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『ブランカとギター弾き』の長谷井宏紀監督に聞く―紆余曲折のクリエイター人生を経験した先に見えた”その場で変化させられる隙間のある”作品づくり

今日、私たちはほとんどのものをお金で買うことができます。そんな中「母親を買うことは可能なのか」という監督の疑問に端を発した、少女と盲目のギター弾きの旅路をつづった心温まる作品『ブランカとギター弾き』が7月29日(土)に公開されました。
フィリピンの路上で暮らす少女ブランカと、盲目のギター弾きピーターを等身大で描いた本作は、日本人として初めてヴェネツィア国際映画祭の全額出資の助成を得て製作。そして、第27回ヴェネツィア国際映画祭マジックランタン賞、ジャーナリストから贈られるソッリーゾ・ディベルソ賞などを受賞した作品です。
今作で長編映画監督デビューを果たした、写真家・映像作家・俳優の顔を持つ、長谷井宏紀さんにお話しを伺いました。

紆余曲折の先に作品をつくる“心の場所”を見つけられた

僕の仕事の遍歴について聞きたいとのことですが、一番の難問ですよ(笑)紆余曲折ありましたからね。でも映画監督になろうと思ったきっかけは二十代初めのころに様々な映画を見て、「こんな世界が存在するんだ」と感じて、それを自分がやってみたいと思ったことですかね。中でもバフマン ゴバディ監督やエミール・クストリッツア監督の作品はパンチがありましたね。

邦画だと黒澤明監督も大好きですよ。いわゆる「サムライもの」でイメージされるかもしれませんが、『生きものの記録』とか『夢』の方が好きですね。
今まで観てきた作品を今回の作品に取り入れようと考えたりはしませんでしたが、エミール・クストリッツア監督の家にしばらく住んでいたことがあって、彼から学んだことが多いと思います。「創作」でも「テクニック」でもなくて「作品をつくる心の場所」みたいな感じでした。

フィリピンのごみ山での子供たちとの出会い”それが今作の根底にある

ごみの山に行って子供たちがいる中でぼーっとしてたんです。丁度クリスマスの時期で、街にはクリスマスツリーがあるけど、もちろんごみの山にはありません。そこで僕が「ここにあるものでクリスマスツリーつくろうよ」といったら子供たちや大人たちも賛成してくれて。ごみでつくったクリスマスツリーの上に電飾をかざって、電気をつけて、それで皆でごみの山からできたクリスマスツリーを見ながらパーティーをしました。

子供たちと触れ合えるのはやっぱり楽しいですね。エネルギーに限界がないですし。疲れたら、パタンといっちゃうんですけれど、でもそれまでは限界ないくらいパワフル。そういう人たちと一緒にいると楽しいですね。
大人も含めて誰に対してもオープンな人たちだから街行く人がハイタッチも余裕でできちゃいます。この環境だから『ブランカとギター弾き』ができたのかもしれないですね。

映画における脚本は「地図」。その地図を現場で変えていけることに面白さを感じて

映画は脚本が地図として大事な役目を果たします。その一方で、この作品にはインプロ(「即興」のこと)のシーンもいくつか入っているし、結末も脚本とはちょっと違います。「現場で地図を変えていく」という作業がとても面白かったですね。映画は観客が劇中のキャラクターと同化して物語を疑似体験するようなものじゃないですか。メインキャラクターでも、ほかのキャラクターでも良いのですが。そういう意味で、映画は撮影している間にクルーだけでなくキャストも含めて気持ちが乗っていないと、お客さんが見ても気持ちが乗るようなものにはならないと考えています。だから、撮影中はなるべく気持ちが流れている瞬間を撮ろうとしました。確かに、時間に追われたりとか、皆のコンディションがあったりとか調整が難しいところはありました。それでも、今回の撮影はフィリピンの人たちと楽しんで撮れたからよかったなと思いますね。

脚本に書かれている世界を自分の足で探した

キャストはなるべく自分で歩いて探しました。脚本に書かれている世界を持っている人を探しに行ったイメージですね。例えば、セバスチャンというキャラクターだったら、もうほぼ本人のままのような感じで脚本に書かれていたんです。演技のワークショップも行って、いろいろな部分で近づけていきましたが、そもそも探していた人物像にはまっているから、無理に彼が脚本に書かれているキャラクターに合わせる必要はありませんでした。

