日本政府が掲げる2050年の「ムーンショット目標」がにわかに注目され始めています。「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現する」という、現状では少し突飛に感じられる内容です。そして、その実現において中心的な役割を担うのが「サイバネティックアバター」だと言われています。人間が「身体、脳、空間、時間」という制約から解放された世界を実現するサイバネティックアバターとは。そして、3D/CG/VFXデザイナーとの関わりや今後の可能性について解説します。

日本政府が目指す「ムーンショット目標」とは

ロボットが仕事をする未来

2050年までに複数の人が遠隔操作する多数のアバターやロボットを組み合わせることによって、大規模で複雑なタスクを実行する技術を開発し、その運用などに必要な基盤構築を目指すという「ムーンショット目標」。人間があらゆる制約から解放される社会は本当に実現するのでしょうか。サイバネティックアバターの利活用の視点から、ムーンショット目標について迫ります。

人があらゆる制約から解放される社会の実現

「2050年までに、人間が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」することが、「ムーンショット目標1」として掲げられた内容です。人間は自らが持つ肉体や空間・時間といった環境にその活動を制約されています。たとえば、ケガをすれば身体を思うように動かせませんし、老化により脳の処理能力や記憶力は低下します。また、時間が足りないからといって複数タスクを同時にこなすことはできませんし、遠方の作業をすぐに行うことは不可能です。

このように多数の制約の中で人々は生活を営んでいます。しかし、もしこの制約から解放されれば、老若男女問わず誰もが、やりたいこと・やるべきことを自由かつ一定以上の成果を上げられることが期待されています。「誰もが夢を追求できる」「100歳まで健康の不安なく、人生を楽しめる」そんな社会の実現を目標としているのがムーンショット目標です。

ムーンショット目標が掲げられた背景は少子高齢化

ムーンショット目標設定の背景にあるのは少子高齢化問題です。日本では生産年齢人口が年々減少しており、国としての将来的な成長が不安視されています。また、人生100年時代と言われる昨今、年齢にかかわらず多様なライフスタイルを追求するのが当たり前になりつつあります。少子高齢化による成長鈍化を防ぎ、さらに人々の幸福度を求めたいという考えが、ムーンショット目標にはそうした意義・背景があるわけです。

目標達成に欠かせないサイバネティック技術

ムーンショット目標は壮大で夢のある話です。しかし、「身体、脳、空間、時間」といった制約から人間を解放させるには、解決すべき課題が多くあります。その課題を、身体的能力・認知能力・知覚能力などのサイバネティック技術(人間と機械が共生する技術)で強化することで解決しようと、政府は考えているのです。具体的には遠隔操作できるアバターやロボットと組み合わせることで、ムーンショット目標達成を目指しています。

サイバネティックアバターと3D/CG/VFXデザイナーの需要

3Dスキャンによるアバター化

ムーンショット目標で重要になるポイントが「サイバネティックアバター」です。身代わりのロボットや3D映像などを示すアバターに加え、人間の身体的能力、認知能力および知覚能力を拡張するICT技術やロボット技術を指します。アバターは現在でも活用されていますが、サイバネティックアバターとはどう違うのか。また、3D/CG/VFXデザイナーとの将来的な関わりについても考察します。

サイバネティックアバターとは

アバターは、現在でもすでに実社会に存在しています。たとえば、SNS上のアカウントもネット上のアバターです。ゲーム中で操作しているキャラクターも、ゲーム世界における自分の分身、つまりアバターと言えるでしょう。一方で政府が想定しているサイバネティックアバターは、現在すでに存在するアバターよりも進んだ技術になります。

たとえば、ネット上などのサイバー空間上のキャラクターや3Dモデルはもちろん、自由自在に遠隔操作できるロボット、ICT技術、映像など、あらゆる場にサイバネティックアバターを存在させることが想定されています。さらにサイバネティックアバターは、身体・認知・知覚能力を拡張させて、人間が成し遂げたいと考えるタスク・目的・夢を無理なく叶えるツールとなるべきだと想定されているのです。

サイバネティックアバターでできること

政府が想定するサイバネティックアバターでは、さまざまなことを実現できます。肉体・空間の制約がなくなるため、宇宙空間や危険地帯など、人間が活動できない場所でのタスクを行えます。脳や時間の制約がなくなれば、サイバー空間にてサイバーアイドルが行う2時間のコンサートを30分程度で楽しめるようになるかもしれません。

ほかにも、サイバネティックアバターが実現すれば、遠隔地での介護や災害地での救助活動、家にいながらの旅行、翻訳ツールを使わずに全世界の人と自由に話せる能力なども可能に。制約がなくなることで、さまざまなことを行えるサイバネティックアバターは、無限の可能性を秘めていると言えるでしょう。

