C&R社では、Webや映像業界をはじめ、CGやゲーム、広告・出版業界などで働くクリエイター向けのセミナーや勉強会を、随時行っております。

今回で4回目となる『CREATORS LIBERTY』では、ユーザー視点のプロダクトを創るため昨今、最も重要視されているUX(ユーザーエクスペリエンス)をテーマに、株式会社リクルートライフスタイルと株式会社グッドパッチの2社をお迎えして、UXデザイナーやUXディレクターとして求められる人材の共通点である“T字型人材”について、パネルディスカッション形式で進行する講座を開催いたしました。


第一部となる勉強会では、株式会社リクルートライフスタイルのネットビジネス本部 プロダクトデザインユニットUXデザイングループマネジャーである若林 一寿さんが登壇され、多様な事業を運営していく中で、UXデザインの取り組み事例についてご紹介いただきました。

「UXデザイングループのミッション」と題したお話では、「ユーザーの代弁者であると同時に、ビジネスの継続性や発展性に責任を持つことで、ユーザーに愛されるサービスを仕立て“続ける“個の集団を目指す。
つまり、プロダクトのUXを強化することで、その対価として収益増につながる、あるいは直接収益があがる、そしてまた新たな施策が打てるというグッドスパイラルを目指している」ということを主張しました。

リクルートが運営する数あるサービスの中でも、ビジネスの継続性を高める“ROI追求型UXデザイン”の具体例として挙げられたのが、国内最大級のヘアサロンやビューティーサロンの予約が可能なサイト『ホットペッパービューティー』です。

世界最大級の規模のヘアカタログサイトを立ち上げた時に注力したのは、気に入ったヘアスタイルが見つかるUXに加え、より多くの質の高いヘアスタイルが掲載されている状態がキードライバーであると考え、スタイリストさんがヘアスタイルを投稿したくなるUXにも注力。その結果、ネット予約時以外の継続的な接点を持つ事ができ、流入数が増大。提供価値を拡大することができた、というお話が印象的でした。

ROI(投資対効果)にこだわることで、ビジネス貢献度の可視化に繋がり、
・優先度が明快で効率的にプロダクトを進化させることができる
・協働者が増えて大きなうねりが作れる
・キードライバーが発見でき、強化しやすくなる
・影響度が定量的に解ることで、担当者としても感動が高まる
以上の要点が挙げられました。

続いて、ビジネスを創造する“プロダクトアウト型UXデザイン” では、お店の順番待ちをデジタルで管理できるアプリ『Airウェイト』を具体例に、消費者の「いま何組目?どのくらい待つのか?」のInsight (行動原理)に対し、「待ち時間を表示する」Solution(解決策)を提示。

さらには消費者だけでなく、店舗側の「せっかく来店されたお客さんを失客させたくない」に対し、「電話自動呼び出し機能」を設ける等、両者の要求に応えるサービスであることをアピール。
「リアルシーンのUXデザインは、人とお店、実世界とデジタルをつなぐ」ことを強調しました。

次に、株式会社グッドパッチのゼネラルマネージャー兼リードUXデザイナーである村越 悟さんが登壇され、「デザインカルチャーの作り方」と題して、これまでの事例から導き出し、今後求められるUXデザインやチームビルディングについてご紹介いただきました。

ハートに響くUIを追求する、グローバルなUIデザインカンパニーであるグッドパッチが、2014年に発表したプロトタイピングツール『Prott(プロット)』は、アプリやサービスのアイディアを素早く形にすることにより、チームの力を最大限に活かすことができる画期的なサービスで、ユーザー数は3万人を突破。世界121カ国で利用されています。

株式会社ディー・エヌ・エーとコラボレーションしてUIデザインを追求していくコミュニティ『UI Crunch』は、デザイナーだけではなく、エンジニアからディレクターまで、UI開発に関わるすべての人を対象とした勉強会で定期的に開催しています。

グッドパッチが実践するデザインプロセスの背景として、まずは事業側と受託側それぞれの変化を比較し、事業の視点からサービスを捉えることにより、最終的なUI/UXまでを具現化できる存在というものが求められます。
また、実際のデザインプロセスを可視化したTipsをもとに、“対話”と“チーム”の重要性に加えて、「偉大なプロジェクトは偉大なチームから生まれる」ことを力説。

さらには、「プロジェクトの成否の8割はキックオフで決まる」という、これまでの経験から、対象となる会合のタイムスケジュールの時間を、項目ごとに割り当てる取り組みを解説。
その中に“愛を語る”時間を設け、自身が愛するものについて一人2〜3分で説明してもらうことによって、相手を深く知るきっかけとなり、結果いいプロジェクトが見込めるとのこと。