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でも、脚本と変えた部分もあります。大したことではないのですが、最後のシーンにはブランカを慕っている孤児のセバスチャンはいなくて、ブランカとピーターだけが居る状況でした。でも、セバスチャンとブランカの別れのシーンを撮っていくときに、「彼がラストシーンにいないとおかしいよね」という話になって。決められたものを決められた範囲のなかでするってとても難しいな、と思います。僕はやっぱり今作のような変わっていける可能性のある方に楽しさを感じますね。
今後長編映画監督として作品をまた作ることになったら、まず脚本の段階で自分が楽しんで、「変えていける隙間のある作品」をつくりたいですね。また、日本文化が好きですし、今後はこれを機に日本人の方と作品をつくっていきたいです。」たまたまこの企画においては日本人の方に響かなくて、ヴェネツィア国際映画祭がお金を出してくれているのですけれども。

僕の最初からの夢はフィリピンの子供たちと映画を撮ることで、それをずっとプッシュし続けていたのがこの10年ですね。助成金がなければこの作品は出来上がらなかったと思います。今このようにこの映画を応援してくれている宣伝チームに会うこともなかっただろうし、日本のお客さんに見せられる機会もなかったかもしれない。「世界で一番古い映画祭」という彼らのプライドがあって、良質な映画とか、ビジネスとしてままならなくても訴える力のある企画にポンとお金を置いちゃう粋な心意気に感謝しています。

自分自身が楽しんで、そして世界に目を向けてクリエイティブな活動をしてほしい

クリエイターの皆さんへ一言ですか…言えないですよ(笑)。逆に僕が聞きたいくらいです!皆人生それぞれあるしそれぞれの楽しみがあるから、クリエイターだからといっていろいろなものを犠牲にしてというわけではなくて楽しくやっていけばいいと思います。

強いていうなら、どの国の人が自分の作品を気に入ってくれるか分からないので、
日本だけではなく世界にも目を向けて欲しいですね。僕も諦めるポイントは凄くたくさんあったけれども、無理やり諦めなかった。この後自分もどうなっていくかはわからないですけれども、多くの人たちとの出会いも大事にしていきたいなと思いますね。

(取材・ライティング・編集・撮影:CREATIVE VILLAGE編集部)

作品情報

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『ブランカとギター弾き』シネスイッチ銀座他にて順次公開中

物語

窃盗や物乞いをしながら路上で暮らしている孤児の少女ブランカは、ある日テレビで、有名な女優が自分と同じ境遇の子供を養子に迎えたというニュースを見て、“お母さんをお金で買う”というアイディアを思いつく。
その頃、行動を共にしていた少年達から意地悪をされ、ブランカの小さなダンボールで出来た家は壊され、彼女は全てを失ってしまった。途方に暮れるブランカは出会ったばかりの流れ者の路上ギター弾きの盲人ピーターに頼み込み、彼と一緒に旅に出る。
辿り着いた街で、彼女は「3万ペソで母親を買います」と書かれたビラを張り、その資金を得るために窃盗をする。
一方でピーターは、ブランカに歌でお金を稼ぐ方法を教える。ピーターが弾くギターの音に合わせて歌い出したブランカの歌声は、街行く人々を惹きつけていく。
ある時、二人はライブ・レストランのオーナーに誘われ、幸運なことにステージの上で演奏する仕事を得る。十分な食べ物、そして屋根のある部屋での暮らしを手に入れ、ブランカの計画は順調に運ぶように見えた。
しかし、彼女の身には思いもよらぬ危険が迫っていた……。

スタッフ

監督・脚本:長谷井宏紀
製作:フラミニオ・ザドラ/アルベルト・ファニーニ

キャスト

サイデル・ガブテロ、ピーター・ミラリ、ジョマル・ビスヨ、レイモンド・カマチョ

オフィシャルサイト

http://www.transformer.co.jp/m/blanka/

長谷井 宏紀(はせい・こうき)

岡山県出身。映画監督・写真家。セルゲイ・ボドロフ監督『モンゴル』(ドイツ・カザフスタン・ロシア・モンゴル合作・米アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品)では映画スチール写真を担当し、2009年、フィリピンのストリートチルドレンとの出会いから生まれた短編映画『GODOG』では、エミール・クストリッツア監督が主催するセルビアKustendorf International Film and Music Festival にてグランプリ(金の卵賞)を受賞。
その後活動拠点を旧ユーゴスラビア、セルビアに移し、ヨーロッパとフィリピンを中心に活動。フランス映画『Alice su pays s’e’merveille』 では、エミール・クストリッツア監督と共演。2012年、短編映画『LUHA SA DISYERTO(砂漠の涙)』(伊・独合作)をオールフィリピンロケにて完成させた。2015年、『ブランカとギター弾き』で長編監督デビューを果たす。現在は東京を拠点に活動中。