――「赤い鬼の女性」というシンプルなイメージから生まれたオリジナル作品「REDTAIL」。その世界観を構築し、表現し続けるクリエイターTERU氏の創作活動に迫ります。ゲーム業界での経験、フリーランスとしての苦悩、そしてREDTAIL誕生秘話など、彼の歩みを辿りながら作品に込められた想い、そして未来への展望を、TERU氏と10年以上の付き合いがある弊社・木下が聞きました。――

TERU:イラストレーター / 2Dアーティスト。埼玉県出身。多摩美術大学卒業後、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現SIE)に入社し、PS2のホラーゲーム『SIREN』開発チームに参加。2008年よりフリーランスとして活動開始。大人気ゲーム実況者「兄者弟者」(2BRO.)のメインビジュアル、ロゴデザイン、ED映像などアート全般を手掛ける。このほかゲームやアニメ制作、コンセプトアート、キャラクターデザイン、広告ビジュアルや映像等のアートワークに携わる。2023年7月には、東京・表参道のAnicoremix Galleryにて個展「GOOD FOR HEALTH」を開催。2019年よりオリジナル作品「REDTAIL」の制作を続け、自身の表現を模索している。
木下陽童:2010年 株式会社クリーク・アンド・リバー社 入社。遊技機業界とゲーム業界を15年間担当し、同社クリエイティブスタジオの立ち上げ、拡大に従事。現在はインディーズゲーム『IZON.』のプロデュースに加え、ゲーム開発の受託営業、業界向け情報発信+コミュニティ運営の「Game meets」の責任者を務める。

ソニー時代と独立の決意。フリーランスとしての苦悩

ーーTERUさんのクリエイターとしての歩みについて伺いたいです。まずソニー時代の経験から伺いたいと思いますが、ゲーム制作に携わられていたんですよね?

TERU:そうですね。ソニーでは「SIREN」というホラーゲームを作っていました。当時はブラック企業なんて言葉もなくて、泊まり込みの連続でしたが、楽しかったですし、若さで乗り切れていましたね。1作目が黒字になって、次のプロジェクトも期待されていました。

ーー順調だった中で、なぜソニーを辞める決断を?

TERU:僕の友人たちがボロいビルを借りてアトリエを始めたんです。その自由な雰囲気が楽しそうで、勢いで「俺もやりたい!」と辞めてしまったんですよね(笑)「SIREN2」の企画段階の時で、「3Dをやれ」と3Dキャラクターモデラーのリーダーからも言われていて、3Dを触っていたりしていました。振り返ると、あそこでソニーを続けていたら、3Dの道に進んでいて、今もソニーの会社員だったと思います。分岐点ですね。

ーー「こっちの方が面白そうやな」という感覚は大事ですね。情報を取って考えすぎていると道は開きづらいというか。

TERU:僕の頃は、判断に必要な情報量も少なかったので、変な奇行に走ったりしちゃう人も多かったんです。だけど、それが功を奏するかというと、その人の頑張り次第でしかないので。本当に崩れちゃう人もいれば、唯一無二の人になる人もいるので。

ーー大事なのは「行動に起こすこと」ですね。

TERU:そうですね。行動を起こすときも、継続できるビジョンがあるかどうかは大事です。その場凌ぎだと続かなそうなので。僕の場合は「いつかオリジナル作品を作りたい」という強い思いがビジョンであり、ずっとブレていない部分です。ただ、フリーランスになったばかりの頃は大変でしたね。経済的な面で不安定でしたし、社会との接点が希薄になる孤独感もありました。

ーーいきなり壁にぶち当たっているのですね。中でも印象に残っていることはありますか?

TERU:フリーランスのクリエイターたちと交流する中で、いろいろな刺激を受けたことですね。大規模なプロジェクトでは得られない柔軟な発想や、限られたリソースの中で工夫する姿勢は、自分の創作にも良い影響を与えてくれました。フリーランスは自由な反面、自己管理が求められるので精神的にきつい時期もありましたけど、その経験を通じて、計画性や自分を律する力も身についたと思います。

ーーどのように乗り越えたのでしょうか?

TERU:家族の存在が大きかったですね。「どんなに大変でも支えてくれる人がいる」という安心感が、頑張る原動力になりました。

ーー創作活動においても、それが支えになったのですね。

TERU:そうですね。自分の世界観を作り上げるには、強いモチベーションと継続力が必要です。その基盤を作れたのは、この時期、フリーランスとしての苦労があったからこそだと思います。

ーークリークとの出会いは、その後になるのでしょうか?

TERU:フリーランスを続けるうちに孤独感に襲われることが多くなって、人とワイワイやりながら仕事をしたいなと。そんな時にクリークさんの存在を知ったんです。友人が以前お世話になっていたこともあり、思い切って連絡してみました。そこで、クリークの木下さんと出会い、僕の好きなアーティストや作品を覚えていてくれて、それがきっかけで、兄者弟者さんのデザインの仕事をいただきました。自分の好きな作品に携われるのは本当に幸せでした。加えて、紹介してもらったいくつかの会社の中からグリーに入ることになって、久しぶりに外界とつながったことで、電車通勤や開発現場の賑やかさを楽しむことができました。もちろん、満員電車は1ヶ月くらいでキツくなっちゃいましたけど(笑)。でも、その経験が、自分の創作意欲を再び掻き立ててくれましたし、この間も「いつかオリジナル作品を作りたい」という思いだけはずっと持っていましたね。

ーーその思いが転機になったのですね。『REDTAIL』にも影響を与えたのでしょうか?

