各企業の働き方が変わり、リモートワークが必然となったコロナ禍。この大きな変化によって、新たな仕事の悩みや不安、課題もさまざまあると耳にします。WEB業界の著名企業は、どのようにリモートワークに適応していったのでしょう?

今回は、リモートワークを当たり前の選択肢として捉え、組織や従業員自ら「働き方をデザイン」している株式会社コンセントのみなさんにお話を伺いました。

「働き方をデザイン」する上でのポイント

  • 可能な範囲で情報をオープンに! 義務でなくゆるやかに社員を巻き込む
  • 課題意識を持って試行錯誤。必要だと感じれば払うべきコストとして実践する
  • オンラインとオフラインの役割を理解し、ハイブリッドに活用する

1.働き方をデザインする~リモートでの働き方の工夫と実践~

緊急事態宣言の発出を機に多くの企業で導入されて以降、現在もその是非についての議論が続いているリモートワーク。多様な背景をもつ従業員の働きやすさや非常事態下での事業継続性がメリットに挙げられる一方、生産性の担保や社内のコミュニケーションなどが課題として挙げられています。

約230名が在籍するデザイン会社のコンセントでは、リモートワークを当たり前の選択肢として捉え、組織や従業員自ら「働き方をデザイン」しています。リモートワーク下での「クオリティやモチベーションの維持・向上への取り組み」とは?

2.登壇者紹介

株式会社コンセント
中條 隆彰氏
クリエイティブディレクター/リーダー

「ワクワク」を起点に新しい可能性をカタチにするクリエイティブディレクター。これまで、分野を問わず企業やサービスの課題解決に向けたコミュニケーション設計に従事する。隠れた「本質」を可視化し戦略からクリエイティブまで、一貫した実行を得意としている。 最近では個人のワクワク・ドキドキする内発的な感情を大切に、企業やブランドのビジョンやパーパスの策定を行っている。
中條 隆彰氏

株式会社コンセント
叶丸 恵理氏
UXデザイナー/リーダー

広島市立大学芸術学部美術学科日本画専攻卒業。建築建材の販売を行う会社でのデザイナーを経て2018年 株式会社コンセント入社、現在に至る。Service Design事業部 User Experience Design group リーダー。UXデザイナーとして、コーポレートサイトやブランドサイト、デジタルプロダクトのUX/UI設計、サービスデザイン支援プロジェクトのビジョン構築など幅広く従事。
叶丸 恵理氏

株式会社コンセント
佐山 円未氏
UXデザイナー

筑波大学大学院人間総合科学研究科博士前期課程芸術専攻ビジュアルデザイン領域修了。2019年にコンセント入社。Service Design 事業部 User Experience Design group に所属。サービスのビジョン策定からUX/UI設計に至るまで、デジタルプロダクトのデザイナーとしてアプリケーション開発に主に携わる。
佐山 円未氏

3.事例紹介~リモートワーク下でのマネジメント施策~

叶丸 リモートワークにはさまざまな課題がありますが、従業員自ら「働き方をデザインする」なかで解決を模索しています。 働き方をデザインするためのポイントは三つありますが、一つめは、可能な範囲で情報をオープンにし、他者を巻き込むこと。義務ではなく、ゆるやかな当事者意識を持ってもらうことが大切です。二つめは、課題意識を常に持ち試行錯誤しながら試していくこと。長期的に見て必要だと感じれば、払うべきコストとして実践します。三つめは、オフラインが得意なことはオフラインに委ねることです。オンライン・オフラインの役割を理解し、ハイブリッドに活用するとよいです。

この三つのポイントをふまえて、リモートワーク下でのマネジメントに関するよくあるお悩みを解決する施策を紹介していきます。

お悩み1:コミュニケーションが希薄になりがち

――リモートワークでよくあるお悩み一つめは、「コミュニケーションが希薄になりがち」なこと。お互いの興味関心が見えず、業務以外のことを話さなくなってしまいがちですよね。この課題に対しての取り組みは?