3D/CG/VFXデザイナーの需要拡大が予想される

ムーンショット目標が進み、サイバネティックアバターが当たり前になる時代は、3D/CG/VFXデザイナーの需要も拡大することが予想されます。たとえば、現在でもVtuberのように、ネット空間上で使用者本来の姿とは違うアバターを使用するケースは増えています。

そして、ムーンショット目標では現実空間だけでなく、ネット・サイバー空間においてもサイバネティックアバターが利用される可能性があります。つまり、誰もが自由に自分好みの容姿でアバターを持つことができる未来がくるかもしれません。その場合、人気のある容姿を創り出せる3D/CG/VFXデザイナーの需要は高まる可能性があります。

3D/CG/VFXデザイナーがweb制作の主役になる日がくるのか?

VRを利用した開発風景

現在のwebはテキストデータが検索の主流です。テキストの内容をクローラーが判断して検索結果を表示しています。画像・動画・3Dなどの分類は、検索するうえではどちらかと言うと装飾のような扱いであるのが現状です。ムーンショット目標が実現する未来では、webの世界でも主役が2Dコンテンツから3Dコンテンツに移行する可能性があります。具体的にはどんな変化が起こり得るのでしょうか。

webはテキストデータが基本である

現在のところ、webの検索はテキストデータが基本の2Dコンテンツがメインです。たとえば、Googleの検索クローラーが収集対象とするのはテキストであり、人気のYouTubeも検索や関連動画の表示は、動画タイトルや説明欄のテキストによるSEOが収集のベースとなっています。

一方で、画像や動画、3Dの制作物はweb検索の仕組みから考えた場合、装飾的な意味合いが強くなると考えられます。リッチコンテンツがふんだんに使われたwebページは利用者にからの評価は高くなるでしょう。しかし、適切なテキストが配置されていないと、コンテンツまでに行き着くことができず、どんなにリッチな装飾がされていても意味がないのです。もちろん、Googleなどでは画像検索も行えますが、未だに検索の主体はテキストベースであり、その傾向は今後もしばらくは変わらないと予想されています。

新たな価値観の誕生が需要拡大に

ムーンショット目標が現実化して、サイバネティックアバターが当たり前に活用される社会になった場合、どんな変化が起こるでしょうか。現在のテキスト主体の2Dコンテンツだけではなく、利便性のために直感的にリッチコンテンツを探し出したいと考える需要は、今よりも確実に増えるのではないでしょうか。

推測の域を出ませんが、将来的にはテキストだけでなく画像や動画、3Dコンテンツを評価するような検索アルゴリズムが生まれる可能性が考えられます。そうなれば、魅力的かつ検索されやすい3Dコンテンツを制作できるクリエイターはさらに重宝されるのではないでしょうか。新たな価値観の誕生とともに、3D/CG/VFXデザイナーの需要が高まる可能性を決して否定はできないでしょう。

3D/CG/VFXデザイナーが主流となる時代が訪れる可能性も

あらゆる人がネットワークで繋がる世界

【「サイバネティックアバター」についてのまとめ】

  • ムーンショット目標とは「身体、脳、空間、時間」から人間が解放された社会の実現である
  • サイバネティックアバター実用化で3D/CG/VFXデザイナーの需要は高まると予想される
  • webが2Dから3Dに移行すれば、デザイナーの需要はさらに拡大する可能性がある

政府が打ち出した「ムーンショット目標」、そして想定されているサイバネティックアバターは、まるでSF世界のような夢のある話です。しかし、現在の技術では実現がかなり難しく、雲をつかむような話であるのが現状です。とはいえ、インターネットの進化により情報共有が容易になった今、技術の進歩は一昔前と比べて格段にスピードアップしています。現在はまだ夢のような話であっても、2050年には形になっている可能性を否定することはできないでしょう。

そして、技術の進化とともに需要も変化し、webのあり方や価値観も大幅に変化することが考えられます。将来的には検索収集のベースがテキストの2Dコンテンツから3Dコンテンツに変わる、そんな未来がくるかもしれません。

また、どんなに技術が進化してもそれを運用するのは人間です。サイバネティックアバター運用にあたって、「自分ではない何かになりたい」という欲求があればそれは需要となり、デザインが介在できる可能性があります。サイバネティックアバターは無限の可能性を秘めています。だからこそ、3D/CG/VFXデザイナーは創造性をフルに発揮できるよう、柔軟な思考力・対応力が今後も求められるのではないでしょうか。