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映画『シェル・コレクター』監督・脚本 坪田 義史さん

多摩美術大学在学中に制作した映画『でかいメガネ』(00)が、映像アートの祭典「イメージフォーラム・フェスティバル2000」でグランプリを受賞。その後、映画やテレビドラマに美術スタッフとして参加したり、テレビ番組のディレクション、MV制作を手掛けるなど、多様なキャリアを積んできた坪田さん。映画監督としての最新作は、リリー・フランキーさんが盲目の貝類学者を演じる『シェル・コレクター』です。その公開に際し、本作の撮影のことなど、お話を伺いました。

 

■ 甲子園予選の翌日から、絵画教室へ

IMG_4013目指していた甲子園の予選で負けた翌日から、美大を目指す絵画教室に通い始めたんです。200校以上ある激戦区の神奈川で、強豪校が揃う中に同世代には高橋由伸さんもいましたが、上には上がいるもんだと敵わないなぁと思いまして。僕はキャッチャーをやっていて、入場行進のプラカードを持って整列する時に、この中で一番美術に詳しいのは自分じゃないかと思い立って、甲子園の夢が終わってから絵画教室に通うようになりました。
皆がグローブを磨いている野球部の部室にも、美術室から石膏像を持ちこんでデッサンをしていたので、変わり者扱いされていました(笑)。野球部の真っ白な練習用のユニフォームに、自分だけカラフルな絵具をいっぱい付けていましたね。
父が絵描きだったこともあり、その影響で自分も絵を描く仕事がしたいと思っていたのですが、いろいろな映画を観るうちに、映画の中に絵画的なものを感じるようになりました。映画館の暗闇の中に作品を投影して、画の連続で物語を紡いでいくという手法に惹かれて、映像学科のある多摩美術大学に進むことに決めました。

在学中に、詩人で映像作家の鈴木志郎康教授に師事していて、極私的な表現ができないか模索していました。昔はYouTubeもtwitterもなかったので、個人映画と呼ばれるジャンルに惹かれて私小説的な題材を映画にした作品『でかいメガネ』を発表しました。それが「イメージフォーラム・フェスティバル2000」でグランプリを取ったことは、一つの転機になりましたね。

 

■ 南国でのアイドルの撮影で演出力を鍛える?!

IMG_4036『でかいメガネ』発表後も、絵筆が使えるということで美術助手として『月とキャベツ』などメジャーの映画に参加したり、テレビのセットを組んだり、テレビドラマの美術としても仕事をしました。その現場で、コマーシャルディレクターの絵コンテを見て勉強したりしていましたね。
テレビ番組の制作ディレクションには、本当に幅広く携わりました。
暴走族の初日の出暴走に密着とか(笑)自分でカメラを持って追いかけて、すごく面白かったですよ。ニュース番組の特集枠で「ホストにはまる女」では自分がホストに扮装し働きながら取材しました。「今、ホストは西川口が熱い!」がテーマで、風俗嬢が貢ぐホストクラブに潜入取材をしました。
実録みたいな生々しいものを撮って、森山大道さんみたいな(笑)荒れた画をビデオで撮れないかと模索して、違法に働く風俗嬢なんかをちょっと猥褻な部分を探していくような心意気で番組作りに関わる経験等を多数しました。

やがてPlaystationでDVDが観られるようになり、それからアイドルのDVDが爆発的に流行りまして。そこの撮影兼ディレクターとして、月の半分は各国の南の島に滞在して、日替わりでやって来るグラビアアイドルや女優を撮影する日々を過ごしました。そこで、カメラと女性が対峙してポージングを付けたり、演出していく力を鍛えて、その流れでVシネマをやるようになりました。振り返れば、全ての経験が今の血肉になっていると思います。

 

■ CGを使わず、リリー・フランキーさんが実際に潜って撮影した水中シーン

2012年に、文化庁在外芸術家派遣で、ニューヨークで活動する機会がありました。 当時のテーマは、震災以降ということを踏まえて“海外で日本の文化、芸術をどう提示していくか”を企画することでした。
それを考えた時に「シェル・コレクター」の原作小説が思い浮かびました。読み直してみたら、人と自然が対峙して自然の畏怖を感じて、自然が作り出す貝のフォルムの創造性に触れるような部分にいたく感動して。アメリカで日本の文化や芸術を提示する時に、海外の文芸作品を日本に脚色して発表している人はあまりいなかったので、稀有な企画をやってみたいと思ったのがこの『シェル・コレクター』映画化の始まりでした。そのアイディアを実現するために、知り合ったプロデューサーに版権の取得などを相談して、周りを巻き込みながら進めていきました。

(C)2016 Shell Collector LLC(USA)、『シェル・コレクター』製作委員会

(C)2016 Shell Collector LLC(USA)、『シェル・コレクター』製作委員会

もともと僕は美術助手として日本映画の世界に入って、作る過程では自分でもさんざん壁を塗ったりしていたので(笑)今回のリリーさん演じる盲目の貝類学者が住む家の構造などにも意匠をこらしました。

