総合演出として『ヨルタモリ』(フジテレビ)など数々のヒット番組を手がけてきた渡辺資(わたなべ たすく)さん。現在は株式会社Candeeでライブ配信中に商品を購入できるソーシャルライブコマース『Live Shop!』アプリ内の番組コンテンツや『WANTED~キンコン西野逃走中~』、『アツシメーカー』などのモバイル動画番組の演出に携わっています。
テレビ番組制作とネット動画の両方で活躍する渡辺資さんに、Candeeでの仕事や、モバイル動画の未来について聞きました。

コメディ映画を創りたかった学生時代

もともとウディ・アレンのようなコメディ映画を撮りたいなと思っていたんですよ。でも就職氷河期真っ只中で、なかなか就職が決まらない。やっと受かったのがテレビの制作・人材サービスの会社でした。

フジテレビのバラエティ番組に配属されて『笑っていいとも!』のADを1年ほど経て、『ココリコミラクルタイプ』の担当になりました。コメディ映画をやりたかった僕からすると、コント番組はとても楽しかった。そこでふざけ半分で番組のPR動画を作ったら評判が良くて、何回か作ってみました。当時はパソコンで編集ができる人がほぼいなかったので、「あいつは違った事ができるぞ」と評価してもらえてディレクターになりました。

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少しずつ他の局からも呼んでいただけるようになって、10年前にフリーランスになったんです。
ですがフリーランスだとやれることは限られていますので自分の会社を作りました。そして3年前に「これからはスマートフォンで見るモバイル動画の時代だよ」と誘われて、Candeeの立ち上げに参画しました。

参画当初は、YouTube動画を作っていました。当時はまだ有名なYouTuberもいなくて、個人がそれぞれ発信する時代でした。あたかも個人がやっているんだけど実は演出が加わっている…という配信が増えてきたのは最近ですね。だから僕たちも人気のある個人の動画をマネしてばかりいましたね。コーラにメントスを突っ込んだり、みんなでスライムを作ったりというようなことをやっていました。

同時にその頃はLINE LIVEが始まるタイミングで、第1回目の映像制作協力をしていました。そんな試行錯誤を重ねるうちに「やっぱりプラットフォームがあった方がいいだろう」と、自社のソーシャルビデオプラットフォーム「Live Up!」構想が始まったんです。その第一弾として、2017年6月にソーシャルライブコマース「Live Shop!」 をリリースしました。

モバイル動画の面白さは、視聴者が行動すること

今はテレビの演出もするし、ネットのモバイル動画も作っています。テレビとネットの大きな違いは、視聴者にどうやって番組に参加してもらえるか。「Live Shop!」はライブ配信なので、リアリティを出すためにテロップもないですし、台本もありません。

『WANTED~キンコン西野逃走中~』は配信時間中に視聴者に捕まらないように西野さんが逃げ回るし、『アツシメーカー』は視聴者の指示でロンブー淳さんが次の行き先を決める。どちらも視聴者次第です。とはいえ、大枠の設定や、いつ何を画面に映すかは一緒に現場にいてこちらで決めます。すべてが視聴者の手に委ねられているわけではないけれど、どうすれば楽しんでもらえるかということを考えています。

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一番良いのは、視聴者に行動を起こしてもらえるように演出すること。例えば、昔、札幌すすきので美味しい物を食べる企画の最後に「ペンライトなどの光るものを持って公園に集合」と言ったら350人くらい集まったんです。その350人が真っ暗な公園でペンライトつけたので、良い画が撮れました。ただ、集客できるタレントは限られているのが難しいところです。テレビで人気があるからといってネットで注目されるとは限りませんから。

「Live Shop!」は現在、ユーザーの7割が20代後半までの女性です。主に彼女たちに向けて番組を作っています。
Candeeの特徴は、クオリティが高いこと。「Live Shop!」はすべてライブ配信で、性能の良いカメラで、専用のスタジオもあり、なにより自分たちで配信できるプラットフォームを持っている。さらに業界の中でも早い段階でスマートフォンの縦型視聴を取り入れたので、それに特化したライブ配信専門のクリエイターが社内にいます。縦型で動画が見られるのは最近ですが、きっとあと5年も経つとこれが普通になりますよ。これから求められるだろうクオリティの高い縦型ライブ配信に対する演出に関しては、Candeeは突出していると思います。

若い世代と一緒に創る

社内の若いメンバーは僕とは感覚が違うから、セルフ演出ができる人もいる。YouTuberみたいに人前で踊ったり動画に出たりすることに抵抗感がないので、自分でリハーサルをやったりしていますね。

また、社内にスタジオがたくさんあるので、若手スタッフだけでテスト撮影をしていたりもします。「こういうのを作ってみたんですけどどうですか?」と30分ほどの動画を見せてくれ、それについてコメントしたりもしています。そうして創ったものが本番の配信に活きていることもあります。自発的なメンバーが集まっているし、挑戦できる環境もありますよ。

彼ら若手のセンスや感覚と、僕が培ってきたテレビの知識を掛け合わせれば良いものができるんじゃないかと思うんです。彼らとの情報交換をするのが、社内で『資塾(たすくじゅく)』と呼ばれている場です。若い人の意見を聞いて、「それならこうすればいいよ、こんなことができるよ」と僕の持っている知識からコメントする。映像を演出するための取捨選択の引出しは経験上、僕の方が多いですから、彼らのやりたい事にプラスしてアドバイスできればと思っています。

とくに若い方は“足し算”をしがちなんです。例えば、この女性タレントを可愛くみせようとしたら、顔のアップと引きと手元という3つの画を選びがちなんです。けれども人が把握できるポイントって1つか2つしかないから、あまり要素が多いと視聴者が混乱する。そんな時には「引き算しよう」と言いますね。これは僕も若い頃に先輩によく言われたことです。

