クリエイターとして活動している方であれば、ポートフォリオを持っている方も多いでしょう。ポートフォリオはクリエイターのキャリアを大きく左右するツールです。しかし、若手クリエイターの場合は効果的なポートフォリオの作り方が分からず悩んでいる方も少なくありません。

今回は、ポートフォリオ簡単作成ツール「foriio」を展開する株式会社1ne studioの代表取締役CEO山田寛仁さんにクリエイターが自分の強みを仕事にするための「ポートフォリオ作成」についてお話を伺いました。

山田寛仁(やまだ・ひろひと)
中高をNZで過ごした後帰国し、デジタルハリウッドでグラフィックデザインを学ぶ。
アートディレクター/デザイナーとして、制作会社で勤務した後、スタートアップ、フリーランスを経て起業。2018年7月、クリエイター向けポートフォリオサービス「foriio」を提供開始。

ポートフォリオはクリエイターのパスポート


――これからポートフォリオについて詳しく伺う前にまず、山田さんが考える「ポートフォリオを作る意味」を伺えますか?

仕事を獲得するためです。特にフリーランスクリエイターにとっては必要不可欠ですね。インハウスクリエイターは営業が仕事を獲ってきてくれますが、フリーランスは自分で仕事を獲りにいかなければいけませんから。

ポートフォリオは希望する会社や仕事に出会うための「パスポート」です。

――山田さんはインハウスデザイナー・フリーランスデザイナー両方をご経験されています。フリーランスになってからポートフォリオの作り方は変えましたか?

フリーランスになる前は「オールマイティなデザイナー」であることを打ち出してポートフォリオを作成していました。

これはクリエイターとして生計を立てるためのテクニックの一つ。しかし、自分の得意ジャンルが打ち出せず、他クリエイターと差別化ができなくなってしまいます。

「他クリエイターとの差別化ができなくなってしまう」というデメリットに気が付いてからは自分にしかできない仕事をするために「〇〇の山田」と一人のクリエイターとして記憶してもらうために、自分の強みであるジャンルに絞ったポートフォリオを作りました。

――山田さんの場合は〇〇には何が当てはまったのでしょうか?

私はサブカルの分野に造詣が深かったので、アニメやアイドル、ゲームの実績のみを載せたポートフォリオを作りました。サブカル系のクライアントにはサブカルのポートフォリオを、それ以外のクライアントには様々な実績を掲載したポートフォリオを見せるのです。おかげで念願だったアイドルと一緒にする仕事をすることもできました。

アイドルグループ・ヤなことそっとミュート公式ブックレット
https://www.foriio.com/works/42

――ポートフォリオは仕事を獲得できるたけではなく、自分の強みを仕事に活かすために必要なツールでもあるんですね。

様々な実績を掲載するのではなく、場合によっては自分の強みを意識してポートフォリオを作る必要があります。この考えを応用して2019年はクリエイターのやりたい仕事を発信する場として「#私はこんな仕事がしたい展」を開催しました。

――自分の強み・やりたいことを発信しているクリエイターさんの例を教えて下さい。

イラストレーターのサタケシュンスケさんですね。foriioも活用してくれていて、「#私はこんな仕事がしたい」タグを使って、これからやりたい仕事をアピールしています。

▲イラストレーターサタケシュンスケさんのforiio

仕事を発注する人も、クリエイターの興味関心が分かることで依頼しやすくなります。過去だけでなく未来を描くことで、ポートフォリオが自分の行きたいところに連れて行ってくれるはずです。

震災の被害を目の当たりにし、デザイナーから起業家に転身


――山田さんはWebデザイナーとしてご活躍されています。Webデザイナーを目指したきっかけを教えて下さい。

きっかけはニュージーランド(以下、NZ)の高校で先輩に言われた一言です。NZには両親の独断で中2の時に行かされ、高校を卒業する時に突然帰ってこいと言われました。NZの大学に行こうと思っていた私は自暴自棄になり、先輩に『仕事を適当に選ぼうかな』と愚痴をこぼしていたのです。

――愚痴をこぼしたくなる気持ちも分かりますね。

その時に先輩が

「やりたい仕事をしていたって辛いときはあるのに、やりたくない仕事を選んだら苦労するぞ」
「何がやりたいのか真剣に考えて仕事を選びなさい」

と言ってくれたんです。

その一言で、自分が高校時代に勉強していたコンピューターやデザインを使って仕事をしようと思い、日本に帰国しました。

――日本に帰国してすぐにデザイナーになったのですか?

デザインの勉強を本格的にしようと思い、1年間デジタルハリウッドに通いました。卒業後は広告制作会社に就職し、幅広いジャンルのデザインを担当させてもらいました。当時はとてもハードに働いていましたが、おかげでデザイナーとしての下地を築くことができました。

――デザイナーから起業家になったきっかけも教えて下さい。

東日本大震災がきっかけです。私は秋田の出身で、東北にも大勢友達がいます。心配ですぐに現地に駆けつけたいと思った時に、縁あって地震発生から2日後、CNNが現地を取材するのに通訳として同行できたのです。被災地を見て死生観が変わり「デザイナーのまま死んだら後悔する」と思い起業家になろうと思いました。

ターニングポイントは、デザイナーとしての虚しさ


――なぜ「デザイナーのまま死んだら後悔する」と思ったのでしょうか。

デザイナーの仕事にはやりがいを感じていましたし、当時在籍していた会社には感謝しています。しかし、モノが溢れている日本で、飽き足りている消費者にさらに消費させるためだけの広告を作っていることに虚しさを感じ始めました。世界にはもっと緊急性も高い問題があるのだから、それに対して本気で取り組んでみたいと思ったのです。

――その後、すぐに起業を?