グッドモーニング!コンセント

叶丸 まず紹介したい取り組みは「グッドモーニング!コンセント」。会社からのお知らせや、新入社員の紹介を行う月一回の全社会議です。全社会議はどうしても堅苦しくなりがちですが、エンタメ性を持たせて興味関心を引き出し、気軽に会社の情報が知れる場として、前向きに参加してもらえるようにしています。

もともとオフィスでリアルとオンラインのハイブリッド開催していましたが、コロナ禍でオンラインのみの開催となってからも、この「エンタメ性を持たせて興味関心を引き出す」ための工夫をいくつか行っています。

例えば、普段仕事であまり関わらないメンバーとの接点をもたせるための「ゲスト制」も、オンラインのみでの開催となってからは、これまで以上に人となりが知れる質問を投げかけられるようにしたり、会議中に立ち上がるチャットで気軽にコミュニケーションをとったり。参加メンバーからは、「ゲストになると、普段接点のない人にも自分のことを知ってもらえるいいきっかけ」、「職種や役職に関係なくみんなでコメントをいれて盛り上がれる」といった声をもらっています。

好奇心を語る場「タガヤス」

中條 有志で行っている「タガヤス」という取り組みは、オンライン中心に移行したことでインスピレーションや刺激を受ける機会が減っているという声を受けてつくった、ざっくばらんに語れる場です。「たがやすカード」に、自分が、興味のある=耕したいテーマを書いて言語化してもらい、それをコンセントで導入しているオンラインコミュニケーションツールのTeamsに投稿して、他の人からコメントをもらえるというもの。

参加者からは「リモートだとなかなか周りの状況がわからず自分の世界に閉じてしまう部分があったので、みんなの話が刺激になっている」、「自分だけでは後回しにしがちなインプットをみんなで一緒にできて、意見も聞けるのでおもしろい」、「オープンな場なので、他部署のデザイナーからもコメントがもらえて新鮮」といった反応がありました。直接的にすぐに仕事に役立つわけではないですが、長期的な目線で可能性や興味を広げていける場になると思います。

スナック真奈

佐山 「スナック真奈」というオンライン交流会をTeamsで開催しています。隔週で行っていて、キャリア形成や働き方について考えを深められる機会を作るために始めました。基本的には固定メンバー二人が気軽な雰囲気でしゃべり、他の人は話したいエピソードなどがあればトークに加わる形式です。最初の1、2回はテーマも何も設定せずに開催したところ、ただの飲み会のようになってしまい、うまくいかなかったんです。そこで、「人はどうしたらしゃべり下手を脱却できる?」、「お客さんが安心するコミュニケーションってどういうもの?」といったようなテーマをゆるく設定したところ、有意義で活発な会話が発生するようになりました。

課題は、本来参加して欲しかった若手社員の参加率がイマイチなこと。「スナック」というブランディングが若手向きじゃなかったのかも…? ここは改善したいなと思っています。入社してすぐリモートワークになった新入社員からは「参加前は遠くに感じていた先輩たちが近くに感じられてよかった」、若手からは「悩みが言語化される」、中堅社員からは「自分が学んだことを後輩に伝える場がなかなかないのでいい機会」といった反応がありました。

チーム内でお互いを知るための施策

叶丸 ほかにも、チーム内でお互いを知るためにしていることは、一つは、「個人年表」飲み会。生まれてから現在に至るまでをまとめた「個人年表」を肴に飲むイベントで、普段の会話だけでは知り得なかった、メンバーのルーツや人生の決断などを深堀りすることで、本人の志向を知れるいい機会です。また、チーム定例の月初のタイミングで、メンバーから一人ひとり「今月のチャレンジ&振り返り」を紹介してもらっています。宣言後は他メンバーからもコメントをもらうなど、チーム内でお互いに活動を応援するようにしています。

お悩み2:効率よく仕事するには? 生産性をあげるにはどうすればよい?

――リモートワークだと、つい長時間仕事をしてしまったり、逆に集中力に欠けてしまったりすることも。生産性をあげるために取り組んでいることとは?

