注目企業の中の人によるコラム
今回は、Retty株式会社のレコメンド機能の改善について、データサイエンティストの岩永さんに事例を紹介いただきます。
レコメンドロジックだけでなく、デザインも合わせて改善することで、より高い効果が得られたという興味深いお話です。

Rettyでデータサイエンティストをしている岩永二郎です。2008年株式会社数理システム(現NTTデータ数理システム)に入社し、数理科学全般のソリューションビジネスに従事しました。2014年には274チームが参加するデータ解析コンテストのレコメンド課題で優勝した経験があります。2016年10月にRettyにジョインし、レコメンデーションや広告配信まわりで新しい価値を創出する取り組みをしています。また、2017年5月からは早稲田大学データサイエンス研究所にて招聘研究員としても活動しています。

本記事ではRettyにおけるレコメンドプロジェクトの話をします。この取り組みはRettyの良質なビッグデータ、レコメンドアルゴリズム、そしてデザインのコラボレーションにより大きなインパクトを創出した事例になります。実際にロジックの改善によりCTR(※1)が既存ロジックから198%改善し、さらにデザインの改善も合わせることで317%改善を達成しました(2018年4月時点)。その秘密をここだけでお話させてください。

(※1)CTR(Click Through Rate):レコメンドされたお店をクリックした数 ÷ レコメンドが表示された数

RecommendでみんなをHappyにする会社

みなさん、Rettyがグルメサービスであることを知っている人は多いかもしれませんが、Rettyの社名の由来が「Recommend + Happy」という造語であることはご存知でしょうか?Rettyはおすすめ(Recommend)によって人々を幸せにすることをビジョンに、2011年6月にサービスを開始しました。

日本国内にはグルメサービスがいくつもありますが、Rettyの特徴は「実名の口コミ」が集まることです。投稿者は実名であることで発信内容に責任を持つようになり、自然に信頼できる口コミでCGM(※2)が作られます。また、データサイエンスの観点では信頼できるビッグデータを元に作られた集合知は、たくさんの有益な情報をユーザーさんに還元することができます。今の流行りに乗ればそれはAIであり、コンシェルジュに近い存在ということができるでしょう。

本記事ではレコメンドプロジェクトの2つの柱、ロジック改善とデザイン改善を通してレコメンド機能をブラッシュアップした事例を紹介します。

(※2) CGM(Consumer Generated Media):消費者がインターネットなどを活用してコンテンツを生成していくメディア

お店探しのモチベーションに合わせたレコメンドロジックの開発

お店探しをしているときに、気になったお店の詳細情報を確認してみると、「このお店ちょっと違うなぁ」とか「もっと素敵なお店あるかも」と思うことってありますよね。そんなときに「このお店どう?」と気が利いたお店を提案してもらえれば、きっと嬉しくなるはずです。レコメンドプロジェクトではユーザーさんが行きたくなるお店をレコメンドする方法をトコトン突き詰めました。レコメンドロジックのクオリティが低いとサイト内のただの導線となってしまいますが、ユーザーさんのニーズに響くとそれはレコメンドという付加価値を提供したことになります。単なる導線となるかレコメンドに化けるかは、紙一重なのです。

ユーザーさんに響くレコメンドロジックを考える上で最も重要なことはお店探しのモチベーションを的確に捉えることです。本プロジェクトではお店探しのモチベーションについて議論し、3つの仮説をたてました。

データサイエンティストはこれらのレコメンドのコンセプトを実現するためにデータとアルゴリズムの相性を考えてロジックを設計します。最も適切なデータは何か、そのデータの特性を最も活かすアルゴリズムは何か、実際に保守・運用をしていけるのかなど、考えることは多岐に渡ります。本記事では技術的な解説は省略しますが、機械学習やグラフアルゴリズムなど数理科学の技術を総動員してレコメンドロジックを設計しています。ここで重要なのはアルゴリズムありきでレコメンドロジックを考えないことです。お店探しのモチベーションに素直に応えるアルゴリズムを選び、ユーザーさんがもとめるようにチューニングすることが、ユーザーさんに響くロジックをつくるコツなのです。

