クリエイティブ業界の注目情報や求人情報などを発信する、クリエイターのための総合情報サイトです。

1000万人以上が利用するツイキャスの産みの親。モイ株式会社 代表取締役 赤松 洋介さん

40億人が使えるサービスへ – エンジニア経営者のサービス開発論

1000万人以上の登録ユーザーが利用する「ツイキャス(TwitCasting)」。最近ではInstagramとログイン連携するなど、さらに勢いを増しています。このサービスを産み出した赤松洋介さんは、自身が経営者でありエンジニアでもあります。

 

■ ITでの起業を目指して

小さい頃からコンピュータが好きでしたね。小学生の時はまだインターネットがあまり普及していなかったので、家のパソコンでゲームを作ったりしていました。物理と数学が好きだったので工学部に入学して、コンピュータ関連の業界に進もうと思っていました。自分の手で、たくさんの人たちが使うものを作っていきたかったんです。でも自分に何ができるのかがわからないから、まずはいろいろなことをしている会社に入ればやれることが明確になるかな……と漠然と考えていましたね。
卒業後は、大阪の株式会社オージス総研でシステムエンジニアとして働き始めました。入社の決め手は、コンピュータの最先端であるアメリカとの取引があったことです。入社すぐに米スタンフォード大学客員研究員として赴任しました。

帰国後、大阪にすごく面白そうな会社が出てきたのを知って、転職しました。それが、サイボウズ。当時はライブドアなどベンチャー企業の勢いがすごくて、新しい世界が面白そうだなあと思っていました。親が経営者だということもあり、いずれ自分の会社を持ちたいと思っていましたから、経営の経験を積むためにもベンチャーに入りたかったんですね。サイボウズでは、『サイボウズオフィス』というメインプロダクトのマネージャーでした。開発には関わらず、60人くらいのチームのマネジメントをしていましたね。
サイボウズに数年勤めた後、友人と3人で会社を作りました。エンジニアはフリーランスになる方も多いんですが、私はやっぱり会社にしたかった。会社の方が夢があると思うんですよ。1人だとできることに限界があるし、投資を受ける事もできませんから。サイボウズでマーケティングに力を入れていた経験から、あまりお金をかけずにネットの力を使って効果的なマーケティングができるんじゃないかと考えていました。そこで、自分達のプロダクトを作ってお金かけずに売ってみようとしたんです。
最初は「こういうのあったら面白いんじゃないか」というものを片っ端から作ってリリースしてみました。Webの世界はやっぱり参入障壁がすごく低いので、次々にいろんな製品が出回る。しかも企業向けのサービスは大変だということで、BtoCのラジコンとかを作り始めました。今話題のIoTみたいな感じです。ただ、ちょっと時代が早すぎましたね(笑)うまくいかなかった。いくつかの企業さんから引き合いはいただいたのですが、結局サービスの開発をストップすることになりました。

 

■ ツイキャスの始まりは「面白そう」だから

それから、現在の『ツイキャス』を作ることになります。ツイキャスは、個人が動画をライブ配信し、それに誰かがリアルタイムでコメントをつけたりできる動画のライブストリーミングサービスです。これは「手軽に携帯で動画配信できたら面白そうだな」と思って作ってみたのがきっかけでした。新しいものを考えるのは好きなんでしょうね。
ユーザー年齢層の予測もなかったので、当時人気のあったUstreamを使っているビジネス層の利用が多かったです。若い方の利用が一気に増えたのは、ログイン認証をTwitterだけに限定していたからでしょう。若いTwitterユーザーが増えるに従って、ツイキャスの利用者も増えました。若い方や女性が動画を配信しているのを見ると、こちらも元気になるんですよ(笑)そういう方たちに楽しんで利用していただけるにはどうすればいいかを考えながら、サービスの改善を続けてきました。

 

■ ユーザーの要望は顕在化していない

ユーザーさんの声や要望はTwitterや問い合わせメール、レビュー欄から得ています。また、実際にツイキャスで動画を配信している様子を見て、こうしてあげた方が良さそうだなと気づいたことから改善しています。最初の頃は、配信しているユーザーさん本人に聞いてみたりもしましたね。運営側だとは明かしませんが、いちユーザーとして「なんでツイキャスしてるの?」とコメントしたりしました。気になる配信とか、なんでこんな配信しているのか分からない時とかは、直接聞くのが一番です。
ただ、ユーザーさんからの要望の優先順位は悩ましいですね。ユーザーさんの要望って、基本的には顕在化していないんですよ。というのは、「この機能が欲しい」という要望をそのまま作ると、多くの場合うまくいかない。例えば、ユーザーさんが「ブロック機能が欲しい」と言った時に、本当にそれは今多くの人が望んでいる機能なのかはわからない。それを判断するのは、データを集めると同時に、感覚や勘も必要になります。数値があがってもUXは下がったりするというのは結構あることなので、難しい。ユーザーヒアリングテストとか、海外でよくやるドランクユーザーテスト(酔っぱらった人にサービスを使ってもらう)など、いろいろ方法はあります。でも一番重要視しているのは、普段からユーザーさんやサービスを見ること。私もユーザーさんからのメールは全部読むし、忙しくても必ず1日30分は配信を試聴しています。そうしていないと、ちゃんとユーザーさんの心を掴めているかどうかわからなくて、私自身が不安でいっぱいになってしまいますし……。自分もサービスを使ってみて、「こうなった方がいいな」と思ったらすぐに修正するということを繰り返しています。
私は自転車で移動することが多くそのときに配信を聞いていると、コメントが読めませんでした。そのため、今ある『コメント読み上げ機能』というのは、私が欲しかったから入れました(笑)でも同じような環境でツイキャスを楽しんでいる人もいるはずなので、そういう人が少しでも使いやすくなればいいなと思っています。
ただし、サービスの改善によってユーザーさんの居場所をなくしてしまわないようには気をつけています。使い勝手が変わるくらいなら慣れればいいのですが、ある機能を変えることで、今ある文化を壊さないことが大事なんです。