「朝夜設計」

佐山 私のおすすめは「朝夜設計」。入社一年目のときに先輩から教わりかれこれ3年間続けているお仕事管理術で、リモート環境でも上長から働き方が見えるので、若手を中心に実施する人が増えています。始業直後の30分で一日に取り組む業務内容の予定を立てて、終業時に15~30分で振り返りをし、自分がとりこぼしたタスク、見込みよりも作業時間がかかったところにマーカーを引いて、朝立てた予定とずれた部分を視覚化。それをTeams上で公開し、全社員に見えるようにしています。コツは、作業にかかる時間や、漏れがちなタスクを細かく書くこと。そして日々のちょっとした学びやお勧めの本、おもしろいことをシェアするようにしています。そうすると、普段関わる機会が少ない社員からコメントをもらえるので、コミュニケーションツールとしても活用することができています。

実践している社員からは「次に何をしたらいいか迷わずに済む」、「予実が見えることで自分の力量を把握できる」、「自身が使える時間の総量とタスクの全容が把握できるので、局所的なヘルプメンバーとしても手をあげやすい」と言った声があります。役員からも生産性に寄与できる施策であると良い評価を得られています。

(「朝夜設計」参考記事: https://www.concentinc.jp/design_research/2021/12/work-management/

相談しやすい環境づくりや、目標の進捗確認における施策

叶丸 相談しやすい環境づくりや目標の進捗確認のための施策もいくつかありまして、例えばDiscordで繋いだまま作業すること。プロジェクトがピークのときに、都度ミーティングをセットするのではなく隣の席に座っている感覚でクイックに相談するために、Discordを繋いだまま作業を行い、聞きやすい環境を作ることで、検討スピードがアップしました。目的無く使うとどうしてもダラダラとしてしまいがちなので、期間や時間を区切って使うと効果的です。

もう一つは、隔週1回の1on1で目標の進捗をチェックすること。プロジェクトや稼働の状況確認だけでなく、各自が目標評価シート(※コンセントで実施している独自の評価用ツール)に掲げた目標の進捗を確認しています。マネジメントする立場として評価期間になってから焦るのではなく、日々のフォローで必要に応じて目標達成(=成長)のテコ入れをしています。

お悩み3:スキルアップするにはどうすればよい? テクニカルスキル、ヒューマンスキルをのばすには?

――先輩に気軽に聞いたり、ワークショップに参加したりすることがなかなか自由にできず、学びの場を設けるのが難しい昨今。リモートワーク下では、どのようにスキルアップをすればよいのでしょう。

「押忍!!ゼロイチ道場」

叶丸 UXデザインやサービスデザインを学び合うオンライン勉強会の「押忍!!ゼロイチ道場」が、効果的な施策になっています。コンセントには、サービスデザイン、WEB、エディトリアルなど異なる専門領域のデザイナーが在籍しているので、お互いがこれまで自分で学んだことを伝え合って、学びを循環させています。「押忍!!ゼロイチ道場」は、若手メンバーを中心に、知識のベースラインを揃えることを目的に企画・開催しました。この勉強会は、若手社員が先にテーマに沿ってインプットした内容を、若手が自ら「教える」スタイルをとり、知識の定着を図っています。また、それをもとに中堅社員やシニア社員が実践知の共有を行ったり、疑問に対するフィードバックをもらうなどしています。プログラム構成は参加者ファースト。内容のベースは運営側で決めていますが、参加者にもテーマや学びたいことを募集して取り入れています。また、毎回録画をしてあとから見られるようにしたり、グラフィックレコーディングの得意な社員に会議の内容をまとめてもらったりして、繰り返し使える資産にしています。

参加者からは「押忍!!ゼロイチ道場で学んだことが仕事で出てきたときに、逃げ腰にならずに向き合えるようになった」、上長からは「参加したメンバーの成長率が高い。成長の一助になっている」といった反応があります。

(「押忍!!ゼロイチ道場」参考記事: https://www.concentinc.jp/design_research/2021/12/zeroichi/

業界のトレンドや社内事例を知るための施策

叶丸 業界のトレンドや社内事例を知るために行っている施策もいくつかあります。 一つは、隔週一回開催の、業界トレンドをディスカッションする「UXDティータイム」。運営部が選出した複数のテーマから社員の投票で一つ選び、簡単に各自でテーマについて調べておき、当日は参加者で「私と〇〇(テーマ名)」「私たちと〇〇(テーマ名)」という観点で話し合って、考えを共有します。テーマは例えば「10月にリリースされたiOS15の新機能から、Appleが目指している方向が何かを探る」といった、クリエイターが気になる話題。「このあいだ触れたテーマに関することが仕事で出てきて、知見が生きた!」といった声があったように、仕事に直結することもあります。

