大人気ゲーム「GOD EATER」シリーズのモンスター「アラガミ」のモデリング・テクスチャ・セットアップを一手に手がける長谷川将人。
その仕事の速さとクオリティの高さは神がかり的だと称される。
長谷川にとって、モデリング作業をやっているときこそが至福のとき。
そしてそんな長谷川を支えているのは、ユーザーから届けられる喜びの声だった。

 

■ CG制作はとにかく面白かった

高校生になってからゲームをやったり、映画もすごく見るようになり、それでCGに興味を持ちました。ゲームだと「ファイナルファンタジーVII」(97)、映画は「ターミネーター2」(91)などが印象深いですね。パソコンを使えばこんな映像がつくれるんだということもわかって、当時はパソコンなんて触ったこともなかったですけど、とにかくCG制作を学びたいと思いました。それで何校か体験入学に参加して、設備も整っているし、学校の規模も大きくてしっかりしているというところが気に入り、日本工学院専門学校マルチメディア科CGコース(現クリエイターズカレッジCGクリエイター科)に進学を決めました。
入学して一番大きかったことは、パソコンやMAYA(CG制作ソフト)など学校の設備が好きなだけ使えたことでした。放課後も教室は開放されていたので、毎日残って試行錯誤しながら、友だちと情報交換をしたり、講師の先生に教わったりしながらCG制作に没頭していきました。CGはやればやるほど魅力的で、本当に面白くてしようがありませんでした。
当初から形状をつくるモデリングが一番面白いと思っていました。その思いはずっと変わらず、いまに至るまでずっとモデラーをやっています。モデリングに必要な基本的な要素のひとつはデッサン力だと思います。考えてみたら僕は模写がけっこう得意だったような気がします。バランスよくきれいな形でイメージできるかどうかがモデリングの出来にも響いてくるんです。
CGの道に進みたいというのははっきりしていたんですが、ゲームも好きだったし、ゲームをつくるのも楽しいだろうなと思いつつも、ハリウッド映画のような映像をつくりたいという気持ちもあって、卒業後の進路に関してはすごく悩みました。そんなときに日本工学院の先生から教育アシスタントに誘っていただき、もっと自分のスキルも磨きたかったし、将来を見極める期間にしたいという思いもあって、お引き受けすることにしました。

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「GOD EATER」(10)「ゲームのCG制作の世界で生きていくきっかけをくれた大切な作品です。どうしても『GOD EATER』の『アラガミ』をやりたいと思い、それまで受けていた仕事をすべて捨てました」

 

■「アラガミ」こそが求めていたものだった

教育アシスタントのかたわら、講師の先生から紹介され、CMやイベント用のムービーのCGを手がけたりもしていました。そして1年間の教育アシスタントの任期終了後に、フリーのモデラーとしてプロジェクト契約で映画の現場に入りました。あこがれの映画の現場でしたが、現実は過酷でした。モデリングの作業をやっているあいだは本当に楽しいんです。だけど人手やスケジュールの問題など、現場の厳しさも知りました。
知り合いの紹介でいろいろなCGを手がけていく中で、あるときゲームのモデル・テクスチャを手がける機会があり、ゲームのCG制作の魅力に目覚めました。映画のCGはあくまでも映像の一部だし、作品を見たらそれで終わってしまうけれど、ゲームのCGは長く親しんでもらえると感じたんです。ユーザーに遊んでもらい、つくった自分も遊べて、しかも遊んでくれたユーザーから本当にたくさんの意見やいろいろな感想をいただけて、こんな楽しいことはないなって。すごくつくりがいを感じました。その頃からゲームのCG制作に大きく気持ちが傾いていきました。
その願いがかなって、2010年から現在所属しているシフトに入社し、リードモデリングデザイナーとして、「GOD EATER」シリーズの「アラガミ」を手がけています。フリーのモデラーとして活動しながら2005年から日本工学院専門学校で非常勤講師としてCG制作を教えていたんですが、同校の教員の方からシフトを紹介されたのがきっかけでした。シフトはアットホームで人も雰囲気もいいし、自由度も高く、任せて挑戦させてくれる。とてもいい会社です。なによりの幸運は、「GOD EATER」という作品、そして「アラガミ」というモンスターに出会えたことでした。「アラガミ」には高いリアルテイストが求められているんですが、僕はもともとリアルなクリーチャーが大好きで、映像を志していたのも、CGでどこまでリアルさを表現できるかということを追求したかったからでした。「アラガミ」はまさに僕の好み、志向にドンピシャでした。

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GOD EATER BURST」(10)「GOD EATER」にさまざまな改良が加えられた進化版。長谷川は「アラガミ」の全モデルを手がけた。「ただモデルをつくれば終わりではなくて、そこからアニメーションをつける作業に入るわけです。だから、”動かすことを考えたモデル”というのをつくらないといけない。そのためにはアニメーションの知識もある程度はないと厳しいと思います。才能やセンスといったものも関係してくるとは思いますが、そこを目指して努力することはできますよね。となると自分の中のデータベースが重要になってくる。僕はいまでもゲームや映画は相当数見ています。やっぱりクリーチャーものが好きですけど(笑)」

 

■ つくり手が楽しいと思えなければダメだ

専門学校で学んでいるのに、まるで高校の延長といった意識で、危機感をまったく感じていない人もいると思います。だけど専門学校は好きなことを仕事にして生きていくための準備をするための場所で、ただ授業を受けて卒業できればいいといった学校とは違うんです。もし自分でその意識が持てないなら、やる気のある子たちと仲良くなることです。そうすると周りに引っ張られてどんどん伸びていきます。切磋琢磨して共に成長できる友だちを見つけて、学生時代にとにかくしっかり基礎知識を身につけてほしいと思います。
この仕事が好きだから始めたし、いまも好きだし、楽しいから続けています。まさかこんなに好きになるとは思っていませんでしたけど(笑)。僕は遊んでいるより、モデルを触っているほうが楽しいんです。ゲームをつくっている以上、つくっている人間が楽しんでつくってないと、まず楽しいゲームはできないと思います。キツイとか、疲れたとか、そんなことばかりを口にしながらやっている人は正直あまり好きではありません。僕も映画をやっているときはそういうこともありましたし、現実のダメージが大きすぎて、もともと好きで始めたってことを忘れてしまうってこともあると思います。でもやっぱりそれではいけないんだと思います。
僕はいま、希望したゲームの世界で、大好きな「アラガミ」のモデルをひたすらつくっていることが本当に幸せだし、楽しいです。本格的にモデラーを手がけた「GOD EATER」が発売されたとき、寄せられたユーザーの反応を見て、すごくうれしかったんです。やっぱりやりがいがあるなって思いました。いまも、「もっとここを頑張ればユーザーは喜んでくれるはず!」「みんなどんな反応をするかな?」なんて考えながら、楽しんでくれているユーザーの姿を思い浮かべて、つくりながらニコニコしちゃってます。

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GOD EATER2」(2013年発売予定)東京ゲームショウ2012で、その

詳細が発表され大きく注目を集めた。「ものをつくるって相当な試行錯誤が必要だと思うんですけど、僕の場合は、頭は空っぽの状態で、ほとんど考えなくても手が勝手に動いてモデルができていくんです。モデリングを繰り返しているうちに、作業が異常に早くなりました。『アラガミ』の場合も、1体の形状をつくるのに、モデリングにさいている時間は2割ぐらいで、あとの8割はテクスチャ及び質感や色合いにかけています」

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