テレビ業界の現場を支える「アシスタントディレクター(AD)」。
番組制作の裏方として、リサーチ・資料作成・ロケ準備・収録進行など幅広い業務を担当します。やりがいを感じる瞬間もありますが、同時に激務・長時間労働・低賃金という厳しい現実もあります。

「もう限界かも」「このまま続けても将来が見えない」
そう感じて転職を考えるADは、実はとても多いのです。

そして近年では、「テレビ業界の別職種」ではなく、まったく異業種にキャリアチェンジする人が増えているという特徴があります。
本記事では、ADの離職率が高い理由から、異業種転職の実情・成功のコツまでをわかりやすく解説します。

なぜADの離職率は高いのか?テレビ業界の現実

AD(アシスタントディレクター)が業界全体で離職を選びやすい背景には、テレビ制作という現場の構造・労働環境・将来展望の三つが複雑に絡み合っています。

まず、定量的な傾向として。「ADの離職率は、ほかの職種/ほかの業界と比べても明らかに高い」と指摘されており、例えば「入社したADのうち、1年で半数が辞める」という“50%程度”という声も報告されています。
また、業界研究系サイトでは「テレビ番組制作会社では人の入れ替わりが比較的激しい業界である」と明記されています。
これだけでも「なぜ辞める人が多いか」という問いを無視できない状況です。

では、具体的にどのような構造・実態が“離職”を後押ししているのか、以下に詳細に見ていきます。

激務・不規則な労働環境

ADの仕事は、番組制作という現場の“裏方”でありながら、準備・ロケ・収録・編集といった各フェーズで幅広く動き回ります。結果として、「スケジュールが押す」「連勤になる」「終電/始発での移動」「寝られない」「休日がほとんど取れない」というパターンが少なくありません。たとえば、体験談として「週に1日休めればラッキー」「2〜3週間連勤だった」「帰り道に涙が止まらなかった」という声が報告されています。
また、あるブログでは「私のいた制作会社では1年で離職率50%だった」「入社20人→2年目10人→5年目0〜3人」という具体的な数字も紹介されています。
こうした過酷さが、身体・精神どちらにもダメージを与え、離職を早める要因となっています。

低賃金・待遇と仕事量のギャップ

テレビ業界というと華やかなイメージがありますが、ADの立場ではそのギャップが大きく、不満要因になりやすいです。ある調査では、「ADの給料は他業界の新卒入社者とほぼ変わらない」「休みが取れず、長時間労働の割に収入が低め」という実態が報告されています。
また、「労働時間が過度に長く、休息も十分ではないため、待遇面で割に合っていないと感じる」という言及もあります。
労働のハードさと報酬・待遇のアンバランスが、モチベーション低下→離職へとつながってしまうのです。

将来展望・キャリアパスの不透明さ

ADとして働き始めた人の多くは「いつかディレクターやプロデューサーに昇格したい」「テレビ番組を自分でつくりたい」という夢を持っています。しかし現実には、ディレクターになるまでの時間が長く、成果や昇格の目安が曖昧なことも多く、「このまま続けていいのか」という不安を感じる人が少なくありません。実際、制作会社のAD経験者向けの記事では「入社したADのうち、ほとんどがディレクターやプロデューサーになることを諦めて離職してしまう」という記述があります。
また、「テレビ離れ」「広告収入の減少」「制作体制の厳格化」など、業界構造の変化も背景にあり、テレビ番組制作という職域そのものの将来不透明感が離職を後押ししています。

制作現場の下請け構造・重責の集中

テレビ番組制作は一般的に、キー局→制作会社→下請けスタッフというピラミッド型構造をとっています。この構造の中で、特にADの役割は“現場で動く最後尾”となることが多く、予算・スケジュール・クオリティといった重責が下請け層に集中するケースが多いです。あるノート記事では「下請け制作会社に予算や納期の厳しさがしわ寄せされ、ADなど下位スタッフが過酷な条件に置かれている」と指摘されています。
このような構造的な負荷の集中が、離職の背景として無視できません。

メンタル・フィジカルの負担

長時間労働・寝られない・休めない・先輩や上司からの指示・急な変更対応……。こうした累積が、心身の疲労・燃え尽き症候群・体調不良などを引き起こします。体験談の中には「帰り道に突然涙が出た」「食欲がなくなった」「上司からのLINE通知を恐怖に感じた」というものがあります。
そして、そのまま「もう限界だ」と辞める選択をする人が一定数おり、この“人が辞める扉”としての条件が揃ってしまっているという現実があります。

