Webディレクターはクライアントだけでなく、デザイナー、コーダー、エンジニア、ライターなどのクリエイターの間に立って制作進行を行います。制作総責任者として、さまざまな考え方・スキルを持つ人と関わり指示を出すことが業務となるだけに、良好な人間関係の構築や円滑なコミュニケーションが問われるポジションだと言えるでしょう。
人それぞれ物事に対する捉え方や考え方は異なるため、制作においてもステークホルダー間で何かと認識のズレや齟齬は生まれがちです。だからこそ、相手がどういうイメージを持ったかという相手主体のコミュニケーションが重要になります。つまり、相手を尊重しつつ自分の意見を伝える「アサーション」が求められるでしょう。特に4年以上のベテランWebディレクターであれば身につけておきたいスキルであるアサーションについてくわしく解説します。

アサーションによるコミュニケーションの利点

Webディレクターとアサーション_会議のイメージ

相手を尊重しつつ自分の意見を伝えるコミュニケーション方法の1つであるアサーション。「assertion」がもとになっている言葉で、直訳すると「主張」「断言」といった意味になりますが、コミュニケーションにおいては少し意味合いが変わってきます。特に顧客との関係においては、受託側は立場が弱くなりがちになります。しかし、仕事をするうえでどんな相手でも対等な関係性を築くことが重要であり、互いを尊重し合いながら自己表現するスキルがWebディレクターには求められるでしょう。

アサーションは「伝える」「聞く」をバランス良く行うコミュニケーション

アサーションは「相手と対等な立場に立って、お互いの気持ちに配慮しつつ自己主張をする」ことが基本です。コミュニケーションを行うためには「伝える」と「聞く」の2つのスキルが必要になります。たとえば、伝えることばかり意識してしまうと、相手には「自分勝手で自己主張の激しい人」と思われるかもしれません。反対に聞くことばかりにとらわれてしまうと、「自分の意見がない流されやすい人」と見えてしまう恐れがあります。
一方でアサーションは、「伝える」「聞く」をバランス良く行うコミュニケーション方法です。相手の感情や考え方を尊重しつつ、「自分の気持ちや考えをその場の雰囲気にふさわしい方法で主張するべき」という考え方が基盤にあります。簡単に言えば、アサーションとは「相互理解」や「円滑さ」を大切にするコミュニケーションの概念と言えるでしょう。

Webディレクターは「伝わる」ことを意識すべし

コミュニケーションでは相手に「伝える」だけでなく、相手に「伝わる」ことこそが大切です。特にWebディレクターは制作責任者として、業務を円滑に進めるために「正しく伝わる」よう意識しなければいけません。たとえば、クライアントからの要望をチームへ事務的に伝えたとします。しかし、メンバーに正しくその意図が伝わらなければ認識のズレが生まれます。その結果、品質の低いものが出来上がる恐れがあり、やり直しにより納期遅れなどのトラブルを発生させてしまうかもしれません。
Webディレクターが行うべきは「伝える」ことではなく「正しく伝わる」ように意識することです。考え方や感覚の違う相手が、自分の言葉にどんなイメージを持ったのかを意識する、アサーティブネス(自他を尊重した自己表現)なコミュニケーションスキルが求められています。たとえその場で時間がかかったとしても共通認識が取れるまで、同じ絵を描けるまで、意図する動作をするまでじっくり打ち合わせを行いましょう。燃費は悪いかもしれませんが、結果としてそれが品質と時間を守るうえでとても重要になります。

アサーションでGive&Takeを実現する交渉・提案を

Webディレクターとアサーション_交渉のイメージ

Webディレクターであれば、納期やコストなどの都合からお客様から無理な相談が来るケースは日常茶飯事だと言えます。それに対して突っぱねるのも、受け入れるのもベストとは言えないケースもあるでしょう。その場合は「条件つきで対応する」ことを意識するなど、アサーションによるGive&Takeを実現する交渉術・提案力を身につけることが求められます。

無理難題はアサーションで折衷案を提案する

クライアントから唐突に納期やコスト面で無理な相談をされた場合に、「できません」と完全に突っぱねるとクライアントによっては心証を悪くし、関係がこじれてしまうかもしれません。一方で「やります・できます」とすべて受け入れるとクライアントの言いなり状態になってしまい、「何でもしてくれる」と勘違いを生んでしまうかもしれません。
どう答えるべきか難しい場合はアサーションの考え方を思い出し、「条件付きで対応する」ことを意識してみましょう。たとえば、「TOPのデザイン修正を3日以内で対応する代わりに、テキストの提出は来週半ばまでお待ちください」と伝えます。「1つ対応するので、そちらも1つ譲歩してください」という「Give&Take」の提案は、意外にもすんなりと通りやすいものです。「お願い+代替案」は相手と自分の希望を平等に通すことができ、今後の関係性も良好に保ちやすくなるでしょう。

