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映画『シロナガスクジラに捧げるバレエ』監督・脚本・撮影 坂口香津美さん

家族や若者を主なテーマに、テレビのドキュメンタリー番組約200本の企画演出を手がける坂口香津美さん。映画監督としても、劇映画4本、ドキュメンタリー映画2本を送り出しています。その坂口さんの最新作は、津波で家族を失った幼い姉妹の心の旅路を描く『シロナガスクジラに捧げるバレエ』。本作をサイレントで制作した試みについて、ものづくりについて等、お話を伺いました。

 

■ 全て自分の企画で、家族や命と向き合う

IMG_0487 早稲田大学を2年で中退し、いろいろなアルバイトをしていた頃に芸能文化記事を配信する文化通信社の求人に応募したことが、今の仕事に繋がるきっかけでした。22歳で入った通信社では、全国60の地方新聞に掲載する芸能文化記事を書くのが主な仕事でしたね。日本レコード大賞が大晦日の最大イベントとして話題になり、芸能界に活気があった時代で、デビューの頃の松田聖子や中森明菜、森進一、五木ひろし等にインタビューをして記事を書くことを5年間続けたので、インタビュー対象者は約1500人にもなりました。

芸能記者として印象深かった出来事としては、キャンディーズの後楽園球場での引退コンサート、藤圭子の新宿コマでの引退公演の最終公演、楽屋からステージに上がる時、一緒にあがる階段で「歌手をやって幸せでしたか?」と単独インタビューしたことを覚えています。何と彼女が答えたかは忘れましたが。また、胸を打たれたのは山下達郎で、まだ売れていない頃、完成したばかりのアルバムを手に一人現れて何時間も喫茶店で多重録音の魅力をとうとうと語っていましたが、その直後、「RIDE ON TIME」が大ヒットしたことを覚えています。

やがて、芸能人の取材にも厭(あ)いて、通信社を辞めて、当時、荒れていた10代の若者を取材した初めての著書「誰も私に泣いてくれない」を1984年、29歳の時、出版しました。その著書インタビューが朝日新聞の家庭欄に掲載された記事を見たTBSの報道番組「朝のホットライン」の番組プロデューサーからお声がかかりました。企画兼レポーターとしてシリーズで特集の番組作りに参加。いきなり飛び込んだテレビの世界でしたが、通信社時代の1500人にも及ぶインタビュー経験が活かされ、そのうちにディレクターとして各局、テレビのドキュメンタリー番組を中心に多くの企画に携わることになります。

テレビの世界で仕事をして31年、これまでディレタクー、プロデューサーとして約200本以上の番組を企画制作しましたが、描くものはどうしても「家族」に行きつきます。取材対象者の背景にある家族は、その人のかけがえのないバックボーンであり、家族を抜きにしてはその人の存在理由は語れません。
番組制作の歓びとは、取材対象者の人生に寄り添いながら、その人の歴史や人生観に触れ、家族や社会状況を学ぶ場となることです。そのために今でも興味や関心のある人物を求めて、常に感性の純度を高める努力と、企画のアンテナを全国に張り巡らせています。

 

■ 人の感情を揺るがすものを作っていきたい

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ディレクター、プロデューサーとしてテレビ番組制作の仕事を続ける私に、ある時、転機が訪れます。
1999年7月、ぶらりと入った渋谷のユーロスペースで観た、ドグマ95というデンマークの革新的な映画運動による第一作目の劇映画『セレブレーション』(監督 トマス・ヴィンターベア)に打ちのめされたような衝撃を受けました。ある実業家の還暦祝いに集まった家族の秘密を暴いた人間ドラマですが、驚いたのは手持ちのカメラで撮られたヨーロッパの映画で、照明を一切使わないなど、日頃、テレビでの取材で私が手にしていた同じレベルのカメラで彼らは世界のマーケットを相手にしていたのです。

