各企業の働き方が変わり、リモートワークが必然となったコロナ禍。この大きな変化によって、新たな仕事の悩みや不安、課題もさまざまあると耳にします。WEB業界の著名企業は、どのように時代の変化に適応していったのでしょうか。

今回は、「有給取り放題」のようなユニークな社内制度や「全員CEO」の考えで施策や環境づくりを日々行い、多くの人に愛されるサービスを作り続けている株式会社ゆめみのみなさんにお話を伺いました。ウェビナー中に寄せられた質問にも回答していただきながら進行していますので、ウェビナーの臨場感も味わいながらお読みください。

この記事で得られる学び

  • 良い情報も悪い情報も早く伝えて“心理的安全性”を高める
  • 誰かに貢献することで満たされる“ワークフルライフ”を意識して働く
  • “メンバー全員がCEO”としてルールをつくっていく

1.自分の働く意味を問い直す! ゆめみで仕事も生活もデザインする

400社以上の企業と、毎月5000万MAUのサービスを作る株式会社ゆめみ。日常生活で多くの人が利用し、愛されるサービスを作り続けるデザイナーたちはどのような働き方をしているのでしょうか? 彼らは“ワークフルライフ”と言う考えの元、仕事も生活も一緒にデザインします。「有給取り放題」「給与の自己決定制度」のようなユニークな社内制度、Slack活用日本一など、彼らの「全員CEO」と言う考えからメンバー全員がより良く働くことができ、より成長するための施策と環境づくりを日々行って、多くの人に愛されるサービスを作り続けています。 社内環境や施策事例から、デザイナーとしての考え方まで、幅広く語っていただきました!

2.登壇者紹介

株式会社ゆめみ
執行役員、ディレクター
戸田修輔(トダ シュウスケ)氏

1990年代から独学でのモバイルコンテンツ制作を経て、2003年株式会社ゆめみに入社。BnB2Cを中心とした会員数千万人規模のポータルサイト企画・運営のディレクションからスマートフォンアプリの企画・サービスデザイン、また、BtoE領域でのDX支援など、法人向けのオムニチャネル・インテグレーション支援を軸にしながらも、幅広くデザイン全般に従事する。
戸田 修輔氏

シニア・サービスデザイナー
野々山正章(ノノヤマ マサアキ)氏

1981年横浜生まれ、京都在住。認知科学・状況論を学び、2007年から、家電や医療機器、自動車などの組込みUIを中心に、ユーザリサーチ、プロトタイピング、デザイン手法開発を行う。2021年から、株式会社ゆめみ入社、シニア・サービスデザイナーとして新規事業開発などで広くデザインに取り組んでいる。計4足の草鞋をはいてフルリモート&パラレルワークし、1児の父として奮闘中。 株式会社ソフトディバイス Chief Strategy Officer/法政大学大学院メディア環境設計研究所 特任研究員/株式会社山と道 ラボスタッフ 共著書に『文化心理学 (朝倉心理学講座11)』『アフターソーシャルメディア(日経BP)』 HCD-net認定 人間中心設計専門家 –
野々山 正章氏

3.セッション

“Bad News Fast”で心理的安全性を高める株式会社ゆめみ

2022年で創業23年目になる株式会社ゆめみ。UXやCX、人間中心設計というものができる前から、一番身近で一日のなかで長く触るツールということで、設立当初はガラケー、今はスマートフォンと、一貫して“モバイル”にまつわるデザインや開発に携わってきました。 登壇頂いた戸田さんと野々山さんが従事するデザイン領域は少数精鋭。20数名で、デザインリサーチやサービスデザインから、デザイン作成、クライアント会社の中での稟議の支援など幅広く手掛けています。

――株式会社ゆめみの特徴は?