TERU:はい、間違いなく影響しています。グリーに入った時に、タイトルごとに合わせて画を描くことが必要になったので、自分が今までやってなかった厚塗りをやってみたら「意外といいな」となって、自分の作品にフィードバックして行ったり。とにかく、いろんな現場でいろんな技術を知れた経験が自分の作品のブラッシュアップにも繋がりました。当時、色々と経験させていただいたことを非常に感謝してます。

ー目の前のことを一生懸命やりながら「いつかオリジナル作品を作りたい」という中長期的な目標も意識して進める、というのが大事ですね。

TERU:そうですね。メモに「その日やること」「その週やること」を書いておいて、これだけはやる、ということも実践していました。

『REDTAIL』を通して伝えたいビジョン

ーー『REDTAIL』の誕生経緯について詳しく伺います。この作品はどのようにして生まれたのでしょうか?

TERU:6年くらい前で、グリーを退職した頃ですね。Googleドライブに溜めていた設定をビジュアル化する過程で、いろいろなイラストを描いていて、赤鬼の女の子を描いた瞬間に「これだ」と感じたんです。不思議としっくりきて、そのキャラクターを何度も描くようになりました。描いていくうちに、その子を中心とした世界観や他のキャラクターも生まれてきて。最初は断片的なイラストでしたが、次第に「この子たちの物語を作りたい」という気持ちが強くなりました。

©️TERU by mashcomix

ーータイトルが決まったのもその時期ですか?

TERU:はい。最初は”マラコーダ”というタイトルを考えていました。ダンテの『神曲』に出てくる悪魔の名前で、地獄を象徴するイメージです。でも、それだと少し限定的すぎるかなと。もっと広い世界観を感じさせるタイトルにしたいと思い、赤鬼の尻尾を意味する”REDTAIL”にしました。このタイトルを決めた瞬間、自分の中で作品の骨格が固まったし世界観が広がって、ようやく形が見えてきました。だから、タイトルを最初につけるのは大事だなと思いました。

ーー『REDTAIL』はSFの世界観が存分に溢れています。そこに着目したのは何故でしょうか?

TERU: 「SF」には、もともと強い関心があって。今の時代も、100年後や200年後の人から見たら「資本主義?格差?なにその時代やばい」と思われるかもしれません。でも、SF作品は常に「先を行く価値観」を提示し続けてきたと思うんです。「ブレードランナー(1982)」なんかまさに今のロボットやAIの発展と関係性に大きな影響を与えていると思うし、僕の好きな「攻殻機動隊」の作者・士郎正宗先生の『アップルシード』という作品の中では、いくつもの世界大戦が起きた結果、オリュンポスと呼ばれる理想郷が作られている世界観なんですよね。さらに、その国家は人間の先をいくハイブリットな人間が統治していて、それに対する人間の反発もあると。SFは、価値観を転換するきっかけを未来のビジョンから問いかけているジャンルだなと思うんです。

ーーでは、「REDTAIL」を通じて社会にどんな世界観や想いを伝えたいですか?

TERU: 見ている人の価値観を変えることですね。たとえば、過去において社会の正常と思われていた価値観が、時代の変化と共に覆されてきました。過去の人々が「職業は生まれながらに決まっている」と信じていた時代があるように、現在の社会にも、この時代の価値観として我々にインストールされているOSがあるわけです。その中でSFは新しい価値観を提示することで、人々の気づきを生む要素が強く、社会の「アップデート」を加速できるジャンルだと思っているので。「REDTAIL」の世界観を通じて、SF的な価値の変革や新しい未来のビジョンを提示したいと思っています。

ーー今後も、楽しみにしています。ありがとうございました。

TERU: ありがとうございました。

REDTAIL TERU ILLUSTRATION WORKS: TERU ILLUSTRATION WORKS

崩壊する都市、その裏に隠された真実。常識を覆す近未来SFワールド。
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いまや海外でも注目を集める鬼才イラストレーター・TERUが5年の歳月を費やし構築し続けてきた作品『REDTAIL』の全貌がついに明らかになる。2035年、東京。
突如として街が光に包まれ、爆音とともに謎の「赤い光柱」が出現した。
それは異界とつながるポータルとなり、やがて周囲で超自然現象や怪異が観測されるようになる。

それから14年後。地獄から顕現した悪魔「魔子」と人間の「ワタナベ」は、民間軍事組織「青蜂」の一員として、トラブルを引き起こす怪異を鎮圧すべく、日々奔走していた。
その裏では、謎の教団によって “完璧で究極の存在”を開発する「強化骨格プロジェクト」が始動。
そこでは、異世界を巻き込んだ想像を絶する実験が繰り返されていた――。

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