2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」以降、日本の近未来における警鐘である「2025年の崖」が危惧されており、官公庁や企業を中心に「DX(Digital Transformation)」が推進する気運が高まっています。しかし、人々の暮らしのステージがアナログからデジタルへと移行する中、すでにDXの次のキーワードとして「VX(Virtual Transformation)」が注目され始めています。

もし実際にデジタルの次にバーチャルに関する変革が起こるとしたら、そうした近未来に向けて3D/CG/VFXデザイナーとしてはどんな心構えでいるべきでしょうか。VX社会の実現を予見したうえで、クリエイターとして新たな価値を生み出すために必要な意識について検証します。

「VX」を知るために押さえておきたい4つのデジタル技術

グローバルネットワーク

近年、目まぐるしいスピードでテクノロジーが進化・発展しています。その中でも変革を代表とする言葉は、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」でしょう。ニュースやセミナー、職場の会議などでDXは、もはや次世代に向けたスローガンのように使われています。そんな時代において、すでにDXの次のキーワードとして、「VX(バーチャルトランスフォーメーション)」が注目され始めています。

VXとは、「デジタル関連技術による視覚体験化を通して現実世界と仮想世界を融合させることで、社会を変革する取り組み」のことを指します。つまり、VXが現実社会で実現されるためには、近年話題になっているメタバースのような仮想世界における技術革新が不可欠です。まずはVXを理解するうえでも重要となる4つのデジタル技術を押さえておきましょう。

その1:XR(クロスリアリティ)

XRとは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)の総称です。最近、XR技術を用いて「巨大仮想現実空間(メタバース)」が構築されるなど、その技術のビジネス応用は注目されており、各分野で実装が検討され始めています。

その2:デジタルツイン

デジタルツイン(DigitalTwin)とは、IoTなどで現実世界からさまざまなデータを収集し、物理的なシミュレーションを実施することで、双子(Twin)のように似た環境を仮想空間上に再現する技術です。現実に限りなく近い仮想空間においてさまざまな施策を試すことなどで、各種サービスや製造工程などの改善に役立てることが可能です。

その3:5G

5Gとは、「第5世代(5th Generation)移動通信システム」の略称です。高速で大容量の通信を実現し、同時に多数のデバイスを接続できるうえ、遅延が少ないことが特長と言えます。IoTやXR技術と連携し、さまざまなサービス・コンテンツが提供されています。VXのような膨大なデータ量が必要な技術においては、不可欠なシステムです。

その4:AI(人工知能)

AI(Artificial Intelligence)とは、人間のさまざまな知覚や知性を人工的に再現する技術です。すでにさまざまなビジネスにおける業務効率に置いてもAIの活用は顕著ですが、仮想空間においても人間とAIがコミュニケーションを取って連携するシチュエーションはさらに増えてくるでしょう。

上記のようにすでに導入されていたり、近未来でさらに発展したりする可能性が高い技術がVXに応用されると考えられています。上記の技術も10年前には現在の発展が考えられなかった面もあるだけに、今後のVX推進も著しいスピードで進むことも十分に考えられます。

「Workrooms」や「デジタルツイン実現プロジェクト」がVXの具体例

VR会議のイメージ

「VXがDXの次の変革」と言われても、まだいまいちピンとこない方もいるでしょう。その場合は、すでに実装されているVX技術に触れることが理解を深める一番の近道だと言えます。現時点におけるVX関連サービスの代表例としては、METAの「Workrooms」が有名です。

Workroomsは、XR(AR、VR、MR)技術を活用した「XRミーティング」と呼ばれるバーチャル会議室サービスです。仮想空間においてアバターとして会議に参加し、360度全方向でインタラクティブにやり取りを行えます。すでに運用を開始しているので、「VXを体験したい」「先端技術をいち早く導入したい」という場合は利用価値が非常に高いと言えるでしょう。

