クリエイティブ業界の注目情報や求人情報などを発信する、クリエイターのための総合情報サイトです。

生田斗真さんと試行錯誤しながらキャラクターを作り上げ…トランスジェンダーを描いた荻上直子監督に聞く

『かもめ食堂』や『めがね』など、登場人物たちの間に漂う空気感をゆるやかに捉えた作品で、多くのファンを持つ荻上直子監督。その5年ぶりの新作は、女性として人生を再出発しようとしているトランスジェンダーとその恋人のもとに、母親に置き去りにされた少女が引き取られてきたことからスタートする、3人の共同生活の物語です。自身がアメリカにいた頃には、周囲に自然に存在していたセクシュアル・マイノリティ(LGBT)の人たちに、日本ではあまり出会わないことに違和感を覚えていたという荻上監督が、この物語を着想したきっかけとは?そして、トランスジェンダーという難しい役どころに挑んだ生田斗真さん、それを支えた桐谷健太さんを含めた現場での様子など、荻上監督の新たな映画作りに迫ります。

本場ハリウッドで脚本を学ぶ

高校生くらいの頃から写真を撮るのが好きで、大学でも写真の勉強をしているうちに、映像にも興味を持つようになりました。
映像に興味が出てきたところで、映画を学ぶならハリウッドだと思って、大学卒業後は南カリフォルニア大学(USC)の映画学科に進みました。

渡米当時は、英語が堪能だったわけでもなく、学校で習う程度の英語力でしたが、兄も姉も留学していたので、そこまで一大決心というわけでもなかったですね。
ただ、アメリカでの大学生活はなかなかハードでした。成績が悪いと退学させられてしまうので、そうならないように必死でしたね。
でも、面白いことを教えてくれる先生ばかりで充実していました。これを習得すれば、これができるようになります、というように合理主義というか、実用的に教わった感じです。実践で脚本なども考えて、どんどん作品も撮っていきました。でも、まだ映画監督になりたいとは思っていませんでした。
脚本の先生が、すごく良い先生で、脚本が書けるようになったところで自分でも監督したいと思うようになっていきましたね。

例えば『めがね』等は海外の映画祭でも注目を集める結果となりましたが、皆めがねをかけていて、海辺で不思議なメルシー体操をする…というような国籍関係なく通じるユーモアも、アメリカで脚本の勉強をしていくうちに掴んでいった気がします。

新聞記事が、トランスジェンダーの物語を描くきっかけに

アメリカにいた時はセクシュアル・マイノリティ(LGBT)の友人も多かったのですが、日本では、あまり出会うことがなかったので、違和感を覚えていました。そんな中、ある新聞記事を読んだことが、今回『彼らが本気で編むときは、』を作るきっかけになりました。
記事には、トランスジェンダーの女の子が思春期を迎えた時に、胸の膨らみを感じられるように「ニセ乳」を作ったお母さんのエピソードが書かれていました。そのお母さんに会いに行って、話を聞きました。すると、子どもがトランスジェンダーだと分かると、悩んでしまうお父さん、お母さんが多い中で、このお母さんは自分の子どものことを最初から深く理解されていることが伝わってきました。洋服を一緒に買いに行ったり、「ニセ乳」を作ったりしたというエピソードを聞いて、自分もそういう風に子どものことを理解して受け止められるお母さんになりたいと思い、その想いを本作に取り入れました。

(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

そして今回、まだ戸籍は男性ながら、女性の身体を手に入れて、女性として人生を再出発しようとしているトランスジェンダーのリンコを、生田斗真さんに演じてもらいました。

生田さんとは、撮影3ヵ月前くらいから一緒に準備をしました。編み物のレッスンから始めて、スタイリストさんと共に、衣装合わせをしていきました。スタイリストさんも、男の人を女の人にするのだから、かなり迷われていましたね。生田さんには結構早い段階から女の人の衣装を着てもらい、3ヶ月の間に、生田さん、スタイリストさん、メイクさんと私で「どんな髪型が似合うのか?」「どんなメイクが良いのか?」試行錯誤しながら一緒にキャラクターを作り上げていきました。

時間をかけて共にじっくりと作り上げていくリンコのようなキャラクターもあれば、自然にスタートしたキャラクターもありました。それは、小池栄子さんが演じたナオミです。ナオミは、リンコの存在を受け入れず、リンコに対して頑なな態度を取りますが、自身も懸命に子どもを想う母でもあります。

小池さんにまず脚本を読んでいただいて、初めてお会いした時に「私ってこういう人だと思われているんだろうなぁと思いました」と言われて(笑)「怖いイメージなんですよね」と言われてしまったんですが、そうではなくて、見方によっては怖い人にもなり得ると言うか…でも、小池さんが一番キャラクターをすぐに捕えてくれました。自然にスタートして、じっくり話し合うこともなく、でも的確に演じられていて。小池さんの存在感とキャラクターの理解力に、私の方が頼っていた感じでした。

