生田斗真主演で、清水玲子の人気コミックを映画化した『秘密 THE TOP SECRET』。警察庁の特殊脳内捜査チーム、通称“第九”が、被害者の脳をスキャンして生前の記憶を映像化し、迷宮入り事件の真相を暴いていく。巧みなストーリーテリングにうなる衝撃的なミステリーを、エッジの効いた映像で魅せるエンターテインメント大作に仕上げたのが『るろうに剣心』シリーズの大友啓史監督です。
倫理観を揺さぶるタブーにまで斬り込んだ原作の世界観を、近未来のリアルな人間ドラマとして具現化した手腕はさすがです。本作の後も『ミュージアム』や『3月のライオン』と、話題のコミックの映像化作品が続く大友監督に、独自のアプローチの仕方やご自身のルーツについて伺いました。大友監督の口から出たキーワードは、「挑戦」と「覚悟」でした。
■ 死者の脳内を映像化することへの挑戦
原作は、人の死後の脳を覗きこむという話です。本来お墓までもっていくはずの他人の秘密を、見せたくない人と、見なければいけない人たちがいて、そのせめぎ合いの中で、思いがけないものを発見していく。そこが物語の着眼点としてすごく面白いと思いました。「秘密」というタイトルが示す通り、当然そこを掘っていけばタブーに踏み込まざるをえないし、人の感情を丸裸にしなければいけないけれど、人間の不思議、まさに「秘密」というものにたどりつける。そういうテーマに到達している漫画だなと思いました。

夢や記憶はこれまでにも映画やドラマで描かれていますが、死者の脳内映像というのはあまり見たことがなくて。それは、人を美化したり、時には悪魔にも見せたりと、個人の主観でいかようにも演出されるもので、覗けば覗くほど本当のことがわからなくなっていくんですよね。まさに脳の迷宮に入り込んでしまうというか。
原作では脳そのものを引っ張り出していますが、物理的には脊髄から離れた瞬間に脳細胞自体が死んでしまうから無理かなと。いろんなリサーチをした結果、脳を体から切り離せないとなったので、生きている人間が自分の脳細胞を借りて、脳内で死者の体験を追っていく、その結果思いがけず他者の感情を共有していくという形にしました。そうすることで、ドラマとしても強靭なものが立ち現れてくるんじゃないかと思ったので。
いざやってみると、人間の視界が広くてかなり難しかったです。ワイドレンズで撮ると歪みが出るから、歪まないレンズを探しましたし、その人の視点に近い小さいカメラを使って役者自身に撮ってもらったりもしました。相当リサーチをしましたが、その作業自体もエキサイティングでしたね。
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■ リアルさを重視した、生田斗真のキャスティング

近未来という設定で実写化するにあたり、地に足がついた話にしたいと思いました。半官半民のNHKという大組織にいた僕からすると、生田くん演じる薪剛が官僚組織のトップにいることがいかに大変かがわかるから。しかも薪は日常的に命を危険にさらして生きている人間なので、原作よりももう少しリアルな方に落としこみたかった。薪役をもっと年下の俳優でやるという選択肢もあったのですが、それは演技力も含めて無理ですよ。
『るろうに剣心』で蒼井優ちゃんが高荷恵役をやった時も当初は色々言われたけど、公開されたら納得される方も増えてきて、当初の心配は杞憂に終わったし。力のある俳優が役の感情やバックグラウンドにちゃんとアプローチしていけば、自然としっくりくるものです。
そういう意味で、今回の実写化のアプローチも『るろうに剣心』と変わってはいないです。剣心の場合は、赤い着物を着たりしていて、キャラクター自体が特徴的だったけど、今回はキャラクター化することではなかった。なぜなら彼らのいる世界が、現実の僕らに近いから。近未来を表現するにあたって、生身の僕らが生きている延長戦上で、その設定を考える必要がありましたからね。そういう意味で、近未来の世界観も含め、いろんな知恵を尽くして、できるだけ見たことのないもので満たしていこうとしました。原作ものをやる時は、あくまでも自分たちの仕事の目線から見た「発想の転換」が必要ですね。
■ 組織から脱して映画監督になった理由とは?

その頃、僕はまだ会社員でしたが、外のプロデューサーから仕事をしたいと声をかけてもらって。それで『龍馬伝』をやりながら、今後も会社では同じようなことを繰り返していくのかなと思ったので、思い切ってやめたというのが正直なところです。極めて職業的な流れで今に至っています。
もちろん映画が好きだったから、映画監督に憧れた時期はありました。その頃はバブルで、日本では世界中の映画が観られたし、ジム・ジャームッシュやアキ・カウリスマキ、ヴィム・ヴェンダース、レオス・カラックス、リュック・ベッソン等が出てきた時期で、映画監督っていいなと思ったんです。でも、就職する時にいろんな資料を見たら、映画監督の年収が180万円と書かれていて。それが本当かどうかはよくわからなかったけれど、それじゃ生活するのたいへんだなあと思って、職業として映画監督を選ぶという選択はまったく考えられませんでしたね。

■ 映画監督でいたいのなら覚悟を決めて撮り続けること
映画監督になるためには、いろんなアプローチの仕方があります。映画美学校のような学校を出るという手もあれば、僕みたいにテレビ局に身を置く方法もあると思うけれど、いずれどうやって作れる環境を探り当てるかということがポイントだと思います。

自分の好きなことをどうやって映画化するかということも考えるけれど、僕は不本意なものでもやっていいと思うんです。なぜなら作りながら覚えていかなきゃいけないこともいっぱいあるから。その裏で自分のやりたいことを虎視眈々と狙っていけばいいんです。
では『るろうに剣心』は、本当に僕がやりたかったことなのかと考えるとわからないんです。でも、『龍馬伝』で岡田以蔵役を佐藤健が演じたから、今度は佐藤健で『るろうに剣心』をやってみようかと、その時シンプルに思いお引き受けしただけです。僕としては、作品を掘り下げて一生懸命やっていくと、自分の色は勝手に出てくるものだと思っています。
でも自分で映画を撮ると、批評という土俵に上げられて、クソミソ言われたり、傷ついたりもしますし、実際そういう仕事でもあるわけです。だから、何よりも批評の土俵に上がる覚悟を決めることが大切かなと。何を言われても作り続けること。僕はそれ以外にないと思っています。
■作品情報
『秘密 THE TOP SECRET』
8月6日(土)、全国ロードショー

【物語】
被害者や凶悪犯の脳をMRIスキャナーにかけ、生前の記憶を映像化して迷宮入り事件を捜査する、警察庁の科学警察研究所 法医第九研究室、通称“第九”。室長の薪剛(生田斗真)は新人捜査官・青木一行(岡田将生)らと共に、家族を惨殺した罪で死刑になった露口浩一(椎名桔平)の記憶をたどると、そこには行方不明になっていた長女・絹子(織田梨沙)が家族に刃物を向ける姿が!やがて事件の延長線上に、かつて日本を震撼させた凶悪犯・貝沼清孝(吉川晃司)の存在が浮上する。
原作:清水玲子(白泉社刊)
監督:大友啓史『るろうに剣心』
出演:生田斗真 岡田将生 吉川晃司 松坂桃李 織田梨沙 栗山千明 リリー・フランキー 椎名桔平 大森南朋
配給:松竹




