世界最大級の求人サイト「Indeed」の経済調査機関であるIndeed Hiring Labが、AI活用における倫理性や安全性などを重視する「責任あるAI(レスポンシブルAI)」に関する国際的な求人動向を分析したレポートを発表した。米国や欧州を中心に、AI関連求人の中で「レスポンシブルAI」に言及する案件が着実に増加しており、特に法務、金融、研究開発といった職種で顕著な伸びを見せている。

レポートによると、世界22か国を対象とした分析では、AI関連求人におけるレスポンシブルAIへの言及率は、2019年時点でほぼ0%だったが、2025年3月には平均0.9%に上昇した。中でもオランダ(1.7%)、英国(1.2%)、カナダ(1.16%)、米国(1.0%)といった国々が高い水準を記録しており、ルクセンブルクやスイス、ベルギーでも同様の傾向が見られる。一方、日本やメキシコ、ブラジルなどはグローバル平均を下回っており、レスポンシブルAIの概念が十分に浸透していないことがうかがえる。

Indeed Hiring Labのエコノミスト、青木雄介氏は、生成AIの急速な普及が新たな倫理的・法的課題を引き起こしていることに触れ、企業が法的リスクのみならず、社会的信頼やブランド価値の観点からもレスポンシブルAIを重視し始めていると指摘している。求人情報においても、この姿勢が具体的に反映されるようになっているという。

職種別の分析では、米国においてレスポンシブルAIに言及する求人が最も多かったのは法務職で3.5%に達した。これに金融(2.3%)、研究開発(2.3%)、教育・研修(1.7%)、経営(1.5%)が続く。これらの職種は、人間の判断や倫理的責任が重視される領域であり、AI活用にあたっても透明性や説明責任が求められる傾向にある。例えば、法律分野ではAIによる文書分析の支援が進む一方で、倫理的な配慮を欠いた運用が問題視されることがある。金融では不正検出や信用スコアの自動化が進む中、公平性と説明責任の確保が不可欠となっている。

一方、ソフトウェア開発や情報システムなどテック分野の職種では、AI関連の求人数は多いものの、レスポンシブルAIへの言及は相対的に少ない傾向が見られる。また、飲食や看護、設備管理など、求人の全体数が多い業種ではAI関連求人そのものが少なく、レスポンシブルAIに関する求人も限定的であることが明らかとなった。

国別の傾向としては、AIに関する求人の需要と、レスポンシブルAIへの関心が必ずしも比例しない点が浮き彫りになった。例えば、インドやシンガポールなどはAI関連求人全体における割合は高いものの、レスポンシブルAIに関する記載は少ない。これは、国ごとの規制の厳しさだけでなく、企業文化や社会的認識の違いも影響していると見られる。

このような状況を受け、青木氏は今後の人材採用において、AIの倫理的活用に精通した人材の確保と育成がますます重要になると述べている。特に日本では、テクノロジーの実装において世界と比較して遅れがちな傾向があるため、レスポンシブルAIに対する理解と実践を深める取り組みが今後求められそうだ。

Indeed Hiring Labは、世界各国の労働市場に関するデータ分析を行い、企業や政策立案者、求職者向けに知見を提供している。今回のレポートも、AI技術の進展とともに変化する求人市場の実態を明らかにし、企業の採用戦略や労働政策の参考資料となるものとして注目されている。