そういった大枠のアドバイスさえ出せば、あとはできあがった動画が良いか悪いかを言うだけです。ライブだから修正してから配信というわけにはいきませんが、配信後に「表現としてはもう少しこうした方がいいんじゃない?」と言えば次の配信では変わっていたりします。それを重ねていくと各自が発展系を考えられるようになっていきますよ。僕は一緒にアイデアを出すだけ。そういった経験のある創り手が財産となっているのがCandeeの良さでもありますね。

僕は総合演出という立場ですが、社内には制作、マネージメント、営業、経理などさまざまな部署があり、女性の多い職場です。平均年齢は30歳前くらいかな。若い人はみんなおしゃれな格好をしていて、短パンTシャツなのは自分くらいですよ(笑)みんな遅くまで働くこともありませんし、いわゆるテレビの制作会社に持たれているようなイメージの職場ではないですね。配信時間が遅いこともあるので、シフト制で14時出社の人もいます。社員の仲もいいですよ。休みの日には一緒に遊びに行ったり。まあ、僕は休日に職場の人と遊ぶタイプではないですけど……。

僕は平日21時以降と休みの日は仕事に関係のない人と会うようにしているんです。「自分はこんなことをやってるんだけどどう思う?」と他の業界の人に聞くと「あ、これが流行ってるんだ、こんなものを見てるんだ」と分かる。それを「Live Shop!」にどう取り入れようかと考える。

結局、視聴者は毎日モバイル動画のことを考えてない人だから、どういうものがあったらいいのかというのは市場調査が必要。異業種の友達に会うのはいいですよ。あとは映画も一通り見ていればいい。映画や映像のエンターテイメント性についての基本的なスタイルはアカデミー賞を全部見ていれば多分一緒だと思うんですよ。日本映画だったら黒澤明監督とかね。映像は先人の焼き直しだし、その変化球がテレビでありスマホでありエンターテイメント。
でも最近の流行りを知るのに一番いいのは、いろんな人が集まるバーに行くこと。流行り廃りがよく分かりますよ。

求める人材は「古い」と言える人

一緒に働きたいのは、“今”の情報を持っていて、それをオジサンに教えてくれる人ですね。流行っているものを知っていて、僕たちにちゃんと「古い」と言える人。世の中にはそんなこと言えない会社が多いと思うんですけど、僕は別に言われても「ああ、そうなんだ」と思うし、今の流行りに対してどう表現するかはいつの時代もあまり変わっていないんじゃないかな。

ごはんを美味しく食べるのと同じで、面白く撮ることはいつも同じ。フレームや台本の構成は年々新しくなっていると思うので、それは一緒に考えられればいいな。そのために、できるだけ考えを言いやすい環境をつくりたいと思っています。

もしこの世界に入りたいなら、入社面接では嘘をつかないでほしいな。テレビ出身の人がよく面接に来るんだけど、テレビが嫌で逃げたんだよね、と感じる人もいる。でも僕としてはCandeeの方が楽だろうなとは思われたくない。志は高い方がいいし、せめて、やりたかったけれどできなかったので次は頑張りたいと言う方がまだ素直でいいですよ。

これからのCandeeが目指す場所

今後はエンターテイメント性の高いモバイル動画の第一線に行きたいですね。これからはおそらくケーブルテレビが80年代に跳ね上がっていったように、アプリの世界でもモバイル動画の時代がくると思うんですよ。モバイル動画はもっと多岐にわたった方がいいと思うんです。いずれはアメリカのVice Media(バイス)がエミー賞を受賞したように、日本でもアプリが創った映画がアカデミー賞を受賞してもいいんじゃないかな。

モバイル動画はこれから5年くらいは、プロが創って拡散されるという時代が来るんじゃないでしょうか。Candeeもテレビと組むこともあるでしょうし、「Live Shop!」や制作した番組から次世代のスターが誕生してモバイル動画のいろんなチャンネルに出るようになったり…そうして社会的にCandeeが認められればいい。

テレビ業界もどんどん変化していくから、今30歳くらいの人はモバイル業界に来た方がいいと思いますよ。ここならテレビの仕事もできますし、これからの時代も創れます。Candeeは資本もあるし、資金繰りも堅実だし、横の繋がりもあります。またカメラやスタジオを完備しているのも特徴のひとつ。他の会社は制作を外注しているところが多いのですが、Candeeなら社内でクオリティの高いものを撮る環境がそろっているので、自分で番組を創ることができますよ。

(取材・ライティング:河野 桃子/編集:CREATIVE VILLAGE編集部/
撮影:TAESOO KANG/取材協力:株式会社Candee)

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会社プロフィール

Candeeロゴ
Candeeは2015年に設立以来、ライブ配信9800本以上、モバイル動画1300本以上を企画から制作・配信までワンストップで行なってきました。モバイル動画市場における知見を有する経営陣及びスペシャリスト集団のもと「新しい時代のカルチャーとスターの創出」をミッションに掲げています。
2017年6月、ライブ配信中に購入できるソーシャルライブコマース「Live Shop!」を提供開始し、ライブ配信におけるモバイル動画時代のトップランナーとして業界を牽引しています。

■ 社名  :株式会社Candee (英文: Candee, Inc.)
■ 所在地 :〒107-0062 東京都港区南青山3-2-2 南青山MRビル2F
■ 設立  :2015年2月23日
■ 代表者 :代表取締役社長CEO 古岸 和樹
■ 事業内容:メディア事業、広告事業、タレントマネジメント事業
■ URL:http://candee.co.jp/