『428 ~封鎖された渋谷で~』や『極限脱出 9時間9人9の扉』、最近では『文豪とアルケミスト』など幅広い作品を世に送り出してきたイシイジロウさん。ゲームクリエイターとして、いつの時代も多くのファンに驚きを提供してきたイシイさんはどんな視線でゲームと向き合っているのか、そして今後どんな挑戦をしていきたいのかを伺いました。

イシイ ジロウ(いしい・じろう)
ゲームクリエイター/原作・脚本家 1967年兵庫県生まれ。
リクルート関西支社やカルチュア・コンビニエンス・クラブで広告・宣伝担当を経てゲーム業界に転職。チュンソフト(2000年入社)、レベルファイブ(2010年入社)において、おもにアドベンチャーゲームのシナリオ・監督・プロデュース、ディレクションを務めたのち、2014年に独立。2015年株式会社ストーリーテリング設立。
2015年からは『モンスターストライク』のアニメシリーズでストーリー・プロジェクト構成、同作の3DS版・映画のストーリーなどを担当。その後も実写映画『女流棋士の春』監督や舞台『龍よ、狼と踊れ』原作など活動の場を拡げている。また観劇型人狼イベント『アルティメット人狼』主催という顔も持つ。
代表作は『428 ~封鎖された渋谷で~』(総監督)、『タイムトラベラーズ』(ディレクター)、『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』(監督)『アニメモンスターストライク』(ストーリー・プロジェクト構成)『文豪とアルケミスト』(世界観監修)など

「認められなかった文化が認められる瞬間」の原体験が糧に

絵を描くことが好きで、幼い頃からアニメ、当時の言葉だとテレビまんがをよく見ていました。当時は今以上に「テレビまんがは子供が見るもの」という意識が強かったのですが、そんな常識を覆したのが『宇宙戦艦ヤマト』です。大学生が夢中になるなんて、それまで誰も考えられませんでした。テレビまんががアニメと呼ばれるようになったのも、この作品がきっかけなんですよ。その時の僕はまだ小学生でしたが、今まで認められていなかった文化が世間に認められる瞬間を初めて目の当たりにしたのがこの作品ですね。

中学生になってYellow Magic Orchestra(YMO)と出会いました。世間的にはアイドル歌手の全盛期で、歌がない音楽は流行の主流ではありませんでした。友人たちは僕のことを「変なヤツ」と言っていましたよ。ですが、そんな彼らが数年後に「YMOを聴かせてくれ」と言ってきたんです。「みんな気付くのが遅いなぁ」と思いました(笑)。

同じことが『機動戦士ガンダム』でも起こりました。最初のころは「中学生にもなってロボットアニメなんて見てるんだ」と笑われたのに。『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』といったSFアニメは特別扱いでしたけど、ロボットアニメとなると、まだ子供のものというイメージが残っていたんです。

それまで認められなかったものが認められる瞬間を何度も見てきたことで、まだ誰も知らない新しい可能性を生み出したいと考えるようになりました。これが消費者としての原体験であり、エンターテインメントの世界に入るきっかけです。

数あるエンターテイメントの中から、ゲームに興味を持ったのは『ドラゴンクエスト』の存在が大きいですね。当時ファミコンとパソコンでゲームが競い合っていましたが、当時の僕はパソコンゲームに強く惹かれていました。というのも、子供ならではの偏見で、「ファミコンゲームはおもちゃ、パソコンゲームは大人向け」と思っていたから。『ドラゴンクエスト』はそんな僕自身の偏見をひっくり返してくれた作品です。鳥山明さんの洗練されたイラストは衝撃的でした。これもやはり、新しいものが生まれ、認められた瞬間だったんだと思います。アニメや映画、ゲームといったエンターテインメントの中で、ゲームを選んだ大きなきっかけでもあります。

こういった原体験は、今のゲーム作りにも大きく影響しています。既存の権威的なものを作りたいとは思わず、世間が価値を認めていないものに価値を生み出すことに魅力を感じます。初めてのストーリー、初めてのシステムをこれからも作っていきたいですね。

終わらない価値を提示する『文豪とアルケミスト』

©DMMGAMES/文豪とアルケミスト

DMM GAMESで配信している『文豪とアルケミスト』も、そんな僕の思いが詰まった作品のひとつです。元々は文豪ではなく、文学作品に出てくる主人公をキャラクターにする企画でした。しかし、それらの作品は一人称で描かれることがほとんどで、人物像のイメージが湧きずらい。そこで、文豪に着目して、物語を紡いでいこうと考えたのです。

それ以前の文学作品というと、忠臣蔵などの歴史物、あるいは伝記が中心で、どこにでもいる名もない個人を主人公にすることはほとんどありませんでした。それが明治以降になると小説家たちが東京に集まり、情報交換をしながら最新の文学作品の形である私小説を続々と発表し、評価された。これはかつて、アニメやゲームが世間に認められた瞬間に通じるものがあると思うんです。

実は文豪たち自身がその作品以上に魅力的なこともあります。『文豪とアルケミスト』では魅力的な文豪たちを入り口にして、ゲームを楽しみながら、文学にも興味を持ってもらいたいと思って企画しました。こだわったのは、キャラクターである文豪同士の関係性です。誰とどんな交友があって、どんな感情を抱いているのか。そういった関係性を史実と想像を含めて楽しめることが『文豪とアルケミスト』の魅力だと思います。

また、「文学とスチームパンク的ビジュアル」という独特な組み合わせも『文豪とアルケミスト』の特徴だと思います。このコンセプト自体は最初からあったものなのですが、作品中で使用されている歯車は芥川龍之介の『歯車』のイメージからきているんですよ。それらのビジュアルイメージから、本の魂を守り、その魂を文豪として呼び出す存在として、「特務司書=アルケミスト」というプレイヤー像も確立していきました。こうして『文豪とアルケミスト』、通称『文アル』の世界は生まれたんです。