貝類学者の隔絶された世界を思わせる、貝の内部構造のようなメタファーや、学者の身を守る…身体に障害のある方にとってのバリアフリーな空間としても、尖っていたら危ないので丸みを持たせてシェルターのイメージを作っていきました。さらに、自然災害が起きても脱出できるような構造も念頭に置きながら、美術監督の竹内公一さんと話してコンセプトを練っていきましたね。時代背景も過去なのか未来なのか明確にせず、寓話性の中で描いているので、自然の中に取り残された建造物ということも意識しました。

撮影では、水中、昼間、夜間のシーンごとにカメラを使い分けました。水中は4KのフルHDの高画質で撮影して、後からトリミングできるような鮮明なものを選びました。
水中のシーンはCGではなく、リリーさんに実際に潜ってもらって撮影しています。何回も撮影できないので、とても緊張感のある現場となりましたが、リリーさんの気迫も凄くて。水の中で椅子に座って、ワイヤーで吊るされているような状態で、酸素ボンベを外してからの数秒間をハイスピードカメラで長く見せているんです。口から出る泡も作りものではない、リアルなものです。

(C)2016 Shell Collector LLC(USA)、『シェル・コレクター』製作委員会

(C)2016 Shell Collector LLC(USA)、『シェル・コレクター』製作委員会

昼間は16mmフィルムで、フィルムの粒状性(フィルム上の濃度ばらつきに起因する粒状のランダムな効果)を活かしました。ノスタルジックな色合いもそうですし、かつて想像した未来像というような雰囲気を醸し出したかったので、35mmよりも幅の狭い16mmを選択して、古き良きノスタルジーのある画を狙いました。

夜間は闇を撮ることを考えて、少ない光量で撮れるHDカメラを使用して、既視感や、まだ見ぬ未来、今の生々しさをミックスしてこの映画の寓話性を創り出すため、どの時代でもない、虚無感みたいなものが漂えばと意図しました。レトロフューチャーと呼んでいるのですが、ある意味、文明の発達に対して諦めているような感覚を出したいと思いました。

 

■ 対峙するような境界線上に立ってものを作る

IMG_4007『シェル・コレクター』でも寓話性の中に、人の欲を描いている部分があるのですが、自分自身、境界線を置いて、現実とフィクションだったり、エロ、猥褻なのか聖なるものなのか、その対峙するような境界線上にいつも立っていたくて、行ったり来たりしながら迷うこともありますが、そうやって、ものを作っていきたいと思っています。

若い人に「どうしたら映画監督になれますか?」と聞かれることもありますが、「ならない方がいいんじゃないかな」とか(笑)ならないのもありなんじゃないかと思います(笑)。そしたら、熱心な映画ファンでいられたと思います。仕事だと、どう撮ったんだろうとか、予算いくらだろうとか考えちゃいますからね。
ただ、それでも携わりたいと思うのであれば、想像するだけでなく、具現化しないといけないので。まずは作品を仕上げて、そこから次に繋げないといけないと思います。
僕自身も、いかなる仕事でも自分の武器として繋げていけるようにしてきました。在学中に初めて作った『でかいメガネ』も、自分が出て説得力を得て、それを見せることで想いが伝わればなぁと思い…そこから次に繋げていきました。

なので、作品とは何なのかを考えながら作ると良いと思います。何かのコマーシャルとして商品を売る映像もありますが、オリジナリティあふれる自分の作品を考えて作った方が、視覚と聴覚に訴えて世界と個人が密接にコミュニケーションできると思いますね。


■作品情報

『シェル・コレクター』
2月27日(土)より、東京:テアトル新宿、沖縄:桜坂劇場他全国ロードショー

(C)2016 Shell Collector LLC(USA)、『シェル・コレクター』製作委員会

(C)2016 Shell Collector LLC(USA)、『シェル・コレクター』製作委員会

リリー・フランキー
池松壮亮 橋本 愛 普久原明 新垣正弘 / 寺島しのぶ

監督:坪田義史(『美代子阿佐ヶ谷気分』)
脚本:澤井香織、坪田義史
原作:アンソニー・ドーア『シェル・コレクター』(新潮クレスト・ブックス刊)

配給:ビターズ・エンド

■オフィシャルサイト

http://www.bitters.co.jp/shellcollector/

profile

坪田 義史(つぼた・よしふみ)

1975年神奈川県出身。多摩美術大学在学中に制作した映画『でかいメガネ』(00)が、映像アートの祭典「イメージフォーラム・フェスティバル2000」でグランプリを受賞。その後、70年代に「月刊漫画ガロ」などで活躍した安部慎一の傑作を映画化した『美代子阿佐ヶ谷気分』(09)で劇場デビューを果たす。虚構と現実を微妙なタッチで描いた唯一無二の作風は、第39回ロッテルダム国際映画祭コンペティション部門「VPROタイガー・アワード」選出を皮切りに、第46回ペサロ映画祭(イタリア)審査員特別賞、第4回シネマデジタルソウル映画祭(韓国) 批評家連盟賞・観客賞、第30回ポルト国際映画祭(ポルトガル)特別賞・最優秀脚色賞受賞など数々の映画祭を席巻、海外でも高い評価を受けた。同作で主演女優の町田マリーを第31回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞受賞に導くなど、国内外から最前衛な新鋭として賞賛された。2012年は文化庁在外芸術家派遣によりニューヨークと日本で活動していた。

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