それから、仕事の実践知から現場のノウハウを学ぶ「社内共有会」。属人化している知見を共有して、仕事の効率化や品質向上に役立てています。これはさまざまな部署で開催されていて、他部署の会にも気軽に参加できるのが魅力です。

この他にも、社員の交流や読書の習慣づけのために「ぶらぶら読書室」という読書会をしています。はじめの30分に読書した後、参加者がペアになり感想を共有する会で、参加者からは「普段よりも集中して読めた」、「人に伝えることを意識して整理しながら読むので、内容が頭に入ってきやすかった」といった反応があります。

オンラインとオフラインを自在に行き来する「ハイブリッド型」を目指して

叶丸 コンセントの代表取締役の上原はリモートワーク導入にあたって、トップダウンではなく社員を含めて一緒に考えていく共創アプローチで取り組むことと、可能な範囲で情報をオープンにして社員に「あなたも当事者です」というスタンスでいることが大切と言っていました。ただ、義務感が出てしまうと嫌と感じる人もいると思うので、緩やかにしていくとも。現在も試行錯誤の最中なので、よいアイデアは積極的に試す姿勢でいます。「コンセントには、考え続ける人が多いよね」という上原の言葉通り、社員発のアイデアも多いです。

中條 たくさんの施策をしていますよね。これ以外にも、大きい規模のものから小さな規模のものまで。

佐山 “小さい輪”がたくさんありますよね。リモート環境だと、多くの人に呼び掛けるのが難しいし、TV会議で大人数が集まっても、全員が同時に話すわけにはいかないのでコントロールが難しい。小さい輪がたくさんあって、コンパクトに色々できる環境がリモートワーク下のコミュニケーションに向いているのだと思います。

叶丸 それと、勉強会って必ずしも全員が積極的に参加したいわけでもないと思っていて。会話や議論に入らずに、聞くだけ、耳だけ参加でもOKとハードルを下げたり、関わり方を緩やかにしたりして、間口を広げて参加しやすくすることも重要だと思っています。

あとは、個別の勉強会に参加しない人でも、定例ミーティングに参加するだけでじゅうぶんメンバーと交流する機会が得られるように、各リーダーがチーム定例や1on1でカバー、工夫することも大切。リモートワーク中心になって、やりづらくなったことは特に感じていないです。

中條 コンセントの働き方は、フルリモートではなく、オンラインとオフライン併用のハイブリッド型。オフラインが得意なことはオフラインに委ねるようにしています。実はコンセントのオフィスは2021年6月にリノベーションをしました。

撮影:鳥居洋介

中條 オフィスの見た目だけが素敵になったのではなく、出社したときにどういうコミュニケーションがとれるのかや、働きやすさといった「今や未来に価値観を見据えた、出社する意味や体験」を考えてつくりました。オンラインとオフラインのメリット・デメリットを理解して、なんのために働き方をデザインしていくのかを、個人、そして組織として考えていくことが大切です。 (オフィスリノベーション参考記事:https://creatorzine.jp/article/detail/2236

叶丸 また、リモートワークを円滑にするために、会社の制度やしくみ自体も整えています。労務面では、採用前の周知のイベントから実際の採用、採用後のイベント・研修まですべてオンラインで実施したり、テレワーク支援手当を支給したり。

実務面では、プロジェクトごとに売り上げ登録できて、日報やプロジェクト稼働を一元化登録する「業務・プロジェクト管理ツール」を活用しています。 コロナ流行以前は、新入社員が社内の人脈を広げるために、最大4名までランチ代を補助する「チャンスランチ制度」も活発に使われていたので、早くこれも自由に活用できる世の中になってほしいですね。また、現場の知をオープンにするために、2017年に始めた社内研修プログラム「コンセントデザインスクール」を、現在は一般向けにもオンラインで開校しているので、デザインの学習に興味のある方はぜひ参加してみてください。

4.まとめ

リモートワークを当たり前の選択肢として捉え、組織や従業員自ら「働き方をデザイン」している株式会社コンセント。社員の意見を取り入れた多種多様な取り組み、魅力的なネーミングやコンセプト、大きなコミュニティと小さなコミュニティの活用、そしてそれらすべてを強制せずにメンバーを惹きつけることが、クオリティやモチベーションの維持・向上の秘密のようです。

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