フジテレビ系で毎週木曜深夜に放送中のアニメ『ね子とま太』。ゆるカワなキャラクターが繰り広げる何気ない会話がおもしろいし癒やされると話題になっています。監督・脚本・キャラクターデザインを手がける尾中たけしさんは、イラストレーターやグラフィックデザイナーを経て「アニメが自分にいちばん合った表現手段だと気づいた」と言います。今回は、これまでのキャリアから『ね子とま太』誕生秘話などを伺いました。

尾中 たけし(おなか・たけし)
1976年4月2日生まれ。横浜出身。Flashアニメ作家・キャラクターデザイナー・脚本家。
主にショートギャグアニメを手がける。最近の作品としては「ネコこのゴロ」(監督)、「ぶっぷな毎日」(監督・脚本・キャラクターデザイン)を手がけるほか、脚本家として「ふりぃき〜はいすく〜る」「クリオネの灯り」「おにゃんこポン」に参加。シリーズ構成も手がける 。そして、現在、フジテレビの深夜に放送中のショートアニメ「ね子とま太」は好評につき前番組からの異例の引っ越しを果たし、DVD等のグッズ販売やイベント開催など、様々な展開を見せている。現在、新作ショートアニメを鋭意製作中。

何もかも手探りでもがき続けたデザイナー時代

僕、今はアニメやキャラクターデザインに関わる仕事をしてますが、元々はこれを仕事にしようとは思ってなかったんですよ。大学も普通の四年制で、当時は将来のビジョンなんてほとんどなかった(笑)。大学生でありがちな「このままじゃダメだ」「将来、スーツ着たくない」的な時期に、いっちょまえに将来、自分がやりたい事を見つめ直した時に、昔から絵を描くが好きだったので「キャラクターを描く人になりたい」と思ったんです。それから夜間にイラストの専門学校に通ったりしながら、イラストを描いてました。そうしたら在学中からちょっと仕事がくるようになり調子にのっちゃって。「これはイケる!」と思い、キャラクターデザインができるイラストレーターを目指すようになりました。

今思うと、たった2〜3回雑誌に載ったくらいでいい気になっちゃったんですけど、卒業後に営業回りを続けても結局仕事にはつながらず、「このままじゃダメだ」と思ってアパレルのグラフィックデザイン会社に入社。数年後、独立してフリーランスのグラフィックデザイナーとして生計を立てることに。主には子供服のTシャツのプリント部分をデザインする、という仕事でした。元々カワイイものが好きだったので、子供服の既存のキャラクターをどう可愛く見せるかっていうのが楽しくて、充実感は大きくなっていきましたね。

次第にフリーランスでも安定はしてくるんですけど、安定してきたらしてきたで「あ、コレが本当にやりたいことじゃないかも、このままずっとこの仕事してていいのかな?」って葛藤が生まれてきて、独学でアニメーション制作を始めたんです。

表現手段を変えたら、世間の評価も一気に変わった

アニメを始めるまでは、キャラクターを描いても4コマ漫画を描いてもいまいち反応が良くなくて・・・。もちろん自分では良いと思って世に出しているので「ぼくの良さを理解できない周りがいけないんだ」って、ありがちな感じになってて。でも、今まで描いていたようなテイストは変えずにアニメーションにしてみたら、反応が良くなったんですよね。ライブドア主催のコンテストに出したら賞も頂いて、それからアニメーションを作るようになりました。

営業に行っても評判が良くて仕事を頂けるようになり、最初はテレビ番組のオープニングアニメ制作や、子ども向けミュージックビデオなど、しばらくして現在のような監督業もやるようになりました。「このアニメを作ってる人にキャラクターデザインをお願いしたい」と言われることも。

イラストだけでは評価されなかったのに、アニメになった途端色々な方が評価してくれるようになったとき、絵だけだと僕の伝えたいことが伝わってなかったのかな〜と。まぁ、ぼくの技術が足りてなかったっていう事だけなんですけど・・。アニメという手段を使うことによって「尾中たけしってこんなことを考えてるんだ」と伝えることができた。今までよりも僕の脳みそを形にしやすいというか、一番フィットしたのがアニメだったんですね。

初めて書いた企画書から生まれた「ね子とま太」

それからはあっという間にアニメの仕事がメインになり、ありがたい事に「こんな企画があるからやってみない?」と声をかけていただけるようになりました。それと並行して自分がやりたいことを追求してみようと思い、僕なりにマーケティングもして企画したのが「ね子とま太」だったんです。

ほぼほぼ初めて書いた企画書だったんですが、実際に声入れまでしたサンプルも作って見てもらったらフジテレビさんが「是非やりましょう」ということで気に入ってくれて。番組化されるなんてラッキーだし、純粋に自分がおもしろいと思うものを形にできたのはターニングポイントでした。

「ね子とま太」はとにかく「空気感」と「間」を大事にして作っています。なんともいえない心地いい雰囲気が出せたらな・・と。こんな雰囲気を演出するのが「尾中たけし」だ、と伝えられるのは楽しいです。

セリフのために日々常に思いついた言葉はネタ帳にストックしています。作り方としては、2人での会話を自分でしゃべってみて、間合いとかも全部決めて、それに合わせてアニメをつけてから声優さんに見てもらうというやりかたなので、世界観をかなりきっちり作り込む方だと思います。アニメからいろんな企画が生まれて、自分が作ったキャラクターが自分の手を離れて勝手に生きていくようになるのが特に嬉しいかな。

「キャラクターを生かしたい」というのが、僕がクリエイターになる上での大前提だったこともあるので、演者さんがキャラクターを理解して表現してくれたり、見てくれる方が作品からいろんなことを読み取ってくれたりすると「うわぁ、キャラが生きてる!」ってとにかく嬉しい。これからも半永久的にダラダラ続けていきたい作品なんですけど、すごく化けて爆発的にヒットしてくれないかな、っていう欲もあります(笑)。

自分だけの武器を探すのもが大事

僕の場合、フラッシュアニメは独学で勉強してきたけど、今の世代の子達はみんな学校で勉強したりできるみたいだから、技術力が高いと思うんです。みんなすごいですよね。だからこそ、技術力以外で自分だけの武器を持ってないと辛いのかなっていう気もします。

そして、遠回りすることも無駄じゃない。僕も最初はすぐキャラクターを描いて一攫千金できると思ってたけど全然うまくいかず(笑)、回り道してる途中にいろいろな出会いがあって、自分を見つめ直せる機会もあった。そんな、当時は「こんな時間、無駄〜」て思ってた時間が、今となっては大事だったんだなって。「あの時間は無駄じゃなかったんだ」って言えるように努力はしていかないといけないなと思ってます。技術はたぶん後からついてくるんで、どれだけ自分がやりたいことに対して真摯に向かい合えるかが勝負。真摯に向き合っていれば、それを理解して評価してくれる人は現れるものなんだと思います。

インタビュー・テキスト:上野 真由香/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:CREATIVE VILLAGE編集部