2026年現在、アメリカ合衆国では「デザイン」が政府の政策課題のひとつとして注目されています。
ドナルド・トランプ大統領(第45代・第47代)が2025年8月21日付で署名した大統領令「Improving Our Nation Through Better Design」によって、「America by Design」と呼ばれる国家的イニシアチブが始動しました。
この施策は連邦政府のデジタルおよび物理的なサービスの利便性と美観の改善を目指すものであり、政府が公共サービスの体験設計に積極的に関与する試みです。
ただし、「国家が美意識そのものを再定義する」といった断定的な表現は政府の公式文書には明記されていません。
公式には「デザイン言語の改善」や「ユーザー体験の向上」が主目的として示されています。
ホワイトハウス直属「ナショナル・デザイン・スタジオ」の設立
2025年8月、アメリカ政府は大統領令によってホワイトハウス内にNational Design Studio(NDS)を設置しました。NDSは連邦政府全体のデザイン改善を支援する組織であり、その中核ポストとしてChief Design Officer(CDO)が新設されています。
初代CDOには、Airbnb共同創業者のジョー・ゲビア(Joe Gebbia)氏が任命されたと報じられています。
役割は、連邦政府のデザイン方針の調整、外部クリエイターとの連携、各省庁への助言などが中心とされています。
なお、特定の建築様式や美学(例:古典主義への回帰)を国策として義務付ける記述は公式文書には含まれていません。
| 新設ポスト | チーフ・デザイン・オフィサー(CDO):ジョー・ゲビア氏(初代) |
|---|---|
| 中核組織 | ナショナル・デザイン・スタジオ(NDS) |
| 目標期限 | 2026年7月4日:初期成果の提出目標 |
| 主な目的 | 連邦政府のウェブサイト・公共空間におけるユーザー体験と視覚デザインの改善 |
文化政策と予算:DEI・芸術助成金の動向
デザイン政策と並行して、文化・芸術分野の予算を巡る議論も活発化しています。
2026年度予算案では、国立芸術基金(NEA)や国立人文科学基金(NEH)の廃止または大幅削減が提案されましたが、議会では資金維持を求める動きも見られ、最終的な結論は立法過程に委ねられています。
一部で報じられた「表現内容による一律の選別」や「博物館展示への直接的な検閲」については、公式に確認された事例は限定的であり、多くは一時的な表現修正や説明文の変更にとどまっています。
SNS時代の評価とクリエイターの選択
SNSの普及により、クリエイターがどのようなプロジェクトに関与しているかが瞬時に可視化される時代となりました。
その結果、以下のような状況が指摘されています。
- 政府関連の仕事が政治的立場と結びつけて解釈される可能性
- 特定の価値観を支持・批判していると受け取られるリスク
- 沈黙や中立姿勢そのものが評価対象となる環境
これらは社会的議論や評価の傾向であり、
政府が法的に表現を制限していることを意味するものではありません。
2026年の表現の中立性と創造性
政治と文化が交差する環境において、クリエイターが自律性を保つための戦略が模索されています。
以下は一般的な職業的視点からの整理です。
-
プロフェッショナリズムの明確化
政治的立場ではなく、UXや機能性、歴史的文脈など専門的根拠に基づいてデザインを語る姿勢。 -
多様なポートフォリオの構築
公的・私的、国内・海外など複数の活動軸を持ち、表現や収入源のリスクを分散させる。 -
デザイン意図への自覚
色や形、構図が持ちうる政治的・社会的文脈を理解した上で、意識的に選択する姿勢。
まとめ:国家のデザイン政策とクリエイティブの自由
「America by Design」は、連邦政府が公共サービスにおける体験価値と視覚的統一性を高めようとする政策です。
それ自体が表現の自由を直接制限する制度ではありませんが、文化予算や社会的評価の文脈と結びつくことで、クリエイターに新たな判断を迫る状況を生み出しています。
2026年を生きるクリエイターにとって重要なのは、国家や市場の要請を理解しつつも、専門性と作家性をどこに置くのかを主体的に選び取ることです。
そのバランス感覚こそが、これからの時代の重要なクリエイティブ・スキルとなるでしょう。