戸田 ゆめみが大切にしている文化に、“Quarity & Agility(高品質と高機動性)”と、“Bad News Fast(良い情報も悪い情報も早く)”があります。 “Quarity & Agility(高品質と高機動性)”は素早く動き・良いものを作るということで他の会社でも一般的な価値観かと思いますが、“Bad News Fast(良い情報も悪い情報も早く)”はゆめみならではですね。仕事をしているなかで、悪いことや、失敗はどうしても起こり得る。早くみんなに伝えて相談すれば、解決も早まるのだから、早く共有しましょうという文化です。 誰も怒らないから、悪いことは言っていいんだよということで、みんな小さなことでもすぐに報告する文化があります。その際は必ずメンバーや社長がSlackで「大丈夫だよ」とかリアクションがくるので、心理的安全性がとても高いです。

野々村 お客さまと仕事するときも、最初にこれを伝えています。本当にみんな小さなことでもBad Newsを伝え合っていますよ。
※心理的安全性…組織の中で自分の気持ちや考えを、誰に対しても安心して発言できる状態のこと。生産性が高いチームは心理的安全性が高いといわれている。

戸田 私たちは企業の発注に応えるだけのB to Bでなく、B to B to C(※企業と一般消費者の間に、別の企業が入ってビジネスを仲介する取引形態)だと思っています。クライアントさんと一緒に変革とか新しい価値を創出していきますよっていう意思表示。ただの“受託”だと、結局その時限りでアプリの改善をしますとかいうだけで、ゆめみが持っている価値を提供できないし、作ったものをそのあとクライアントさんが運用できなかったりする。かといって運用もこちらで受託すると、クライアントさんがビジネスを成長させていく妨げにもなる。クライアントさん自身が運用もできるようにしていくことが大切です。そのために、単なる受託じゃなくてクライアントさんと共創しチームとして事業を一緒に作っていくことを心掛けています。

――仕事と生活のバランスの話で有名なのは「ワークライフバランス」ですが、ゆめみでは「ワークフルライフ」を提唱しています。これはどんなものでしょうか。

野々山  「ワークフルライフ」とは、誰かに貢献することで満たされている生活のこと。たとえば僕はパラレルワーカーで、大学で特任研究員をしつつ、他にも2つの会社に所属して、4足のわらじを履いているのですが、ワークフルライフを実現できているかなと感じています。これを実現するには、定時の時間にとらわれていると、その時間は家族のために動けなかったり、自分がやりたいこととのバランスがとりづらかったりするので、時間にまったくとらわれない勤務形態で働いています。もちろん会社としては成果は欲しいので、成果を重要視していて、働く時間の長さは自分次第です。ゆめみには「メンバーシップ」と「社員」という働き方があって、メンバーシップは特に時間にとらわれない勤務形態です。僕は「メンバーシップ」で、娘と一緒に午後8時半くらいに寝て朝の3時頃に起きて仕事をし始める、ハワイ時間に生きています(笑)。これが僕のベストな時間配分です。

「Slack利用率日本一」〜ありがとうを贈ってポイントを貯める〜

――ゆめみはSlack利用率が日本一なのだとか。ゆめみ流Slackの使用法は?

野々山 まず、余計なチャンネルが増えて雑多になるのを防ぐため、プライベートチャンネルの作成やDMは基本NGにしています。僕がゆめみに入ってすごく驚いたのは、300人弱分のチャンネルがあること。そこは自己開示の場となっていて、もやもやしたこと、仕事で困っていること、最近見つけたおもしろいもの、何かの気づきを書いてもいい。パブリックでみんなが見える状態で、関わるメンバーがそれを見に来てくれて、話が広がったり、問題解決のアドバイスをもらったりという使い方をしていて、心理的安全性の向上につなげています。

戸田 Slackのカスタム絵文字が4500種類以上つくられているので、絵文字リアクションで遊んでいたり。あと「Feedit Thanks」という、Slackでフィードバックやありがとうを伝えるとポイントが貯まる仕組みがあります。貯めたポイントは毎月Amazonギフト券に変えられて、毎週金曜日の夕方はポイント数が増えるボーナスタイム。なので、一週間の終わりにはみんなでフィードバックしたり良かったところを伝えたりして、コミュニケーションが盛り上がっていますね。

野々山 金曜日の夜は、すごく平和な空間が広がっていますよね。アクティブな人やいろんなところに顔を出している人にはいっぱいのThanksが集まって、本当にみんなに貢献している人がわかるんです。

盛りだくさんな福利厚生は自分で作り、自分で使う

――ゆめみの福利厚生が充実しているとお聞きしました。どんなものがありますか?

