数多くのアーティストと共演し、音楽家として圧倒的な存在感を放つ高田漣が、初の小説『街の彼方の空遠く』を6月27日に河出書房新社から刊行する。故郷・吉祥寺を舞台にしたこの作品は、音楽、映画、小説、そして父・高田渡との記憶がサンプリングされ、時空を超えて響き渡るレクイエムのような長編小説だ。

本作は、文芸誌「ケヤキブンガク」に3号連続で掲載された小説をもとに、新たに「幕前」や「幕間」などを加え構成された三部作である。「第一幕 フォーク・ソング または44/45」では、1994年に起きたサンプラーの読み込みエラーをきっかけに物語が動き出し、デキシーランド・ジャズの旋律に乗って運命が錯綜する「第二幕 ネイチャー・ボーイ または考察三一」、吉祥寺の記憶と父との思い出が現在と未来へ昇華する「第三幕 恋は桃色〜16 coaches long〜」と続く。各章では過去、現在、未来、そして平行世界までもが交差し、郷愁とともに瑞々しさを湛えた物語が展開される。

音楽家ならではの視点が随所に光る。作中ではビースティ・ボーイズをはじめ、フォーク、ロック、ジャズ、ヒップホップといったジャンルの音楽や、ジミー・ロジャースの曲に由来する英題「Away out Beyond the Town」など、多彩な楽曲の引用が見られる。また、吉祥寺の「いせや」や「バウスシアター」など地元の名店が登場するのも、著者の土地への深い愛着があってこそだ。

推薦文には、作家・いとうせいこうが「イカした音楽と引用の嵐を伴って、過去のJR中央線からあらゆる別世界へ」と表現すれば、中島京子は「詩と音楽の奔流に圧倒されつつ、なんとなく人恋しくなる傑作」と評するなど、高い評価が寄せられている。

本作には、高田漣が長年培ってきた音楽的感性と豊かな文化的素養が詰め込まれている。演奏家、作曲家、編曲家として幅広く活動してきた彼が、今度は文学の舞台でその才能を遺憾なく発揮した。父・高田渡ゆかりのアーティストたちとのつながりも作品に色濃く反映され、読み進めるほどにその奥行きに引き込まれていく。

音楽と文学が融合した唯一無二の青春私小説『街の彼方の空遠く』は、世代やジャンルを超え、読む者の記憶と心に深く刻まれることだろう。