強い刺激を受けた私は半年後の2000年1月、半ばドクマ95のルールを意識して撮影したのが、私の処女作で、ひきこもりの若者の自立への芽生えを描いた『青の塔』という劇映画です。ノンフィクションとフィクションが汽水のように混ざり合った映画で、主演はテレビのドキュメンメンタリー番組で出会った実際のひきこもりの若者を起用しました。2000年、完成した『青の塔』を世界に送り出すために自らの制作プロダクション「スーパーサウルス」を設立。2000年ウィーン国際映画祭に正式招待を受け、アポロシアターでワールドプレミア。上映後、17歳くらいの少女が私を見つけて、「これまで私が観た映画の中でベストワン、最も心にしみた映画です」と涙を流しながら話す姿を観て、映画を作り続ける事を決意したのです。その少女の涙が今も脳裏に刻まれ、映画を作る原動力になっています。

 

■ サイレントにしたことで、まるごと音楽が楽しめる映画

通算6作目となる、津波で家族を失った幼い姉妹の7日間を描く『シロナガスクジラに捧げるバレエ』制作の発端は、2011年3月、東日本大震災発生後まもないころ、テレビに映し出された一人の少女を偶然、目にしたことがきっかけでした。その子は津波で母親の手を放してしまったことを語り、母親の不在は悲しいけれど、それでも自分は強く生きていくと語りました。その報道を見て、その子は今後どうやって生きていくんだろう、私なりのエールを送りたいと制作しました。

(C) SUPERSAURUS

(C) SUPERSAURUS

物語は、津波の襲来によって砂に没した村に、11歳と8歳の姉妹が帰還する。姉妹の目的は、波にさらわれた家族を探し出し、浜辺に「家」を作ること。浜辺で流木を集め、家を作り続ける姉妹の前に、亡き家族が現れる。記憶の中のひとすじの希望を描いています。
近しい者を亡くすという経験は、生きている限り誰もが避けて通れない人生の試練といえるものだと思います。この9年の間に私自身、妹と父を亡くしました。しかし、私のなかに妹や父が生きているという実感があり、生きる支えとなったことから、死者との出会いを核とした物語を描きたいと思いました。そして、幼い姉妹の心の旅を、観客一人ひとりが自分に引き寄せてみてもらえたら、いろいろなことを感じてもらえたら、とあえてサイレントという表現形式を選びました。

その過程で、チェリストの海野幹雄さん、作曲家・ピアニストの新垣隆さんに音楽を依頼しました。新垣さんとの出会いは、週刊文春でとりあげられる5ヶ月前、2011年の9月に行われた海野幹雄さんのチェロリサイタルでした。その時、ピアノで自作曲「見えないパッサカリア」を弾く姿が今も印象に残っています。
実際には、編集途中で、撮影した素材を何パターンか見せて海野さん、新垣さんに数種類の音楽を作ってもらいました。その音楽を完成した本編映像に当てはめると、ぴったり合うんです。完成した音楽のどこを使うかは私の裁量に任されました。映像を音楽の尺に合わせたり、調整しなくても、ぴったりはまった時は嬉しかったですね。
僕の映画は音楽家に恵まれています。2作目の映画『カタルシス』では池辺晋一郎さんの音楽に、5年後チャイコフスキー国際コンクールで優勝する当時16歳の神尾真由子さんがバイオリンを弾いています。3作目の劇映画『ネムリユスリカ』では天才少女と謳われるピアニストの小林愛実さん、4作目のドキュメンタリー映画『夏の祈り』では小林愛実さんと、フルートで数々の海外のコンクールを制覇している高校生の新村理々愛さんが参加してくれました。

 

■ 常に時代と向かい合う感覚

(C) SUPERSAURUS

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映画はサイレントですが、まるごと音楽が楽しめることに加えて、注目して欲しいのは現代の最先端の息吹を映画に取り込みたいとあえてiPhone 6で撮ったシーンがあることです。多くの人が日々、目にしているiPhone 6の画面サイズの縦の画をぜひともスクリーンで見て欲しいと思います。
今は映像を誰でも撮れる時代、もはやディレクターは特別な存在ではなくなった。その誰でも撮れる時代のプロフェッショナルの映像作家の矜持とは何か。言ってみれば、子どもでもiPhone一つで映像が撮れる時代。だからこそ、何を、どう撮るかが、プロの映像作家には強烈なオリジナリティーが求められていると思います。僕自身は「内面を描く」ことを重視しており、映画製作はそこに傾注しています。