デザインを通してアルゴリズムのキモチを伝える

レコメンドのコンセプトを実現する適切なアルゴリズムを実装してもそれだけでは大きな効果は望めません。特に複雑なアルゴリズムを利用した場合、ユーザーさんに違和感を与えてしまい、思ったよりレコメンドが使われないことがあります。何が足りないのでしょうか。

レコメンドで大事なことは気が利いたオススメをしていることをユーザーさんに伝えることです。つまりデザインを通してレコメンドの価値をシンプルに表現することが重要になります。ユーザーさんがレコメンドされたお店を見たくなるような、それでいて期待感を裏切らない、価値のある情報を伝える必要があるのです。
本記事でデータサインティストの僕がデザインの話をするのはとても恐縮なのですが、データサイエンティストの観点でちょっと広義なデザインの話、情報設計の話をさせてください。

さて、レコメンドに必要な情報設計とは何でしょう?3つのポイントがあります。

(1)情報の意図を伝えるときに大事なことは、「あなたにとって価値のある情報を提示してますよ」ということを伝えることです。ユーザーさんの目的であるお店探しに関係のない情報、例えば意図しない広告と認識してしまうことは避ける必要があります。ここではレコメンドの説明をしています。

(2)お店探しに必要な情報を伝えるときに大事なことは、ユーザーさんがどんな基準でお店探しをしているかということを把握することです。レコメンドされたお店をタップしてページ遷移した後に、目的に合わないことがわかってガッカリしてしまうことは避けなければなりません。ここでは店名、ジャンル、価格帯を入れています。

(3)お店の魅力を伝えるときに大事なことは、ユーザーさんに「そのお店をもっと見たい」と動機づけることです。写真やキャッチコピーでお店の魅力を伝えることができますが、これだけでは今ひとつ気が利いている感じがしません。ここにレコメンドのポイントを添えることで、レコメンドされた複数のお店について比較ができるようになり、そのお店の存在を際立たせることができます。一般に、レコメンドのポイントはサービスで利用しているデータベースに登録されていないデータであり、レコメンドのポイントを算出する処理は手間になることが多いため、情報設計から漏れがちです。しかし、この一手間によって、ユーザーさんの期待を越える気が利いたレコメンドの提供にぐっと近づけるのです。

ロジック改善とデザイン改善のインパクト


レコメンドプロジェクトにおける改善ポイントは、ロジックの改善とデザインの改善になります。実際にA/Bテストを実施して効果を検証したところ、実装した全てのレコメンドロジックで精度改善を達成できました。最もCTRが高かったレコメンドロジックは、既存のレコメンドロジック(※3)との比較で、ロジック改善によりCTRが198%改善、さらにデザイン改善も合わせることでCTRが317%改善されました。レコメンドはロジックだけ高度でもユーザーさんに伝わりませんし、デザインだけでもユーザーさんの期待に応えることはできません。ロジックとデザインのコラボによって大きなインパクトを創出した事例と言えるでしょう。

(※3) 既存レコメンドロジックはルールベースの手法を採用

さいごに

本記事ではRettyに掲載される店舗詳細ページにおけるレコメンドを紹介しました。レコメンドプロジェクトはまだ始まって半年のプロジェクトです。これからRettyのトップページやお店一覧ページでのレコメンドの実装も続けていきます。もちろんページによってユーザーさんの探しているお店に対するニーズも変化するので、そのニーズにあわせたレコメンドを提供していく予定です。
Rettyには実名口コミに基づく良質なデータがあります。ユーザーさんがRettyを信頼して提供してくれたデータに感謝し、そのデータの価値を引き出し、多くのユーザーさんに還元することこそがRettyのデータサイエンティストの務めになります。


Retty株式会社が運営する実名グルメサービス「Retty」 ( https://retty.me/ ) は、「信頼できる人からお店探しができる」グルメサービスとして、2011年6月にサービスを開始しました。実際に行ったお店のオススメ情報を投稿していただく形で、20〜40代の男女を中心に、幅広い年代にご利用いただいています。2017年5月に、月間利用者数が3,000万人を突破しました。

企業サイト:https://corp.retty.me/

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