 

■ クリエイターに求められることのハードルは上がっている

自分の関わるサービスをどんな人が使っているのか興味を持つのが一番でしょう。さらに自分の意見を出せるようになってくるといいですね。
エンジニアさんなら、個人で開発したサービスやアプリを世の中に出すべきでしょう。自分で作っても公開しない人も多いですが、人の目に触れるととても良い経験になります。自分用のツールと、他の人が使うツールって、ものすごくギャップがあるので、他者の声を聞く経験は損にはなりません。
またデザイナーさんの場合は、必要な条件のハードルが年々高くなっているんですよ。GitHubでやり取りができることは当然として、iOSアプリ・アンドロイドアプリの画面をちゃんと作れるのも最低条件。UXについても、実装条件を踏まえてのデザインが必要です。PhotoshopとIllustratorを使えたらいいという時代はもう完全に終わっているので、エンジニア思考のデザイナーさんがいるとすごく有難いです。デザインができるエンジニアになるより、デザイナーさんが幅を広げる方が、より皆が幸せになる気がしますね。
私はエンジニアですが経営者でもあるので、ベンチャー企業に勤めた経験が役立っています。サイボウズで10人が200人を超える組織になる様子を見てきていることは、組織運営のイメージがしやすくていいですね。今は30人規模なので、どんどん即戦力が入ってきて欲しい段階です。ただし、本当にその人がやりたいと思うことと、うちが今まかせたいと思うことが一致するのが一番の幸せなので、なによりも大事にしていますね。

 

■ 「面白い」サービスから、インフラへ

私はエンジニアなので、自分の手で作った物が多くの人……それこそ40億人くらいに使ってもらえれば嬉しいな、という単純な思いがあります。そこで、例えば1億人がこのサービスを使って1分便利になるとすると、1億人×1分=1億分の時間分が便利になる。人生なんかすぐ終わっちゃうなかでそういう時間の貢献ができると、新しい文化が産まれるなと思っています。
ただ、一度、ツイキャスというサービスをどうやって成長させていこうか……とすごく悩んだ時期があったんです。ちょうどその頃、2011年の震災でTwitterが流行ったのを見て、ああいうサービスになれればいいなと思いました。Twitterって普段はそんなに役に立たない情報もいっぱい流れているのに震災では防災専用アプリやWebサイトよりも活用されたでしょう。サービスが面白いだけではまだまだで、普段あたりまえに使っているということが、なにかの時に最も役に立つという条件なんです。まさにインフラですね。
だからツイキャスも、普段もっと気軽なコミュニケーションツールとして使ってもらえればいい。視聴者が増えて有名になりたいというのもひとつの楽しみ方ですし、ふとログインすると誰かが話し相手になってくれる居場所みたいに使っていただいてもいい……そんな気軽な世界になれば、結果的にはインフラとして育つのかなと思っています。普段は消費していていもいいけれど、いざという時に役に立って、結果的に人生が豊かになるようなサービスを目指しています。


 
TwitCasting(ツイキャス)

 
TwitCasting(ツイキャス)とはモバイルにフォーカスしたライブ配信コミュニティです。スマートフォン一台あれば、いつでもどこでも簡単に生中継ができる日本最大規模のライブ配信サービス。現在全世界に1,000万人以上の登録ユーザーがいます。そのうち、約2割が海外の登録ユーザーです。弾き語りやメイク、ゲーム、雑談など多種多様な配信がこれまでに累計2.5億回以上配信されています。
http://twitcasting.tv/

IMG_7709

赤松 洋介(あかまつ・ようすけ)

京都大学工学部工学研究科修士課程修了後、株式会社オージス総研に入社。その後、米スタンフォード大学の研究員となる。サイボウズ株式会社に転職後、「サイボウズ Office 6」のプロダクトマネージャーなどを務める。在職中から「MyRSS.jp」や「フィードメーター」を開発して公開。2005年にサイドフィード株式会社を設立し、「あとで読む」や企業向け製品「RSSフィード.cc」などを発表した。2010年2月ライブ配信サービス「ツイキャス(正式名称:TwitCasting)」を公開。2012年2月モイ株式会社を設立し、現在に至る。サイボウズ在職中に公開したサービスが3日で100万アクセスを集め「エンジニアリングの力で世界を変えられるかもしれない」と感じたことが起業のきっかけ。

関連記事