仕事にも慣れ、任されることが増えてきた。

一方で、このまま同じ仕事を続けた先に何があるのかは、まだよく見えない。

転職を考えて求人を見てみても、「本当にやりたいこと」がはっきりしない。今まで経験してきたことが、別の仕事でも通用するのかも分からない。

仕事を始めたばかりの頃とは違い、ある程度できることが増えたからこそ、次に何を選べばいいのか迷うことがあります。

こうした迷いは、特に20代後半など、最初の仕事で一定の経験を積み、「この先も今の延長でいいのだろうか」と考え始める時期にも起こりやすいものです。

ただし、これは年齢だけで起こる悩みではありません。

転職や異動を考えたとき、今までとは違う仕事に興味を持ったとき、働き方そのものを見直したくなったときにも、同じように「次に何を選ぶか」という問いが出てきます。

そんなとき、「自分が本当にやりたいことを一つ見つけなければ」と考えるほど、かえって動けなくなることがあります。

そこで、いったん「やりたいこと」だけから離れて、Will・Can・Mustの3つから今の自分を整理してみる方法があります。

Will・Can・Mustとは

Will・Can・Mustは、キャリアや目標を整理するときに使われるフレームです。

  • Will:これからやってみたいこと、大切にしたいこと
  • Can:これまでの経験を通じて、できるようになったこと
  • Must:仕事や周囲から求められていること、現実的に必要な条件

大切なのは、3つが完全に重なる「理想の仕事」をすぐに探すことではありません。

今の自分は、どこが大きくて、どこがまだ小さいのか。

何はすでに持っていて、何をこれから増やしたいのか。

その状態が分かれば、いきなり将来を決めなくても、次に何を試すか、何を選択肢として残すかを考えやすくなります。

Will|「職種名」ではなく、やっていたい状態を考える

Willというと、「将来何になりたいですか?」と考えがちです。

でも、

「アートディレクターになりたい」

「フリーランスになりたい」

「マネージャーになりたい」

といった肩書が、すぐに浮かばなくても構いません。

代わりに考えてみたいのが、どんな状態で仕事をしていたいかです。

たとえば、

  • 企画の初期段階から関わりたい
  • 一つの専門性を深めたい
  • ユーザーの反応が見える仕事をしたい
  • チームで大きな制作に取り組みたい
  • 自分のアイデアを提案できる仕事がしたい
  • 場所や時間に縛られにくい働き方をしたい

などがあります。

「どんな職業に就くか」ではなく、「仕事のどんな部分を増やしたいか」と考えると、Willは見つけやすくなります。

たとえば「企画に関わりたい」というWillは、必ずしも企画職への転職だけで実現するものではありません。

今の仕事で企画会議に参加する、提案の一部を担当する、構成から関われる案件を選ぶなど、別の方法で近づけることもあります。

Willは、職種を決めるための答えではなく、自分が近づきたい方向を知るためのヒントと考えてみましょう。

Can|経験を「担当業務」より細かく分ける

次に、Canを整理します。

自分にできることを考えるとき、

「Webデザイナーを3年やってきた」

「動画編集ができます」

「IllustratorとPhotoshopが使えます」

と、職種名や使用ツールだけで考えてしまうことがあります。

もちろん、それもCanの一つです。

ただ、実際の仕事では、その中でもっと細かな力を使っています。

たとえば「Webデザイナーとして3年働いた」という経験にも、

  • 要望を整理して画面構成へ落とし込む
  • 複数案の意図を言語化して提案する
  • エンジニアと実装条件を調整する
  • スケジュールから優先順位を判断する
  • クライアントからの修正要望を整理する
  • 後輩の制作物へフィードバックする

といったCanが含まれているかもしれません。

職種が変われば使えなくなるように見える経験でも、細かく分解すると、別の仕事でも使える力が見つかることがあります。

「何を担当してきたか」だけでなく、

「どんな場面で、自分は何ができていたか」

まで考えてみてください。

自分だけでは見つけにくければ、これまで上司や同僚から評価されたこと、よく頼まれることを振り返るのも一つの方法です。

Must|期待されていることを、受け身の義務にしない

Mustというと、「会社からやれと言われていること」という印象を持つかもしれません。

でも、ここで考えるMustは、それだけではありません。

仕事や市場から求められていることに加えて、生活を続けるうえで必要な条件や、自分が担っている役割も含めて考えます。

たとえば、

  • 今の職場で、次に期待されている役割は何か
  • 求人や業界で、求められているスキルは何か
  • チームの中で、自分だから任されていることは何か
  • 収入や勤務時間など、生活上外せない条件は何か
  • 自分が引き受けたい責任と、引き受けたくない責任は何か