(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

他にも、スタイリストさんも、猫の置物などのかわいいアイテムを交えて部屋の中を作ってくれた美術さんも、何回もお仕事を共にしている方たちで、皆さんに信頼してお任せしていました。フードコーディネーターの飯島奈美さんもそうで、飯島さんが手掛けたお食事のシーンで、食べることを通して深まる関係性などを描いていくことができました。

3人のキャラクターが持つ空気感を、大切にカメラに収める

今回は、とにかくリンコが素敵にかわいく見えるようにするのが監督としての仕事だと思っていました。トランスジェンダーという難しい役どころですし、どうしたら生田さんが主演として美しく見えるのかを考えていました。

(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

リンコの恋人・マキオを演じた桐谷健太さんにとって、このように穏やかで全部受け止める役は今までなかったタイプだと思います。生田さんが難しい役どころだったので、生田さんを支えることに徹してくれました。そのことがマキオの役にも良い作用になると思ったようで、マキオという役としても、現場では桐谷さん個人としても生田さんを支えてくれていました。それが結果的にすごく良かったと思っています。生田さんも桐谷さんも「役者人生のターニングポイントになるような作品」と言ってくれていたようなのですが、そうなってくれたら良いなと思っています。

そして、母親に置き去りにされ、叔父であるマキオの家にやってきて、マキオ、リンコと3人で暮らすことになるトモ(柿原りんか)は、計算ではなく本能的に芝居ができる子で、大人として一人の女優として接していましたね。

そのような3人ぞれぞれのキャラクターが持っている空気感をカメラに収めたいと思って撮影していました。本作に限らず、人々の間に漂う空気感は大切に収めていきたいと昔から思っています。

完成させることの大切さ

今回の現場では、気が付いたら技術職以外のアシスタントさんが皆自分より若い方になっていました。最初の映画を作った時には、周りが全員年上だったのが、15年くらい映画を作ってきて、気が付いたらスタッフさんが皆若くなっていて。こういう仕事だから、できる人しか残って行かず、できないと次は呼ばれないので、30代のできる人たちが中心で集まって映画を作っていくのですが、若いスタッフたちの感じが新鮮でもありましたね。

時々、これから映像制作に携わるような若い人へのアドバイスを聞かれることもあるのですが、まずは「完成させることの大切さ」を伝えたいですね。
撮るだけ撮って、完成させないで終わらせてしまったという話を、結構聞くんです。編集している間に不甲斐ない感じになってきて完成させない人が、私の大学時代にもいたんですが、まずは完成させた方が良いと思います。完成させて人に見せることで成り立っているので、その大切さを言いたいですね。そこで完成させないと次にも進めないと思います。

作品情報

『彼らが本気で編むときは、』
2月25日(土)新宿ピカデリー・丸の内ピカデリーほか全国ロードショー

第67回ベルリン国際映画祭 テディ審査員特別賞受賞
(パノラマ部門、ジェネレーション部門 正式出品作品)

出演:生田斗真、桐谷健太、柿原りんか
   ミムラ、田中美佐子、小池栄子、りりィ、門脇麦 ほか
脚本・監督:荻上直子
配給:スールキートス
公式サイト:
http://kareamu.com/

【STORY】
小学5年生のトモ(柿原りんか)は、母ヒロミ(ミムラ)と二人暮らし。ある日、ヒロミが男を追って姿を消す。ひとりきりになったトモは、叔父であるマキオ(桐谷健太)の家に向かう。母の家出は初めてではない。ただ以前と違うのは、マキオはリンコ(生田斗真)という美しい恋人と一緒に暮らしていた。食卓を彩るリンコの美味しい手料理に、安らぎを感じる団らんのひととき。母は決して与えてくれなかった家庭の温もりや、母よりも自分に愛情を注いでくれるリンコに、戸惑いながらも信頼を寄せていくトモ。本当の家族ではないけれど、3人で過ごす特別な日々は、人生のかけがえのないもの、本当の幸せとは何かを教えてくれる至福の時間になっていく。リンコのある目標に向かって、トモもマキオも一緒に編み物をすることに。嬉しいことも、悲しいことも、どうしようもにないことも、それぞれの気持ちを編み物に託して、3人が本気で編んだ先にあるものは…

(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会


荻上直子(おぎがみ・なおこ)

デビュー作『バーバー吉野』(03) でベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞を受賞。『かもめ食堂』(06) の大ヒットにより、日本映画の新しいジャンルを築く。『めがね』(07) は、海外の映画祭でも注目を集め、08年サンダンスフィルム映画祭、香港映画祭、サンフランシスコ映画祭などに出品され、ベルリン国際映画祭では、ザルツゲーバー賞を受賞した。『トイレット』(10) では、第61回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞し前作『レンタネコ』(12) では第62回ベルリン国際映画祭パノラマ部門正式出品された。本作『彼らが本気で編むときは、』は自身の脚本によるオリジナル企画である。