitter.com/sawaemika
▼フナコシステム
https://www.funaco.co.jp/
▼VR法人HIKKY
https://www.hikky.life/
▼つくる女オフィシャルサイト
http://tukurujyo.com/