といったことです。

ここで重要なのは、Mustに自分を合わせることではありません。

「周囲から期待されているから、全部やらなければならない」と考える必要もありません。

むしろMustを書き出すことで、

「これは今後も引き受けたい」

「これはできるけれど、ずっと続けたいわけではない」

「この条件は、自分にとって外せない」

という違いが見えてきます。

Mustを知ることは、周囲の期待に従うためではなく、自分が何を引き受け、何を選ばないかを考えるためでもあります。

3つの重なりから、次の選択肢を考える

Will・Can・Mustを書き出したら、次はそれぞれの重なりを見てみます。

組み合わせ 考えられる状態 次に確認すること
Will × Can やりたくて、すでに力もある その力を必要とする仕事や環境はどこにあるか
Will × Must やりたくて、仕事や市場からも求められている 実現するために、どんなCanを増やせばよいか
Can × Must できて、周囲からも求められている このまま続けたいか。Willとつながる余地はあるか

すべてを一度に満たそうとする必要はありません。

たとえば、映像編集の経験があり、仕事としても求められている。一方で、これからは企画にも関わってみたいとします。

この場合、

「編集を辞めて、未経験から企画職へ転職する」

だけが選択肢ではありません。

編集経験を生かしながら企画提案まで担当できる仕事を探す。

今の職場で構成案の作成に手を挙げる。

企画段階から関われる小さな案件を経験する。

といった形で、今あるCanを使いながらWillへ近づく方法も考えられます。

今持っているものと、これから増やしたいものの間に「橋」をつくると考えると、次の行動を決めやすくなります。

5分でできるWill・Can・Mustの棚卸し

ここまで読んだら、実際に今の状態を書き出してみましょう。

1.Willを3つ書く

「何になりたいか」ではなく、

  • どんな仕事を増やしたいか
  • どんな働き方をしたいか
  • 仕事で何を大切にしたいか

から考えてみます。

2.Canを3つ書く

職種名やツール名だけではなく、

「どんな場面で、何ができるか」

まで細かくしてみます。

3.Mustを3つ書く

今の仕事で求められていること、仕事を選ぶうえで必要な条件、自分が担っている役割を書きます。

4.重なっているものに印をつける

「やりたいし、できる」

「できるし、求められている」

など、つながっている項目を探します。

5.次に変えたいことを一つ決める

最後に、

  • 足りないCanを一つ増やす
  • Willに近づく経験を一つ試す
  • 手放したいMustを一つ確認する

のどれかを選びます。

行動は小さくて構いません。

たとえば、

  • 気になる求人を3件見て、共通して求められているスキルを確認する
  • 興味のある仕事をしている人に話を聞く
  • 今の職場で、経験してみたい仕事を上司に伝える
  • 小さな案件で新しい役割を試す
  • 求人票を見て、自分のCanが使えそうな仕事を探す

といったことから始められます。

「選ぶ」だけでなく、選択肢をつくる

キャリアについて迷うと、

「今の会社に残るか、転職するか」

「専門職か、管理職か」

「今の仕事を続けるか、別の職種へ行くか」

というように、すでにある選択肢の中から一つを選ぼうとしてしまうことがあります。

でも、Will・Can・Mustを整理すると、その間に別の選択肢をつくれることがあります。

今の会社にいながら新しい仕事を経験する。

Canを一つ増やしてから転職を考える。

同じ職種のまま、Willに近い業界へ移る。

副業や小さなプロジェクトで試してみる。

今すぐ大きな決断をしなくても、次の選択肢を増やすために動くことはできます。

キャリアは、完全に決めてから動くものではない

Will・Can・Mustは、「あなたに向いている仕事はこれ」と正解を判定するための診断ではありません。

今の時点で見えているWill・Can・Mustも、ずっと同じとは限りません。新しい仕事を経験すれば、Canが増えます。誰かと仕事をしたことで、それまで考えていなかったWillが見つかることもあります。生活環境が変われば、Mustとして考える条件も変わるでしょう。キャリアは、一度決めた答えに沿って進み続けるものではありません。

経験して、整理して、少し動いてみる。その結果をもとに、またWill・Can・Mustを見直す。その繰り返しによって、自分に合う方向が少しずつ見えてきます。「次に何を選べばいいか」が分からなくなったら、いきなり将来の答えを出そうとするのではなく、自分は何をしたいのか。今、何ができるのか。何を求められているのか。まずはこの3つを、今の時点で分かる範囲から書き出してみてください。それは将来を決めるための完成した地図ではなく、次の一歩を選ぶための、今の自分の仮の地図になります。

整理した「仮の地図」を使って、選択肢を見てみる

Will・Can・Mustが整理できたら、次はその「仮の地図」を使って、どんな選択肢があるのかを見てみましょう。

求人を見るときも、職種名や条件だけで探すのではなく、

自分のCanを生かせそうか
Willに近づける経験ができそうか
自分にとって外せないMustを満たしているか

という視点で見てみると、これまでとは違う求人が選択肢に入ってくるかもしれません。

今すぐ転職を決める必要はありません。

まずは気になる求人をいくつか見ながら、「今の自分なら、どんな選択肢がありそうか」を確かめてみてください。

一方で、

「自分のCanがうまく見つけられない」
「Willはあるけれど、どんな仕事につながるのか分からない」
「今の会社に残るか、転職するかから迷っている」

という場合は、キャリアについて誰かと一緒に整理してみる方法もあります。

これまでの経験や希望を言葉にしながら、次にどんな選択肢が考えられるのかを相談してみてください。