クリエイティブ業界に恩返しがしたい 〜foriio β版リリースに寄せて〜

いえ、サービス立ち上げを学ぶためにスタートアップでも働きましたし、高校時代の友達とサービスづくりもしました。しかし事業がうまくいかず、生計を立てるためにフリーランスになったのです。foriioを作ろうと思ったのはフリーランス時代に感じた、クリエイター業界の課題を解決したかったからです。

――ご自身のnoteでも、創業までにあったクリエイティブ業界での過酷なエピソードを細かく書かれていますね。同じクリエイターとして、読んでいて涙が出そうになりました…

「素敵で夢がある業界だと思うからこそ、多くの友人や同志と出会えた業界だからこそ、負の部分をちゃんと問題点として捉えて改善していきたい」

地球の裏側のクリエイターと繋がるプラットフォームを目指して


――foriioの会員数は1万人を超えたそうですが、創業当初に感じた課題を解決できていると感じますか。

まだだと思っています。しかし、知り合いの会社から「今日面接に来た人がforiio使っていたよ」という嬉しい話を聞くことは増えてきました。もしもforiioがなかったら、ポートフォリオを作るのが面倒で諦めていたかもしれません。そんなクリエイターが一人でも多くforiioを活用して「クリエイターがより活躍できる未来」を手に入れてもらえたら嬉しいですね。

――何を実現できたら、foriioのビジョンを達成できたと言えるのでしょう。

マイルストーンは、民泊予約サイト「Airbnb」のようにプラットフォームを通して地球の裏側と繋がれることです。foriioが質の高い日本のクリエイティブを発信できる場になればと考えています。

――現状、海外から日本のクリエイターへ依頼は来ているのですか。

まだごくわずかではありますが、依頼は来ています。海外から日本のクリエイターへもっと多くの依頼が来るようにしたいですね。

foriioはPCスキルがなくても使えることが特長なので、この便利さを武器に、これから海外の市場に打って出たいと思っています。

クリエイターだからこそ、ビジネスを学べ


――ポートフォリオを作成するには、まず自分の実績が必要ですよね。山田さんのようにアートディレクターを目指す、デザイナーに求められるスキルを教えて下さい。

まず、アートディレクターに必要なスキルは主に以下の4つです。

  • クライアントの要望ヒアリング
  • 企画立案
  • 予算管理
  • チームマネジメント

アートディレクターとしてこの4つのスキルを積む前に、デザイナーは「広告代理店などで2~3年修行する」ことを少し前まではおすすめしていました。しかし、今は「ビジネス(事業)への理解を深める」ことをおすすめしています。

――それはなぜでしょうか。

今までデザイナーの仕事は、既にできた商品やサービスの販促効果を高める意味合いが大きかった。しかし、デジタルサービスが主流の今は、デザインが事業に直結するようになっています。UI、UXは事業の根幹に関わるため、本来なら経営者がやるべき仕事だと思うくらいです。

――デザイナーがよりアートディレクターの仕事に近づき「経営に影響するようになった」ということですね。

はい。デザイナーであってもアートディレクターのように予算を意識しながら仕事することが求められますし、目的から逆算して考えることが必要です。言われたままにデザインするだけでは価値のあるクリエイティブが生み出せません。

「他の企業では代替できないと顧客が思うブランド価値が⽣まれる。さらに、デザインは、イノベーションを実現する⼒になる。」
引用:経済産業省・特許庁「デザイン経営」宣言

しかし、現代は多くの専門学校・大学やオンライン授業があることでデザインを学ぶハードルも下がってきていて、営業やマーケティングでキャリアを築いた方がデザイナーになるケースも増えています。このように「ビジネス志向をもつデザイナー」が今後は活躍していくでしょうね。

――先述した「自分の強みを活かせる仕事」も差別化のポイントになりそうですね。

はい。例えば地方の自治体がデザイナーを探すとしたら、スキルがあるだけのデザイナーより気持ちよく仕事ができる、該当の地方に特化しているデザイナーを選ぶと思います。

――クリエイターなら誰もが作る、ポートフォリオ。もし、今の仕事に不満や違和感を持っている方は、ポートフォリオから見直してみてはいかがでしょうか。

取材・ライティング:鈴木光平/撮影:SYN.PRODUCT/編集:大沢愛(CREATIVE VILLAGE編集部)

企業プロフィール

「個のクリエイターをエンパワーメントする。」をミッションに掲げる株式会社1ne studioは、プロとしての活動を志すクリエイターの支援を目的としてスタートした会社です。

■ 社名  :株式会社1ne studio(カブシキガイシャワンスタジオ)
■ 所在地 :東京都台東区柳橋2-1-11 barq shinso bldg 301
■ 設立  :2017年12月15日
■ 代表者 :代表取締役社長 山田寛仁
■ 事業内容:クリエイターをサポートするWebおよびリアルコンテンツの制作

運営サービス
ポートフォリオプラットフォーム「foriio」
■URL:https://foriio.com
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