同業界ではなく“異業種転職”を選ぶ人が多い理由

テレビ業界のADは、単に「仕事がきついから辞める」だけでなく、その経験をもとにまったく別の業界で働くことを選ぶ人が多いのが最近の特徴です。これは一言で言えば「業界そのものの構造的な問題」と「AD個人のキャリア志向」が合わさって生まれる現象です。以下、理由をつなげて説明します。

まず前提として、ADの退職・離職は業界内でも顕著であり、制作現場の入れ替わりは多いと複数の業界系メディアが指摘しています。制作会社の現場関係者インタビューや業界向け調査では、「入社後1年での離職が多い」「ADは人の入れ替わりが非常に激しい職種である」といった指摘が繰り返されており、これがそもそも“異業種へ逃げる/移る余地”を大きくしているのです。

次に、なぜ多くのADが同じ業界内のキャリア(例:AD→ディレクター)ではなく、異業種を選ぶのか。背景は主に次の3点が連動しています。

「働き方の改善」への強い欲求

ADという職は、短期的にはやりがいや達成感があっても、長期的に見れば不規則で過重な労働が常態化しがちです。多くのADが「同じ業界で役職を上げても労働の質(長時間・不規則さ)が根本的に変わらない」と感じており、ワークライフバランスや心身の回復を優先して、まったく別の業界へ移ることを選びます。Web系や一般企業のオフィス系職種に移る人が多いのは、この「労働条件の改善」を最優先する判断によるものです。

「スキルの汎用性」に対する自覚と市場の受容

ADで鍛えられる段取り力、対人折衝力、トラブル対応力、情報整理力は、放送業界特有ではなく多くの業界で価値がある汎用的スキルです。転職市場でも「映像制作経験者=プロジェクトを動かせる人」という評価が広がり、広告・Web制作、広報、イベント運営など、AD経験を歓迎する領域が存在します。したがって、ADが自身の市場価値を冷静に評価し、異業種へスムーズに移行できる道が実際に開かれているのです。業界向けの転職案内や成功事例も増えています。
フォーミュレーションI.T.S. – 東京都のエンタメ業界人材会社
+1

業界の将来不安と構造的な制約

放送ビジネス自体が広告収益構造の変化や配信サービスの台頭で変容しており、テレビ制作現場のポジションや報酬・待遇に将来不安を感じる人が増えています。加えて、制作会社のピラミッド構造(キー局→制作会社→下請け)により、昇進や待遇改善の機会が限られている場合が多く、「ディレクターになれる/なれない」の閾値が高いと感じる若手ほど、早期に別業界での安定や成長を選ぶ傾向があります。こうした業界構造の不透明さが、異業種へ流れる一因になっています。

この三つの要素は単独で働くのではなく、重なり合って作用します。
たとえば、激務で体調を崩したADが「同業でがんばれば環境が良くなる」とは思わず、かつ自分のスキルが他で評価されうることを知っている場合、異業種移行のハードルは一気に下がります。
逆に、スキルの言語化や転職市場の理解が乏しいと同業内での再チャレンジを選ぶこともありますが、近年は転職支援や事例が増えたことで「異業種移行は現実的な選択肢」になってきています。

最後に心理面の側面も見逃せません。テレビ制作の現場で繰り返されるストレスや“業界そのものへの失望”は、個人のアイデンティティや価値観を問い直す契機になります。
多くの人が「このままでは自分の人生が犠牲になる」と感じるとき、新しい業界で“自分らしさ”や“働き方の尊厳”を回復したいと考え、異業種へ踏み出すのです。
こうした決断は感情的な側面だけでなく、合理的なキャリア選択でもあります(労働条件、成長機会、収入の期待値などを総合的に勘案した結果)。

AD経験は無駄にならない!異業種でも活かせるスキルとは

AD経験は無駄にならない!異業種でも活かせるスキルとは
「テレビ業界を離れたら、自分には何も残らないのでは?」
そう不安に感じる人は多いですが、実はそれは大きな誤解です。
ADの仕事は、どの業界にも通用する“汎用性の高いスキル”の宝庫です。

