クリエイティブ業界の注目情報や求人情報などを発信する、クリエイターのための総合情報サイトです。
interview_general_header

市井の人々から著名人まで、その人間関係や生き方に焦点をあて、人の心と社会を描き続けるドキュメンタリー『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~)。同番組のプロデューサーを務める味谷さんは、新聞記者を経てフジテレビに入社後、22年の間ドキュメンタリー制作に携わっています。その味谷さんに、番組作りについて、ドキュメンタリーに込めた想いなど…お話を伺いました。

 

■ “論理”を伝える新聞、”情感”を伝える映像

イメージ

もともとは新聞記者として仕事をしていました。総理大臣から殺人犯までインタビューをするうちに、新聞は”論理”を伝えるには適しているけれど、”情感”が伝わらないと感じるようになりました。その時に「人を表現するにはカメラがあった方が伝わる」と思ったことが、テレビの仕事に移ろうと思ったきっかけです。

中途採用で入社したフジテレビでの配属は、報道ではなく企画制作部でした。それからずっとドキュメンタリーの制作に携わっています。

ディレクターとして8年くらいの経験を積み、その後でプロデューサー、チーフプロデューサーと、関わり方は変わりましたが、それぞれの立場に違った喜びがありますね。

ディレクターとして携わっていた頃は、半年や1年かけて自分が撮ったネタで表現し、1本の作品として仕上げた後は、このまま死んでもいいくらいの充実感でした。

ただ、プロデューサーはプロデューサーで、作品という子どもをポコポコ産み出していくような楽しさがあります。共に作るディレクターのいいところを活かしながら、自分のテイストと調合させることを覚えていくと、調味料のようなもので、また別の楽しさが生まれます。

作品はディレクターの手柄ですが、例えばナレーション原稿の一部を自分が書いた時に「あのナレーションが良かった」という声が聞こえたら、自分の隠し味が効いていると思って嬉しくなりますね。そういう時は、ディレクターも自分の作品だから喜ぶし、僕は裏でほくそ笑んでいるようなイメージです(笑)そのようなプロデューサーとしての立ち位置を、今はとても楽しんでいます。

 

■ “構成の妙”でドキュメンタリーへの入り口を広げる

現在、チーフプロデューサーとして携わっている『ザ・ノンフィクション』は、放送開始から20年目を迎えました。

過去に様々なテーマを取り上げる中で、同じネタでも入り口をどう広くするか、は常に意識してきました。例えば、2014年4月にニューヨーク・フェスティバルで受賞した『特殊清掃人の結婚~”孤独死”が教えてくれたこと』のような重厚なテーマの時ほど、活きてくるのが”構成”です。

番組の冒頭でいきなり「孤独死!」と始まったら敬遠されるところを「こういう面白いおじさんがいて、この人は清掃人で…」という流れなら、惹き込むことができますよね。そういう受け皿が必要で、多くの人にドキュメンタリーを見てもらうために、構成の仕方には心を砕いています。そのように、ちゃんと作って、ちゃんと伝えたいものがあれば、ある程度の視聴者は見てくれることは長い間『ザ・ノンフィクション』を制作してきて、実感しています。

 

■ 表現するということは”欠けている部分を埋める作業”

イメージ

『ザ・ノンフィクション』では、いろいろな人に取材をしますが、取材で大切なのはディレクターの人間力、そこに尽きると思います。まずは、ディレクターがその取材対象に興味があって、その取材対象からどれだけ信頼してもらえるか、ですね。時間を取って、ある意味プライベートを犯すわけだから、それを越える表現したい気持ちがあるかどうか、が問われます。

中には、僕から見て「本当に表現したいことってあるの?」と思ってしまうような人もいて、その気持ちで作ってはダメだと思います。表現したい人間は、心にどこか欠落のある人が多くて、強烈に言うと、どこか欠けています。それを埋める作業が表現だと思っていて、表現したいことは、極端に言ったら「人間は本当に面白いと思うんです」でも「本当に悲しいと思うんです」でも良くて。ただ、そういう強烈な想いがないと伝わらないし、見ている人に失礼になると思います。

その他に、制作にあたって軸として持っているのは、”自分自身が面白いと思わないと放送しない”ということ。ドキュメンタリーは時間経過が一つの演出なので、取材にも時間がかかります。

ポンと行ってポンと撮ったものは”情報”です。最初は”情報”でも、重ねれば重ねるほど深みが出て、ドキュメンタリーになっていきます。1回会っただけでは言わないことも2回目、3回目となれば「実はね…」と打ち明けてもらえることがある…だから半年、1年という時間をかけて積み上げていきます。

そして納得したところで、ある程度視聴者にも満足してもらえるかなと思った段階で放送する、というのが僕の方針です。でも、そうして時間をかけて向かい合ってきたからこそ、番組を長い間続けられたと思っています。

 

■ ドキュメンタリーの魅力…事実は想像力より創造的

長い間携わってきて、改めて思うドキュメンタリーの魅力と言えば…「よく見れば事実は絶対おもしろい」ということだと思います。なぜかと言えば毎日、生きていること自体が不思議でしょ?何で心臓が勝手に動いて生きているんだろう?というような…。

