「適法に著作物を利用するには許諾が必要!」など、これまでに数回にわたり著作権侵害とならないための著作物の利用について解説してきました。
しかし、中には許諾手続を行うこと無く自由に著作物を利用できるケースもあるのです。それが「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCL)」。
ただ、実際の利用にあたっては、「結局どこまで利用できるの?」「説明文を読んでもいまいちどう使っていいかわからない」という疑問の声も聞かれるのがCCL。
今回はそんなCCLについて、迷いなく、CCLの特徴を理解して利用していただけるよう、CCLの歴史や存在意義にも理解を深めていただけるように解説します。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンスとは?

文章や画像、動画、音楽など、幅広い創作物に利用することができる「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」(以下CCL)。
基本的な概念としては、著作権を放棄するのではなく、権利者が著作権を保有したままで、ある一定の条件に従うことで自由に利用することが可能となるもので、そういった点では前回のテーマであるOSSライセンスによく似ています。

現在では多くのサイトやプロジェクト、作品などでもCCLが採用されています。
例えば文章であればWikipedia が有名ですし、動画であればYouTube動画の一部にCCLが採用されており、投稿時にYouTube標準ライセンスの他にCCLを選択できるような仕様となっていたり、写真であれば米Yahoo!が運営するオンライン共有サービス「Flickr」なども有名です。

こうしたCCL、そもそも何を指すのか、どのように運営されているのか、ご存知ですか?
単に「クリエイティブ・コモンズ」と言った場合、ライセンスそのものを指して使われていることもありますが、厳密にはCCLを提供している国際的な団体の名称です。
2001年にアメリカで創設され、現在では85を超える国や地域にその活動が広がっていますが、日本ではNPO法人が運営する「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」(CCJP。2003年創設)がCCLの日本語版の発表や日本国内での啓蒙活動などを積極的に行っています。

無許諾で複製・改変できる「CC0」

CCLでは権利者は著作権を放棄せずに権利を保有したままで権利者以外に利用を許諾する形となりますが、それとは別に、著作権を放棄する「CC0」というものもあり、CC0が付けられた著作物は特定の条件に依らずに無許諾で複製、改変などができることになります。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを利用しよう

自身の著作物をCCLで公開する方法は、とても簡単です。
CCのサイトから2つの質問に答えるだけで、採用するライセンスを決めることができます。

ウェブサイトで公開する場合は、上記サイトから取得できるHTMLコードを利用することで、サイトなどにライセンスバナーを表示させることができます。CCLでは以下の4つの条件が定められており、それらを組み合わせて著作物に関する利用可否を決め、その条件と共に著作物を公開するだけです。
・表示(Attribution, BY):利用時に著作権者名の表示を求める
・非営利(Noncommercial, NC):利用できるのは非営利目的に限定
・改変禁止(No Derivative Works, ND):利用の際に一切の改変を禁止
・継承(Share Alike, SA):改変して生まれた著作物に対しても元の著作物と同じ条件を継承させる

なお、上記のうち「改変禁止」と「継承」は同時に採用できず、また「表示」は常に採用する必要があるため、条件の組み合わせとしては全6種類となります。

例えばWikipediaの文章は「CC BY-SA 3.0」表示-承継ライセンスのため、出典元ページへのリンクを貼ったり、頒布する場合は同じライセンスを適用したりすることで、執筆者と交渉して許可を得ることなく、無断で全文をコピー・改変して利用することができます。
この「表示」と「承継」を守るだけで“無断で全文を転載”できることが、法律により例外的に一部分のみの無断利用が認められている「引用」(著作権法32条)とは大きく異なる点であると言えます(ただし改変した場合は改変箇所の明示も必要)。

私のブログ「著作権のネタ帳 」もCCL(表示-非営利-改変禁止 CC BY-NC-ND)の下で公開されているため、ページ最下部にライセンスバナーが表示されており、クリックすると条件をわかりやすく記した「コモンズ証」が表示されるようになっています。

CCLを採用した著作物は常にその条件に従うことが求められるわけではなく、権利者はCCL以外の条件を付けて(あるいは条件を付けずに)著作物を他人に利用させることもできます。
例えば、「表示−非営利(CC BY-NC)」を採用している音楽でも、権利者との交渉で許諾を得られれば営利目的で演奏することができます。

なお、CCLはネット上にアップされている著作物のためのライセンスというイメージが強いですが、ネット上にはない、オフラインの著作物に対してもライセンスを明示することで採用することができます。

完全に自由利用できる、とは限らない?!~CCLの落とし穴

ライセンスが影響するのは著作権だけ

一般的にパブリック・ライセンス(※後述)は著作権に限って許諾などを明示するものですので、他の権利(肖像権やパブリシティ権など)には影響がありません。
例えば特定の人物が被写体となっている写真を利用した場合に、その人物から肖像権侵害を理由に差止を求められることも考えられますので、利用の際は十分ご注意ください。

