辞書のトップメーカーである株式会社三省堂は、2022年11月30日(水)に「三省堂 辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2022』選考発表会」を実施し、2022年を代表・象徴する新語ベスト10を発表した。

新語の選定にあたっては一般公募を行い、応募総数は延べ1,041通(異なり673語)となりました。これらの投稿などをもとに、辞書を編む専門家である選考委員が一語一語厳正に審査し、「今年の新語2022」ベスト10を選定した。

時間対効果を重視する風潮を表す「タイパ」が大賞

今回大賞に選ばれたのは、「かけた時間に対しての効果や満足度」「時間的な効率」などの意味で使われる「タイパ」です。かけたコストに対していう「コストパフォーマンス(コスパ)」をもじった「タイムパフォーマンス」の略で、数年前から見られるようになった語ですが、特に今年になってから用例が多く見られるようになっている。公開された映画を勝手に短い動画にまとめて配信する違法な「ファスト映画」がまさにニュースをにぎわせました。録画した映画やドラマを倍速で見る「倍速視聴」も、2022年4月に刊行された稲田豊史著『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)でとりあげられており、特に動画の分野で時間を節約する傾向が顕著に見られるようだ。世の中が活字文化から動画文化へ移行して行く中、現代を生きるためにはタイパの向上が不可欠であるのかもしれない。まさに本年2022年を代表することばであると言えるのではないだろうか。

ベスト10を作りにくい時代のベスト10

コロナ禍3年目を迎え、コロナ関連のことばはさすがに勢いを減じて来ました。代わりに大きな事件やイベントなど時事的な語が投稿数の上位に入ってきました。たとえば、「キーウ」「国葬儀」「宗教二世」「きつねダンス」など。ただ、これらの語は国語辞典の見出し語としてはなじまないもの。それ以外の投稿語として目立ったのは「エモい」「推し活」「親ガチャ(○○ガチャ)」「草」「サブスク」「Z世代」「それな」など、まさに社会に定着しつつあることばだったが、これらはすでに昨年までのベスト10に選ばれているものが大半だった。これらの新語が社会の多くの人にまで広がっていることの証だが、その一方でさらに2022年現在の「辞書に載せたい今年の新語」を選べるのかという不安があった。しかし、結果的に選考委員の激論を経て選ばれランクインしたベスト10は、しっかりと時代を映すものになっている。

1位の「タイパ」は「倍速視聴」や「ファスト動画」などに表れた時代の価値観を表すことば。続いて2位に入ったのは「○○構文」。「おじさん構文」「ちいかわ構文」「進次郎構文」「メフィラス構文」など一見関連のないジャンルの中で出現する語が「○○構文」という形で共通性をもっていることは、新たな「構文」の用法と、このことばに託された時代の雰囲気を感じ取ることができる。3位「きまず」は、形容詞「気まずい」の語幹を感動詞として使うものだが、若い世代がたいして気まずくなくても、相づちのように使うようになっている。場の空気を読もうとする時代の気分をも表している。4位「メタバース」は投稿数1位で、名実ともに注目されている語。コロナ禍でオンラインによるコミュニケーションが一気に加速した中で、その先を示すことばとして可能性を感じさせる。

5位「○○くない」は、「できるんじゃない?」を「できるくない?」、「行ったんじゃない?」を「行ったくない?」という新しい言い方に用いられるようになっている語です。日常の話しことばを大きく変える可能性が感じられる。6位「ガクチカ」は就活用語として10年以上前からある語ですが、コロナ禍で学生生活が制限されるため「ガクチカ」として語れるものが少なくて困っている、ということで話題になった。今後も就活が続いて行く中で、この語の動静が注目される。7位「一生」は、新しく生まれた用法で、現在や過去のことについてまで長い時間「ずっと」という意味で使われる。「今日は休日なので一生寝てた」「昨日は友だちの家でお菓子を一生食べてた」など。

8位「酷暑日」は、気候変動が生み出した新語のひとつ。以前から最高気温が35度以上の日を言うマスコミ用語としては存在していたが、この35度以上の日を2007年に気象庁が「猛暑日」と呼ぶようになった。しかしながら、近年はさらに40度以上の日も多くなったことから、今年2022年になって日本気象協会が40度以上の日を「酷暑日」とし、再び注目されることとなりました。気候との関わりで重要な語だろう。9位は「闇落ち」。善良な人が何かのきっかけで邪悪な側に行ったり、怖い人になったりすることを指して言います。10年以上前から存在していますが、本年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で北条義時の性格の急変に対して使われるなど、広く普及してきていることが感じられる。10位「リスキリング」は、社会人が新たな職に就く際に必要とされる技能や、現在の職で新しく求められる技能を身につけるための学び直しを言う語として、本年になって特に広がりを見せている。岸田首相が国会でリスキリングなどの支援のため5年間で1兆円を投じるという趣旨の発言をしたことも記憶に新しい。

選考委員が選出した10語

上記ベスト10を検討するにあたり、それぞれの選考委員が選出したイチ推しの10語は次の通り。

『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生:
塩味/ガクチカ/クィア/知らんけど/線状降水帯/はにゃ?/メタバース/闇落ち/リスキリング/Y2K

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生:
一生/気になる/きまず/○○くない/コンカフェ/罪悪感/タイパ/メタバース/闇落ち/ライバー

『新明解国語辞典』編集部:
インボイス/NFT/ガチ○○/酷暑日/ソバーキュリアス/ノンバイナリー/マイクロアグレッション/リスキリング/ロジハラ/Y2K

『大辞林』編集部:
インボイス/推し活/ガクチカ/構文/酷暑日/GX/タイパ/フェムテック/メタバース/リスキリング

引用元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000121.000014647.html