2026年、クリエイティブ業界はかつてない転換点を迎えています。第2次トランプ政権の発足以降、それまでクリエイターの権利を保護してきた法的な枠組みが、驚くべきスピードで「AI開発優先」へと塗り替えられているからです。特に、政権のブレーンとして台頭したイーロン・マスク氏の存在は、私たちの「表現の価値」を根底から揺さぶり始めています。この記事では、米国で今まさに起きている事実を整理し、日本のクリエイターが直面するリスクと対策を深掘りします。

「クリエイターの砦」が揺れた日:2025年著作権局長解任の背景と論点

事態が大きな注目を集めたのは2025年5月のことでした。米国著作権局(U.S. Copyright Office)の局長を務めていたシラ・パールマター氏がホワイトハウスの判断により解任されました。パールマター氏は著作権政策に関する豊富な経験を持ち、長年この分野で活動してきた専門家です。

解任の直前、著作権局は「著作権と人工知能に関する報告書」の第3部(pre-publication draft)を公表していました。この報告書では、生成AIの学習に際して著作権で保護された作品が大量に利用される場合、その扱いがフェアユース(公正利用)に該当するかどうかは、個別の要素や状況を慎重に検討する必要があるという見解が示されていました。報告書自体は政策提言や法案ではなく、同局の分析と考察をまとめたものです。

パールマター氏の解任とこの報告書との関連について、ホワイトハウスや政府関係者から明確な公式説明は出されていません。一部の議員や業界関係者からは、解任とAI政策を巡る議論との関連を指摘する声が出ていますが、現時点では直接的な因果関係が公式に確認されているわけではありません。また、この人事をもって米国の著作権政策全体が大きく転換したと断定できる状況にもありません。

注目される「Department of Government Efficiency(DOGE)」とAI政策の論点

2025年初頭、ドナルド・トランプ政権下で「Department of Government Efficiency(DOGE)」という政府組織が創設されました。この組織は、連邦政府機関の効率化を目指すことを目的としており、イーロン・マスク氏が初代責任者として関与していたと報じられています。

DOGEは一部の連邦機関の情報システムにアクセスし、規制改革や人員再配置を進めるなどの活動を行ってきましたが、批判も出ています。市民団体や議員の一部は、DOGEのAIシステム利用やデータアクセスに関し透明性や法令遵守が不十分だと懸念を示しています。また、2026年に入ってからは、同組織の一部メンバーによるデータ利用や共有に関する調査や訴訟が進行しているとの報道もあります。

以下は、政策論点や議論として取り上げられている主なものです。

論点 説明
DOGEの役割 政府効率化を掲げ、複数の連邦機関の改革・データ活用を進める組織として活動。報道ではマスク氏が関与していたとされるが、DOGEの権限や透明性を巡る懸念もある。
AIと著作権の関係 著作権局の報告書では、AIモデルの学習に著作権作品を使う際のフェアユース適用について、明確な一義的結論ではなく、複数の要素を総合的に判断する必要があるとした。
クリエイターへの影響 著作権保護された作品がAIの学習データとして利用される場合、著作権者がどのような権利・対価を保持できるかについて、法的・政策的議論が続く。これは多くのアーティストや出版社にも関係する重要な論点である。
AI利用に関する規制・同意 2026年時点で、主要プラットフォームがAI学習への利用条件やデータ利用について利用規約で規定する動きがあるとの指摘はあるものの、米国全体の法制度として一律に「同意を強制する」規制が成立したという公式な情報は確認されていません。

「フェアユース」をめぐる解釈拡大と、クリエイティブ産業への影響

現在、米国では生成AIの学習に著作物を利用する行為が「フェアユース(公正な利用)に該当しうるのではないか」という解釈を前提とした議論が広がっています。ただし、この点について統一的な司法判断や明確な法解釈が確立しているわけではありません。実際には、個別の事案ごとに判断されるべき問題であり、AI学習全般が自動的にフェアユースと認められている状況ではありません。

一方で、AI開発企業の側がこの解釈を前提に事業を進めているケースがあることも事実です。その結果、クリエイターの許諾を得ないまま作品が学習データとして利用されているのではないか、という懸念や訴訟が各地で提起されており、法的・社会的な議論が続いています。

特に議論を呼んでいるのは、AI生成コンテンツの急増が、既存のクリエイティブ市場にどのような影響を及ぼすのかという点です。イラスト、音楽、文章制作などの分野では、AIによる高速かつ大量の生成が可能になったことで、価格競争の激化や発注構造の変化が起きていると指摘する声があります。ただし、報酬単価の下落や職業的影響の度合いについては分野や市場によって差があり、定量的に一律の結論が出ているわけではありません。

日本への波及:グローバル・プラットフォームと規約の問題

日本の著作権法は、比較的クリエイター保護を重視した構造を持っています。しかし、実際の創作・発信の場として多くの人が利用しているのは、米国企業が運営するグローバルなプラットフォームやツールです。そのため、利用者は日本法だけでなく、各サービスの利用規約にも影響を受けるという現実があります。

  • X(旧Twitter)やInstagramなどのSNSでは、投稿されたコンテンツの取り扱いについて、各社の利用規約でデータ利用や解析に関する条項が設けられています。ただし、個々の投稿が実際にどのような形でAI学習に使われているかについては、外部から完全に把握できるわけではありません。
  • Adobeなどの制作ツールについても、近年はAI機能が統合され、ユーザーデータの扱いに関する説明が更新されています。多くの場合、規約上は利用条件や選択肢が明示されていますが、その内容を十分に理解しないまま使用されているケースも少なくありません。

2026年を生き抜く:クリエイターに今できること

政治や巨大資本の動きを止めることは容易ではありませんが、無防備でいる必要もありません。新しい秩序の中で生き残るためには、以下の戦略を意識することが重要です。

  1. 「脱・プラットフォーム依存」の加速:GAFAやXなどの巨大プラットフォームだけに依存せず、独自のニュースレターやクローズドなコミュニティなど、自分の権利をコントロールできる場所を持つ。
  2. 「人間性の署名」の強化:AIがどれだけ精巧に模倣しても再現できない、制作の「背景ストーリー」や「思想」を作品の一部として発信し、ブランド化する。
  3. 法制度への積極的な関与:クリエイター団体などを通じ、日本独自の権利保護(オプトアウト権の確立など)を求める声を上げ続ける。

【参考資料・出典】

まとめ:変容する世界で「創造性」の舵を握り続ける

トランプ政権下で進む政策の動きや、イーロン・マスク氏が関与するAI技術の発展は、創作物をどのように捉えるべきかという問いを、あらためて私たちに突きつけています。
すなわち、それは「魂のこもった表現」なのか、それとも「学習データとして扱われうる資源」なのか、という問いです。
しかし、技術がどれほど進歩し、法制度がどれほど歪められようとも、「誰が、なぜこれを作ったのか」という文脈に宿る価値までを奪い去ることはできません。

2026年、私たちは政治の荒波を読み解く知性と、自らの権利を守り抜く強さを併せ持つ必要があります。この「シン・秩序」を正しく恐れ、したたかに活動を続けていきましょう。