著作者人格権にも要注意

パブリック・ライセンスの著作物を利用する際に注意が必要となるのが、著作者人格権への配慮です。
パブリック・ライセンスにより無断改変が許可されていたとしても、著作者人格権は譲渡も放棄もできない以上、その一つである「同一性保持権」が関係してきます。OSSライセンスでは、対象がソフトウェアという人格権が及びにくいものであるため、通常大きな問題にはなりませんが、CCLの場合は異なります。

CCLでは、許諾者は著作者人格権を可能な限り主張しないことに同意するとされており、法的な解釈としては「著作者人格権の不行使を確約した」と考えられますが、この“可能な限り”という点が曲者で、解釈に依っては著作者人格権を行使できるとも考えられます。
その点、以前のCCLでは著作権法113条6項が尊重され「名誉・声望を害するような改変」に対しては著作者人格権を行使できることが記されていましたが、現在のバージョン4ではこういった内容が削除されています。

しかし、明示されなくなったとはいえ、このような改変に対して権利者は権利行使できる可能性は高いため、トラブルにならないよう注意が必要です。

その他のパブリック・ライセンス

CCLやOSSライセンスのようなパブリック・ライセンスには、他にも次のようなものがあります。

ピアプロ・キャラクター・ライセンス

「初音ミク」などのボーカロイドキャラクターの権利を有するクリプトン・フューチャー・メディア株式会社が策定したライセンスで、先述のキャラクターの二次創作物を作成したり、その二次創作物を上演、公衆送信したりすることができるものです。
それまでは何となく容認されていると考えられていた“グレーゾーン”領域に対し、権利者が一定条件下での二次創作を公式に認めたことにより、適法な創作活動が活発に行われてキャラクターの更なるヒットへと繋がったのではないでしょうか。

同人マーク

漫画家の赤松健さんが発案し、CCJPの活動母体であるコモンスフィアが公開しているライセンスで、原作者が、自身の作品を二次創作して同人誌を作成することや、その頒布を許可することを表明するマークです。
あくまで二次創作して生まれた同人作品の複製や頒布を認めるもので、元となった作品(原作者の作品)をそのままコピーすることは認めていない点がCCLと異なります。

自由利用マーク

著作権を管轄している文化庁が2003年に制定したマークで、そのままコピーしたり配布したりすることを許可する「プリントアウト・コピー・無料配布」OKマーク、学校教育での利用に限りコピーや配布、改変などあらゆる非営利目的利用を認める「学校教育のための非営利目的利用」OKマーク、障害者が使う場合に限りコピーや配布、改変などあらゆる非営利目的利用を認める「障害者のための非営利目的利用」OKマークがあります。
しかし、ほとんど普及していないため、2013年以降は使用が推奨されず、代わりにCCの利用が推奨されています。

自由利用により文化の発展に繋がる

CCLが生まれた背景~創作物をより多く広め利用してもらうために

なぜCCが生まれ、CCLというライセンスが求められるようになったのでしょうか。

文章や画像、動画、音楽といった創作物は基本的には著作物であることから、それらの創作物に対して複製や演奏など利用する場合には著作権者の許諾が必要となります。
日本の著作権法では、制限規定として著作権者の許諾が無くても利用できる場合というのをいくつか定めていますが、それはあくまで限定的で、実際には利用においては権利者の許諾が必要であることが多いです。
しかも、その創作物は、現行法では 著作者の死後50年経過するまでというとても長い保護期間が定められています。

現状は、こうした利用に関する高いハードルがあるばかりに「許諾が必要だから面倒だ」と利用を躊躇してしまったり、許諾を得ずに勝手に利用した場合には、著作権法違反として何らかの償いが求められるリスクも生じます。
これでは、権利者だけでなく利用を希望する者の双方にとって不利益となります。

そこで考え出されたのが、著作物を公開する時に「自由利用できる条件」を最初から明示して、その条件を守れば権利者以外の不特定多数の人に対して利用を許諾するという「パブリック・ライセンス」と呼ばれる仕組みです。
利用者に対して個別に許諾するのではなく、ある条件の下に広く一般的に許諾しておくことで、利用者としてはその条件を守るだけで個別の権利処理を行わなくても適法状態で利用でき、また権利者にとっても逐一許諾する手間が省けて広く利用してもらえるチャンスとなります。
この仕組みはOSSライセンスとも共通するもので、著作物の利用が容易となったデジタル、インターネット社会において、とても重要なものとなっています。

CCLやその他のパブリック・ライセンスは、自由に利用できるとは言っても、著作権を放棄しているものではありませんので、しっかりとライセンス(許諾)内容を確認し、その条件に従って利用するようにしましょう。
うまく利用することで自身の創作の手助けになることもありますし、何より創作と流通の連鎖により著作権法の目的である“文化の発展”に大きく寄与するものであると思います。

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