まず注目すべきは、「スケジュール管理力と段取り力」。
ADは、出演者・カメラマン・照明・ロケ地・編集スタッフなど、多くの人と工程を調整しながら撮影を進めます。
限られた時間・予算の中でミスなく進行させるための調整力は、まさにプロジェクトマネジメントそのものです。
この能力は、Web業界のディレクターや広告代理店の制作進行、さらには一般企業の企画・運営職でも高く評価されます。

次に、「コミュニケーション力・交渉力」。
ADは毎日、上司・タレント・外部スタッフなど、立場の異なる人たちと話し合い、意見をまとめ、現場を動かします。時にはトラブルの火消し役となり、即興的に解決策を提示することも求められます。
こうした経験は、営業・広報・PR・カスタマーサポートなど、あらゆる職種で価値のあるスキルです。

そして、「情報収集・リサーチ力」。
番組企画を立てる際には、膨大な情報を調べ、要点を整理し、他者にわかりやすく伝える力が求められます。
このスキルは、マーケティング・編集・コンテンツ企画・Webライティングなど、データを扱う仕事にそのまま応用できます。

また、「臨機応変な対応力とストレス耐性」も、ADならではの強みです。
ロケが急に中止になったり、タレントが遅れたり、機材トラブルが発生したり——そんな“予定通りにいかない状況”を何度も乗り越えてきた経験は、どんな職場でも重宝されます。
「どんな状況でも落ち着いて対応できる」ことは、社会人として非常に高い評価を受けるポイントです。

さらに忘れてはならないのが、「チームワークと責任感」。
番組はひとりでは作れません。スタッフ全員が連携し、限られた時間で最高のものを仕上げる必要があります。
そのため、ADは常にチームの一員として“誰かのために動く力”を磨いています。
この姿勢は、どの職場でも信頼される人材の条件です。

つまり、ADとしての経験は、

  • 段取り力・調整力(=管理職・ディレクター職に直結)
  • コミュニケーション力・交渉力(=営業・広報・PRで活かせる)
  • リサーチ・情報整理力(=マーケティング・編集職に応用できる)

といった形で、異業種での強みとして転用できるスキルの集合体なのです。

「ADを辞めたら終わり」ではなく、「ADを経験したからこそ、次のキャリアで輝ける」——。
そう考えられるようになると、転職活動は一気に前向きになります。

ADからの異業種転職先おすすめ6選

① Web・広告・デジタル業界(Webディレクター/マーケ職)

テレビ番組制作で培った段取り力・進行管理能力は、Webや広告業界で非常に重宝されます。
たとえばWebディレクターとして、クライアントの要望を整理し、デザイナーやエンジニアと連携してサイト制作を進める際、AD経験で鍛えた「限られた時間で複数タスクを調整する能力」が役立ちます。
また、広告代理店でのマーケティング職では、企画立案力や情報整理力、取材・リサーチ能力を活かせます。
給与水準や勤務時間も比較的安定しており、ワークライフバランスを重視した転職先として人気です。

② YouTube・動画制作業界

AD経験者にとって、映像編集・企画スキルはそのまま動画制作の現場で活かせる武器になります。
YouTubeチャンネル運営や企業の動画コンテンツ制作では、AD時代に培った「ロケ・収録管理」「編集の進行管理」「スケジュール調整」が大きな強みとなります。
特にフリーランスで活動する場合、自由度が高く、働く時間や案件を自分で選べるのもメリットです。
また、動画広告やSNS動画マーケティングの需要が増えているため、AD経験者が企業に採用されるケースも増えています。

③ 広報・PR職

テレビ番組制作で身につけた「情報整理力・リサーチ力・コミュニケーション力」は、企業広報やPR職にそのまま応用可能です。
プレスリリースの作成やメディア対応、社内外の関係者調整など、AD経験者が慣れ親しんだ業務内容と似ている部分が多く、初日から戦力として活躍できることが多いです。
さらに、テレビ業界のネットワークやメディア知識を活かして、メディア露出の戦略立案にも貢献できます。

④ イベント制作・空間演出業界

ADが現場で培う「段取り力」「トラブル対応力」「人の動かし方」は、イベント制作・空間演出の現場でも直結します。
展示会や企業イベント、コンサート・舞台制作では、ADのように現場進行を円滑に進める能力が必須です。
また、急な変更への対応力や調整力は、この業界で非常に評価されます。
労働時間はテレビ業界に比べて安定するケースが多く、ワークライフバランスを改善したい人におすすめです。

