崩壊した近未来都市を舞台に、ガイドキャラクター「アルゴ」とともに平和な世界を取り戻す旅に出る――。小学生向けオンラインプログラミング学習サービス「QUREO(キュレオ)」には、子どもの好奇心を刺激する世界観が描かれています。ブロックを組み合わせるビジュアルプログラミングでゲームを作成していき、ステージクリアを目指すなかでIf、ループ、乱数など50項目にもおよぶプログラミングの基礎を自然と身に付ける。「楽しみながら、自主的に学んでもらいたい」という思いからゲーム性を大切にしたこのサービスは多方面から評価を集めています。

子どもたちを夢中にさせるビジュアルをどのように仕上げていったのか? リードデザイナーとしてUIデザインとアートディレクションを手がけた森田彩花さんに開発秘話を打ち明けてもらいました。

森田 彩花(もりた・あやか)
2012年 サイバーエージェント入社。
メディア事業部で、複数WebメディアのUIデザインを担当。
2017年、子会社の株式会社アプリボットに異動。
小学生向けオンラインプログラミングサービス「QUREO(キュレオ)」のリードデザイナーとして、UIデザイン/アートディレクションを担当。

飽きさせないために考えた「3つの軸」とは?

――アプリボットはサイバーエージェントグループでゲームやエンターテイメント事業を手がける子会社で構成されるグループ横断組織SGE(Smartphone Games& Entertainment)事業部の1社です。森田さんは2012年にサイバーエージェントに新卒入社して以来、ずっとメディア制作に携わっていたそうですが、どんな経緯で「QUREO」のプロジェクトに参加することになったのですか?
メディア事業部にいた時に、SGEで新しい教育系プログラミングサービスをつくるためにデザイナーが欲しいということで「ちょっとヘルプにきてくれないか?」と声をかけてもらったんです。新規立ち上げに携わりたい希望は以前からあったので、ちょうど良いタイミングでした。

最初は1ヵ月くらい出向するだけの予定だったのですが、フタをあけてみたら、それで済むような規模のプロジェクトではなかったんです。企画としても面白いし、メンバーの人たちもすごく盛り上がっていて日々開発を楽しんでいる。この組織にきちんと入ってチームで成果を出したい、リリースまでしっかり見届けたい、という思いが芽生えて会社に異動の希望を出しました。アプリボットは自分たちの手で組織や事業を動かす仕組みをつくっていくカルチャーが強い会社だったので、そこも魅力でしたね。

――プロジェクトの始動からリリースまでは、どのくらいかかったのでしょう?
メンバーが集まり、プロジェクトが動き出したのは、リリースのちょうど1年ほど前ですね。開発責任者の高橋悠介のプランがSGEの新規事業コンテストで優勝したことがきっかけです。
サイバーエージェントグループには小学生向けプログラミング教育を行うCA Tech Kidsがあり、「QUREO」のサービスは同社との共同事業として立ち上げましたが、全社で見てもそれまで子ども向けのオンラインサービスをつくることはほとんどありませんでした。幅広い層に向けてさまざまなカタチのアウトプットをつくることにデザイナーとしての価値も感じましたし、他の人がやっていないことに挑戦できるので、「これはチャンスだな」と思いました。

――「子ども」と「学習」の組み合わせ。題材は「プログラミング」…実現するにはさまざまな難問があったのではないですか?
そうですね。子どもの集中力が続くだろうかとか、プログラミング初めての子でも楽しめるだろうかとか…。世の中に浸透させていくにはハードルが高いと思いました。だからこそ、そのハードルをどうやって下げていくかが課題でした。

まずはCA Tech Kidsのスクールで教えているノウハウを活かしながらオンラインサービスとして展開していくためにどのようなプロセスが必要かを考えていきました。そして、デザインをつくる具体的な方針として、自分のなかで3つの軸を立てました。
1つめは、子どもたちに強い没入感を与えられる世界観を作ること。ナビキャラクター「アルゴ」とともに冒険の旅に出ているような感覚を持ってもらい、自分で学習しようとする力を引き出すために、ストーリー構成を決める段階からプロデューサーと世界観を組み立てていきました。
次に使いやすいUI/UXであること。あまり説明的にならず、子供目線で直感的にプラグラミングを学ぶことができるUIを提供できるように心がけました。
そして3つめは、気持ちに訴えかけること。「QUREOを使いこなせている僕って、すごくかっこいい!」という感情を引き出すために、ストーリーをもとにデザインの方向性を決めて、普段私たち大人が使っていても違和感がないような世界観を作っていきました。

資料を横並びに広げて「どう思う?」

――お話から想像するに、開発のペルソナとしてイメージしたのは男の子ですか?
そうです。「QUREO」自体は小学生をターゲットとしているのですが、なかでも小学3年生の男の子に刺さるアウトプットを目指しました。人気のコミックやロボットなどを参考にキーとなるビジュアルから先につくりこみ、完成させたんです。
とはいえ、実際の私は小学3年生の男の子ではないので、自分のイメージが正しいのか最初は不安でした。それでいろんな人を巻き込んで、資料を横並びに広げて「どう思う?」と聞いたりしながら方向性を絞り込んでいったりしましたね。

