参考にしている作家の動きに憧れて手を動かしても、思ったような仕上がりにならない。SNSで流れてくる同業者の作品を見るたびに、自分の引き出しの少なさを突きつけられているような気持ちになる。「自分にはセンスがないのかもしれない」という感覚は、モーショングラフィックスという表現の幅が広い分野に関わっているからこそ、繰り返し顔を出します。この感覚を才能の有無という話にすり替えてしまう前に、少し立ち止まって見ていきます。

この記事の見方

この悩みを整理するために、バンデューラの社会認知理論という考え方を使います。心理学者アルバート・バンデューラが提唱したこの理論は、人が行動を起こせるかどうかは、その行動をやり遂げられそうだという手応えと、やり遂げた先にどんな結果が待っているかという見通しの二つによって左右されるという前提に立ちます。センスという生まれつきの資質のように語られがちなものも、実際にはこの手応えの積み重ね方によって、後からいくらでも育てられる部分が大きいのです。

手応えはどこから生まれるか

「センスがある」と評される人の多くは、実は最初から特別な感覚を持っていたわけではなく、小さくやり遂げた経験を人より多く積んできただけ、ということが少なくありません。一つの表現を試し、思い通りにいった部分といかなかった部分を確かめ、次に活かす。この繰り返しの回数が、いわゆるセンスと呼ばれる引き出しの正体です。回数を積む前の段階で「センスがない」と結論づけてしまうのは、まだ手応えを積む機会自体が少なかっただけの話かもしれません。

派遣の現場では、決められた仕様に沿って手を動かす時間が長く、自分なりの表現を試して手応えを確かめる時間を確保しづらいという事情もあります。案件をこなす中で得られる手応えと、自分の表現の幅を広げるために必要な手応えは、少し種類が違います。今の自分に足りていないのが後者だと気づくだけでも、センスという漠然とした言葉に押しつぶされずに、次の一手を具体的に考えられるようになります。

案件でこなしてきた作業を振り返ってみると、実は決められた枠の中でも小さな工夫を重ねてきたことに気づくことがあります。指定されたテンプレートの中で、動きの緩急にわずかな独自性を加えていた。指示にはなかった細部の演出を一足していた。こうした小さな工夫は、仕様書には残らないため見過ごされがちですが、確実に積み重なっている手応えの一部です。案件をこなすだけの日々に見えても、探してみると自分なりの工夫の跡が残っていることは少なくありません。

比べる相手を変えてみる

SNSには、長年かけて積み上げてきた表現者の完成形ばかりが流れてきます。今の自分と、その人が何年もかけて積んできた蓄積を並べて比べれば、差を感じるのは当然のことです。比べるべき相手は、他人の完成形ではなく、少し前の自分であるべきです。半年前に作ったものと今作っているものを並べてみると、当時は気づかなかった変化が必ず見つかります。

この比較の視点を意識的に持つことは、根拠のない自信を無理に作ることとは違います。実際に残っている過去の制作物という具体的な証拠をもとに、自分の変化を確かめる作業です。SNSで他人の作品を眺める時間の一部を、自分の過去の作品を見返す時間に置き換えてみるだけでも、比べる基準が変わってきます。

同業者の作品を見て焦る気持ちそのものを消す必要はありません。むしろ、何に憧れを感じたのかを具体的に言葉にしてみると、それが次に試したい技法のヒントになります。ただし、その憧れを「自分にはできない」という結論にすぐ結びつけてしまうと、そこで学びが止まってしまいます。憧れは目標地点の情報として使い、今の自分との比較は少し前の自分との差分で測る。この二つを分けて扱うことが、焦りを次の行動につなげる工夫になります。

小さくやり遂げる場をつくる

案件の仕様に沿うだけの作業からは得にくい手応えを、意図的に作り出す工夫も助けになります。短い尺で構わないので、誰にも見せる予定のない練習作品を一つ完成させてみる。参考にしたい表現者の技法を、一部分だけ真似て再現してみる。こうした小さな挑戦を完了させる経験が、次の挑戦に向かう力を少しずつ育てます。

大きな作品を最初から完璧に仕上げようとすると、途中で挫折しやすく、その挫折が「やっぱり向いていない」という結論に直結してしまいます。区切りを小さくし、完成させる回数を増やすことの方が、遠回りに見えて確実に手応えを積み重ねる方法です。仕上がりの巧拙よりも、まず最後まで作り切ったという事実そのものが、次への足がかりになります。

完成させたものを誰かに見てもらう機会を作ることも、手応えを確かなものにする助けになります。感想は必ずしも称賛である必要はなく、具体的にどの部分が伝わったかというフィードバックであれば十分です。自分一人の中だけで手応えを確かめようとすると、思い込みで終わってしまうこともありますが、外からの反応と照らし合わせることで、積み上げてきたものがより実感を伴うものに変わっていきます。他の現場でどんな表現やスキルの組み合わせが求められているのかを眺めてみることも、次に試したい技法を見つけるきっかけになります。

まとめ

  • 案件をこなす日々の中で表現の幅が広がっている実感がない場合は、短い練習作品を一つ完成させる時間を意識的に確保してみてください。
  • SNSで他人の作品と比べて落ち込むことが多い場合は、比べる相手を今の自分ではなく少し前の自分に変えてみることが、状況を整理する手がかりになります。
  • 挑戦しても思うような仕上がりにならず自信を失いかけている場合は、作品の巧拙ではなく、最後まで作り切ったという事実そのものに目を向けてみてください。

センスという言葉は、多くの場合、これまで積んできた手応えの量を指しているに過ぎません。今日、一つだけ小さく完成させられるものは何か、探してみるところから始めてみてください。今の技術の伸ばし方や働き方について客観的な視点がほしいときは、一人で抱え込まず相談してみるのも一つの方法です。