僕も新聞記者時代から感じていたことですが、何かが起こった時に、事実を調べていくと、絶対おもしろくて、事実は想像力より創造的。イマジネーションを超えるクリエイティビティがあります。それを分かって欲しいがためにドキュメンタリーを作っていますが、なかなか伝わらないから、まだまだ裾野が広がっていかない状況です。

ドキュメンタリーは突き詰めていくと死を見つめざるを得ないので、しんどいですよね。その対極、合わせ鏡のような存在がエンタメで、エンタメは死を忘れさせるものだとしたら、エンタメの方に人が向かうのは自然なことだと思います。でも、改めて死を見つめることも大事で…そこはバランスの問題で、エンタメを見た上で、ドキュメンタリーも見るとバランスがよくなるのでは?というのが僕の考えです。

20年目を迎えた『ザ・ノンフィクション』の今後については、さらにネタ幅を広げていきたいですね。これまでは市井の人々をクローズアップしてきましたが、顔の知られた方でも、そこにあるドキュメンタリーを描いていきたいと思っています。最近、市井の人々がネットの影響もあって、どう見られているのかをすごく気にするようになって、撮りにくくなったという印象があります。その点、顔を知られている人の方が、深く迫ることができるケースも出てきます。

なので、もう少しネタ幅を広げて、94歳の歌舞伎役者・小山三さん(2014年10月19日放送)などを通して”事実はおもしろい”ということを視聴者に知ってもらえるように、さらにいろいろ挑戦したいと思っています。

その他にも新しい挑戦としては、今までにない、ドラマでもドキュメンタリーでもないソフトを提示したいと思っています。来春には放送する予定です。

 

■ 徹底して騙すか、徹底して本気か

イメージ

映像制作などに携わる方に問いかけたいのは「本当にそう思っているのか?」ということですね。何を表現したいのかについて、本当に思っていないのに、口先だけという人が多いように思えて…大切なのは”本当に思ったことをちゃんと伝える”ことです。

それか、騙すなら徹底的に騙す。ドキュメンタリーで多くの人と話していると、本当にそう思っているのかは言葉じゃなくて雰囲気で伝わります。本当にその人が何を考えていて、真剣なのかどうかはすぐに分かります。

…それでも騙されることはあるんだから(笑)それは騙す方もたいしたもので。「騙すなら徹底的に騙して。やるなら本気でやって」ということを、クリエイターには一番伝えたいですね。徹底して騙すか、徹底して本気か、どっちかだよね、と。中途半端が多すぎると思いますよ。中途半端な気持ちで関わってもダメだと思います。


フジテレビ系列『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~)

公式サイト

http://www.fujitv.co.jp/thenonfx/

イメージ

(2014年11月5日更新)

164

味谷 和哉(みたに・かずや)

1957年 大阪府生まれ。読売新聞大阪本社 社会部記者を経て、1992年 フジテレビ入社。以来ドキュメンタリー畑一筋で、ディレクター、プロデューサーとして制作に携った作品は450本を超える。
2003年より「ザ・ノンフィクション」チーフプロデューサー。


主な作品
<ディレクターとして>
1993年1月「なんでやねん西成暴動」
1993年7月「娘のことを教えて下さい」(FNSドキュメンタリー大賞佳作)
1996年7月「幻のゴミ法案を追う」(FNSドキュメンタリー大賞グランプリ)(ギャラクシー賞奨励賞)(地球環境映像祭審査員特別賞)


<プロデューサーとして>
2000年10月「生きてます16歳 ~500gで生まれた全盲の少女~」(ATP賞 総務大臣賞)
2007年6月「花嫁のれん物語 ~地震に負けるな能登半島~」(ニューヨークフェスティバル銅賞)
2007年7月「負けんじゃねぇ ~神田高校に起こった奇跡~」(ギャラクシー賞奨励賞)
2010年10月「ピュアにダンスⅣ~田中家の7年~」(USインターナショナル フィルム&ビデオフェスティバル GOLD CAMERA賞(金賞))(国際エミー賞 ノミネート)
2011年 4月「東日本大震災特別番組「わすれない」~三つの家族の肖像~」(ニューヨークフェスティバル金賞)(アジアン・テレビジョン・アワード2011 時事問題部門(Current Affairs)最優秀賞)
2011年10月「まりあのニューヨーク ~死ぬまでに逢いたい人~」(ギャラクシー賞奨励賞)(ATP賞 ドキュメンタリー部門最優秀賞)
2012年 6月「偏差値じゃない。~奇跡の高校将棋部~」(ギャラクシー賞選奨)
2013年 1月「特殊清掃人の結婚"孤独死"が教えてくれたこと」(ニューヨークフェスティバル金賞)
2013年6月「やってないものは やってない」(ギャラクシー賞奨励賞)
2013年7月「おじいちゃんの遺言 ~あんたとボクの人生最後の3ヶ月~」(ギャラクシー賞奨励賞)
2013年9月「転んでも転んでも ~三國清三の上海進出1000日」(ATP賞 ドキュメンタリー部門優秀賞)


関連記事