「ニッチな職人向けの作業服」から「オシャレなカジュアルウェア」へ華麗に拡大―。作業服の販売を手がける株式会社ワークマンは自社ワークウェアを370万着も生産し、低価格のアウトドアウェア市場をけん引する企業です。さらにアウトドアウェアの新業態「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」を展開し、2019年5月末時点で国内840店舗と、あのユニクロを超える店舗数を達成しました。一般のお客様にも浸透し、今では「#ワークマン女子」というハッシュタグがインスタグラムで生まれるほどの勢いを誇ります。

この快進撃の理由はいったい何なのか?自社の強みを活かしたブランディングの手法とは?
2019年6月に開催された『第11回 販促EXPO夏』の特別講演より、ブランド戦略の仕掛け人である株式会社ワークマン常務取締役 土屋 哲雄氏の講演をレポートしてお届けします。

作業服市場に限界を感じ、アウトドアスポーツ市場へ客層拡大

「WORKMAN Plus」を一から立ち上げ、ワークマンのシェア拡大の立役者となった土屋氏。入社後、「社員一人当たりの株式時価総額を上場小売でNo.1にする」「5年で社員年収を100万円アップさせる」などの目標をわずか3年で達成しました。

「ワークマンは40年間、作業服の個人向け市場に身を置いていた企業なので。強いオペレーション力がありました。とはいえ作業服個人向け市場は1000店舗が限界。それに、このままではAmazonなどのネット小売業に勝てません」。そこで土屋氏が進めたのは、新業態と新フォーマットの開発、アウトドアスポーツへの客層拡大。「『進出』ではなく客層『拡大』というのがポイントです。つまり、プロ向けと同じ商品を一般客に売っています」と土屋氏は語ります。さらに土屋氏はAmazonなどの巨大ECサイトに勝てるように、定価で売れるPBの作業服を作りました。しかし、こうした施策に至るまでには念入りなポジショニングやマーケットの分析が求められます。

「No.1になるためには、まず商品のことを考えなくてはいけない」と土屋氏は強調します。「自社の商品をポジショニング分析したら、情けないことにお先真っ暗でした。しかも、6年ほど前に自社ワークウェアの評価を受けたところ9割方『ダサい』という評価になり、これはいけないと作業服にもアウトドアにも使える服を作りました」。

100人中100人から「絶対参入できない」と言われた市場での逆転劇

ところが土屋氏が「ワークマンがアウトドアウェアを作ってショッピングセンターに出したらどうなるのか」と周囲に聞いたところ、100人中100人から「スポーツアウトドアはブランドメーカーの独占状態だから、ブランド力がなければ絶対参入できない」と否定されてしまったのです。アウトドアウェアという選択肢を除外しかけたその時、土屋氏は誰も気づかなかったブルーオーシャンを発見しました。

「マーケットを『高価格かつデザイン性が高い』『低価格かつデザイン性が高い』『高価格かつ機能的』『低価格かつ機能的』の4つに分けると、従来のアウトドアウェアは『高価格かつ機能的』に位置するものばかり。『低価格かつ機能的』なアウトドアウェアには4000億円規模のマーケットが眠っていて、しかも競合がいないということに気づきました。あまり人の話を鵜呑みにしてはいけませんね」。

これまで培ってきた技術力やオペレーション力を活かし、低価格かつ機能的なアウトドアウェアの市場に参入したワークマン。さらに、アパレル業界におけるワークマンの強みが発揮されることになります。

「ワークマンの構造的な優位性は値引きなしの定価販売。しかも、販売している作業服には10年間長期保証という付加価値があり、AmazonなどのECサイトが真似できない一番のアドバンテージです。そして、作業服と一般向けのアウトドア商品は97%が共通していて、極力無駄が生まれないようにしています」。

土屋氏は、同じ商品でも見え方が違うだけで違う客層にアプローチできると断言します。「一般のお客様は平日の昼間や休日に、プロのお客様は職場の行き帰り…つまり朝と夕にいらっしゃいます。二毛作的な店舗になっているわけですね。ただ、売れ行きが上がるよう多く出店した方がいいのか、競合がいない分ゆっくり進めた方がいいのか……出店速度は経営的な課題です」。

試行錯誤を繰り返したブランド戦略でシェア1位に

ブランド戦略もかなり試行錯誤したという土屋氏。ホームページ上で一般客にとってマイナスイメージになりうる「作業着」というワードを全て「ワークウェア」に変更しましたが、広告代理店から「職人が買っているというのはプラスイメージだ」と指摘されて元に戻したと語ります。ららぽーとへの「WORKMAN Plus」出店時にも「ワークマン」という名前がなければ既存店への送客効果がゼロだと気づき、自社ブランドを卑下する必要はないと悟ったそうです。

また、マスコミに取り上げられやすくするためには物語を作るのも重要。「たとえば、『巨大な外資系メーカーvs迎え撃つ弱小国内メーカー』という図を生み出すのは効果的です。私達がららぽーと甲子園に出店した時も、その構図になったのを利用してストーリーを作り、うまくシェア1位を獲得できました」と振り返っています。

土屋氏は最後に「ブランディングのためには、一にも二にも製品戦略」と強調しました。「今、時間帯によって照明や音楽、看板、マネキンまで変える店舗を仕掛けています。あとはデジタルマーケティングの一環として、インフルエンサー50名ほどにアンバサダーとして製品開発に参画してもらい、彼らの読者に訴えてもらうのも考案中です。また、モデルに雨や風や雪を吹きつけて、それに耐性のある商品をアピールする『過酷ファッションショー』もやろうかと考えています」と今後の目標を語りました。

「泥臭く地道に、お客様の意見やプロの意見を聞き、その中で右往左往しながら作ったフォーマットです」と締めくくられた本講演。しかしその製品や市場に対する真摯さこそが、ワークマンの成功の秘訣なのではないかと考えさせられました。

テキスト:小泉 ちはる(YOSCA)/編集:岩淵 留美子(CREATIVE VILLAGE編集部)