⑤ 一般企業の事務・企画職

テレビ業界を離れて一般企業で働く場合、AD時代に培った段取り力・情報整理能力・コミュニケーション力が大いに活かせます。
特に企画職や営業事務では、社内外の調整やスケジュール管理が求められるため、AD経験者は即戦力となることが多いです。
さらに、収入や勤務時間が安定しており、心身の健康を優先したい人には最適な選択肢です。

⑥ フリーランス(映像編集・ライター・SNS運用など)

AD経験者がフリーランスとして活躍するケースも増えています。
映像編集スキルや企画力、リサーチ力を活かして企業案件やYouTube動画制作、SNS運用など幅広い仕事に挑戦可能です。
メリットは自由度が高く、自分のペースで働けること。
デメリットとしては安定性や収入に波があるため、事前に営業力や案件獲得方法を学んでおく必要があります。

ADから異業種転職を成功させる3つのステップ

ステップ① 自己分析で「続けたいスキル」と「捨てたい働き方」を整理

異業種への転職を考えるとき、まず必要なのは自己分析です。
ADとしての経験を棚卸しし、「どのスキルを今後の仕事に活かしたいか」「どの働き方は二度としたくないか」を整理することが重要です。

例えば、ADとしての段取り力や調整力は他業界でも高く評価されますが、過酷な長時間労働や休日出勤の多さは避けたい、と考える人も多いでしょう。
この自己分析を通じて、自分に合った業界や職種の方向性が明確になります。
また、自分の価値観やライフスタイルも見直すことで、「無理のないキャリア設計」が可能になり、転職後のミスマッチを減らすことができます。

ステップ② AD経験を“言語化”して履歴書・面接で伝える

異業種転職では、AD経験を単なる「現場仕事」として説明するだけでは不十分です。
採用担当者に「この経験は自社でどのように活かせるか」を伝える必要があります。

例えば、

  • 「番組制作で複数のタスクを同時進行し、納期通りに完成させた」
  • 「関係者間の調整を通じてプロジェクトを円滑に進行させた」

といった形で具体的な成果やプロセスを数字や事実で表現すると、経験の価値が伝わります。

この“言語化”によって、AD経験が異業種でも評価される「汎用スキル」として認識され、採用の可能性が格段に高まります。
特に、プロジェクトマネジメント力や調整力、情報整理力は、Web・広告・イベント・広報などの職種で即戦力として活かせるスキルです。

ステップ③ AD出身者を理解してくれる転職エージェントを活用

異業種転職を成功させるには、業界や職種に詳しい転職エージェントのサポートが不可欠です。
AD出身者に理解のあるエージェントは、職務経歴書の書き方、スキルの言語化、面接対策まで具体的にアドバイスしてくれます。

さらに、AD経験者を歓迎する求人情報を持っているため、効率的に応募先を絞り込むことができます。
特にクリエイティブ業界や広告・Web業界では、AD経験者が持つ「段取り力」「コミュニケーション力」「トラブル対応力」が高く評価される傾向があります。
信頼できるエージェントを活用することで、未経験業界でも転職の成功率を大幅に高めることが可能です。

ADを辞める先に見える、次のキャリアの形

ADの離職率が高いことは、個人の能力や努力不足が原因ではなく、テレビ業界特有の構造的な課題によるものです。長時間労働や不規則な勤務、キャリアパスの不透明さといった条件が重なり、多くの人が離職を選ばざるを得ない現状があります。
しかし、こうした状況を経て、異業種への転職によってキャリアを再構築する人が増えています。ADとして培った段取り力・調整力・コミュニケーション力などの経験は、テレビ業界以外でも十分に評価され、活かすことが可能です。
転職は「逃げ」ではなく、自分の経験や能力を新しい環境で活かすための自然な選択です。無理に環境に合わせるのではなく、自分の働き方や生活リズムに合った職場を選ぶことが大切です。
もし今、ADの仕事を続けることに迷いを感じているのであれば、それは限界を示すサインではなく、新しいキャリアを考えるタイミングです。自分に合った環境でスキルを活かしながら、次の一歩を踏み出すことが、より充実した働き方につながります。