野々山 もはや福利厚生という感覚はないのですが(笑)、まず、「有給取り放題」。チームメンバーや案件の中で了解さえ取れていれば、たくさん休めてしまいます。僕も子どもの園の行事参加などでよく利用していますね。それと「ウエルカムランチ制度」。新入社員は入社から3カ月間、社員とランチするときはランチ代を1500円まで会社が負担してくれるんです。リモートランチの場合もOKで、Uber Eatsで頼んでカメラの前で食べたり。僕も入社当時にすごく使わせていただいて、戸田さんともそれで知り合いましたし、いろんなデザインチームなどにも招いてもらってどんどん顔見知りになっていって。フルリモートの中でみんなの顔がわかるようになると、心理的安全性が上がりますね。

あとは「勉強し放題」、「積読し放題」なども。業務に関わる学習のための本も買い放題で、全額補助が出ます。通信制の大学院や社会人向けコースで学びたいときも、メンバーの了解が取れれば会社が費用を出してくれます。あと、ゆめみ推奨の資格を取る際にはテキスト代も出たりするし、取ると報奨金がもらえます。リモート勉強会での飲食補助制度「ぱくぱくスタディ制度」も。社内で勉強会がたくさん行われているのですが、その際も食べながら気軽に参加でいいよ、飲食代補助を出すよという感じで。そして「フルリモし放題制度MAX」。フルリモートするためのワーク環境を整える費用を一部負担してくれます。例えば、都内で仕事していたけれど、フルリモートになってもう少し遠くに引越すときは、引越し代も支援してもらえます。

戸田 この制度を使って、椅子からディスプレイまですべて揃えられます。自分も、遅かった回線速度の改善に補助を出してもらったり、YouTuberみたいなマイクを買わせてもらったりしました。あとは、話している時に身ぶり手ぶりが多いので、広い範囲を映せるカメラも。それと、全社で環境を整えるために、今年の年明けくらいに「ホームオフィス環境推進キャンペーン」を行って、みんなの部屋を見せてもらったりもしました。この写真は野々山さんの部屋ですよね。

野々山 僕はグリーンバックを付けさせてもらいました。リモート会議中に本やスマホとかUIデザインを見せたいときに、普通の背景だと映すと消えてしまって不便でつけました。曲面ディスプレイはゆめみから貸してもらっています。東京にあったオフィスビルを縮小したので、余ったアーロンチェアやディスプレイを貸してもらえるんです。

戸田  「そんなに会社が支援してくれると、会社の経営が心配になっちゃいます」ってコメントが入っていますね。コロナ禍のタイミングで6階くらいあった会社のフロアを1つ残して解約したりしているので、コスト的には問題ないのかなと考えてます。

――制度はどのように作られるのでしょうか?

戸田  「メンバー全員CEO制度」があって、全員がルールをつくれるんです。 まず、自分のアイデアをプロリク(プロポーザルレビューリクエスト)として社内に出します。その後48時間のあいだで議論をしたのち、発案者がそれを通せば2日後には新しい制度になります。

――社員からの反応は?

戸田 新しく入った人や新卒の子は戸惑うかもしれない。けれど、もともとゆめみの文化にマッチしそうな人が入社すると思うので、そこまでアレルギー反応を起こす人はいないですね。最近、面接でも言うんですけれど、ゆめみに合わせるんじゃなくて、ゆめみをツールとして捉えて、このツールが使えそうだから使おうっていうかんじでゆめみと付き合う、そういう働き方のほうが良い気がします。

デザイナーとして「クライアントと対等に」付き合い、いいものを作る

――デザイナーとして仕事する際に意識していることは?

戸田 先程、「クライアントさんとはチームとして対等な仲間のような関係なのでしょうか」っていうコメントがありましたが、プロジェクト上では本当に対等な関係です。クライアントさんも僕たちもエンドユーザーを見ているので、クライアント本位な考えは正さなきゃいけないし、僕たちも「作りたいものはお客さんに届けるものですよね」っていう姿勢を必ず持ちます。あとは、いかにみんなを巻き込んで、正解がない、数値化できないものを納得させていくかを意識しています。デザインって理論、正論だけではつまらない。いかに論理的なものに自分の感覚を乗せて、デザインに余白を作り、その余白のなかで選択と応用をしていくか。

野々山 僕も同じで、クライアントさんと対等な関係を保つことは意識しています。「どれだけ工数を割けますか」と聞いちゃったりして、クライアントさんの稼働も見越してプロジェクトのプランを練るところからやっていくこともします。あとは、楽しそうに振る舞う、楽しそうにデザインするところに重きを置いています。ゆめみは変化もいとわない、いろんなものを発想しながらつくっていく、すごく楽しい場。僕自体がワクワクしている状態でなにかを生み出したいといつも思っています。

今後について 〜極論、ゆめみがなくなることなんじゃなかろうか〜

――今後実行したいことはありますか?