コンシューマゲームと運営型ゲームでは、作り方の骨子が違います。コンシューマは映画的で、物語が終わることが前提にあります。プレイヤーの皆さんは、物語が終わることに価値を見出しています。それに対してブラウザゲームやスマートフォンアプリは終わらない物語、連載マンガに近い感覚です。長期連載しているマンガは、連載中のほうが単行本は多く売れ、連載が終わると集めていた単行本を売却してしまう人もいると聞いています。これは続いている世界に価値を感じて、お金を払っているからではないでしょうか。『文豪とアルケミスト』も連載漫画と同様に、終わらない世界を価値として提示しています。

終わる物語を作る場合は、エンディングで世界観やシステムを破壊・収束させると世間に評価されやすい傾向にあります。例えば戦争を描く作品の場合、その戦争が集結すれば、自然とエンディングに向かいますよね。このようにシステムを壊して物語を終わらせると感動を呼び、評価もされやすいので多くのシナリオライターが書きたがります。しかし、システムを終わらせる物語を書くのはある意味簡単ではないでしょうか。新しいシステムを提示して、いつまでも続いていく様な物語の創出。難しいかもしれませんが、是非挑戦してほしいですね。

2018年にはメインストーリーの配信も始まりましたが、これはまだ「起」の部分です。今後はこの世界の「アルケミスト」とは? 本の世界とは? など『文豪とアルケミスト』の世界観をより掘り下げていきます。春頃には次章を追加し、より多くの文豪を登場させたいと思っています。現在は金沢三文豪など文学館とのタイアップや、新潮社など出版社との取り組みを行っていますが、これらも引き続き頑張っていきますよ。また、大好評でした朗読CDの第二弾も計画が進行中です!どうぞお楽しみに!

『アルティメット人狼』はデジタルでは実現できない

最近は、『アルティメット人狼』というリアルイベントの主宰もしています。僕自身、最初は社内でプレイするだけだったのですが、人狼を題材とした舞台『人狼TLPT』を見てから、その見方はガラリと変わりました。「ゲームをプレイする姿を見せることに、お金を払うほどの価値が生まれるのか!」とね。

特に驚いたのは、人に見せることによってゲームデザインさえも変わって見えたことです。プレーヤーは自分が勝つことと同時に、観客が楽しむことも考えなければいけない。これはプロスポーツに通じるところがあります。

ゲームクリエイターや役者、タレント、将棋棋士などさまざまな職業の人々人を揃え、演技ではなく素の状態で人狼を見せて楽しんでもらおうと考えたのが『アルティメット人狼』です。それぞれが職業の肩書にプライドをもって戦っていて、ゲームが上手いのは誰なのか、頭が切れるのは誰なのかを競う。まさに新しいエンターテインメントの形だと思います。多くの方に会場まで観に来てほしいですね。

また、十人以上が同時に思考し、言語を駆使し自由に行動するのは、現在のデジタルゲームではまだ再現できません。ただ楽しむだけでなく、新しいゲームの可能性を模索している一面もありますね。

元々デジタルゲームが挑戦したことは、ゲームマスターのデジタル化です。一方でプレイヤーのデジタル化はまだまだ発展途上です。その点、人狼は13人のプレイヤーが同格であり、それぞれが思惑をもっています。これをデジタルに落とし込むのは時間がかかりますし、人狼アナログゲームにしかない魅力と言えるでしょう。

今後のゲーム業界のトレンド、そして自身が目指すもの

2017年はコンシューマゲームが復権した1年になりました。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が世界的に評価されたのは記憶に新しいですね。復権した日本のコンシューマゲームが、その次のステップをどのように提示できるのかが今後の課題だと思います。

スマートフォンだと『アズールレーン』などのヒット作が海外から生まれるようになりましたね。これまでの日本のスマートフォンゲームは保守的なところがありましたが、海外の流れを受けてどう変わっていくかが大きなテーマになると思います。

僕自身は独立してからゲーム以外にもアニメや実写作品、舞台など、幅広いジャンルにチャレンジさせてもらいました。この経験を踏まえ、ゲームやアニメといったコンテンツが連動する新しいメディアミックスに挑戦したいです。既存のメディアミックスだと、成功しても特定のコンテンツだけが突出してしまう傾向にありますが、それぞれのメディアの特徴を最大限活かし、すべてがメインに成り得る作品を作りたいですね。

ゲーム業界は30年以上の歴史がありますが、依然として市場は拡大を続けているので、若い方にもどんどんチャレンジしてもらいたいです。ただし、コンシューマゲームは終わることに価値のある物語、運営型ゲームは続くことに価値のある物語であることを忘れないでください。つくりたい世界はどちらに適しているのかを冷静に見極め、自分に適したフィールドを見つけてほしいですね。

インタビュー・テキスト:岸 由真/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:CREATIVE VILLAGE編集部

作品情報

©DMMGAMES/文豪とアルケミスト

近代風情が漂う平和な時代に、突如として文学書が全項黒く染まってしまう異常現象が起きる。
それに対処するべく、特殊能力者“アルケミスト”と呼ばれる者が立ち上がり、文学書を守るため文学の持つ力を知る文豪を転生させる。

再びこの世に転生せし文豪たちが綴る、もうひとつの文学譚――――……「文豪とアルケミスト」始まる。

オフィシャルサイト

▼文豪とアルケミスト
https://bungo.dmmgames.com/

▼アルティメット人狼チャンネル
http://ch.nicovideo.jp/ujin