――森田さんの考えるリードデザイナーとは、いったいどのような役割を果たすポジションでしょうか?
きちんと真正面からプロジェクトに向き合って、サービスの目に見える部分すべてに責任を持つ。それがリードデザイナーだと思います。実装するものの仕様の決定から、外注するアートのディレクションまですべて。周りを見渡し、メンバーの意見を聞きながら、決められた工数の中でどうしたらサービスの課題を解決していけるのかという答えを導き出して、任せられたことを100%やりきる。このことを認識できたのも、入社6年目で「QUREO」に携われたからです。

キャリア3~4年の私だったら、周りを見る余裕が持てなくてこの仕事をやりきることはできなかったかもしれません。当時はキャリアアップしたい、スキルアップしたいと焦って、チャンスがこないことに悶々として、自分のことも見えていませんでしたから。

――そもそも、なぜデザイナーを目指そうと思ったのでしょう?そして、どのような経緯でサイバーエージェントに入社することに?
デザイナーという職業を意識したのは小学生の頃です。「感性を磨かせたい」という教育方針があり、歌舞伎やお芝居をたくさん見に連れて行ってもらっていました。そこで役者さんだけでなく、舞台美術や照明装置のデザインに携わる職業の人もいるんだと知りました。
また、音楽番組などのテレビも好きで、最初はテロップに、その次はCMに興味をもつようになりました。番組の合間の15秒、30秒という時間でメッセージを伝える力がすごくて。それでコンテンツ制作に魅力を感じるようになり、グラフィックを学ぶため美大に進学しました。ところが、当時住んでいた関西ではテレビ局やエンタメに携われる仕事の募集は見当たらなくて。だったらここは挑戦してみよう、そう決心してキー局でインターンを経験したことをきっかけに、武蔵野美術大学の大学院に進みました。

その後、就職先の第一希望となったのは広告代理店です。それが結果的にサイバーエージェントに入社することになったのは、総合代理店で当時シニア・クリエーティブディレクターをしていた方の助言があったからですね。大学で非常勤講師として講座を持っていらした縁で相談させていただいて。その時の私は、サイバーエージェントの最終面接に進み、他の制作会社も候補に残っていたところだったのですが、その方は「森田さん、制作会社向いてないよ」とキッパリ。そして「サイバーエージェントなら最先端の仕事ができて、これからの時代をつくっていける。そこに身を置くことですばらしい経験ができると思う。挑戦してみたら?」と背中を押してくださいました。当時の私には見えていなかったんですが、その通りでしたね。おかげで今の私があるので、すごく感謝しています。

伝えたいことを、伝えたい人に、きちんと伝える

――これから先は、どこを目指して、どんなことをしていくつもりですか?
私はずっとデザイナーとして仕事をしていきたい、時代の最先端を走るプロダクトにデザイナーとして携わり続けていきたい。そう思っています。今のところは「QUREO」のことで頭がいっぱいですけどね(笑)。直近では、「QUREO」をもっとわかりやすく、使いやすいサービスにブラッシュアップしていきたいと思っています。ユーザーテストをしていると、同じ小学生でも家庭環境でパソコンを使い慣れている子とそうでない子の差が大きくて、自分でホームページを立ち上げている子もいればパソコンにまだ触れたことのない子もいます。

2020年には小学校でのプログラミング教育が必修化されるので、どんな環境でも、どこに住んでいても、すべての子どもたちが同じレベルでサービスを利用できて、プログラミング学習ができる環境をつくることがベストなゴールだと思います。私自身、簡単には満足できないタイプなので、そこを目指して今後も改善していきたいですね。ユーザーが現状のサービスにハードルを感じるのであれば、どんどん下げていきたいですし、なくしていきたい。そのために今後は、コミュニティ機能の搭載やタブレット向けの仕様なども検討しています。

――UI/UXをとことん追求していく。それこそデザインの力ですね。
伝えたいことを、伝えたい人に、きちんと伝わるようにする。それが、デザイナーの仕事だと思います。プロダクトや物の価値をよりわかりやすく、より親しみやすくすることで世の中に広まり、役に立ち、人を幸せにする。私にとってもそれは大きな価値に他なりません。ですから、子どもたちが「QUREO」を触りたいと感じてくれて、夢中になって楽しんでくれたら嬉しいですね。
自分のことを振り返ってみても、私は小学生の頃にデザイナーという職業があることを知って意識するようになりました。多感で、小さな経験を通じて将来につながる可能性をどんどん広げていける時期なので、「大人になったらプログラマーになりたい」や「デザイナーになりたい」といった、夢を見つけてくれるきっかけになったら本当に嬉しいですね。もし、これから先、10年、15年後にクリエイター志望の子に会って「この仕事に興味を持つようになったのは、QUREOがきっかけでした」と言ってくれたら、もう最高の気分だと思います。

――森田さん、ありがとうございました!

インタビュー・テキスト:吉牟田 祐司(文章舎)/撮影:古林 洋平/編集:CREATIVE VILLAGE編集

サービス紹介

小学生を対象とした、いつでもどこでもオンラインでプログラミングを学ぶことができるサービスです。
ブロックを組み合わせるだけでゲームを作成することができ、ゲームづくりを通じてプログラミング未経験の子供でも楽しくプログラミングの基礎を効果的に学ぶことができます。

名称   :「QUREO(キュレオ)」
提供形式 :有料オンラインアプリケーション
公式サイト:https://qureo.jp/