どんな相手とでも対等な関係性を築く

アサーションの考え方に立ったコミュニケーションは仕事を円滑に進めるうえでとても役に立ちます。しかし、「仕事をするうえでは誰とでも対等な関係を築くべき」という考え方が根底にあることを忘れてはいけません。たとえば、前述のようにクライアントの要望を無理に引き受けたり、無下に突っぱねたりすることは関係悪化につながります。また、デザイナーやライター、コーダーに対して、ディレクターが横柄な態度を取ればチームの関係性はぎくしゃくし、業務が思うように進まなくなるでしょう。
Web制作においては、目標を達成するために客観的な視点を持って、冷静な制作進行を行うことが大切です。そしてその土台となるのは対等な関係性ではないでしょうか。「お願い」ばかりせず、「言いなり」になるのではなく「必要なことを必要なだけ意見できる」、クライアントやチームメンバーとそのような関係を構築するためにも、アサーションの考え方はとても重要になると言えるでしょう。

アサーションの本質を捉えることが大切

Webディレクターとアサーション_チームワーク

制作進行においては遅延やトラブルなど上手くいかないことが多い傾向にあります。それだけにステークホルダーたちとは、腹を割って話せる関係性を構築することが重要です。怒られるのを恐れるのではなく、「怒ってくれるうちが花」であり、頼られているからのお叱りだと理解する必要があります。常に現実を直視し、対処するのがWebディレクターの務めと言えるでしょう。

顧客やクリエイターと真摯に向き合うことが大切

Webディレクターにとって必要なことは、クライアントやクリエイターと真摯に向き合うことです。相手を尊重して自分も主張をすることで、相互理解や共通認識を高められなければ良い仕事はできません。アサーションとは、そのような本音で全力の対話ができる関係性を構築するための考え方であることを覚えておきましょう。

本音の関係だからこその「お叱り」

Web制作では不測の事態が起きる恐れが常にあるからこそ、クライアントとは腹を割って話せる関係性を構築することが大切です。たとえば、不測の事態が発生し納期が大幅にずれ込んでしまったとします。大抵の場合はお叱りを受けるのではないでしょうか。しかし、そこで落ち込むのではなく、頼られているからこそのお叱りであり「怒ってもらえるうちが花」と考えることが大切です。そこで焦って「明日までになんとかします」など、できもしない提案をしてしまえば信頼は失墜し、クライアントは呆れてしまい怒ることすらやめてしまうでしょう。
不測の事態が発生した時こそアサーションの考え方に立ち返りましょう。「クライアントと真摯に向き合い、自分たちに何ができるのかを、嘘やごまかしをせずに率直に伝える」その姿勢こそが関係を良好に保ち、将来の信頼を勝ち取る秘訣です。「相手のことを理解し尊重しつつ、自分の意見もしっかり言うことで、本音を言い合える対等な関係性を築く」。こうしたアサーションの本質を理解し、目の前の課題解決に向けた前向きなコミュニケーションを取っていきましょう。

Webディレクターは持ちつ持たれつの関係構築を

Webディレクターとアサーション_まとめ

Webディレクター アサーションのまとめ】

  • アサーションの考え方はWebディレクターに必須
  • 「お願い+代替案」の交渉は話がまとまりやすい
  • アサーションの本質を捉え、課題を見据えたうえで全力のコミュニケーションを

WebディレクターはWeb制作の総責任者としてクライアントと制作メンバーの間に立つ存在です。さまざまな考え方やスキルを持つ人たちと多く接する立場であり、制作に関するスキルだけでなく、コミュニケーションスキルを常に磨いておくことが求められます。アサーションは「伝える」から「伝わる」へとコミュニケーション力をレベルアップさせてくれる考え方です。
Web制作は1人の力だけでは良いものができません。そのため、「持ちつ持たれつ」であることを意識し、お互いを尊重しあって本音を言い合える関係性が重要です。アサーションの考え方に立ったコミュニケーションを意識し、顧客や制作メンバーと対等で良好な関係を構築しましょう。