野々山 フルリモート下で自分の仕事がどれくらいできるか、どのくらいの時間でどのくらいクオリティのものが出せるかって、戸田さんや僕はおじさんだから(笑)わりとわかるんですけれど、新人さんや新卒、若いメンバーだとちょっと難しいのかなって感じます。前向きに一生懸命動いていたとしても、タスクをいっぱい抱えて首が回らなくなってしまう可能性も。そこに僕たちが気づいて助けにいくのをシステム的にもっと構築したいですね。

それと、自分から学習する環境は既に今も整っているけれど、周りもそれを押し上げる環境ももうちょっと欲しいかなという気がしていて。しっかり若い人たちをうまく支えていけるようなことができると、よりフルリモートがしやすくなるのかなと思います。僕が入社時に助かったのは「バディ制度」でした。新卒1年目の子がバディとしてついてくれて、いっぱいある会社の中の制度や、使いたいソフトウエアの申請先などを教えてくれる。そのかわり、僕はシニアサービスデザイナーなので、その子からはデザインのことを訊かれたりして、教え合える関係もできてたりして。そんなふうにお互いを支え合える仕組みがもっとつくれるといいですね。

――今後の会社の展望を教えてください。

戸田 ゆめみの存在意義・目的は、「『働く』意味を問い直し、組織のひずみをなくす」ことです。いろんな制度を作って使って、組織のひずみをなくす。ひずみがなくなった結果、もしかしたらパーソナルワークで済んで、ゆめみがなくなっちゃうかもしれない。実はそんなことを目指しているんじゃないかなって僕は思ったりします。

4.質疑応答

Q.どんな視点を持って生活していますか?

戸田 僕は子どもの頃から、いろんなことの“観察”をよくしますね。

野々山 僕は“ライフワークブレイミング”っていう言葉をずっと使っています。あまりオンとオフを分けられないタイプで、これはこれに使えるかも、あれはこれに使えるかもって、日常的にずっとデザインのヒントみたいなものを探しています。走ったりサッカー観たりするのが好きなんですけれど、そういうときも、デザインにして考えるとこれってこういうことだなとかよく考えちゃうんです。だから、自分が仕事しているんだか趣味をしているんだかよくわかってない状態で生活しています。

Q.生活と仕事の理想の関係性はありますか?

野々山 おいしいごはんが食べられればそれでいいです。

Q.物に対する情熱の保ち方のコツはありますか?

戸田 とりあえずそのものを好きになることです。嫌いなものでも、とにかくいっぱい触っていっぱい知って、そうするとなんだかんだ愛情が出てくるので、その出てきた愛情を原動力として回しながら続けます。

Q.「ワークフルライフ」という言葉がありますが、しんどくなることはないのでしょうか。私も普段の生活の中で仕事に結びつきそうなことは気にしたりしていますが、時々辛くなります。うまく仕事と自分の生活を組み合わせるコツなどあればお伺いしたいです。

野々山 僕は結構ライフを仕事化するのが好きで、自然とわらじが増えていった。読書好きが高じて研究員になったり、IT製品が大好きで仕事につながったり。 産業革命以前には、生活とクラフトが一緒にあった時代がありますが、未来はちょっとそっち側に戻っていくんじゃないかなと思っています。あまり壁を持たないことですかね。

5.まとめ

福利厚生を社員ひとりひとりがつくったり、Slackに個人の発信チャンネルがあって自ら自己開示をしたりと、自主性が高まる施策が整っている株式会社ゆめみ。
「ワークフルライフ」というワードがとても印象的で、コロナ禍の在宅ワークによってオンとオフの境目が付けづらくなった現代は、自主的に誰かに貢献できる領域を見つけ、時間や組織にとらわれず自由に動いていく考え方が一般的になっていくのかも知れないですね。

お問い合わせ

株式会社クリーク・アンド・リバー社  セミナー担当
Email:webinar_cr@hq.cri.co.jp

関連セミナーのご案内