テレビは昔も今も、強い影響力のあるメディアだと思います。これからテレビ番組などの映像制作に携わりたいという願う人たちには、まだまだ学ぶことが多い、大きな可能性を秘めていると思います。私自身、テレビのドキュメンタリー制作を通して身についたものが血肉となり、映画制作の現場でも活きています。テレビの制作は、常に同時代と向かい合う感覚が求められます。今、何が求められているかを常に意識する姿勢がオリジナリティーを生むのだと思います。

3作目の性犯罪被害者の少女の17年後を描いた映画『ネムリユスリカ』以後、撮影も自身の手で行うようになりました。すると、いっそう映画の地平が広がったように思います。「よくこんな映像が撮れましたね、どうやって撮ったんですか」と言われることがありますが、それは私の技術力というよりも、どんなに状況が厳しくても映画に、映像に食らいついていきたいという執念のようなものが成せる技かもしれません。


■作品情報

『シロナガスクジラに捧げるバレエ』
9月19日よりユーロスペース(渋谷)にて公開ほか、全国順次公開予定
※木・金曜日レイトショーは英語字幕入り上映

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監督・脚本・撮影:坂口香津美
プロデューサー:落合篤子
演奏:海野幹雄(チェロ)、新垣隆(ピアノ)
サウンドデザイン:今泉徳人(日本アコースティックレコーズ)
音楽録音:若生浩(アウローラ・クラシカル)、服部文雄
音楽協力:新演奏家協会、エナスタジオ 田仲範行
制作協力:ダブルフォックス
キャスティング協力:原田努務
編集:坂口香津美、落合篤子
英語字幕:加藤綾華シンディー 海外アドバイザー:長谷川敏行
題字:小澤菜穂
宣伝メインビジュアル画:藤原舞子
宣伝美術:森山真至(CLASS)
製作・配給:スーパーサウルス
特別協力:クリーク・アンド・リバー社

■オフィシャルサイト

http://www.kujirafilm.com/

■MotionGalleryで本作のクラウドファンディングを実施中!

★坂口さんよりコメント
映画は観られて初めて完結します。しかし、映画を全国に広げたいと思うと配給には一定の資金力が必要です。クラウドファンティングは、そのための大きな支えとなってくれる可能性のあるプロジェクトです。8月26日(水)締め切りで現在、映画『シロナガスクジラに捧げるバレエ』のクラウドファンティング(『モーションギャラリー』)に挑戦中です。YouTubeでぜひとも予告編をご覧下さい。何か胸にしみるものを感じたらクラウドファンディングのページもご覧下さい。次回作は企画の段階から挑戦したいと思っています。
https://motion-gallery.net/projects/kujirafilm
<2015年8月26日23:59まで>

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坂口香津美(さかぐち・かつみ)

これまで家族や若者を主なテーマに、テレビのドキュメンタリー番組約200本の企画演出を手がける。映画監督として、劇映画4本、ドキュメンタリー映画2本を手がける。1作目『青の塔』は引きこもりの若者の自立への芽生えを、2作目『カタルシス』は殺人を犯した少年の罪との出会いを、3作目『ネムリユスリカ』(ロッテルダム国際映画祭ほか正式招待、「恐ろしいほどダークな作風の傑作。驚くほど破壊的で残酷なストーリーだが、同時に見事なまでに完成されていて、不穏に心を掻き乱す、観る価値のある問題作である」(スクリーンインターナショナル)など、高い評価を受けた)は性犯罪により生まれた少女の17年後を、4作目『夏の祈り』(ドキュメンタリー/2014726日紀伊國屋書店よりDVD発売)は被爆地長崎を舞台に高齢被爆者の祈りを描いている。5作目の映画『抱擁』(ドキュメンタリー/27回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門正式招待/20154月渋谷のシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開)は長女と夫を失った女性(坂口の実母)を4年間撮影、精神の混乱と深まる老いの中で希望を見出すまでを描いている。最新作『シロナガスクジラに捧げるバレエ』は919日よりユーロスペースにて公開。著書に、小説「閉ざされた劇場」(読売新聞社刊)。

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