藤原竜也さんと伊藤英明さんが初共演した新感覚サスペンスエンターテイメント大作『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』でメガホンをとった入江悠監督。未解決の連続殺人犯が、時効を過ぎた後自分が犯人だと名乗り出る。この斬新な展開には思わず息を呑みます。

『SRサイタマノラッパー』シリーズでインディーズ映画の底力を見せつけた入江悠監督。その後『ジョーカー・ゲーム』、『太陽』を監督し、一筋縄ではいかない本作を手がけた入江監督にインタビューし、映画監督になったルーツにまつわる作品や、リアリズムを重んじる作風について話をうかがいました。

映画なしでは死んでしまうと思っていた20代

きっかけは子どもの時に観た『スタンド・バイ・ミー』や『グーニーズ』などの映画です。宮崎アニメもよく観ましたね。十代の終わりに映画監督の道を目指し、地元の埼玉から東京に出てきました。『SRサイタマノラッパー』を撮っていた時期はただわいわい楽しくやっていましたが、今はスタッフも多くなり、余計なことも増えてきました。でも常にその原点に戻らなきゃいけないとは思っています。

二十代で映画が撮れない時期は、自分の人生から映画がなくなったら死ぬかもしれないと思っていました。今でも自分がこの先、年齢的に映画が撮れなくなった時のことを想像すると恐怖で眠れなかったりして(苦笑)。だからどんな状況に陥ってもくじけません。僕には映画しかないから。そこはぜんぜん揺るがないです。

もちろん妥協したくなることはありますが、そういう時は昔自分が観て好きだった映画などを思い出し、その頃の気持ちに戻ろうとします。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ターミネーター』も好きですが、ここ20年くらいのベスト映画はスピルバーグの『宇宙戦争』です。最大の危機が押し寄せてきて、パニック的な状況に陥った時、自分ならどうするんだろう?とか考えるのが好きなんですよ。なかなか日本でああいう映画は撮れませんが、いつか撮ってみたいです。それが究極の目標であり、夢でもあります。

人の死を描く時こそ、リアリズムを突き詰める

フィクションを描く時、そこにリアリティがないと僕はイラッとするんです。もちろん嘘をついたりトゥー・マッチにしたりすることはありますが。僕は埼玉で引きこもっていた時期がありまして、たとえばそういう描写があった時にリアリティがないと、自分の青春がバカにされたような気がするんです。そう考えると、人の死など誰かを失うことはもっとナイーブなことだと思うので、人の死を描く時にはすごく突き詰めたリアリズムになっていきます。

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今回の被害者役の石橋杏奈さんのシーンはかなり粘りました。彼女は心に傷を抱えた役なので、実際そういう部分を描く時も少しナイーブになります。だから何回も撮りました。もちろん石橋さんはすごく大変だったと思いますが。

エキストラこそ演出すべき。その理由とは?

僕はエキストラの方にもちゃんと演出をつけます。もちろんすごく時間はかかりますが。藤原竜也さんや伊藤英明さんなど、主演の俳優さんは演技が上手いから主演をやっているんですが、エキストラの方はそうではないわけです。たとえば自分が観客として映画館へ行った時、「急にその場に呼ばれました」的な感じのエキストラの方の芝居が気になっちゃうことがあって。神は細部に宿ると言いますが、僕はとにかく隙をなくしたいんです。

藤原さんや伊藤さんたちなら、ある程度、脚本ができていて、コミュニケーションがとれていれば芝居が成立するというか、自分で考えてやってくださるけど、エキストラの方はモチベーションが違います。来てくださるのはありがたいのですが、せっかく来てもらったからには、作品と同じテンションでいてほしい。ハリウッドだと食堂のシーンで食べているお客さんまで俳優で揃えたりしますが、日本だとそこまで余裕がなかったりするのでそういう方々にも愛情をもって演出したいです。

今回、報道番組のシーンの報道スタッフは素人さんじゃ無理だったので全員俳優で揃えました。半年前くらいからオーディションをして、報道番組のスタッフとしてのレッスンも受けてもらったんです。その上で実際にセットを作ってから入ってもらいました。実際、劇中のような事件はなかなか起きないので、もし起きたらどうするかということで、報道監修の先生にも入ってもらいました。

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©2017 映画「22年目の告白-私が殺人犯です-」製作委員会
©2017 映画「22年目の告白-私が殺人犯です-」製作委員会

オリジナルだけに固執しないこと
脚本は足で書くこと

自分のオリジナル脚本&監督作『ビジランテ』を現在編集していて思うことですが、自分から出るものはそんなにないというか、出すのにすごく時間がかかるんです。僕の場合、自分のオリジナルだけにこだわっていると、自分の引き出しがすごく狭くなってしまう。『22年目の告白』でもそうですが、自分ではこういうプロットは思いつけないんです。今までやってきた『ジョーカー・ゲーム』や『太陽』もそうです。

だから、良い物語なら、それをお借りしてやるのが自分には合っているのかなと。それで、自分の中でどうしてもやりたくなったものだけをオリジナルとしてやる。だからオリジナルだけでずっとやっている人はすごいと思います。オリジナルの場合、責任は全部自分にあるので、そこらへんのプレッシャーもすごいですし。今のところはいろいろと試行錯誤しながらやっている感じす。

それを踏まえた上で脚本を書く場合は、取材できるところは全部行って、足で書くというのが大事だと思います。今回も脚本にもかなりこだわりました。本作には、被害者遺族の心の葛藤や22年越しの思いがあり、そこが出発点だったから。報道の人にも取材をしたんですが、フィクションとして頭で考えて出てくるものは少なくて、遺族や関係者の方の話を聞いて、最後に少しだけフィクションを加えました。そうじゃないとどうしても絵空事になりがちなので。昔「脚本は足で書け」とよく言われてきましたが、今頃になってわかってきました。

©2017 映画「22年目の告白-私が殺人犯です-」製作委員会
©2017 映画「22年目の告白-私が殺人犯です-」製作委員会

作品情報

『22年目の告白-私が殺人犯です-』
2017年6月10日(土) 、全国ロードショー
ワーナー・ブラザース映画
©2017 映画「22年目の告白-私が殺人犯です-」製作委員会
公式サイト:www.22-kokuhaku.jp

(C)2017 映画「22年目の告白-私が殺人犯です-」製作委員会
(C)2017 映画「22年目の告白-私が殺人犯です-」製作委員会

【物語】
5人の命が奪われ、未解決のまま時効を迎えた連続殺人事件。その犯人が、事件から 22 年経ったある日、「私が殺人犯です」と名乗り出ることに。自身の告白本を手に現れたのは、曾根崎雅人という男(藤原竜也)だ。肉声で殺人を告白する曾根崎にネットは炎上していく。さらに曾根崎は、マスコミ付きで被害者遺族に謝罪をしたり、事件を執拗に追ってきた刑事・牧村(伊藤英明)を怒らせたりと、挑発的な行動に出る。

監督:入江悠(『ジョーカー・ゲーム』)
脚本:平田研也 入江悠
出演:藤原竜也 伊藤英明 夏帆 野村周平 石橋杏奈 竜星涼 早乙女太一 平田満 岩松了 岩城滉一 仲村トオル
配給:ワーナー・ブラザース映画