また、東京都によって進められている「デジタルツイン実現プロジェクト」も、VXの具体例です。サイバー空間上に3Dモデルで「東京都」を再現し、さまざまなデータを重ね、新たな知見を得ようとする壮大なプロジェクトになります。政府が推進する「Society 5.0」の世界観に近い事例でしょう。Society 5.0とは、仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済の発展と社会的課題の解決を両立し、「人間中心の社会」を実現する構想です。

東京都のデジタルツイン実現プロジェクトは、社会を根本的に変革するほどの壮大な計画と言えます。完全に実現すれば、人々の暮らしが大きく変わることでしょう。現状のサービスや施策レベルでは、「VXが世界を変える」という状況にまでは至っていません。しかし、これまでに存在しなかった世界観・価値・サービスがすでに生み出されていることは事実です。次世代の時流に乗っかるためにも、VX関連の最新情報や動向は常に追い続けることが求められます。

VX関連ビジネスの成功には、娯楽の域を出ることが必要

VXによって広がる世界のイメージ

VXは次世代を担うことが想定される技術革新ですが、現状のサービスは「エンターテインメントの域」を抜け出せていないのが現状でしょう。METAのWorkroomsの「アバターの姿でオンライン会議に参加できる」という仕組みは、魅力的で面白いものではあります。しかし、一般的にビジネスにおけるオンライン会議では、「Zoom」などが主流であり、本人の顔の表情を見ながらコミュニケーションを行うケースが多いのではないでしょうか。表情から読み取れる情報は重要です。

巨大仮想現実空間(メタバース)も注目されていますが、「将来的にビジネスの中枢を担うようになる」と判断するのは時期尚早でしょう。たとえば、2003年にサービスが開始されたメタバースの先駆けと言える「Second Life」を見ると、盛んに「ビジネスでの有用性」が説かれたにもかかわらず、未だに「娯楽的な活用」がメインになっている印象があります。

娯楽を脱し、「社会インフラ」と呼べる状態になるまで広く浸透し、必要性が高まらなければ、VX関連ビジネスの発展は困難だと言えるでしょう。今後どう変遷していくのかを注目しながら、ビジネスへの活用を探っていく姿勢が大切です。なお、東京都のデジタルツイン実現プロジェクトや政府のsociety 5.0構想は、社会を根本的に変えるほどの壮大な計画であり、取り組みが実現すれば、人々のライフスタイルが大きく変わることは間違いありません。ただし、実現するまでには、ある程度の時間がかかることが予想されます。

また、これらの取り組みは大切なことではありますが、必ずしも現行の3D/CG/VFXデザイナーとしての技術がそのまま使えるというわけではありません。新たなスキル・ノウハウの習得が求められる可能性があることを十分に認識しておきましょう。

VXは話題性があるが、ビジネス活用においては未知数

デジタル化する世界のイメージ

【「VX」についてのまとめ】

  • VXとは、XR技術などを活用して現実世界と仮想世界を融合し、社会を変革する取り組み
  • 現在のVX関連サービスの代表例は、METAの「Workrooms」
  • 「娯楽の域」を脱するかどうかが、VX関連ビジネスの発展の鍵となる

現時点におけるVX関連サービスの代表例としては、METAの「Workrooms」など数える程度しかなく、確実にDXの次の波としてVXが来るとは言い切れない面もあるでしょう。しかし、テクノロジーの進歩のスピードは、人々の想像よりもはるかに速いので、次世代を常に想起しつつ、自己の研鑽に励むことがクリエイターにも求められます。

既存の3D/CG/VFXデザイナーとしての技術を、VX関連サービスにおいて活かせる部分ももちろんあります。しかし、VX関連技術の発展を社会インフラの領域として捉えた際に、3D/CG/VFXデザイナーという職種の役割やどんな社会貢献が果たせるのかという視点に立つことが重要です。それができれば、未知数とも言えるVXのビジネス活用の未来においても着実な備えになるでしょう。