さいごに、社内のコミュニケーションの事例を紹介。プロジェクトレビューをはじめ、チーム内での相互レビュー、そして支社のあるベルリンと東京でのグローバルデザインレビューを定例化することにより、物理的・時間的・心理的なコミュニケーション距離を詰めているそうです。
まとめとして、「プロダクトの品質の善し悪しは、チーム内を流れるコミュニケーションの量に比例する」ことを述べ、第一部の勉強会が終了しました。

第二部のパネルディスカッションでは、リクルートライフスタイルの若林さんとグッドパッチの村越さんが対談形式で登壇され、活躍するクリエイターの特徴や、チームビルディングの必要性など、様々な質問にお答えいただきました。

【Q1】UXDの分野を本格的に突き詰めようと思ったきっかけについて
村越さん:「当初はUXという肩書きに興味がわいて、いろいろと調べていくうちにその奥深さに魅了された」
若林さん:「UXデザインは感性だけではなく、ロジカルな理由付けが大切で、それによりクオリティが高められることを身を持って知った時。」

【Q2】今の会社でUXDとして従事するやりがいについて
村越さん:「よりよいプロダクトを作ることよりも、そのプロダクトを作るためのチームづくりの再現性を高めたい」
若林さん:「いろんな業種のプロがいて、一緒に仕事ができる事が楽しい。対象となるプロダクトがどんどん拡張しているので、仕事をしていても飽きないし、まだまだ成長が臨めそうなところが魅力」

【Q3】どのような方が活躍している傾向にあるか
村越さん:「自分の領域を限定しない人。積極的かつ貪欲に自分の領域を広めていくと結果、自分の視点も幅も広まっていく」
「どちらかというと若い人の方が、分からないからチャレンジしようというケースが多い。成功ケースが溜まる事よりも、失敗ケースが溜まる事の方が成長に繋がるので、失敗ができる環境を多く作ってあげたい」

若林さん:「同感です。ここまでと線引きせずに、あれもこれもがむしゃらにやってみることで、UXデザインスキルを軸足としながら、ビジネスやテクノロジーといった方向にもスキルが広がる。そのようなT字型のスキルをもった人だと、新規案件や難しい案件をアサインしても、うまく回してくれる」
「若い人はまず、たくさんの事例でとことん考えて、問題の特定と解決する能力を養うことが大切。いろんな人と議論して、足りない観点を貪欲に吸収する。それこそが、人が育つ瞬間かもしれない。」

【Q4】チームビルディングについて
村越さん:「常に現場感でレビューをする。レビューをする側と、される側のお互いの視点をそれぞれ身につけることで、ものを見る視点が研ぎすまされていく。レビューをし合うことで、それがフックになって、いい関係値が持てる。」
若林さん:「“ジュニア”と“シニア”を意識してチームを組んだりします。お兄さんの背中を見て弟が育つ、というように、育成の視点でもチームづくりをしている。」

【Q5】大切にしていることやポリシーをおしえてください
村越さん:「いろんな人やものに興味や関心を持つ、好奇心。自分自身の知識も広まれば、いろんな人と交流ができて、対話の力が鍛えられる。」
若林さん:「どのような状況に置かれようとも、常にユーザーの代弁者になる」

さらに参加された者から村越さんに、レビューをする際のコツについての質問が投げかけられ、「決して相手を詰めたり叩いたりするのではなく、出してきたレビューに対してこちら側は、さらにいいものを乗せて返す。相手に新しいヒントを与えられるような意見を返すことが必要」と回答した。

若林さんには、ROIについての質問が挙がり、「UXとビジネスのバランスが難しいケースは、ユーザー寄りの判断をするようにしています。ビジネス臭を漂わせすぎると、ユーザーは離れるので、結果的に誰も嬉しくない状況になると考えている」と回答し、質疑応答のコーナーが終了いたしました。

セミナー後は隣の部屋へ移動し、若林さん村越さんをはじめ、参加者一同が集結して乾杯!懇親会では、みなさん和んだ様子で隣り合わせた方々と交流をされたり、その場を楽しまれていました。

お忙しい中ご登壇いただいたリクルートライフスタイルの若林 一寿さんとグッドパッチの村越 悟さん、そしてご参加いただいたクリエイターの皆様、ありがとうございました!

C&R社では、『CREATORS LIBERTY』をはじめ、今後も多彩なセミナーや勉強会を定期的に開催しています。皆様のご参加をお待ちしております。